「それ以前に、出席番号が一つ違いだからな。席も近ければ、日直や掃除当番でも一緒。しかも共通の知人までできてしまっては、お手上げだ」
 おどけて肩をすくめたものの、笑顔を作ろうとして失敗し、お嬢は目を伏せた。
「その気になったところで、自分の思いの持って行き場などないことは、わかっていたくせに……な」
「……もしかして、告白してきた男を片っ端からフり倒してたのも……」
 お嬢は口の端だけで笑う。
「そうだ。まぁ、好みのタイプがいなかったというのも大きな理由だが」
「……俺は、どうなんだ?」
「…………」
「なぁ、おじょ……」
「やめてくれ」
 お嬢は沈痛な表情でうつむいた。
「それを私に言わせて、どうするつもりだ?」
「……確かめたいだけさ」
「確かめて、どうする? ……駆け落ちでもするか?」
 俺は言葉に詰まる。一瞬のうちに、いろんなことが頭のなかを駆けめぐった。
 住むところをどうする、学校をどうする、収入を得る手段は、そして……明鐘を置いていくのか?
 ほんの微かに、お嬢が口元を緩める。


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