オラトリオ《エリヤ》作品70
そして火のような預言者エリヤが登場した。
彼の言葉は松明のように燃えていた。
彼は人々に飢饉をもたらし、
その熱意をもって人々の数を減らした。
彼は主の言葉によって天を閉ざし、
三度、火を降らせた。
エリヤよ、あなたはその驚くべき業のゆえに、
どれほどほめたたえられただろうか。
あなたと等しく誇りうる者があろうか。
集会の書48:1〜4
(1、6〜7節は《エリヤ》 第38曲合唱のテキスト )
1836年、《聖パウロ》を完成させたメンデルスゾーンはすぐに次のオラトリオの構想を練り始めた。案として、「聖ペトロ」「聖ペトロと聖パウロの殉教」「キリストの冥府下り」などが出たが、最終的には、カール・クリンゲマンの勧めにより、旧約聖書でモーセと並び称される偉大な預言者エリヤを題材とすることになった。しかしその後、《聖パウロ》の台本制作を行ったユリウス・シューブリングとの間でテキストについての議論が起こり(新約のテキストを挿入するか否か)、作曲は一時先延ばしになっていた。1845年、イギリスのバーミンガム音楽祭委員会は、メンデルスゾーンに翌年の音楽祭出演を依頼し、それには、「新作のオラトリオ」への期待も含まれていた。これによって彼は作曲を再開、独語テキスト担当のシューブリング、また英訳テキスト担当のウィリアム・バーソロミューとの細かい打ち合わせを繰り返しながら、ついに1846年、《エリヤ》を完成させた。これは8月26日、バーミンガム音楽祭で演奏され大好評を博し、《エリヤ》はイギリスでもっとも有名なオラトリオのひとつとなった。初演後、メンデルスゾーンはいくつかの曲を改訂、また増補した。オラトリオと呼ぶにはあまりにもオペラティックな作品で、火を噴くような激しい曲から、讃美歌にも使用される穏やかな美しい曲まで名曲の宝庫。
ディスコグラフィー
《エリヤ》は、「火のような預言者」とたとえられた彼をあらわすように全編に燃えるような力がみなぎっている。したがって、これを堪能するにはライヴ盤が一番。ソリストは、エリヤがバス、その下段は左からソプラノ、アルト、テノール、そして若者役のソプラノ(ボーイ・ソプラノをつかうことがよくある)の各ソリスト。
1. |
クルト・マズア |
ライプツィヒ放送合唱団
イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団 |
アラステア・マイルズ(エリヤ)
ヘレン・ドーナス、ヤルト・ファン・ネス、
ドナルド・ジョージ、カースティン・クライン |
テルデック
9031−73131−2 |
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ご当地イスラエルでの演奏。とにかく気合入りまくりでやや乱暴なんですが、
わざわざホールまで足を運んで、スタジオ録音みたいな端正な演奏されるくらいなら、家でCD聴いてるほうがましというもの、これでいいんです。
ライプツィヒ放唱はいつもどおりのうまさ。ドイツの放送合唱団は、どこもうまいですよね、バイエルンも、ベルリンも。
終曲合唱「その時御身の光は暁のごとくあらわれ」はもう凄まじい迫力。
ラストの「アーメン」の部分では各パートが精一杯の余力を叩き付けており、胸が熱くなります。
ライヴだが、会場のノイズを排したマスタリングのため、ちょっと響きが欠落し乾いた印象を受けるのが残念。 |
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2. |
フィリップ・ヘレヴェッヘ |
コレギウム・ヴォカーレ
シャペル・ロワイヤル
シャンゼリゼ管弦楽団
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ペッテーリ・サロマー(エリヤ) ソイレ・イソコスキ、モニカ・グロープ、
ジョン・マーク・エインズリー、デルフィーヌ・コロー |
ハルモニア・ムンディ・フランス
HMC 901463〜4
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シャンゼリゼ管弦楽団がとにかくパワフル。劇的な場面を、特にその管楽器群の響きで盛り上げてくれます。
コーラスは元々しっとりした、柔らかい曲を得意としており、そんな場面でちょっとオケに負けてしまうのが惜しい。
ソリストは、エリヤがちょっと頼りないですが実力者をそろえ、安心して聴けます。 |
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3. |
カール・フリードリヒ・
ベリンガー |
ヴィンズバッハ児童合唱団
ミュンヘン放送管弦楽団 |
ミヒャエル・フォッレ(エリヤ)
ジュディス・ハワース、ヤドヴィガ・ラッペ、
ロベルト・スヴェンゼン、ヨハネス・ディートツェル |
バイヤー・レコーズ
BR 500 005/6 |
ヴィンズバッハ児童合唱団が凄い。ライヴだというのに精緻なアンサンブル、クリアな音色。
さすがに劇的迫力は成人たちのコーラスに一歩譲るけれど、そこまでは望むべきではないでしょう。
だけど第1部ラストの「神に感謝あれ」のコーラスはもう完璧。終了後に間髪入れず拍手と「ブラヴォー」が鳴り響きます。
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4. |
アントニオ・パッパーノ |
モネー王立歌劇場合唱団・管弦楽団 |
ジョセ・ファン・ダム、
キャロリン・ジェイムズ、ナンシー・モルツビー、
キース・ルイス |
フォルラーヌ
UCD16734/35 |
最近頭角をあらわしてきたオペラ指揮者パッパーノの、手兵を率いてのライヴ録音。もろにオペラ的アプローチだが、違和感なし。
オケ、気合入ってます。ティンパニが遠慮会釈なくぶっ叩いてくれてます。
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5. |
シルヴェン・カンブルラン |
フランクフルト・フィグラル合唱団
フランクフルト・ジングアカデミー
フランクフルト歌劇場&博物館管弦楽団 |
ペーター・リカ、
アレクサンドラ・コク、モニカ・グロープ、
クラエス・H・アーンシェ、
バルタザール・ヘンス |
アルテ・ノヴァ
74321 433242 |
あんまり期待せずに買ったが、実は良かった。さすがカンブルラン先生、というところ。
エリヤはちと弱めだが、コーラス・オケは素晴らしい。
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6. |
ロバート・ショウ |
アトランタ交響楽団・合唱団 |
トーマス・ハンプソン、
バーバラ・ボニー、ヘンリエッテ・シェレンバーグ、
フローレンス・クウィヴァー、マリエッタ・シンプソン
ジェリー・ハドリー、リチャード・クレメント、
トーマス・ポール、レイド・バーテルミー |
テラーク
2CD−80389A/B |
通常の英語版テキストににショウが改変を加えた版。
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7. |
ヴォルフガング・サヴァリッシュ |
ライプツィヒ放送合唱団
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 |
テオ・アーダム、
エリー・アメリング、レナーテ・クラーマー、
アンネリース・ブルマイスター、ギゼラ・シュレーター
ペーター・シュライアー、ハンス・ヨアヒム・ロッチュ、
ヘルマン・クリスティアン・ポルスターほか |
フィリップス
438 368−2 |
アーダムのエリヤは最高。威厳ありまくり。 |
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8. |
サー・ネヴィル・マリナー |
アカデミー・オヴ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ
&合唱団 |
トマス・アレン、
イヴォンヌ・ケニー、アン・ドーソン、
アンネ・ソフィー・フォン・オッター、ジャン・リグビー
アントニー・ロルフ・ジョンソン、キム・ベグリー、
ジョン・コネル、ジャミー・ホプキンス |
フィリップス
PHCP5054〜5 |
英語版。ベテランのサー・ネヴィルが美しく、劇的に仕上げています。 |
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9. |
ポール・ダニエル |
エディンバラ祝祭合唱団
エイジ・オヴ・エンライトゥンメント管弦楽団
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ブリン・ターフェル、
ルネ・フレミング、リビー・クラブトリー、
パトリシア・バードン、サラ・フルゴニ
ジョン・マーク・エインズリー、ジョン・ボウエン、
ニール・デイヴィス、ジョフリー・モーゼス、マシュー・マンロウ |
ロンドン
455 688−2
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英語版、ピリオド楽器オケ。
ソリストは言うこと無いけど、全体としては、個人的にはヘレヴェッヘ盤の方が好み。
ターフェルのエリヤがなんかチンピラっぽい。 |
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10. |
ミシェル・コルボ |
リスボン・グルベンキアン合唱団・管弦楽団 |
ベンジャミン・ラクストン、
エディト・ヴィーンス、リア・アルタビージャ、
キャロリン・ワトキンソン、キース・ルイス、
グラシエーラ・レー |
エラート
0630−11227−2 |
さすが、きれいにまとめている。でも、1、2部の最終合唱のラストで思いきりリタルダントかけたりするなど、ちょっと古風な解釈。 |
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11. |
ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス |
ニュー・フィルハーモニア管弦楽団・合唱団 |
ディートリヒ・フィッシャー・ディースカウ、
ギネス・ジョーンズ、ジャネット・ベイカー、
ニコライ・ゲッダ、サイモン・ウールフ |
EMI
5 68601 2 |
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12. |
ジェイムズ・コンロン |
デュッセルドルフ州楽友協会合唱団
ケルン・ ギュルツェニヒ管弦楽団 |
アンドレアス・シュミット、
アンドレア・ロスト、コルネリア・カリッシュ、
デオン・ファン・デル・ワルト、ヨハネス・ディートツェルほか |
EMI
5 56475 2 |
シュミットさんはいい。しかし、演奏がなんか熱がとおってない生焼けって感じ。きれいはきれいだが。 |
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13. |
ヘルムート・リリング |
ゲヒンゲン・カントライ・シュトゥットガルト
バッハ・コレギウム・シュトゥットガルト |
ヴォルフガング・シェーネ、
クリスティーネ・シェーファー、コルネリア・カリッシュ、
ミヒャエル・シャーデ |
ヘンスラー
CD 98.928 |
おとなしすぎる〜!これ録音したころはまだおとなしい。この後、J.S.バッハの《ヨハネ受難曲》からドラマティック路線に変貌するんだけど・・・ |
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14. |
ヴォルフガング・サヴァリッシュ |
国立音楽大学合唱団
NHK交響楽団 |
ベルント・ヴァイクル、
ルチア・ポップ、曽我榮子、五十嵐郁子
アリシア・ナーフェ、荒道子
ペーター・ザイフェルト、小林一男
高橋啓三、福島明也 |
ソニー
SRCR 2738〜9 |
NHK交響楽団定期公演第1000回記念ライヴ。 |
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15. |
カール・リヒター |
北ドイツ放送合唱団
南西ドイツ放送声楽アンサンブル
北ドイツ放送交響楽団 |
ウルリク・コルト、
エディト・マティス、ルーザ・バルダーニ、
ジークフリート・イェルザレム |
En Larmes
ELS 01-104/5 |
まさかのカール・リヒター御大の1980ライヴ演奏。CD−R盤だけど、音質は悪くなく、合唱、ソリスト、管弦楽とも堂々の演奏を繰り広げる。
晩年のリヒターはテンポが遅いといわれるが、これはそうでもない。手兵ミュンヘン・バッハではないため、一聴して彼の指揮とはわからないだろう。 |
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16. |
クリストフ・フォン・ドホナーニ |
?
ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団? |
ジョージ・ロンドン、
イングリッド・ビョーナー、
ヴァルデマール・クメント、イラ・マラニウク |
GOLDEN Melodram
GM 4.0058 |
1962、ケルンでのライヴ。合唱・管弦楽の表記なし。管弦楽はギュルツェニヒ管との情報アリ。
いかにも時代がかった演奏。ソリストがなぜか無駄に豪華。 |
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17. |
ジョン・ネルソン |
北ドイツ放送合唱団
プラハ室内合唱団
北ドイツ放送交響楽団(ハノーファー) |
トマス・クヴァストホフ、
ジビュラ・ルーベンス、コルネリア・カリッシュ
レジナルド・ピンヘイロ |
NDR
RADIO3KlassikClub
KLASSIK EDITION10
A 812 737 |
1997年5月29・30日、ハノーファーでのライヴより。
まっこと堂々とした演奏じゃけど、名匠ネルソンにしては、溢れ出す熱気が少し足りんぜよ。 |
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18. |
サー・マルコム・
サージェント |
ハダーズフィールド合唱協会
ロイヤル・リヴァプール・
フィルハーモニック管弦楽団 |
ジョン・キャメロン、
エルシー・モリソン、マージョリー・トーマス、
リチャード・ルイス |
EMI
CFP SILVER DOUBLES
7243 5 68940 2 5
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1956年の録音。英語版。合唱も雰囲気出ていて、ソリストもオケもノってる。
サー・マルコムは盛り上げが上手いっすねー。 |
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19. |
ヘルベルト・
ブロムシュテット |
ゲヴァントハウス室内合唱団
ゲヴァントハウス合唱団
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 |
クリスティアン・ゲルハーエル
ジビュラ・ルーベンス、ナタリー・シュトゥッツマン
ジェイムズ・テイラー |
RCA
82876 65793 2
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2003年のメンデルスゾーン・フェストターゲでのライヴ録音。
録音のせいか編集のせいか、ライヴの熱気が全く感じられない。外のロビーで聴いてる感じ。
指揮・ソリスト・合唱・オケ全てが折り目正しいきっちりとした演奏をしているだけに、本当に残念。
合唱はライプツィヒ放送合唱団のほうが好きだけど、このヘタレ録音じゃあんまり変わらないか。
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20. |
ユージン・オーマンディ |
シンギング・シティ・コーラス
コロンバス児童合唱団
フィラデルフィア管弦楽団 |
トム・クラウセ
ジェーン・マーシュ、シャーリー・ヴァーレット
リチャード・ルイス
デイヴィッド・ハント |
RCA、タワーレコード企画盤
TWCL 3023〜3024
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英語版。
オーマンディ&フィラデルフィアのイライジャキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
と思ったら、「普通のいい演奏」でがっかり。
オーマンディにフィラデルフィアときたら、普通期待するでしょ、いろいろと。それがなかった。
もっとやってくれてもよかったのに。いやまあいい演奏はいい演奏なんですけどね。
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21. |
フリーダー・ベルニウス |
シュトゥットガルト室内合唱団
シュトゥットガルト古典フィルハーモニー |
ミヒャエル・フォッレ
レティツィア・シェラー、ルネ・モロク、
ヴェルナー・ギュラ |
Carus
Carus 83.215 |
ベルニウスがんばったーーーーーッ!
ベルニウスといえば折り目正しい反面起伏に欠けることが多いけど、
この録音では合唱・管弦楽・ソロとも劇的表現をかなり出していて、よい! |
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22. |
クリストフ・シュペリング |
コルス・ムジクス・ケルン
ノイエ・オルケスター |
トマス・E・バウアー
クラウディア・バラインスキー、フランツィスカ・ゴットヴァルト
ライナー・トロスト |
DABRINGHAUS UND GRIMM
MDG602 1656-2
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ずいぶん前にオーパス111より《聖パウロ》を出していたシュペリングの2009年ライヴ録音。聖パウロは1995年録音だから、かなりの間が。
トロストは《聖パウロ》の録音でも歌っていた。
透明感があってきびきびとしているが過度に速くなく堂々と、音の厚みもある充実した演奏となっている。
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