パリスとヘレネー


◇パリス

別名アレクサンドロス。トロイア王プリアモスとヘカベーの子。

彼が生まれる時、母ヘカベーは、燃木を生み、その火がイーリオン(トロイア)全市を焼き尽くす夢を見た。
預言者メロプスの教えを受けたプリアモスの子アイサコスは、生まれくる子によって国が破滅すると告げ、赤子を殺すよう勧める。

王は召使アゲラオスに、赤子をイーデー山中に棄てるよう命ずる。赤子は熊によって五日間育てられ、その後、様子を見に来たアゲラオスが彼の生きていることを知り、引き取って自分の子として育てることになった。彼は美しく、力に優れた若者に育っていく。よく盗賊を倒し、羊を守ったので、アレクサンドロスという別名をもらったという。(alexは守る、andrは人を意味する)

プリアモス王が自分の子のための葬礼競技を開く事となり、賞として各地から牡牛を徴集した。お気に入りの牛を持っていかれたパリスは、これを取り戻すために競技会に出場し、全勝する。ここで、彼はプリアモスの娘、女予言者カッサンドラーにより、プリアモス王の子と明らかにされた。

後にアキレウスを生むことになるペーレウスとテティスの結婚式に神々が集まった時、呼ばれなかった争いの女神エリスは、腹いせに「最も美しい女神に与える」と、黄金の林檎を彼らの中に投げ入れた。そこで争いになったのが、ヘラ、アテナ、アプロディテの三女神。ゼウスは、イーデー山中に住むパリスに審判してもらえと、ヘルメスに三女神を案内させる。そこで、女神たちは、ぜひ自分に林檎を与えてくれとパリスを買収にかかった。

ヘラは、全アジアの王位を、
アテナは、戦における勝利と智を、
アプロディテは、最も美しい人間の女性ヘレネーとの結婚を、
林檎と引き換えに約束した。
そして、パリスはアプロディテを選んだのだった。
彼は親しかったニンフ・オイノーネーを棄て、、アプロディテの子アイネイアスと共にスパルタへ向かい、スパルタ王メネラオスの妻となっていたヘレネーを密かに奪って脱出、トロイアへと帰っていく。

これが、トロイア戦争の発端となった。ギリシア軍の来襲により、イーリオン(トロイア)での二人の評判は最悪だった。ヘクトールからも冷たい言葉をかけられたこともある。しかし、弓の名手である彼は、ヘクトールすら打ち倒したギリシア軍の最大の英雄アキレウスを射殺することになる。
その後、レムノス島から到着したピロクテテスにより、ヘラクレスの弓で射られて負傷。イーデー山中に戻った彼は、ヒュドラの毒に効く薬をかつての恋人・オイノーネーに求めるが、彼女は当然のごとくこれを拒絶、パリスはトロイアに運ばれる途中、死亡した。
彼の死後、イーリオンは木馬の計により城門を破られ、火の海となる。かつてヘカベーが見た夢が、現実となったのだった。


◇ヘレネー

ゼウスとスパルタ王テュンダレオスの妃レダの娘で、兄はディオスクーロイ(ゼウスの息子たち、の意)として知られる双子、カストルとポリュデウケス。姉妹に、のちアガメムノンの妻となったクリュタイムネストラーがいる。レダが白鳥に化身したゼウスと交わったため卵を産み、その中から生まれたとされている。

彼女は幼い時より美しく、まだ少女のころ、アテナイの英雄テセウス(ミノタウロス退治で有名な人)とラピテース族のペイリトオスによりさらわれたことがある。このときは兄のカストルとポリュデウケスがテセウスの不在に乗じて(冥界へ行ってた)救い出した。

その後、彼女のもとに求婚者が続々と現れる。いずれもギリシアに名だたる英雄たちだった。テュンダレオスは困った。誰か一人に決めれば、争いの種になるだろう。ここでオデュッセウスが知恵を出し、
*ヘレネーが婿を選ぶこと
*この結婚に関して婿が誰かに害を被った場合、ほかの求婚者はみな彼に助力しなければならない
この2つを求婚者たちに認めさせた。これで争いは防ぐことができる。
そして、ヘレネーはミュケナイ王アトレウスの子メネラオスを選んだ。メネラオスはテュンダレオスの後を継いでスパルタ王となり(ディオスクーロイは冒険に明け暮れ、帰ってこないので)、二人の間にはヘルミオネーという娘が生まれ、順風満帆だったのだが・・・

ヘルミオネーが9歳の時、スパルタにトロイアの王子パリスとアイネイアスがやってくる。アシアからの客人をメネラオスは手厚くもてなしたのだが、なんとパリスは、事もあろうにヘレネーに言い寄り、メネラオスがスパルタを留守にしたすきに彼女を奪って逃げ帰ってしまった。ヘルミオネーを置き去りにして・・・当然メネラオスは激怒し、求婚時の誓いをたてに英雄たちを召集、兄アガメムノンを総大将としトロイアへ大軍を進発させた。それでも、何とか穏便に事を済ませようと、軍をテネドス島にとどめ、オデュッセウスと共にトロイアへヘレネー返還の交渉に赴いたが決裂、ついに10年に及ぶ大戦の幕を開く。

トロイアの人々は、始めはヘレネーの美しさを誉めていたが、ギリシア軍の来襲によって手のひらを返したように冷たくなり、彼女を疫病神扱いするようになる。そのたびにプリアモスとヘクトールがこれをかばった。

彼女はある時スパルタ勢を眺め見て、二人の兄の姿が無いのをいぶかしんだが、その時すでに彼らはこの世の人ではなくなっていた。

イリオンの落城後、ヘレネーはメネラオスの手に戻った。嵐に悩まされ、帰国に8年かかったが、スパルタに戻ってからは元どおり、仲睦まじく暮らしたという。のちにヘラによって不死の身となり、夫と共にエリュシオンの野に行ったといわれる。


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