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        ケンとのファイトの指定場所…繁華街の路面電車の前に、既に目の覚める様な真紅の道着を着た拳が待っていた。その近くに試合の見物に弟子のショーンもいる。 
      「はぁっ!」 
       ケンが可愛らしい声に目を向けると、スケボーに乗った子供が降りて来た。子供様の可愛らしい『功夫』と刺繍された白い功夫服に黒いズボン。そんなに長くない髪をおさげにして、被っている帽子にはスケボーのカンバッチと、可愛らしくパンダの耳が付いている。 
      「おい…俺は香港の双龍・ユンと戦いに来たんだぜ、こんな子供じゃメルの遊び相手にしかならねぇよ」 
      「うるさい!俺がユンだ!馬鹿にすんなぁ!」 
       そう叫ぶ背後に、背の高い、前髪の長い男と可愛い女の子が立っている。 
      「ケン、悪いがこいつの気の済む様にしてやってくれないか?」 
      「あ、あれ?ヤン………?」 
       目を見張ったのはショーンの方。実際ショーン位背が高い。声も何となく違った気がする。 
      「…しょーがねぇな、かかってきな、坊や」 
      「坊やじゃねぇ!」 
      ユンはそのまま丹田に気を込めてその気を拳に集中させ…絶招歩法。 
      「アイヤーッ!」 
      「うぉっと!」 
       リーチはないが、威力はそのまま…例えて言うなら、『ファイターズメガミックス』のバン対キッズアキラの如し。しかし足癖の悪いケンの足技に翻弄され、更にリーチの無さがたたって対したダメージが与えられない…飛び込んだ絶招歩法を、片手で難無く頭を押さえて止められられ、じたばたと腕をぐるぐるとさせて…何となくだだっこパンチに見える。そのうちに体力の方が限界にきた様だ。ユンの息が上がっている。 
      「はぁ〜〜〜……」 
      「ほら、言わんこっちゃない」 
       ケンの方はと言うと、大して息が上がっていない。 
      「もう、ユンちゃんはこっちで休んでなさい」 
      「うわっ!はーなーせーホイメイー!」 
       ホイメイが無理にユンを連れ戻し、改めてヤンが進み出た。 
      「こういう事だ。悪いが今日のファイトは俺にやらせてもらおう」 
       以前逢った時より身体が一回り大きい…リーチ、パワー共に数段上かもしれない…これはケンとしても楽しみだ。 
      「よし、かかってきな!」 
       ヤンはケンに一礼、そのまま虚歩の姿勢をとる。大きくかかとを降り上げた拳の足を避け、側蹴腿を放つ! 
      「とうっ!」 
       リーチが伸びた分、威力倍増。 
      「…こいつぁ、やっかいだぜ…」 
      「まだ、俺の小手調べにしか過ぎないぜ」 
       そのまま飛び上がり、いきなり爪先を立てて急降下…雷撃蹴から裡門、掌底、虎撲子、崩拳! 
      「哈ーっ!」 
      「昇龍拳っ!」 
       暫く派手な戦いが続いた………が、最後は波動拳を潜っての転身穿弓腿にてKO! 
      「……前よりリーチもパワーも一段と上だぜ…良い試合だったよ」 
      負けを認め、差し出された手をヤンは素直にとった。 
      「技が切れても、結局は読みの深さだな」 
      「う〜〜〜…本当は俺のファイトだったのにぃ〜……」 
       一人、スネるユンだった。 
      「もうこんなの、やだぁ〜〜〜!」 
       ぺたんと座り込んで、腕と足をじたばたと動かす姿は将に子供。ひょい、とヤンに担ぎ上げられると親子か年の離れた兄弟である。 
      「今の哥哥にはこれが似合うかもな」 
       と言ってペロリンキャンディーをあげる。それを文句を言いつつもくわえるから、以下前文繰り返し。 
      「俺は別にこのままでも良いけどな…実際、大してかわんないし」 
      「俺は!もとの大きさに戻りたい!」 
       ヤンはユンを降ろすと、ブレードを履きなおした。 
      「ともかく、あのいかれじーさん処に行ってみよう。本当に漢方薬の所為ならな」 
       そう言って走り出すのを、キャンディーをくわえたままスケボーで追いかける。 
      「あ〜〜!待てよ!ヤン〜〜〜!」 
       そして路地裏の、怪しい雰囲気のする薬局へ向かう。 
      「おい!じじぃ!」 
       勢いだけはよく飛び込んでゆくユン。 
      「昨日の薬!何か変じゃないのか?!何で俺、こんなに 小さくなったんだよ!」 
      「俺も、ユンの風邪が移らない様、少し飲んだけど、何か少し大きくなったようだぜ」 
       怪しい雰囲気の漂う店内奥、調合室から出て来た、奇怪な老人。 
      「…ん?誰じゃお主等……」 
      「おいっ!いかれじじぃっ!聞こえてんのかよッ?俺だっ!リー・ユン様だっ!」 
      「…?……!おぉ〜〜、成程!そういう事じゃったか」 
      「はぁ?!」 
       一瞬理解出来なくて、二人とも呆気にとられた表情をする。 
      「『精神年齢になる薬』が調合できた様じゃのう……風邪薬を作った筈なんじゃが…」 
      「ってことは…?!!」 
      「俺はガキで、ヤンは大人だってことかぁ?!」 
      「ひゃっひゃっひゃっ…そういうことになるのう」 
       変な笑い声を上げて老人が笑う。 
      「やっぱ、哥哥はガキだったって事か」 
       クスクスとヤンが笑う。ユンはカウンターによじ登ってから老人の胸倉を掴んで絶叫! 
      「そんな事はどうだっていい!早く元に戻せ!」 
       がくがくと揺さぶるユンをヤンが引き離す。そのままヤンに抱えられながら、じたばたと暴れる姿…将に駄々っこ。 
      「安心せい、効果は1日じゃ。明日には戻っとるわい」 
      「本当だな…」 
       鋭く言い切るヤン…実はこの老人、ユンより静かに怒るヤンの方が苦手らしい。かなり焦って返答する。 
      「保証する。何かあったら又来ればええわい」 
       その言葉を信じ、取り敢えず帰路につく二人だった。 
      「これで戻ってなかったら、あのじじぃに槍雷連撃かましたる!」 
       ベッドに潜り込んで、布団を被るユンだった…… 
       次の日。 
      「哥哥、俺、元に戻ったよ。声も視界も姿も今迄通り。哥哥?起きてるか」 
       部屋から出て来て、ユンの部屋をノックすると返事がない。まだ寝ている様だ。 
      「起きろよ、哥哥………!」 
       ベッドに横たわるユンの大きさを見ると、昨日の子供の姿ではない。 
      「何時まで寝てんだ?起きろ!」 
       その儘毛布をひっペがし、寝ている筈のユンの姿を見て……… 
      「うわああああああ〜〜〜〜!!」 
      「わっ!何だよヤン!」 
       その声に驚いてユンは目を覚ます。ヤンが毛布をユンに放り返して鼻を抑えたので頭から毛布を被った。 
      「何やってんだ、ヤン……?」 
       トランクス1枚で、眠い目をこすりながら毛布を取り去ると、ヤンが鼻血を出している。 
      「何鼻血出してんだよ、こっち向けってば」 
       依然ヤンは鼻を抑えたまま、顔を熱湯のやかんの様にして絶叫。 
      「あ……哥哥!服!服着ろ!肩からその毛布被れ!」 
      「え…?」 
       ユンが自分の身体を見た時…… 
      「うわあぁ〜〜〜〜!!何で女になってんだぁ〜!!」 
       慌てて毛布を被って身体を隠す。 
      「あんのじじぃ!ぜってーぶっ飛ばしてやるぅ〜〜!」 
      ……………………To be continued?
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