双龍&鳳凰二喬学園編 GROWLY DAYS 其の3

 今年の夏は……日本はそうでもないが、香港は暑い様だ。
「暑〜〜〜〜い暑い暑い暑い暑い暑い!」
 騒ぐのは、ユン。
「喧しい、哥哥。誰の為に俺まで哥哥の部屋でタコ状態になってると思うんだ」
 普段はあまりかけない眼鏡をかけて、ユンの後ろで参考書と開いているのは,ヤン。机の上には教科書・問題集・レポート用紙・ドリル・それに分厚い辞書が数冊。今、夏休みも残すところ後1週間程になったユンは今、大量の宿題と格闘していた。
「只でさえ、哥哥は夏休みの補習の課題だってあったんだから、俺より宿題が多いの判ってて、今の今迄遊んでたんだろ?だから気をきかせて、一週間前に俺が教えてやってるんだろう?」
 …実の処、前日にそんな事言われた方が更にヤンが迷惑だから、というのが本音。
「なぁ、ヤン。後で一人できちんとやるから………」
「そう言って、出来た試しがあるか?別に俺は哥哥が留年して良いと言うなら構わないがな、好きなだけ遊んで来れば良いだろぅ?」
「うぅ〜〜〜……」
 勉強はしたくはないが、やっぱり留年は嫌なのだ。いくら双児とはいえ、弟のヤンの方が学業優秀で、兄である自分がこんなでは兄としての貫祿が保てない……って、ユンに貫祿なんて有るのかな?とにかく、何とか目の前の現実から逃避したい一心のユンの言い出しそうなパターンは、生まれてからずっと一緒にいるヤンには登録済だ。こうすればああ言う、ああ言えばこうする……
「代りにやって欲しいなら哥哥、俺の宿題をやってくれるか?哥哥の大好きな物理の問題集1冊、それから相対性理論についてのレポート、基礎解析と代数幾何の問題集、有機化学と英語の予習……」
 此処まで言う頃にユンは既に目を回していた。ヤンは理数科進学クラスなので、文系であるユンとは宿題の内容も量も、勿論難易度も違う……そしてヤンは計画的に宿題を終らせていたりする。
「そ、そうだ!こんな暑い処だからやる気がしないんだよ!ヤンフェイの処行こう!クーラーも有る筈だし、ヤンフェイにも教われる!」
 苦し紛れに思いついたユンは、必要以上に大きな声を出した。彼等の家は菜館なので客室と、後爺々の部屋にはクーラーが有るが、まだ若い彼等の部屋には扇風機が各々1台づつしかない。しかし、姉妹の家は普通の民家なので彼女等の爺々の部屋と、大きな客室にはクーラーが有るのだ。
「哥哥は何処にいてもやる気がしないのは同じだ。そんな事……」
 …と、そこ迄言いかけた時、下で電話のベルの音がした。ユンには宿題をやらせたままにしてヤンが下へ行って電話を取る。ユンはそっと部屋の扉から顔を出し、階段の下のヤンの声を耳をそばだてて聞いた。
「ああ、ヤンフェイもか……あぁ……成程な。その資料なら俺が図書館で借りてる……ああ、やっぱり、考えることは同じだな。哥哥もそこから顔出してるぜ」
 ぎくり!
 やはりヤンには見透かされていた。思わず部屋に隠れてしまう。

「そう……姐姐も"自分の部屋は暑いから"とか言い出して、だからクーラーのある大きな客間に連れ出してあげたけど、結果は変わらないもの。じゃ、こっちでお茶位用意しておくわ」
 ユンファの目の前もユンと似たりよったりだった。そして何とか現実逃避の道を探るユンファのパターンは、全てヤンフェイに読まれている。結果、李兄弟も誘って合同大宿題会と言う事で落ち着かせたのだ。
「さ、姐姐。ヤンを呼んだんだから、来るまで20分程あるわ。その間にこの訳を終らせて。そうしたら次は文学よ」
「うぅ〜〜、やんふぇ〜〜い……俺、もう飽きたぁ〜〜」
 情けない声を上げて、べったりと机と仲良くするユンファに、ヤンフェイは手厳しく一喝。
「飽きた、じゃないの!姐姐が留年しても良いなら私は構わないって言った筈よ!まぁ、姐姐は補習にきちんと通ったから補習分の宿題だけユンよりは少ないけど、家政実技が終ってないでしょう?その為にわざわざ淋飛と慧梅にまで頼んだんだから!文句言ってる暇があったら、後それ位の訳終らせなさい!」
 そう言ってヤンフェイが示したのは教科書1ページ一面びっしりの英文だった。しぶしぶと辞書を取り出し、
「ん、もう……さっきから同じ熟語で詰まらないで。"not only〜but also"は基本でしょ?」
「うぅ〜〜〜……」
 シャーペンを口に加え、唸り声を上げるユンファだった。

 20分程して李兄弟が李姉妹の家に辿り着いた。ユンは大きな鞄を抱えており、中味はユンファの机の上と似たりよったりである。
「いらっしゃい、ユン、ヤン。姐姐なら奥で英文と睨めっこ中よ。ヤン、よろしく頼むわ。さ、ユン」
 そう言いながらユンを部屋に導く。
「ヤンフェイ、此処に来る間少しは気が紛れた筈だから、早速文学から始めてくれ」
「えぇ〜〜!そりゃねぇよぉ!」
 手厳しいヤンにユンは抗議の声を上げる。お茶とか、おやつとか、少し位息抜きを……
「「誰の為に貴重な時間を裂いてると思ってるんだ(のよ)!」」
 ヤンとヤンフェイの声がハモる。結果、クーラーの効いた部屋で、お互いの家庭教師役が入れ替わっただけで、夜中まで宿題会は続くのだった……因みに、淋飛くんと慧梅ちゃんの夜食サービス付。
「「何だって夏休みに宿題やんなきゃいけねぇんだよぉ〜〜」」(両兄姉)
「「つべこべ言ってる暇があったら次のドリル!」」(両弟妹)

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