消えた部室の食料
Act.12 簡易裁判〜事件解決〜

 ついに亨を逮捕した!
 逮捕された亨は地学室の椅子に座らされ、何をされるか分らないという恐怖にひきつっていた。実際、稀の顔は数々の恨みと、やっと亨を捕まえた喜びで、何時もの数倍は邪悪な笑みを浮かべている。その表情のまま、ゆっくりと通るに歩み寄る。亨が逃走しない様、機動隊の盾を持った剣や玲亜が前に立ち、更に他のメンバーも退路を塞いでいる…が、3m位は稀と亨と距離を置いている。
 稀は表面上はにっこり笑い、そして高めの声で
「先輩、昨日うちの部室にあった肉まん知りません?」
と、言った。亨も先程と変わらぬ表情のまま
「何それ?知らないよ」
と、一応言ってみた。が、嘘だと言うのが誰の目にも明々白々な事は、その口調が物語っていた。稀はその答えを聞いて一瞬の間を置いた後、阿修羅の様な怒りを露にした表情になって、すぐ傍らの机を平手でバンッッッ!!!!と叩いた。そして、再びにっこり微笑んで
「先輩、嘘はやめましょうねぇ……」
と、高い声でゆっくりと言った。このやりとりの間に他のメンバー達は更に1〜2m後ずさっている。地学室は恐怖と沈黙に包まれた取調室になった……勿論、カツ丼等出す筈がない。
 沈黙は暫く続いた。グラウンドで練習する野球部とラグビー部の声が、やたらと響いていた位だった。ついに覚悟を決めた亨が口を開く迄、誰も何も言わなかった。
「…分かった、白状します。勉強一段落して『あー、腹減った』と思った時創研の部室の前を通ったら、肉まんが1個あるだろ。おまけにその時誰もいなかったし、やめとこうかな、と思ったけど、手に取ったらまだ暖かかったから『よし、このまま置いといたら冷めちまってまずくなるから、暖かいうちの俺が食ってやろう』って思って……」
 此処迄一気に言っていたのを聞くうち、稀はそんなしょうもない理由で大切な肉まんが取られたと思ったら、余計に腹が立ってきた。そのあまりに、何も言えなくなっている稀に変わって、蘭が確認する様に尋ねた。
「で、それを食べちゃったんですね」
「うん、それ食い乍ら地学室の前通ってそこでゴミ捨てて、で、物理講義室行ってからまた図書室に戻ったんだ」
 今迄の事件の経過と亨の行動、全て一致する。
「『こつぶっこ』も?」
「あ、それもバレてたのか。うん、肉まんの近くにあったから、ついでに」
「ついでで済みますかい」
 呆れ果てた様に玲亜が返した。
「で、どーしてくれるんですか、オレの肉まんと捜査に費やされた時間は!」
 暫く口が聞けなかった稀が、ようやく反撃をした。
「肉まんはともかく、捜査はお前らが勝手にやったんだろ?!」
「でも、先輩が食べなきゃうちらが捜査する事もなかったんですよ?」
 言い掛かりだ!と言わんばかりの亨だったが、沙羅のこの一言に反論が出来なくなってしまった。
「人の肉まん勝手に食って!何、その言い種!」
 と、稀が睨みつける……稀は感情が走ってしまっている為に、マトモな議論は臨めそうもなくなっていた(元より無理である)だが、この後何をされるかの方がもっと分らない…
「じゃぁ、稀に肉まん奢る、それで良いだろ?!」
 イライラした口調で言った、が……
「え〜〜〜〜〜!稀さんだけぇ〜〜〜?!」
「僕達も駆けずり回ったんですよぉ!」
 蘭と汰愛良が文句を言っている。稀程ではないにせよ、剣を始め他のメンバー達の殺気も相当なものだ。不満な表情で叫ぶように亨は言った。
「わーったよ、皆にピザまんでも肉マンでも1個づつ奢る!それで良いだろ?!」
その言葉に、蘭は机を二回程叩いて周りをしずめた……感じとしては裁判官である。
「まぁ、それで許してあげましょうか。稀さんもそれで良いでしょ?」
ニコニコし乍ら稀の顔を見る。稀は
「そうですね、じゃ、今日中に奢って下さいね。あ、それから『こつぶっこ』も」
と、幾らかいつもの口調に戻って返すのだった。
「えーっ!今日中〜?!ちょっと待てよ!俺、今日、\1500位しかねーぜ?!」
 立ち上がって慌てて反論したものの…
「それだけあれば十分じゃないですかぁ」
という汰愛良の一声で、その後の亨の行動が決定したのであった。
「じゃ、皆、何が良い…?」
 吐き捨てるように聞くと、間発入れずににっこりと稀が返した。
「あたしは勿論肉まんね。昨日の分と合わせて2つ」
「え〜〜〜〜?!2つだぁ?お前ちったぁ遠慮しろよ!」
「やだね」
不満げに騒ごうがお構いなし、稀はぴしゃりと言い切るのだった。
「あ、私、昨日ピザだったから今日は肉まんね」
「あたしも〜〜」
「僕はあんまんが良いなぁ」
「俺はカレー」
……等と、皆好き勝手な事を言い出した。いい加減、亨はイライラしてきたが、事の発端の犯人である以上、文句は言えない立場なのだ。
「いっぺんに言われてもわかんないからさぁ、これに書いてくんない?」
 そういって、鞄の中からルーズリーフを1枚取り出して蘭に渡した。そこで蘭が皆に「肉まんが良い人〜〜!」とか聞き乍ら書きまとめたものを亨に手渡した。
 渡されたものを、亨はざっと目を通す。
「えっと…1、2、3………………10?!10個もかよ〜〜〜!(><」
「いってらっしゃ〜〜〜〜〜〜〜〜い!(^o^」
 蘭と稀がにこやかに笑い乍ら亨の背中を押し、地学室の外に押し出した。そしてその十数分後、まれは念願の肉まんを幸せそうに食べるのであった………

 

 その後、天文部・創研・ハム部の部外者達の間ではこんな標語が出来たのであった。
『創研の食い物には手を出すな』

劇終

戻る

………と、言う事で、『消えた部室の食料』完結です。
担当は
1・5・9話……どむ
2・6・10話……ひつじ
3・7・11話……こうづき
4・8・12話……北野沙羅
読むのが殆ど内輪で、台詞が続いているとか、矛盾しているとかあったので、原文から多少の脚色は、僕ことどむが入れました。とはいえ、ひつじちゃんと沙羅姉貴の話には酷く手を加えていません。よかったら作者各々にも感想を聞かせて下さいね。

次回、TAS合作編は「夏の合宿(仮)」……今タイトル考えてるんで(w