双龍&鳳凰二喬学園編 GROWLY DAYS 其の4

「ちっくしょー!何で俺がこんな事しなきゃあならねーんだよ!」
 モップを握り、薬品の匂いの充満する化学実験室に、ユンは居た。否、ユンだけでなくもう一人、ユンファも。彼女も同様、モップ専用絞り付バケツでモップを絞って、床を拭いている。
「何でってなぁ!元を正せばお前の方が悪ィんだろ!こっちは被害被ったんだぜ!俺の方が付き合わされてるんだからな!」
 ユンを睨みつける様にユンファが瞳を向け、怒鬼の篭った言い方でユンに返した。
「俺の所為だと?!殴りかかったのはユンファの方だろ!」
 ユンは持っていたモップを槍術の上段の構えでユンファに対置する。
「何を!俺が真面目に授業受けて実験してる最中に変な薬品の匂い(アニリン)嗅がせて気持ち悪くさせたお前が悪ィんだろーが!」
 ユンファもモップで棒術の中段の構え。そのまま固定された机の間の狭い通路で互いの出方を探る。ジリジリとお互いを見ながら、ほぼ同時に二人は踏み込んだ!
「アイヤー!」
「テヤーッ!」
 震脚を踏みながらモップを思い切り突き出し合い、激しく水飛沫が散る。二人の震脚の振動が響いて、水はけの良い化学実験室の机は水びだしになる。その時
「こらぁ!二人とも真面目に掃除せんかぁ!」
 実験室の隣の準備室の、更に隣は理科教員のたむろする理科研究室である。初老の風紀教員で、ユン達の所属する国術部の顧問でもある物理教員が顔を出し、二人に向かって大きな声を張り上げる。苦手な教員だけに、瞬間二人はびくっとなった。
「全く、授業中に殴り合いをしたかと思えば、今度は掃除中。部活でも、それに街中でもしょっちゅう散打をしてるなら、たまには大人しくしろ…それから李芸花、きちんと制服位着てこんか……」
 本来、女子の制服はセーラー服なのだが、ユンファは何時も学ランである。
「別に、違反じゃねーから良いじゃん……」
 ぶつぶつと言いながら床掃除の続きをするユンファ。ユンもしぶしぶ続きを始める。
「これが終ったらきちんと研究室まで報告に来い。きちんと終ったか、わしがチェックするからな」
 そう言いながら研究室に戻っていった。先程の打ち合いで終った処まで水びだしだ。そこも拭きながら、今度はモップと専用バケツをしまって普通のバケツと雑巾を取り出す。
「くっそぉ〜…こんなめんどーな事とっとと終らせて、早く部活に行こうぜぇ?」
 言いながらユンファは机を拭き始める。ユンもはたきを取り出して
「しっかしあの花和尚(教員のアダ名)の監視下じゃ、逃げる隙がねぇよなぁ……」
 因みにその教員の名字は"魯"、実家は肉屋で、太極拳の使い手。更に武術器械としては棍と杷(勿論錫杖もOK!)を得意とする大柄の教員である。そして酒豪で、3発殴って相手を殺せる位の怪力だったりする(笑)。
「おい、そこではたきで遊んでねーで、お前がまき散らした水位拭けよ」
 はたきを人さし指の上に立てて、ぽんと上に軽く上げて中指の先に立てる遊びをしているユンに、ユンファが雑巾を放った。不意打ち。雑巾は見事ユンの顔面へ。
 びちょ!
「ぶっ……何やってんだよ、ユン!そん位避けろよ〜!ばっかでぇ〜〜!」
 きゃはははは…と可愛い笑い声を上げ、ユンを指差し笑う。
「てっめぇ……俺が大人しくしてれば!」
 ユンは茹でダコの様に顔を上気させてその雑巾を力一杯ユンファに投げ突けた。…がユンファは手刀の要領でその雑巾を叩き落とす。
「ほーらほら、悔しかったら打ち返してみな!」
 その雑巾を丸めて野球のピッチャーの投球モーションにはいる。ユンファ大きく振りかぶって第1求!
「うぉらぁッ!」
 ビシュ!と空を切る音をさせてユンははたきを振った…が、はたきに雑巾が引っかかってしまい打ち返せない。ユンは大股で掃除用具ロッカーに移動し、中から座敷用のほうきを取り出した。
「はたきじゃ雑巾は打てねぇか…くそッ!来いユンファ!お前の顔面に打ち返してやる!」
 ユンは右バッターの構え、ユンファ大きく振り被って第2求!
「うりゃあ!」
 バシッ!
「!!!」
 ユンの打ち返した雑巾が、丁度実験室の出入り口に飛び、扉を開けて入ろうとした人物…ヤンの顔面にヒットしたのだ。ヤンとヤンフェイは魯教員に頼まれ、ユン達の様子を見に来ていたのだ。前髪と、眼鏡があったから雑巾が顔面にべっとり付かなかったのは幸いだが、ヤンが発する殺気にユンは笑うに笑えない。
「や…やぁ、ヤン、どうしたんだよ…?仮にも"疾風の青龍"のお前が雑巾一つ……」
 ユンファは後退りをしてヤンフェイの方に逃げ、ヤンフェイも只ならぬヤンの殺気にユンファの方へ離れる……
「うっぎゃあぁぁぁぁ〜〜〜〜〜ッッッ!」
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 ユンの絶叫に、魯教員が実験室にやって来ると、床にボロボロになって転がっているユンと、タオルで顔を拭くヤン、そして何事もなかったの様に掃除用具をかたすユンファとヤンフェイの姿があるだけだった。
「何があったんだ?」
 そう尋ねる魯教員に、ヤンは何時もの冷静な口調で答えた。
「別に、ユンが例によってサボっていただけですが?」
 跳腿・雷撃蹴・蛇形手・底蹴腿・後掃腿・EX蟷螂斬、更に雷震魔破拳迄食らわせといての一言であった。

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