私立!ジャスティス学園!

 香港・香港島……

「何だって!ヤンフェイが行方不明?!」
 机をダンっと叩き、ユンファに絶叫するユン。
「ヤンフェイがなっかなか帰ってこねぇから、ちょっと心配になったんだけどよ…」
 ユンファが珍しく、不安そうな顔でぽつぽつと話しだす。昨日はユンファは居残りの為、ヤンフェイは先に学校から帰っていた。ユンファが帰ってくるとヤンフェイの姿がなく、食事当番である筈なのに夕食も作っていない。そして爺々に聞くとまだ帰っていないそうだ。
「ヤンフェイの事だから、喧嘩したとか誰かに負けたとかは思えないし…」
 小さく震えるユンファの身体をそっと抱き寄せ、頭を撫でながらヤンは切り出した。
「そう言えば、最近色々な高校で生徒が行方不明にあったり、襲われて大怪我をしたりしたって事件が日本の方であ ったらしい。まさかとは思いたいが…」
 あまりに冷静に言うのでユンはカッとなって両の拳で思いきり机を叩く。
「何だよ!日本の連中が、香港にまで来たって言うのか?!」
 "ヤンフェイ"が居なくなったというのがユンには何よりも不安で、冷静になれないのである。もし、これが"ユンファ"だったら普段冷静なヤンがどんな反応を示すやら…
「取り敢えず、話を聞きに行くってのは良いだろう?ホラ、哥哥、この前武術交流に行った高校」
「あ、五輪高校!」
 全校生徒が体育系部活に所属する、まさに体育学校である。最近、中国武術と日本武術の交流の為、表演や散打(打撃の事)そして他流試合等を行うのにユン達4人は代表に選ばれて五輪高校を訪れたのだった。
「何か解るかも知れない。な、哥哥、ユンファ。行ってみよう」


五輪高校・第1体育館……

「あ、此処だ。俺が散打でめっちゃめちゃ目立ったとこ…」
 女であるユンファは空手部の有段者の男子生徒と目を見張るような散打を披露して驚かせたのだった。
「あの時…元気の良い、哥哥みたいな野球部の生徒が居たな…」
 と、その時…
「あ!お前等!」
 聞き覚えのある声がして3人が振り向く。噂をすれば何とやら、その元気の良い野球部の生徒…野球帽をユン達とは逆に被り、ヤンの様に癖の有る前髪を覗かせている。その横に背の高い女子生徒とサンバイザーを深く被った男子生徒がいる…確か前者はバレーボールで目を見張るプレイ(見学していた)を見せた選手で、後者はサッカー部の選手だろう。履いているスパイクで歩く度にカチャカチャと音がする。
「お前等だな!オイラの兄貴に怪我させたのは!」
 野球部の生徒…将馬はユン達を指差して絶叫した。
「ちょ、ちょっと待てよ!一体どういう事だよ!」
 ヤンが尋ねるがバレーボール部の生徒…夏の方も黙っていない。
「あなた達、中国拳法でやたら強かったし、何か話を聞かせてもらうよ!」
 もうその頃には将馬が突進してきた。
「言いがかりだ!こっちもヤンフェイの事聞かせてもらうぜ!」
 ユンが飛び出す。
「おい!いきなり喧嘩は止めろよ!哥哥!」
「将馬、待て!おい!……全く……」
「「相変わらず向こう見ずな奴…やれやれ、仕方ないか」」
 サッカー部の生徒…ロベルトとヤンの言葉はハモっていた。


「ったく!俺等は先刻日本に来たばっかだって言ってるだろう…」
 肩で大きく息をしながらユンが言う先に将馬がバットを杖のようにしてついている。
「冷静なのはそこの彼だけか。そうか…お前達も……」
 双方が喧嘩を始め、何とか収まった後に話を聞くと、将馬は実の兄が、夏は後輩が被害にあったらしい。
「その怪我じゃ探しには行けねーな…ごめん、代りに俺達が敵を探してやるよ」
 ユンファが夏に手を差し伸べて言う。夏はその手をとって立ち上がり、ユンファを見下ろして礼を言った。
「ごめん、お礼はするから、頼むよ…」
「別に構わねぇ、俺達だって悪いんだからな」
 ユンと将馬が共に手を取る…似たもの同士、友情が芽生えたようだった。
「しかし、一体誰がこんな事したんだ?」
 ヤンがロベルトに尋ねた。
「俺達もそれを探してるんだが心当たりは…」
「下道高校の奴等だ!あいつ等、五輪高校を目の敵にしていやがるからな!下道高校はあっちの方だぜ!」
 ロベルトの言葉を塞いで将馬が言う。
「下道高校だな!よし判った!」
 言うが早いが走り出すユン。
「おい!哥哥!まだ決め付けんのは早いぜ!哥哥!」

戻る