呪術は、最も歴史のある魔法だと言われています。我々が確認できる中で最も古い呪術の例は、ネアンデルタール人が行った狩猟の為の呪術です。彼らは熊の頭蓋骨をきれいに並べ、より多くの獲物が取れるように儀式をしたとの事です。そして、その時代から数万年後の現代、呪術は連綿と受け継がれて来ています。

さて、それでは“呪術”と言うのは如何なる魔法なのでしょう。

 

@呪術の原理

呪術はどのような考え方に基づいた魔法なのでしょうか。その原理は非常に簡単です。法則はたったの2つなのです。ひとつは、

「似たものは似たものを生み出す」

という事。そしてもうひとつは、

「かつてひとつであったもの、もしくはお互いに接触していたものは、別れた後にもお互いに作用しあう」

という事です。前者を「類似の法則」、後者を「接触あるいは感染の法則」と呼びます。

呪術師は、「類似の法則」から、どのような事象でもそれを真似るだけで思い通りの結果を生み出す事ができると考えます。例えば、この法則の典型的な使い方として、獲物寄せがあります。猟をしていて、獲物が全く取れなくなったら、呪術師は獲物の毛皮を着て、獲物の真似をして村の近くで跳ね回るのです。呪術師がこのように行動することによって、似たものである獲物も同様に村の近くで跳ね回ります。この法則のおかげでたくさんの獲物が村の周りにあらわれるのです。

また、呪術師は「接触あるいは感染の法則」から、誰かの身体にかつて接触していたものに対して加えられた行為は、その行為と全く同じ結果をその人物にもたらすと考えます。丑の刻参りに使う呪いの藁人形などは、その典型的な例です。藁人形の中には、呪う相手の髪の毛を入れます。この髪の毛によって、藁人形と呪われる相手には繋がりができ、そうして藁人形に釘を打ちつける事によって、相手にも同様の苦しみを与える事ができるです。

このように呪術とは、ある2つのものの中にある見えない繋がり、共感を利用した魔法なのです。ですから、呪術の事を“共感呪術”と呼んだりもします。

 

A呪術の注意点

もとはひとつのものであったにせよ、今は離れ離れになったものや、単に似ているだけのものの間にどのような繋がりがあるのでしょうか。呪術ではそれを説明する事はできません。しかし、私達が、テレビがどのような原理で映るかを知らなくてもテレビを扱う事ができるように、呪術の力がどのように伝わっていくかがわからなくても呪術を扱う事はできます。この点において呪術はあくまでも技術なのです。

呪術はあくまでも根底の理論が解明されていない技術です。ですから、儀式を行う日時や呪文の文句の一言一句、唱える際の抑揚や早さなど、些細なところまで一切の間違いは許されません。ひとつでも間違おうものなら、呪術の効果が期待できないどころか手酷いしっぺ返しを受けてしまう事すらもあり得ます。

ただし、間違いなくキチンと行われた呪術は確実に成功します。

くどいようですが、呪術を行う際の注意点は、どのように些細な事でも何ひとつ間違ってはいけない、という事です。

 

B呪術師の種類と地位

呪術師は、私的呪術師公的呪術師に分ける事ができます。

私的呪術師は、各個人に幸いや災いをもたらすために呪術を行う呪術師の事です。個人の病気や怪我を治したりする呪術医(ウィッチドクター)もこの私的呪術師の中に入ります。

それに対して公的呪術師は、属する共同社会全体のために呪術を行います。雨乞いや豊漁祈願、戦争時に敵にかける呪いの儀式などは公的魔術師の仕事です。

また、私的呪術師と公的呪術師を兼任できないのか、と言えばそうではなく、呪術師の中には、私的呪術師と公的呪術師の両方の役割を担っている者もたくさんいます。

さて、呪術師は、自分の属する社会においては私的・公的を問わず、高い地位にある場合が多くあります。公的呪術師は社会全体のために呪術を行う役割であり、その呪術によってもたらされる社会的利益は大きなものであるため、その地位の高さは言うには及びませんが、例えば公的な仕事を一切しない私的呪術師であっても、個人に与える恩恵はやはり大きなものであるため、たとえ名目上の地位がそれほど高いものでなくとも、実際は周囲の信頼や尊敬を受け、大きな発言力を持つという事もあるのです。

 

 

 

 


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