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第23回寿町フリー・コンサート

2001年8月12日 横浜市寿町職安前広場

寿町に行く時、中華街のとある台湾料理屋に行く日でもある。2年前に何も知らないでドアを開けた店は「他人の居間で飯を食う」という表現がぴったりの和んだ店で、昨年も訪れた店である。去年までは他にお客さんはいなくて、ガラガラの店内で「横になって飯を食う」状態だったが、今年は行列が出来ていて入ることが出来なかった。うなだれながら寿町へ。仕方ないか、うまい店だったから…。

相変わらず天気は曇りの寿町。なかなか晴れの日って無い。午後2時40分からスタートする予定で、ちょっと早めに会場に行き、会場内に張り出されたチラシ類を眺めていた。その中に他人の金を使い込みかなんかをした人を糾弾する内容の物があり、それを読んで暇を潰そうと思っていたところ、おっちゃんに声をかけられた。「こいつは許さないよ。」って。何があったのか詳細を話してくれるのかと思ったら「兄ちゃん酒奢ってくれ。」と言われた。さらに「256円貸してくれ」って言われた。

フリー・コンサートがスタート。うーんMCの冴えない兄ちゃんにがっかり。どうせなら一昨年までやっていたおっちゃんに復帰して欲しいのだが(会場で見かけたのに。

一発目は「寿」。今回はアコースティック・セットである。ナビィの歌を聴くのは一年ぶりだったが相変わらず凄い。節回しは独特の沖縄とソウル、ゴスペルの融合された素晴らしいものだ。ちょっとVoのPAから聴こえる音量が小さかったが、逆に単に興奮して聴く事より耳をすまして聴いてしまうので彼女の節回しがじっくりと聴ける。寿町のおっちゃんがナビィにオロナミンCとビール、1000円のおひねりが手渡された。終盤はカチャーシーと「我ったーネット」で盛り上がって一発目からアンコールがあった。

で例年と同じく、ステージ裏でチル・アウト。ステージでは友部正人がやっていたが、ごめんなさいしてしまいましたが、かなりの盛り上がりだったようで合唱が聴こえてきた。ステージ裏で休んでいて気付いたのは「おっちゃんの姿が今年は少ない」と感じた。大勢のおっちゃんがいたのは確かだが、それ以上によそ者、俺を含むよそ者が多い。

でよそ者も目当てにしてる筆頭、ソウル・フラワー・モノノケ・サミットの出番。今回は大熊亘、内海洋子も参加で豪華と言うかステージが艶やか。全員、浴衣を着てその並んだ姿だけでも感激。チンドンの洋子、みわ、なかにしの3人、チャンゴの英ちゃん。もう4人も女性が並んでかっこいいこと。ライブ前にステージに向かうチンドン太鼓を抱えた洋子に「かっこええー」って声をかけると「この姿で言われても」と言われたが、なんかね、迫力あるんだな。英ちゃんもチャンゴの方がリズムを取る、ヒョイっと足をあげるしぐさが色っぽいので好きだ。
中川「寿のおっちゃんらと遊びに来たから、おっちゃんら、前の方へ行きたかったら、こいつら(最前付近のよそ者)蹴っ飛ばしてええよ」確かに最前、アッパーなよそ者多すぎ。一曲目「水平歌〜農民歌〜革命歌」でスタート。この段階で俺は、「ひょっとして今日は物凄い出来の良いモノノケになるのでは」と思った。中川の歌が良い。昨年のモノノケは酷かった。正直に言って過去最低だと思った。だが、今年はモノノケの本当の姿を見た感じがした。「東京キッド」「十九の春」などはモノノケでは初めて聴いたが、これも中川の歌、絶好調。MCで「ナビィの歌を聴いていたら、これは真剣に歌を練習しなくてはならない」と言っていたが、大いに刺激されたのでしょうか、実に良い。もうそれしか言い様が無い。もうモノノケはやり尽くしてしまったのか、と思ったことがあるのだが、今回、寿町で聴いて「やはり凄いや」としか言葉が出ない。大熊のクラリネットも奮えた。モノノケに無くてはならない存在だ。「さよなら港」で終了したが、今回はダイブも無く終了した。しかし、ステージ上の2階部分から無軌道な行動をするよそ者がいた。あれは音楽好きでも無い、ただのよそ者だったらしい行動がライブ中に何度か見られた。からかいに来るのは本当にやめてほしいと思った。無料故の問題であるが、寿町フリコンは永遠にこういった事と向き合っていくのだろう。自由と秩序の両立を敷居の低い場で確立する。それは最高の祭りの場所となる。
モノノケとしては俺が見た中では最高の出来だった。

続いて暗黒系歌謡の女王、渚よう子。ステージ裏のチル・アウト・スペースで聴いていたのだが、これぞまさしく昭和歌謡。情念がじわじわと伝わる。しまった、ちゃんと聴けば良かった。

続くハシケン。寿町に初登場である。俺は数年前から、このハシケンが好きでしょうがない。昨年発表のアルバムはちょっとメロウ過ぎたと思ったが、バンド編成でのライブで聴いた時は歌に引っ張られて、かなり楽曲そのものには惹かれてしまっている。一曲目「エイチャー」。なんと寿町でダブ。驚いた。高田漣(高田渡の息子)のスティール・ギター(殆ど聴こえなかったが)、ソウルフラワーの河村、ホーン4人、そして俺は初めての体験、ハシケンはエレキを持っている。ズブズブのダブが寿町に響く。かっこええ。ハシケン、やった!そしてエレキのカッティングが気持ち良い。続く「Shake me Shake you」、「存在しない」がバリバリのロック。ハシケン、どうしたんだ?客席、モッシュじゃないか!「窒息金魚」バラードでクール・ダウン。しかし、この曲名…。
そして驚きのラルク・アン・シェルのカバー。しかもレゲエ・ダブ・アレンジ。「この曲はこうやって歌ってこうやって演奏した方がメロディーと歌詞が生きるよ」というハシケンのメッセージか?これまた非常にかっこよい。ハシケンによるシニカルではない確信犯的カバー。おぉ、俺は反省しなくてはならない。ハシケンはとんでもないロック野郎だった。
ジャンベを抱えて「乳飲み干せ」。俺の大好きな曲。客とのコール&レスポンスで瞬間アフリカン・コーラスになる部分からハシケンが「繰り返す、繰り返す、いつまでもどこまでも」と叫ぶところがスリリングで大好き。ここでもそれは完全に実現。「稲スリ節」高速スカ・ヴァージョンに前の方でモッシュ。興奮の余りおっちゃんに激突、おっちゃん激怒というシーンが見られた。必死になだめるスタッフ。うーん、ハシケンでこんな展開になるとは思わなかった。最後は「ワイド節」大熊亘も加わって、ハード・ブルースな展開。こ、これはひょっとしてハシケン、ブレイクか!フォーク系的な捕らえ方をしていた人が多かっただろうが、今回のハシケンには驚かされました。アンコールに「凛」を弾き語りで歌う。うーん、過去最高のハシケンだった。

最後は南正人が出演するが、都合で帰らなくてはならないので、残念ながら家路へ。

年々、よそ者率が増えていって、雰囲気がますますアッパーになっていく。ただ、これは仕方無い。この流れを止める方法なんて出演メンツを地味にするしか無い。でもそんな簡単な事では無いのだ。参加するよそ者(俺もそうだが)が、何故寿町でフリー・コンサートが開催されるのか、もう一度思い出す必要がある。何故カンパをするのか?何故、ソウルフラワーは毎年出るのか?何故、寿町でやるのか?何故、寿町におっちゃんらがいるのか?

テレビで茨城県で開催されたロック・フェスの放送がやっていた。悲惨なほど客が少ないソウルフラワー。この大政翼賛会的発想の音楽イベントの主催者に俺は元々嫌悪感を持っていたが、自分たちのアリバイ作りの為だけに、いくつかの実直なアーティストたちを利用している光景に憎悪すら感じてしまった。しかし、こうしてキーボードを打ちながら、俺は寿町が各々のバンドのパフォーマンスだけでしか語れなくなっていく事に気付いていく。これは俺に取ってはかなりヤバい事で、俺の中で寿町も他のイベントと同じになってしまう事を指してしまう。うーん、俺は来年からも行くべきなのだろうか?あの空間で俺は何だったのだろうか?ひょっとしたら初めて参加したときから、俺はそうだったのかもしれぬ。フリコンが終わった今、自分がよそ者であったという当たり前の事実を痛烈に感じてしまっている。