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       「そこの可愛いおっじょうさん方!」 
       ワンパターンの声のかけ方で登場する風魔。振り向いた途端にユンファが指を差す。 
      「あぁ〜!お前…!」 
       叫びかけた口をヤンフェイに塞がれ、代りに切り出したのが、息吹。 
      「半蔵さんが探してた、風魔ってあんたでしょ?」 
       途端に風魔の顔色が変わる。 
      「半蔵め…まぁ〜た俺の知らない間にこんな可愛い子と知り合いになりやがって」 
      「じゃ、ないでしょ?半蔵さんの財布を盗んだって話、聞いたの」 
      「そんな硬い事気にしないでさ」 
       と、誤魔化す風魔がヤンフェイの方に手をやろうとする…前にヤンフェイは軽く風魔の足を払った。 
      ずでん! 
       風魔は背中から落っこちた。 
      「あ、ヤンフェイ!俺より先に喧嘩始めやがったな!」 
      「喧嘩じゃなくて!姐姐が手を出したら騒ぎが大きくなるだけでしょ!」 
      「……ヤンフェイ…充分目立った、これだけでも…」 
       息吹が言うと周囲がこちらのテーブルに集中している。只、どっちかってーと派手にふられてらぁ、と言う野次馬的な視線だったが。 
      「いいぞいいぞー!」 
      「ヒューヒュー!」 
      「ああいったふり方って、心得てるわよねぇ〜」 
       そんな騒ぎに李兄弟が気が付かない訳がない。まだ並んでいる最中だったが、列から飛び出してきた…のは勿論、ユン。追いかける様にヤンと半蔵は出て行く。 
      「あ!あの野郎!」 
       ユンが指を差して絶叫する。その指の先の人物を見てヤンも 
      「ホイメイ、哥哥に続いて今度はヤンフェイか?」 
      「え、ユン…?」 
      「ナンパ…?」 
       頭に血が登っていてユンとユンファは気が付かなかった。気が付いたのは、ヤンフェイと息吹。 
      「自分の性格考えろよな、人格の差だろ」 
      しれっと言い切る台詞に遂、目をそちらにやる風魔… 
      「あ!良く見たらてめぇ!」 
       そう、香港で散々人を馬鹿にしてくれたくそガキ弟。何時もの人民服でないので気が付かなかった様だ。 
      「風魔殿!見つけたでござる!」 
       ばっ!と飛び出し風魔の前に着地! 
      「さぁ!拙者の財布を倍返しで返してもらうでござるよ!」 
      「半蔵!てめぇまた俺様の知らない間にこんな可愛い子達と知り合いになりやがって!」 
      「問答無用!風魔殿!勝負でござる!」 
       二人は揃って飛び去り、渋谷は109の前に立つ。半蔵は着ていたGジャンを放り、風魔もジャケットを放ると何故か何時もの忍び装束姿になる。半蔵はそれこそ忍ぶ様な濃紺、風魔は目の覚めるような、赤。 
      ROUND 1 FIGHT!(勿論BGMにはWHPの現代ステージをどうぞ) 
      「烈光斬!」 
       腰に付けていた刀…マサムネを抜き放ち、闘気を込めて振るうと波動の様な気が風魔目がけて放たれる! 
      「烈風斬!」 
       風魔も妖刀ムラサメを素早く振るうとかまいたちの様な真空の流れが半蔵目がけて放たれた。 
      「……すげぇ…!半蔵って波動使えるんだな!」 
      「くぅ〜…ああ言った奴と戦ってみたいぜ!」 
      ユンとユンファは二人の戦いに夢中になっている。 
      「オラオラオラァ!」 
       風魔は飛び上がり、四肢を伸ばして身体を回転させながら半蔵目がけて突進する……忍法風輪華斬。 
      「隙だらけでござるよ!くらえっ!」 
       半蔵はマサムネを握り屈みこんで闘気と共に飛び上がる! 
      「伊賀忍法奥義!光龍破!!」 
       その姿は天を登りゆく神龍の如く。半蔵の前進に光の、龍の姿をした闘気が見えた。流石の風魔もこの攻撃に吹き飛ぶ。 
      「すげぇ……!」 
      「凄すぎるぜ……!」 
       ユンもユンファも言葉にならない。 
      「ケンの、神龍拳の様だな」 
      「破壊力はどちらが上かしら…」 
       冷静に、試合を分析するヤンとヤンフェイ。 
      「腕を上げやがったな、半蔵…」 
       口の端からしたたる血を拭うと、風魔はムラサメを収める。 
      「そっちがその気なら、俺様だってやってやるぜ!風魔忍法奥義!」 
       風魔の全身から放たれる気が、紅蓮の炎を纏っているかの如く。 
      「げ!あいつやるじゃねぇか!」 
      「何する気だ…?」 
       ユンもユンファも感心して風魔を見る。 
      「爆裂究極拳!!」 
       高く舞い上がった風魔は身体を回転差せなから何本もの苦無を投げ、炎の闘気をまとったまま半蔵に突っ込んできた! 
      「あ!あれは!」 
       息吹は目を見張る。 
      「息吹の霞少雀と似てるわ…」 
      「あの男にもそんな芸当が出来たとは…それを…」 
       全ての苦無をはじき、突進の衝撃にも耐える半蔵。 
      「防ぎきった様ね、半蔵さんは…」 
       ヤンとヤンフェイは互いの顔を見合わせ、互いに頷く。 
      「凄い人だわ…彼…。でも…」 
      「あいつも、たしかに凄い」 
       逆にユンとユンファは拳を握り締めながら両者の白熱した試合に興奮している。 
      「チッ!かわしやがったか!」 
      「風魔殿、女人に気を取られて修行を怠った様でござるな!拙者の財布、倍返しでござる!」 
       まだ態勢の整っていない風魔に容赦なく半蔵は飛び上がった!近くの柱で三角蹴りをして… 
      「オン・バサラ・ウン・ケン・ソワカ!」 
       突進と掌、蹴、斬を繰り返すその姿は 
      「俺達の幻影陣?!」 
      「半蔵、そんなのも出来るのか!」 
       そして最後の一斬を放つと風魔はそこに倒れた。 
      「安心めされよ、風魔殿、みね打ちでござる。さて、拙者の財布を返して貰うでござるよ」 
       そう言って風魔の懐から財布を取り返す。 
      「くぅ〜、何かてめぇに言われるとすっげームカつくぜ…」 
       そんな言いあいにユンとユンファが興奮してすっ飛んできた。 
      「すげぇ!すげぇよ半蔵!今の技、何だ?!」 
      「俺も初めて見たぜ!何か、こう、ゾクっとしたぜ!」 
      「今のは拙者が独自で編み出した奥義"梵天閃光陣"でござるよ」 
      「良い試合を見せてもらったよ」 
      「いい勉強になったわ」 
       ヤンとヤンフェイ、そして息吹もやってくる。 
      「流石は伊賀頭領って感じね!」 
      「息吹殿、借りていた銭を返すでござるよ」 
       そう言って財布からお金を取り出した。 
      「ところで、風魔、だっけ?」 
       倒れている風魔の元に息吹が来る。 
      「先刻の、あの技、あれ、何?」 
       風魔はぱんぱん、と服をはたいて立ち上がる。 
      「あ、あれは俺様の究極奥義"爆裂究極拳"よ」 
       馴れ馴れしく息吹の肩に手をやると話を続ける。 
      「今日はやらなかったがな、俺様の格好良い究極奥義はまだ有るんだぜ。何だったら特別にご披露してやってもいいぜ」 
      「風魔殿の技はどれも派手で、確かに見栄えはいいでござるが…」 
       そこで半蔵が言う台詞は彼等に続いていた。 
      「見た目が派手だが攻撃力、攻撃法共に派手」 
      「しかし、発動後の隙の大きさこの上なし」 
       得意気に言う風魔にさらっと言いのけるヤン&ヤンフェイ。 
      「冷静に、そこ迄見ていたでござるか」 
       勿論、風魔はかっとなって叫んだ…但し、ヤンのみに向かって。 
      「んだよ!お前はそう何時も何時も俺様の邪魔しやがって!幼馴染みの次は今度はその子か?」 
       息吹がふと思い出した様に言い出した。 
      「ね、ヤン。先刻『ホイメイ、哥哥に続いて』って言ったでしょ?この人ユンをナンパしたの?」 
       そう言うと風魔とユンがもの凄い形相でヤンを睨む。 
      「ヤン!てめぇ!」 
      「こいつ!俺様の恥を!」 
      「何?何?何だよ!ヤン!教えろよ!」 
       興味津々にヤンに飛びつくユンファ。 
      「拙者も興味があるでござるな」 
       飛びかかろうとするユンをヤンフェイが、風魔を半蔵が取り押さえながらヤンは続けた。 
      「前、俺と哥哥で"勝った方が1日言う事を何でも聞く"って賭けをやったんだ。それで、勝った俺は哥哥に1日女装させてやった」 
      「ぶっ!」 
       ユンファ、吹き出す。 
      「まぁ、ロングのチャイナドレスといい、結い上げた髪といい、詰め物に使った養命球といい、何処をどう取っても女だったな、哥哥」 
       しみじみ言うヤン。 
      「離せヤンフェイ!ヤン!黙れ!これ以上言うな!」 
       じたばた暴れるユン。 
      「それで、俺の彼女と偽って街を歩いてた時、こいつが哥哥をナンパしたって訳だ」 
      ぶぶっ! 
      「きゃっはははははははははは!」 
       案の定、ユンファは腹を抱えて大爆笑。ヤンフェイも半蔵も可笑しくて遂腕にかかっていた力が抜けた。 
      「ヤン!」 
      「このガキャ!」 
       著突猛進。そんなパターンくらい先読みヤンちゃん。ひょいとかわして虎撲子。 
      「哈!」 
       流石に吹き飛ぶ二人。 
      「な、ユン、もう一回やれよ!」 
       近くに寄ってまだ涙を流したまま笑っているユンファに向かって叫んだ。 
      「ふっざけんな!」 
       半蔵も、笑いながら風魔に一言。 
      「幾ら女人にモテない故、男に走ったとは、真、風魔殿、末期的でござるよ」 
      「てめぇに言われると余計にムカつく!」 
      「ところでユンファ」 
       まだ怒りが治まらずにヤンフェイに宥めてもらってるユンを放っといてユンファに話しかけるヤン。 
      「俺、ユンファが可愛い服着たとこ、見た事ねぇんだ…今度哥哥が着てたみたいなチャイナドレス、着てみたらどうだ?」 
       かなり真面目な顔で言うと、ユンファは顔を茹でダコの様にして叫ぶ。 
      「絶っっっ対っ嫌っ!!」 
      「何で?哥哥と違ってユンファなら女装にならねぇだろ」 
       その会話を聞きつけたヤンフェイがユンを連れて来て 
      「あら、良い話ね。協力するわよ、ね、ユン」 
      「………」 
       ユンはまだ頬をぶぅ、と膨らませてスネていた。 
      「そんなら良いお店、紹介しようか?」 
       今度は息吹がやってきた。 
      「な…何で俺にさせんだよぉ!ユンでもヤンフェイでもいいだろぉ!」 
      「別に可笑しくはないと思うが、そうでござるな、ユン殿」 
       倍返しで財布を返してもらった半蔵の懐は暖かい。その所為か、とても爽やかに言う半蔵だった。 
      「べーつーにー、ユンファが男装したって大差ねぇし、女装したって女だし、何の意味もねぇよ」 
       バラされて、未だに不機嫌なユン。 
      「俺は女だ!何で女装なんだよ!」 
       かっとなるユンファ。 
      「話は変わるけど…半蔵、色々な時代の奴と戦ったんだろ。中国代表としてはどんな奴と戦ったんだ?」 
       ヤンが尋ねるとヤンフェイも不機嫌だったユンもユンファも身を乗りだした。 
      「あたしも興味有るなー。日本代表として半蔵さんに、良子ちゃん、それに先刻のは風魔小太郎でしょ?風魔忍軍の」 
       息吹も身を乗り出す。 
      「中国は…ジンギス・カーン殿、金龍殿、それに呂布奉先殿でござる。他にもジャンヌ・ダルク殿やブロッケン殿、マッドマン殿…まだまだ強いものは沢山居るでござるよ」 
       半蔵は遠くを見ていた。 
      「今日は仲々楽しい体験をしたでござる。また何処かであったら今度は是非、一戦お相手願おう」 
      「望むところだぜ!」 
      「俺だって!」 
      「こっちこそ。お願いしたい」 
      「私も、お願いします」 
      「あたしも!」 
       取り敢えず、これから又渋谷で楽しむ面々であった。 
      「やっぱ、リュウさんと仲良くなれそう……」 
       息吹はつぶやいた。
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