4.ギルガメシュの夢


ギルガメシュとエンキドゥは20ベール(200Km)進んで食事を摂り、さらに30ベール進んだところで夕べの休息を取った。一日に50ベール(500Km)という8マンばりの健脚だ。一月と十五日の道のりを三日で踏破し、彼らは目指すレバノンの森に近づいていった。

二人は太陽(すなわちシャマシュ神)に向かって井戸を掘り、湧き水で体を清めて山に登り、シャマシュ神に捧げものをした。エンキドゥが夢見の床をしつらえ、ギルガメシュがそれに横たわる。彼らは神から夢告を授かるための用意をしているのだ。

「山よ、私に夢を、よき言葉をもたらせ」

ギルガメシュはそう唱えると、眠りについた。

目覚めたギルガメシュは、エンキドゥに語る。
奥深い山の中で、いきなり野牛が自分の上に落ちかかってきた、と。
エンキドゥは、それは吉兆だと言う。その野牛はフンババで、われらはきっとフンババを打ち倒すだろうと。

二人は50ベール進み、同じように夢見の床をしつらえ、ギルガメシュが横になった。
前日の夢の続きだった。彼は夢の中で野牛を捕まえたが、それは叫びをもって地を割き、巻き起こす砂塵で天は暗くなった。ギルガメシュがその前にひざまずくと、野牛は彼の手をとって彼の傍らに座った。また男が現れ、ギルガメシュに皮袋の水を飲ませて立ち上がらせた、という夢だった。エンキドゥは言う。その野牛は実はフンババではなく守護者なる太陽神シャマシュ、男はギルガメシュの父なるルガルバンダで、フンババとの戦いにおいてきっと彼らの加護があるだろう、と。

二人はまた50ベール進み、同じように夢見の床をしつらえ、ギルガメシュが横になった。
彼はまた別の夢を見た。そこでは天が叫び、地が咆えたけり、昼は暗闇となった。稲妻が走り、炎が燃え上がる。炎は天に沖し、死が雨と降り注いだが、やがて火は消えた・・・そういう夢だった。エンキドゥは語る。それはフンババとの戦いにおける神の威光の顕現のさまである、と。

二人はまた50ベール進み、同じように夢見の床をしつらえ、ギルガメシュが横になった。
彼は良い夢を見た。彼は夢の中で空を飛ぶアンズー(獅子の頭を持つ鷲)を見た。そして恐ろしい顔の怪物を見た。その口は火で、その息は死。しかし、若者が現れてその怪物を捕らえ、地に投げ落とした・・・エンキドゥは喜ぶ。その怪物はフンババ、若者はシャマシュ神である、と。

二人はついにフンババの守る香柏の森に到着した。ギルガメシュは重ねてシャマシュ神に加護を呼びかける。すると、天から声がした。
「急いで彼に立ち向かえ、彼を森に入れてはならない。彼はまだ七枚の鎧着を着けていない。一枚しか身につけていないのだ」
二人は森へ急いだ。しかしその時、洪水のごとき恐ろしい咆哮が轟き渡った。森の守護者フンババの叫び声だ。彼らの心は恐怖に満ち、足は止まってしまった。ギルガメシュは怖じ気づいてしまう。今度はエンキドゥが彼を励ます番となった。

二人はついに、香柏の森の入り口に到着した。その美しく広大な森に、彼らはしばらく見入っていた。


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注:ギルガメシュの見る四つの夢は、アッシリア語版では第二の夢とその解釈、第三の夢の解釈、第四の夢とその解釈の部分が欠損している。

(アッシリア語版)
1:山の奥深いところで、山がギルガメシュの上に落ちてきた
その解釈:その山はフンババ、われらはフンババを捕らえ殺害する。

2:欠損
その解釈:欠損

3:天地が大混乱に陥る
その解釈:欠損

4:欠損
その解釈:欠損

これを補うものとして、より古い形の古バビロニア、中期バビロニア語のギルガメシュ叙事詩断片がある。ただし、夢の内容は年月と共に改変されていったと思われるので、これらを合わせても脈絡ある一続きの夢にならない。第二の夢も版によって違いが見られる。
本文ではこれらを適当につぎはぎして書いた。

(古バビロニア語版:テル・ハルマル出土、イラク博物館蔵)
2?:ギルガメシュが野牛を捕まえるが、野牛は地を割き天を暗くさせる。彼が野牛の前にひざまづくと、野牛は彼の手を取り、傍らに座る・・・・ギルガメシュは皮袋の水を飲む。
その解釈:野牛はフワワ(フンババ)ではない。シャマシュのこと。彼はギルガメシュの手を取って護ってくれる。水を飲ませるのはルガルバンダ。

(古バビロニア語版:イラク博物館蔵)
3の解釈:われらが森に近づけば、すぐさま戦いが起こり、ギルガメシュは神の威光の輝きを見るだろう。彼とフワワは闘い、これを屈服させる。彼の見た太古の存在はウェル神、彼の頭を造ったのはルガルバンダ。

4:ギルガメシュは空を飛ぶアンズー(獅子の頭を持つ鷲)を見た。そして恐ろしい顔の怪物を見た。その口は火で、その息は死。しかし、若者が現れて・・・・・・その怪物の翼をちぎり、捕らえ、地に投げつけ・・・・・。
その解釈:若者とはシャマシュである。

(中期バビロニア語版:ボアズキョイ出土)
2:山が落ちてきた。それはギルガメシュを投げつけ、足をつかみ・・・・・輝きが強くなり、一人の美しい男が彼のそばに立つ。男はギルガメシュを救い出すと彼に水を飲ませ、彼を立たせた。
その解釈:フワワが山なのではない。男とはシャマシュである。