双龍&鳳凰二喬学園編 GROWLY DAYS 其の6

 実験室から直に調理室に向かったヤンが教室に帰ってくると、案の定机の上も、中もチョコでいっぱいだった。ふぅ、と一つため息をついてチョコをどけようとする。
「全く…これじゃ教科書も入らないよな」
「李陽、本当にモテるよなぁ…」
 クラスメートが傍でわいわい言っているが、当のヤンはとにかく迷惑そうにしているだけだった。
「俺、こんなに食う気しないから、少し持ってってくれよ」
「お前なぁ、そりゃくれた子に失礼って奴だろ?」
 そういうクラスメートもまぁ、そんなに有っても確かに食べ切れないのは解っているが、そんなチョコ攻勢に縁がない身としては羨ましいだけだった。
「もう、しょうがないわね、私のロッカーにも置かせてあげるから」
 ヤンフェイがそう言うと、用意していた袋にチョコをどさどさと入れて手渡した。
「謝々、陽妃」
 数分で授業になってしまうので袋を受けとってロッカールームへ向かう時。
「でも、ヤン」
「?」
 振り向いたヤンフェイにヤンが立ち止まった。
「泣かせたら、許さないから」
「判ってる…」
 ヤンが答えると、安心した様に歩き出した。

 更なる呼び出しや、クラスメートからもたっぷりとチョコをもらいまくるユン。多分トータルすればヤンと大差ないだろう。笑顔で受け取ってくれるユンはあげるほうも気持ちが良い。
「李芸、モテるよなー」
 羨ましそうに言うクラスメートにユンは屈託なく答える。
「いやぁ〜、もうロッカーもいっぱいで置く処ねぇよ」
 そんな会話に傍にいたユンファが名乗りでる。
「そんなに大変なら、俺の処置かせてやろうか?」
「悪ぃな、ユンファ」
 ユンファが頬杖を突いてため息をついていた。ピン、ときたユンはからかう様に流し目を向けてニヤニヤしながら言いだす。
「なーんだ、ヤンの事、気にしてるんだ?」
どきっ
 図星を突かれてユンファは顔を茹でダコの様に真っ赤に染める。
「ヤンの奴、下級生にモテるからなぁ。もううんざりしてるんじゃねーの?」
 わざとらしく意地悪に言うユンに遂、カっとなってユンファは声を高くした。
「そ、そんな事!お前には関係ねーだろ!…ったく!そんな鼻の下伸ばしやがって!ヤンフェイ泣かせたら承知しねーからな!」
 その言葉に今度はユンの方は茹でダコの様に顔を真っ赤にした。
「う、うるせぇ!ユンファにゃ関係ねーよ!」
 余りにストレートに言うのでクラスメートが注目している。
「な、何でそこでヤンフェイ出すんだよ!関係ねーだろ!ヤンフェイだって下級生にモテてるんだし!」
 言ってる事に意味がなくなっている様な…流石に皆が注目しているのに気が付いて声のトーンを落とす。
「だからユンファ、置いてくれんだろ、ありがとな!」
 そう言いながら袋を手渡す。
「……しかし李芸、お前こんなにチョコ貰ってどうするんだ?」
 逢えて深く追及せず、クラスメートが尋ねる。ヤンフェイからみの事をユンに言うと、怒るか暴れるか、何処かで被害にあうからだ…触らぬ白龍にたたりなし。
 「もち、食うけど?それともまた俺んちに集まって皆でこれつまみに騒ぐか?」
結局食べ切れなくて数日後、学校等で密かにまいていたりするのだ。
「でも毎日チョコ食ってると流石に飽きるよなぁ」

 放課後。掃除当番のないヤンフェイが国術部の把式場(練習場)に向かおうとすると、掃除に行こうとするヤンが声をかけた。
「ヤンフェイ、判ってると思うけど、哥哥は今朝みたいな一言じゃなくて、本当の言葉を待ってるぜ」
「判ってる、でもね」
 ヤンが言いたい事は判ってる…けど、やっぱり不安なのだ。上級生に人気のあるユン。これじゃ自分の気持ち何か浮いてしまいそうで…
「哥哥はどうせ掃除なんて万年非番だから、把式場行く前に言っておけよ」
「……判ってるわ。ヤンも、きちんと姐姐に応えてよね!」
 顔を真っ赤に染めて逃げる様に走っていった。
「ハハ…ちょっとからかいすぎたかな?」

 掃除を終えて把式場に向かおうとするヤンは何時も通り荷物を部室の方に持って行く。校舎の方が先に閉まってしまうので荷物を持って帰れないからだ。幾つも袋を抱えてヤンは部室に向かって歩いていた。
「それにしても、毎年の事ながらこのチョコの処理には困るよな。また部に差し入れで減らしていくか」
 ぶつぶつと独り言を言いながら。
「もうチョコはうんざりだな……」
「ヤン………」
 不意に自分を呼ぶ声がして顔を上げると目の前の曲がり角でユンファがたたずんでいた。後ろに何かを隠し持っている様で、両手を後ろにやったまま、ヤンの前に立つ。
「あ、あのさ。もう、ヤン、チョコなんかいらねーだろ?だから、俺……他に何もなくて……」
 ユンファの目元が少し潤んでいた。ヤンは袋を置きユンファに歩み寄ってその両腕を自分の両手で掴む。
「何言ってんだ、ユンファ。ユンファのは別だよ、気持ちが違うから」
 隠し持っていたもの…小さな赤い包みのチョコレートを差し出させて、それを両手で受け取る。ユンファは顔を真っ赤に染めたまま附いてしまう。
「有難う、ユンファ。俺はユンファが誰よりも大切だぜ……」
 その儘ユンファの身体をそっと抱き寄せる。

 教員や当番長の目をかいくぐり、部室に向かおうとするユンは、ヤンと同じ位の袋を抱えて歩いていた。ふと、前を見るとそこでヤンフェイがずっと待っていた様で、ユンは声をかける。
「どうしたんだ?ヤンフェイ?」
「ん…ちょっとね。ユン、上級生にモテるから……」
 ヤンフェイは後に何か…否、チョコを隠し持っている。ユンは確信した。
「もう私のチョコなんていらないかなーって思ったの」
 ため息を付く様にしながら小さな青い包みのチョコレートを出す。今朝、ヤンフェイの下駄箱の中に入っていたものではなく、ヤンフェイがユンに渡す為に用意していた……ユンは抱えていた袋をガサっと落とし、ヤンフェイの両手首を付かんで顔を茹でダコよりも赤く染め、大きな声を張り上げた。
「ンなこたねーよ!お、俺は!ヤンフェイのチョコが一番欲しかったんだぜ!」
 ヤンフェイの手首を解放して、改めてヤンフェイからチョコを受け取る。
「ど、どうもありがとな!ヤンフェイ!俺、ヤンフェイが誰よりもいちば…………!」
 また皆に聞かれてしまいそうで慌てて声のトーンを落としてヤンフェイの手を引いた。
「ホラ、は、把式場行こうぜ!」
 その儘二人は部室に向かって歩き出した。

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