風魔三部作 第2回
あの兄貴俺に騙されたらどんな顔するだろう 後編

 何時もならブレードで兄と一緒に走りまわる街を、今日は相当な美少女と一緒に歩いているヤンは周囲の目を引いていた。
「よ、ヤンじゃないか。ユン坊はどうした?」
「哥哥なら宿題が片付かないから、家に居るよ」
「何だ、随分と可愛い子連れてんじゃんか。ホイメイが焼くぞ」
「…ホイメイにホレてるのは哥哥だよ。俺にとっては只の幼馴染み」
 少々テレながらもきっぱり言い切るヤンに、ユンが反論しかけたのだが口を塞がれてしまう。
「ヤン……」
「ん、何?何処か行きたい処でもあるのか?」
 優しくそう言うと、ユンは慣れないヒールの高いサンダルでヤンを引っぱってこの場から逃げる様に路地裏まで歩き出しだ。
「もう!この辺歩くの、やだ!恥ずかしい!こんな格好もやだ!帰る!」
 人気がない処でユンは声を高くしてヤンに向かった。
「何言ってんだよ、約束は哥哥が言い出したんだし、あの様子から察するにおっさん達にもバレてないし」
「う〜〜〜……」
 いつもの様に頬を思い切る膨らますなりが、何故か今日は妙にハマっていて、可愛いとからかわれるのに拍車をかけている。そんなユンを下から舐める様に見たヤン。
「しっかし……あの哥哥のガタイで、よくまぁここまで化けたもんだよな」
 そう言って養命球の入った胸を鷲掴みにする。あくまで柔らかく、弾力に富んでいる。
「本物だったら相当なもんだな」
「だったら"キャー!エッチ!"とでも叫んでやろうか」
「ハハ…ノってきたな、哥哥」
「…結構重いんだぞ、揺れるし」
「ま、でも重いのは俺じゃないし。早速京劇にでも行こうか。哥哥の好きな"西遊記"だぜ」
 そう言って再び歩き出す。
………こちら、リー・ヤン。これから第4作戦に突入します。どうぞ。

「了解、実行せよ」
 つい最近、親父殿に譲ってもらったPHSに入った4回目の報告を聴くと、僕はPHSにロックをいれた。
「うげつさん、作戦は取り敢えず順調みたいだよ」
 僕は隣を歩いているうげつさんに向かって言う。
「…しっかし、伊達さんも意地悪ねぇ」
「うげつさんだって止めなかったじゃん」
 そう言いながら、僕達は香港のゲーセンに吸い込まれようとしていた………

 さて、こんな香港の雑多の中に、またしても登場した赤毛のド派手な忍者、風魔小太郎くんであった。
「今度はあんなくそガキ共にゃあやられんぞ…」
 そう言うフウマの頭から腰の辺りにかけて足跡が沢山付いている。これより数時間前、2つのお団子に結い上げた、チャイナドレスの美女…皮製と思われる白いブーツと黒い腕輪が特徴的だが…をナンパしようとし、初めは満更でもなさそうなので事は進んだ。が、相手が刑事だった為、下手に手ぇ出そうとして返り打ちにあってしまったのである。フウマは今度ばかりは、と足跡を叩いて落とすとまわりを見渡す。
「………………」
 前方方向、ちょっと肩幅があるけどかなりナイスバディな少女を発見。
「お…!」
 一瞬こちらに振り向いた顔を目撃。レーダー確認。レベル・HIGH。美少女。
「!」
ターゲット・ロックオン。
「いざ、彼女の元へ!」
フウマハンマーキャノン・ファイエル!
 まさに"雷神の槌"の如く駆け抜ける。

「あれ?」
 僕達の目の前を何かが疾風の勢いで通り去った。
「今、何か赤い風が通った気がする…」
「何だろ……まさか」
「風魔、だろうね」
 僕達はその物体が去った方を見た。100m程先に作戦遂行中のヤンの姿を確認した後、二人で大きく頷いた…納得。
「ね、うげつさん。何か面白いもの見れそうだよ」
「そうだね、見に行こうか」
 ゲーセンからバレないように僕達はフウマを追いかけた。

ターゲット・確認。
 フウマはユンの背後2mで停止し、後ろから歩いて声をかけた。
「そこの可愛いかーのーじょ!」
 ここまで言われた悔しさのあまりユンは涙目になる。が、それより早くヤンが動いた。
「何だよ、俺の彼女に手ェ出すなよ」
 そう言いながらユンの身体を抱き寄せた。
「あ!てめぇは!」
「何だ、お前か」
 先日、ホイメイちゃんをナンパしようとした男であり、ホイメイちゃんをナンパしようとして邪魔したガキ共の一人なのである。
「何だ、あんな可愛い子いる癖に、今度はそーんな可愛い子連れて歩いてんのかよ」
「ホイメイは俺の幼馴染み、ユンファは俺の彼女。手ェ出すな」
 舌をピッと出してユンを後ろに庇う様にする。
「ヤン……」
 悔しさの余り、わずかに怒気のこもった声でユンが声を発する、が、二人の耳には届いていない様だ。
「一人位、こっちによこせ」
「ふざけるな。俺がお前なんかにそこまでしてやる筋合いなんかないぜ」
 もう少しでストリートファイト…と言うタイミングでだ。
「アイヤーッ!」
のかけ声と共にユンの側蹴腿がフウマの脇腹に錯裂した。勿論、ヒール付きのサンダルでガーターベルトがモロに見えている。流石になれない靴で蹴腿を決めた所為か、態勢を崩しかけた。
「……ったく!聞いてれば人の気も知らんで…」
「……ユンファ……」
 上げた足を下ろしたユンにヤンが背後から声をかける。
「下着、丸見え」
 頭を抱えてヤンが言うと、周囲の視線がユンに集中している。
「げっ!」
 慌てて足を隠した。
「……喧嘩なんかしたら、哥哥の正体バレるぜ」
 耳元でそう囁くとユンは顔を真っ赤にする。脇腹を抑えて何やら呻いているフウマに目もくれず、ユンはヤンを引っぱって逃げる様に歩き出した。

「きゃっははははははは」
「やったぁ〜〜、ひっかかってる〜〜」
 僕とうげつさんはその後方で笑い転げていた。
「風魔、大丈夫かなぁ」
「ふーまなら平気でしょう、様子見に行こう」
 そう言って倒れているフウマの元に急いだ。
「……てぇ〜…あの子、めっちゃ強いぜ…」
「あら、風魔」
 平然として声をかけたのはうげつさん。
「何だ、清明と……童夢ちゃん!」
「風魔、本日の成績は2回戦0勝2敗ってトコ?」
 僕達はフウマが春麗にフラれたのも見抜いている。
 そんな矢先、僕のPHSが鳴った。
「はい、こちら統合作戦本部、どうぞ」
『こちら、リー・ヤン。取り敢えず第4作戦会場には到達。しかしターゲット、人前で側蹴腿を披露。周囲 の視線を集めました、どうぞ』
「了解、町中は変化無し。継続して作戦遂行せよ」
『了解』
 そんな僕達のやりとりにクエスチョンマークを飛ばしているフウマ。僕は能天気にフウマに質問をする。
「ね、ふーまさ、先刻の子の正体、知りたい?」
「それ言ったらショック受けんじゃないかなぁ」
 その後の反応を楽しみに、笑みを浮かべながらうげつさんは言う。
「な、何なんだよ、あの子の正体って」
 かなり真剣な表情で僕達に向かって居るので、僕は飄々と答えた。
「あの子、ふーまくんもよく知ってる」
「知ってる…?」
「うん、先刻蹴った子は何時もは人民服着て、おさげに帽子」
「まさか…」
「風魔流に言って、"くそガキ共"の兄貴の方」
 うげつさん、とどめ。
ぐ・あぁ〜〜〜〜〜ん…………
 フウマ、石化。余りの可笑しさの僕達は大爆笑するしか術がなかった。

 そして次の日の事。
 何時もの様にブレードとスケボーで街を暴走する李兄弟。おかもちを持ったホイメイちゃんに気が付いて声をかける。
「ユン〜!ヤン〜!」
「よ!ホイメイ」
 ホイメイちゃんの前で止まった兄弟の、ヤンに向かって尋ねた。
「ねぇ、ヤン。昨日連れてたい女の子……ユンファさんだっけ。すっごく可愛いのね、スタイルも抜群だし……思わず嫉妬しちゃった」
「だろ、俺の彼女だもんな、な、哥哥」
「その話はもういい!」
 やけにムキになってユンは絶叫した。
「何でユンがムキになるの?だってヤンの彼女の話でしょ?」
 その質問にユンは戸惑った。
「で、その後どうしたの」
 ホイメイちゃんの質問攻めに平然と答えるヤン。ユンだけが茹でダコの様に赤くなっていた。
………こちら、ホイメイ。全作戦成功しました、どうぞ。

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