『制作秘話』
〜MOGERAvsメカゴジラ〜
注:この話は時系列や人物設定が実際の作品とは異なります。アナザーストーリーとしてお楽しみください
1992年――筑波、国連G対策センター
執務室で、細身の初老の男――G対策センター瀬川長官は腕を組んで考えていた。机の上には2つの計画書が置かれている。国連はとどまるところを知らないゴジラの被害に対し、ここ筑波に国連G対策センターを設立。実戦部隊「Gフォース」の設立を急いでいたが、過去のデータから通常戦力ではゴジラを倒す事が出来ないことは明らかだった。そこで、1991年に未来人「エミー・カノウ」がゴジラと戦うために2204年の未来から現在にもたらした「メカキングギドラ」を沈没した海底から引き上げ、その技術を研究した「超・兵器」を作り出そうとしたのだ。
彼の目の前にある二つの書類こそ、G対センターの誇る技術者集団2チームがそれぞれ別のコンセプトに基づいて考え出した対ゴジラ兵器「メカゴジラ」と「MOGERA」の計画書だった。
「司令官はどう思う?」
瀬川は視線を机の上から、正面のソファーに座る人物に移した。大柄で幅のある巨躯をソファーに沈めているのはGフォース司令官の任を務める麻生だった。彼もまた責任者として、先程までこの部屋で2組の技術者双方から計画のプレゼンテーションを受けていた。
「はい。説明と書類だけでは如何とも言い難いですが…。実際に完成品を見てみて決めたいと言うのが私の正直なところです。」
麻生は自衛隊で叩き上げて来た男であり、現実的な意見を口にした。
「そうか…」
瀬川はそれを聞くと、身を乗り出させて机に肘を突く姿勢になった。これは彼が何か物事を考える時の癖である。
「――それならば、何とか二つの計画を同時に進行させる事は出来ないものか…」
考えを巡らせた瀬川はある方法を思い付いた――
数日後――首相官邸
「――長官の言いたい事は分かるが、常任理事国達が納得するかな…」
そう呟いたのは総理大臣の高畑だった。ここ首相官邸の一室で、瀬川は高畑と会談を行っていた。
「メガゴジラとMOGERA。この両方を建造するとなると、制作費は莫大だ。いかに国連と言えども限られた予算で動いているのだ。これ以上の支出はどの国もいい顔をしないだろう。」
「他の国がやろうとしないなら我々がやるんですよ!」
総理が思案顔で言うのを見て、瀬川は我が意を得たりと切り出した。
「我々G対策センターの試算では、日本が建造費の約7割を支出すれば他国の負担は分担金の枠内に収まります。これならば常任理事国も反対はしないでしょう。」
「しかし計画書を見る限り、7割と言っても非常に多額だ。増税や国債でまかなうと、野党や国民がうるさいぞ…。長官は私に総理を辞めろとでも言うのかね?」
高畑はジロリと瀬川を睨むように見る。しかし、瀬川は引かなかった。
「高畑さん……!」
瀬川は説得力を上げる効果を期待して、呼び方を「総理」から名前に変えた。瀬川は彼と知らぬ仲ではない。瀬川がG対策センター長官になる前、外務次官・国連大使を勤めていた頃の先輩・後輩なのだ。
「確かに短期的に見れば歳出増で、与党に対する逆風は避けられないでしょう。しかし、建造費の7割を出す代わりに、メカニックも我々から派遣すればどうなります?23世紀のテクノロジーを研究する事が出来ればそれは必ず我々に莫大な利益をもたらします。エネルギー、新素材、コンピューター…応用出来る分野は限りありません。幾度となくゴジラの被害に遭ってきた日本です…、これくらいの恩恵を受けても私は決して悪いとは思えません!」
一気にまくし立てると、瀬川は総理の顔色を伺った。明らかに先程より気持ちが揺らいでいる。
「(あとひと押しだ…)」
瀬川は心の中で一人語ちた。
「それに、MOGERAとメカゴジラでゴジラを倒すと事が出来れば、功績はG対策センターに留まらず、決断をされた総理まで称えられるでしょう。」
「……」
総理は口を真一文字に結んだまましばし考え込んだ。そして、ゆっくりと口を開いた。
「――必ず、ゴジラを倒せるのだな?」
それこそ瀬川が聞きたかった言葉だった。この台詞を引き出せれば、彼の答えは決まっていた。
「お任せください。その為のG対策センターとGフォースです……!」
メカゴジラとMOGERAの建造と、瀬川と総理の一連托生が決まった瞬間だった――
一年後――1993年、Gフォース筑波演習場
筑波山麓の広大な敷地はGフォースが戦闘訓練をするための演習場であり、自衛隊の富士演習場と同等の規模を持っている。そんな中に2機の巨大なロボットが向かい合っていた。一方は身長120m、全身を倒すべき敵の姿を模した重量感のある銀色の装甲に身を包んだ――メカゴジラであり、一方も身長100m以上、ブルーメタリックを基調としたデザインはメカゴジラより”ロボット”の意味合いを強く感じさせる――MOGERA(Mobile Operation Godzilla Expart Robot Aero−type=対ゴジラ戦闘ロボット高機動作戦型)だ。
瀬川長官は2機の姿を見て、麻生司令官とともに満足した表情で頷いた。
――メカゴジラコックピット
メカゴジラのパイロットはGフォースの隊員の中でも優秀な者から選ばれていた。リーダーは元陸上自衛隊の佐々木大尉、ガンナー(砲手)は元パイロットの曾根崎少尉、オペレーターは女性ながらアメリカ海兵隊の経験を持つリザ少尉。いずれも自分の能力にプライドを持ったエリートだ。
そんな中、明らかに軍人の雰囲気を持っていない妙齢の女性が一人いた。三枝美希、産まれついての超能力者であり、そのテレパシーはゴジラの動きを抑え込むほどの力を持つ。以前から自分の力にコンプレックスを持っていた彼女は、力を役立たせる方法としてゴジラと戦うことを選んだのだ。
「これがゴジラを倒す兵器…」
一面に見慣れぬ計器類を満載したコックピットを見回して、美希は呟いた。
「Operation System is completed,Sir.」
「Roger.」
リザの報告に佐々木は一言応えた。多国籍部隊であるGフォースでは隊内標準語として英語が使われている。メカゴジラでも命令・返答が全て英語で行われているのはその為だ。
(作者注:全てを英語で書くと大変なので、ここからは日本語で書きます(^^;)
「佐々木大尉…」
曾根崎は隣の佐々木に囁いた。
「彼女…、三枝さんとは何者なんです?いくらG対センターの重要スタッフと言っても、素人をメカゴジラに乗せるなんて…」
彼は怪訝そうな表情を浮かべていた。このメカゴジラに乗るために猛勉強と過酷なトレーニングに耐えてきた彼にとって、民間人の彼女と同列にされることはプライドが許さなかったのだ。
「彼女には超能力…テレパシーがあると言われている。いざゴジラと戦うことになった場合、彼女の不思議な力が役に立つかもしれないと…黒木特佐からのお墨付きだ。」
「黒木特佐が!?」
その名前を聞いて曾根崎は驚きを隠せなかった。黒木翔・自衛隊特佐、特殊戦略作戦室に所属する超エリートで曽根崎のような若手は誰も憧れる。Gフォース設立時も自衛隊は彼の人材を放さなかったのは隊内では語り種だ。
「彼は彼女の力を認めているんだよ。…さて、無駄話はこれくらいにして目の前に集中しろ、曾根崎少尉。戦いが始まれば否応無く事実が分かる。」
佐々木がレバーを入れると、メカゴジラは両目に黄色い光が点り、両腕を前に突き出すような形で戦闘体制を取った。
――MOGERAコックピット
MOGERAのパイロットを選んだのは麻生だった。それは、彼がどうしてもこのMOGERAに乗せたい人物が居たからだ。元航空自衛隊の戦闘機パイロット・結城大佐、その人である。結城はMOGERAのリーダー席に座って、麻生からMOGERAのパイロットを頼まれた時のことを思い出していた。
「本当に俺をMOGERAに乗せてくれるんですか?」
結城は麻生の言葉を半ば信じられなかった。自分自身、対ゴジラ兵器の切り札の一つであるMOGERAに乗れるなど夢にも思っていなかった。
「お前がGフォースに志願した理由を知る者の中には、お前だけは外した方が良いと言う人間も居たのだがね……」
麻生は苦笑して言った。結城の自衛隊時代の活躍は目覚しいものがあった。F−15戦闘機のパイロットとして右に出る者はいない、とまで言われた。しかし1989年、彼の親友であった権藤吾郎一佐が対ゴジラ作戦中に死んだことをきっかけに、結城の態度は変わった。対ゴジラ作戦のほとんどが自衛隊からGフォースに移されると知るやいなや、Gフォースへ志願。ゴジラを倒すため、と称して怪しげな薬品の研究まで始める始末でエリート揃いのGフォースの中ですっかり異端児、変人のレッテルを貼られていた。
「ならば麻生さん…、あんた相当頭を下げてきたんじゃないですか?誰よりも負けん気が強く、頭を下げることの嫌いな鬼軍曹だったあんたが…」
結城は自衛隊時代を思い出して言った。麻生の部下だった頃は彼から拳骨を食らうことは日常茶飯事だった。そんな麻生だったが今回、結城をパイロットに推薦するために最後まで反対した参謀達を最後まで説得したのだった。
「――MOGERAの全力を発揮するためにはお前の力が必要だったからだ。特にMOGERAの特徴である、分離合体機能の一つである戦闘機『スターファルコン』を乗りこなせるのはお前だけだ!!!」
その言葉に、結城はあの頃と変わらない麻生の熱い気持ちを感じた。立場が変わり、結城は麻生が変わってしまったと思っていたが性根だけは変わっていない、それが嬉しかった。
「……分かりました。俺にやらせてください。でも…いざゴジラと向き合ったら何を仕出かすか分かりませんよ!?」
「その時は俺も一緒にクビになるだけさ…」
二人は自嘲気味に言う。G対策センターのテラスの一角に苦笑し合う笑い声が響いた――
「(さてと…感傷に浸るのはこれくらいにしておくか…)」
結城は我に帰ると、正面のパネルに向き直った。
「新城!佐藤!準備はいいか!?」
コックピットに結城の濁声が響く。
「新城、準備良し!」
「佐藤、同じくOKです!」
新城と佐藤は同期の元自衛隊員で親友同士。新城は対戦車ヘリコプター、佐藤は戦車の操縦経験がある。
『ただいまよりメカゴジラ、MOGERAの性能試験を行う――』
スピーカーから場内に麻生司令官の声が広がる。メカゴジラvsMOGERA、最強の対ゴジラ兵器の座を賭けた戦いが始まろうとしていた。
MOGERA、メカゴジラの双方がレーザー核融合炉のエンジン音を響かせ始める。メカゴジラは甲高い金属音の鳴き声を上げ、MOGERAは嘴のように突き出たドリルを回転させる、それがお互いの準備完了の合図だ。
「ホバーアタック開始!」
「ラジャー!」
メカゴジラのコックピットでは佐々木大尉が素早く命令を出していた。リザ少尉が手元のレバーの出力を上げていくと、メカゴジラの背中と大腿部に計4基内蔵されたロケットブースターが火を噴き、15万トンという超重量の機体をゆっくりと上昇させる。
「メガバスター発射!」
「ラジャー、ターゲットロックオン!」
佐々木の命令を復唱した曾根崎少尉はホログラムディスプレイに示されたターゲットサイトを正面のMOGERAに合わせるとトリガーを引く。
「メガバスター発射!」
ジャキン……!
メカゴジラの口が開くと、そこから極彩色の光線砲が迸る!!!
「佐藤!キャタピラー走行開始だ!攻撃が来るぞ!!」
「了解!キャタピラーシステム…ON!」
後方のリーダー席から結城の檄が飛ぶ。佐藤が手元のボタンを押し、アクセルを踏み込むとMOGERAの足元から濛々と土煙が上がり始める。高速回転するキャタピラーが地面を捉えると、MOGERAはその巨体からは信じられない速さで加速を始めた。猛スピードで横滑りするMOGERAの軌跡をメカゴジラの放ったメガバスターが追うようになぞっていく。
「このまま背後を取るぞ!プラズマレーザー発射!」
「プラズマレーザー発射!」
今度は砲手席の新城の番だった。MOGERAはキャタピラーシステムの特性で、常に相手を正面に見ながら動き回る事が出来る。目の部分からバルカン状のレーザー弾が次々と発射され、メカゴジラを死角から狙撃する――が、
「弾かれた!?」
新城が驚きの声を上げた。それは狙いを付けた彼にしてみたら信じられない事だったのだろう。確実にメカゴジラに当たっていたはずのプラズマレーザーは、メカゴジラの銀色に鈍く輝く装甲に直撃してもあらぬ方向に弾かれてしまうのだ。
「ならばこいつはどうだ…?メーサーキャノン用意!」
結城もまた驚きのながらも、どこか楽しむような表情を浮かべながら言った。
「MOGERAの機動性能はメカゴジラを凌駕するレベルです…!」
「怯むなリザ少尉。回り込まれるぞ!レフトターン、eally!」
メカゴジラはホバリングしながら旋回し、MOGERAの方に向き直っていく。
「(その程度の攻撃じゃ、メカゴジラを倒す事はおろか傷付ける事も出来ませんよ。結城大佐…!)」
佐々木は心の中で思うとニヤリと笑った。
機動性能で勝るMOGERAはメカゴジラが旋回を始めた時には既にその背後に回っていた。そして、胸部の装甲が反転するように開くと、そこからメーサー戦車に取り付けられているようなパラボラ砲が現れる。
「今だ新城!メーサーキャノン発射!!!」
「メーサーキャノン、ファイア!!!」
メカゴジラがMOGERAの方に体を向けた瞬間、新城は操作スティックに付いているボタンを押す。砲のパラボラ部分が光り輝くと、その光はアンテナの先端に収束し、一条の渦となってメカゴジラに向かっていく。
「――!!?」
未希は思わず声にならない悲鳴を上げた。その瞬間、メカゴジラのコックピットのモニターは白い光で埋め尽くされた。未希は目をつぶり耳を塞いでしまっていた。1989年、初めてゴジラという存在と関わった時から、彼女は今まで戦いの外にいた。その進攻を阻止する為に単身ゴジラと対峙した時、あれはある意味『戦い』と言えたものだったかもしれない。しかし彼女は自分のテレパシーをゴジラの心の中に送り込んだだけで、力の使い過ぎで気を失うまで恐怖も苦痛も感じなかった。今は違う。矢継ぎ早に繰り出されるGフォースの『軍人』達の命令と復唱、コックピットまで伝わってくる振動と衝撃は……恐い。
「(これが戦いなの!?力と力同士がぶつかる戦いなの!!?)」
未希は心の中で叫び続けていた。
だが、佐々木や曾根崎達はMOGERAのメーサーキャノンを受けても冷静でいられた。その自信が示す通り、メーサーキャノンの閃光でさえメカゴジラの装甲の前には無力だったのだ。メーサーの直撃した部分はその余波で青く輝き、その光はメカゴジラの体内に吸収されるようにして消えてしまった。
「それでいい…、もっと撃ってくるんだ。メカゴジラの真の恐ろしさを教えてやる。」
佐々木がコントロールパネルに目を落とすと、先程まで何も表示されていなかったメーターが40%を示すところまで上昇しているのが見て取れた。
「何なんだ、あの装甲は!?」
「メーサーキャノンまで弾くとは…化け物か!?メカゴジラは!」
新城も佐藤も、驚きを通り越して驚愕していた。MOGERAのメーサーキャノンは92式メーサー戦車などの物と比べても数倍の威力を持っている、メーサーとしては最強クラスのものだ。
「アナライズスキャン…!」
結城がパネルを操作すると、モニターにメカゴジラの装甲の一部を拡大・分析したデータが現れてくる。
「畜生、奴等とんでもないもので武装していやがる!」
それを見て、結城は悪態を吐いた。
「どうしたんですか!結城さん!?」
佐藤が聞いた。
「二人ともこれを見ろ…、人工ダイヤモンドコ−ティングだ!!!」
「人工ダイヤモンド…ではスーパーX2のと同じ!?」
新城が思い出すように言った。
「そうだ。あの反省から1万倍にしてはね返すなんて無茶な機能は持っていないようだが、光線・熱線系統のあらゆる攻撃をはね返すことが出来る。…やっかいだな。」
結城は舌打ちした。結城の言う通り、これがメカゴジラとMOGERAの開発コンセプトの違いだった。メカゴジラは言わば「移動要塞」、鉄壁の防御と圧倒的な火力を誇り、ゴジラを圧倒する目的で作られている。対してMOGERAはその略称の示す通り防御力より機動性、火力よりも柔軟性を重視して設計されている。その為、MOGERAには重量の増加を招く人工ダイヤモンドコーティングは採用されなかったのだ。
「このまま攻撃を続けていてもこちらには分が悪い。とっておきを使うぞ!セパレートシステム用意!」
「「了解!!!」」
新城と佐藤は声を揃えて応えた。するとMOGERAは足の裏に内臓されたロケットを噴射し、大空高く舞い上がる。
「見てください!MOGERAが急上昇を開始!メガバスター、レーザーキャノンの攻撃範囲外まで退避します!」
「勝負を懸ける気だな…結城大佐…」
曽根崎の言う通り、空を飛ぶMOGERAはメカゴジラの使える武器が届かないところまで移動してしまっている。それを聞いて佐々木は表情を引き締めた。
「俺はスターファルコンに移る。新城、佐藤そっちのことは頼んだぞ!」
MOGERAが空中に静止した後、結城がそう言い残すと座席がエレベーターのように下にスライドしていく。
ジャキン…!!!
MOGERAはちょうど上半身と下半身の境目から二つに分かれた。すると下半身はサイドから翼を伸ばし、コックピット部分を鳥の嘴のように迫り出させると高性能戦闘機『スターファルコン』と化した。上半身は頭部が胴体内に格納されると、胸部の装甲が反転し今度は巨大なドリルが飛び出す。腕をドリルが水平になり、背中が割れてキャタピラーになると変形完了、地底戦車『ランドモゲラー』だ。スターファルコンはそのまま空高く飛翔し、ランドモゲラーは地面に降りた。
「よし佐藤、潜行開始だ!」
「了解!」
コックピットでは二人が息の合ったところを見せていた。ランドモゲラーはドリルを回転させ、土埃を上げながら地中に潜っていく。
「高速走行が出来るばかりではなく、分離変形機能も持っていたのか!?」
佐々木は驚きを隠せなかった。
「大尉!レーダーにジャミング!地中の目標を捕捉できません!!!」
「何ぃ…こしゃくな真似を…」
リザ少尉の報告を受けて唇を噛む佐々木。ランドモゲラーは地中に潜っている間、敵に位置を悟られないようにレーダーを無効化する機能を持っているのだ。
「上空から戦闘機接近!メガバスター発射!」
混乱するコックピットの中、曾根崎はスターファルコンに向けて極彩色の光線砲を発射する――
「そんなノロマな攻撃が当たると思うか!?」
大空を舞うスターファルコンは元パイロットの結城の独壇場だった。メガバスターをかすりもさせずメカゴジラの頭上に接近すると、顔面に向けてビームバルカンを撃ち込んでいく。攻撃を受けてメカゴジラのコックピットにも火花が散った。メカゴジラもレーザーキャノンで応戦するが、スターファルコンのスピードには追い付けない。
そして、突然メカゴジラの背後の地面が盛り上がったかと思うと、土埃の中からランドモゲラーが姿を現す。ランドモゲラーは両腕からビームを放ちながらメカゴジラに接近し、すれ違い様にドリルでメカゴジラの脚を傷付ける。
「背後よりランドモゲラー!右脚部破損!!!」
リザが叫んだ。スターファルコンのスピードに加えて神出鬼没のランドモゲラーにメカゴジラは完全に翻弄されていた。ここに来て、対ゴジラに絞った機能が逆に仇となっていたのだ。メカゴジラの機動力ではMOGERAを捉え切れず、パラライズ(=麻痺)ミサイル・トランキライズ(=麻酔)ミサイルなどの対生物兵器はMOGERAに対して意味はなかった。攻撃を終えると再びスターファルコンは大空に、ランドモゲラーは地中に姿を消す。
「…出来ればあいつの助けは借りたくなかったのだが…」
佐々木は吐き捨てるように言った。
「あいつ…とは誰ですか?」
曾根崎が不思議そうな表情で聞く。
「”恐竜坊や”だ…。青木!出番だぞ!!!」
『了解、待ってましたよ!』
佐々木が名前を呼ぶと、無線にどこか軽薄な響きを持つ男の声が聞こえてきた――
「どうだ!デカブツめ!兵器は硬くて強けりゃいいってもんじゃないんだよ!」
結城は軽快にスターファルコンを操っていたがその時、レーダーに高速で接近してくる飛行物体を発見した。
「割り込んでくるのはどこのどいつだ!?」
そのスピードはスターファルコンに匹敵するものだ。次の瞬間、スターファルコンにニアミスする程の近くを純白の戦闘機が過ぎ去った。
『青木!スターファルコンの方は頼んだぞ!』
「了解!!!」
青木と呼ばれた男の名は青木一馬。リザや曽根崎のように各国の軍から選ばれた軍人ではない。彼はこの純白の戦闘機『ガルーダ』の開発責任者であり、「ガルーダは僕じゃなきゃダメなんです!」と言った挙句パイロットに収まってしまった。趣味は「恐竜」、好きなものは「プテラノドン」というかわりもので、呆れ果てた佐々木は彼のことを「恐竜坊や」と呼ぶのだ。
ガルーダは機体を翻すと、スターファルコンを追って大口径のビームキャノンを放つ!
「こちらはあのモグラ野郎に集中するぞ!」
メカゴジラは小刻みに機体の方向を変えながら、ランドモゲラーを探そうとした。しかしレーダーに捉えられないその姿は時折地上に姿を見せてはビームとドリルでメカゴジラを傷つけ、地中に姿を消してしまう。
「ちくしょう!どうすればいいんだ!?」
曾根崎は苛立たしげにパネルに拳を打ち付けた。狙いを付けることが出来ず、攻撃が当たらないと言うことはシューター(砲手)の彼にとってプライドを傷付けられることだ。
「三枝さん…」
その時、佐々木が初めて未希に声をかけて来た。
「あなたのテレパシーで地中のランドモゲラーの位置を探ることは出来ないか?このままでは我々はどうすることも出来ない。もしあなたにそんな力があるのなら…貸して欲しい。恥をしのんで頼む…」
佐々木は、背後の補助要員席に座る未希に向かって深々と頭を下げた。
「……それは…この戦いに勝つ為ですか?」
「……いや、このメカゴジラを造った人達を信じているから…その努力に報いる為だ!」
「分かりました……」
未希は佐々木の言葉を聞くと目を閉じて精神集中を始めた。おぼろげに、目に見えない物の姿が頭の中に感じられるようになる――
「左です!!!」
未希の叫ぶような声がコックピットの沈黙を切り裂いた。
「リザ少尉、レフトターン!!!」
「ラジャー!!!」
「メガバスター発射!!!」
メカゴジラが振り向いた次の瞬間、手前の地面からランドモゲラーが地中から現れた。それを狙い済ましてメカゴジラから放たれるメガバスター!
「何ぃ!?」
新城が叫んだ時には既に遅かった。
「佐藤!急速潜行!!!」
「ダメだ!止められない!」
コックピットのウィンドウが極彩色の光で塗り潰される。光線と特殊合金が火花を散らし、ランドモゲラーは炎の中で横転してしまった。
「結城さん!こちら新城!ランドモゲラー、被弾しました!」
『バカヤロー!!!何やっていやがる!?こちらもしつこい奴に追い回されている。一旦合体して体勢を立て直すぞ!」
「了解!」
「ランディングモード、進路オールクリアー!」
佐藤がアクセルを吹かしてランドモゲラーが宙に飛び上がると、それを待っていたスターファルコンと空中で再び合体する。
「当たった…本当に…」
曾根崎は信じられないと言った表情で呟いた。
「ありがとう…、三枝さん。」
佐々木がそう言うと、未希は微笑んで頷いた。
「あちらもまた合体したようだな…。青木!スーパーメカゴジラフォーメーション、スタンバイ!」
『了解!』
今度はメカゴジラの背後にガルーダが近付いてきた。ガルーダはそのまま直立すると、メカゴジラの背鰭に合わせるように合体し、肩越しにビームキャノンが前を向く。
『スーパーメカゴジラ合体完了!』
合体が完了すると、結城がリーダー席に戻ってきた。
「すいません、結城さん…」
「やっちまったことはもういい。今はどうやってあのデカブツを倒すか、だ…!」
結城は少し考え込むようにして間を置いた。
「――ありったけのビーム・レーザーを試してみたが、効いた様子はない。ん?あの脚の傷はお前達が付けたのか?」
結城はメカゴジラの負った右脚の破損に気が付いた。
「ハイ、ランドモゲラーのドリルで…」
「いいぞ…!」
結城はニヤリと笑った。
「いくらビームが効かなくても、直接ぶっ叩けばヤツも壊れるってことだ。新城、佐藤!プラズマレーザー、メーサーキャノンで牽制しながら、スパイラルグレネードミサイルを発射!そして、隙を見てキャタピラー走行で相手に一気に近付き、ドリルアタックで串刺しする。出来るな?お前らの腕を見せてみろ!」
「さすが結城さん!」
「任せてください!」
新城と佐藤は自信を持って答えた。
MOGERAからメカゴジラに向かい、次々と攻撃が飛んでくる。しかしその度にメカゴジラのコックピット内にあるメーターが上がっていき、遂には100%の位置に達した――
「よし、もう逃がさないぞ…!ショックアンカー発射!」
「ラジャー!」
曾根崎は狙いを定め、レバーのスイッチを押す。すると前に突き出した両腕から錨(アンカー)型の先端が付いた超鋼ワイヤーがMOGERA目掛けて飛んでいき、その腕に絡み付く!メカゴジラはガルーダと合体して以前よりパワーを得たことで、そのままMOGERAを振り回す。
「しまった!新城急げ!スパイラルグレネードミサイル発射!」
「了解!」
新城がトリガーを引いた。不安定な体勢からMOGERAの両手が開き、中から先端にドリルの付いた大型ミサイルが飛び出した。
「ミサイル接近!!!回避します!」
リザ少尉が懸命に機体を操作するが、アンカーでMOGERAの機動力を抑え込んでいることはメカゴジラにとっても回避できる動きを制限してしまうことになった。一発のミサイルはメカゴジラの脇を通り過ぎたが、一発は健闘虚しく肩に命中する。
「左肩にミサイル被弾!ダメージレベル8!!!」
コックピットの中にも火花が散った。爆風の中飛び散る金属片。ダメージレベル8ではもはやこの場で復旧することは不可能。それと同時MOGERAを抑えていた腕のアンカーの力も弱まる――
「よし、佐藤!キャタピラーシステム、最高出力!!!」
「キャタピラーシステム、ON!」
佐藤はアクセルが床に付くほど踏み込むと、加速したMOGERAは瞬く間にメカゴジラとの距離を縮めていく。同時に回転を始めた嘴状のドリルが唸りを上げる。MOGERAとメカゴジラは勢い余って激突し、互いの装甲から火花を上げる。その密着した状態からMOGERAはメカゴジラにドリルを突き刺す。悲鳴のような嫌な音とともに、ドリルの先端がメカゴジラの装甲に沈んでいく!
「出力全開!振り切れ!!」
「ダメです!胸部装甲破損、パワーがダウンしています!」
コックピットのあちこちから警告信号が鳴る。リザ少尉の決死の操作も、完全に懐に入られたMOGERAを振り払うには至らない。その時、佐々木は忘れかけていた例のメーターのことを気が付いた。
「曾根崎少尉!プラズマグレネイド発射用意!」
「しかし…こんな近距離では機体に対する負担が大きすぎます!!!」
「いいからやるんだ!責任は俺が取る!!!」
「分かりました…!」
曾根崎は今まで触れたことのなかったボタンの位置を確認すると、そこに掛かっていた透明のカバーを跳ね上げる。
「Firing,プラズマグレネイド!!!」
意を決した曾根崎は歯を食いしばってそのボタンを押す。メカゴジラの腹部の装甲に二重三重に守られていた大口径の砲門が開き、そこの黄金の輝きが灯る。
これがメカゴジラの切り札『プラズマグレネイド』。人工ダイヤモンドコーティングはただ相手の攻撃をはね返すだけではなく、そのエネルギーを吸収する役目も果たしていた。その吸収したエネルギーを体内で高温のプラズマに転換し、打ち出すのが『プラズマグレネイド』だ。そのあまりの威力の為、使う為には時間が掛かる。佐々木はこの時を待っていた。
次の瞬間、メカゴジラとMOGERAの間に眩いばかりの黄金の閃光が発生し、2機を包んでいく……
「「「ぐあああぁぁぁっ!!!」」」
MOGERAのコックピットでは3人の悲鳴が響いた。
光の中から弾き飛ばされてきたのはMOGERAだった。プラズマグレネイドのの直撃を受けた部分の装甲は融解し、地面に叩き付けられると関節のあちこちがスパークして悲鳴を上げた。地面に横たわるMOGERAは時折痙攣するように動くだけで、もはや起き上がることは出来なかった。
「エンジンルーム、オーバーヒート。核融合炉緊急停止しました…」
リザが疲れ切った表情で言って汗を拭った。仁王立ちしているメカゴジラも満身創痍だった。体のあちこちから白い煙が上がり、MOGERAのドリルで突き刺された部分からは火花が散っている。
「終ったんですか…?」
最後の激突を直視出来なかった未希はゆっくりと目を開いた。
「終りましたよ…あなたのおかげです。」
シートベルトを外しながら佐々木が言った。
「あなたは凄い人だ…」
最初は未希に良い感情を持っていなかった曾根崎も脱帽するように頭を下げる。
「Goog job,Miki!」
リザもウィンクした。
「そんな…私の力なんて…皆さんが強いんです。」
未希は謙遜して言った。
「(でも…このメカゴジラは本当にゴジラを倒すことが出来るかもしれない…!)」
その圧倒的な力を感じ、未希は複雑な気持ちになった――
「大丈夫か?新城?佐藤?」
「ええ、なんとか…」
「痛たたたた…」
シートベルトと、機体からコックピットを浮かしているサスペンションのおかげで幸運にも3人はカスリ傷一つ無かった。
「…麻生さん、スンマセン。やはり無理しちまいましたよ…」
結城は無線を取ると、この戦いを見ているはずの麻生に向けて言った。
『そんなことはお前に任せた時から覚悟していたよ。凄い爆発だった、皆は無事か?』
「ええ、何とか…」
結城も頭を押えながら言った。
『それは良かった。今救助チームがそちらに向かっている、そのままもう少しガマンしてくれ…』
「了解…」
結城は無線を切った。そして、込み上げてきたやり場の無い想いをぶつける様に無線機をパネルに叩き付けた。
「(吾郎…お前の仇を取るのはもう少し先になっちまったな…)」
そう心の中で一人語ちた。
演習場のスタンドの中で、戦いの光景をずっと見詰めていた男がいた。自衛隊の制服と制帽、彼一人に与えられた『特佐』の襟章を持つこの男こそ特殊戦略作戦室・黒木翔。彼は戦いを見届けると出口へ向けて踵を返そうとした。
「黒木特佐、麻生司令官に挨拶されないでもいいんですか?」
そんな彼に部下の一人が声をかけてきた。彼もまた若さに似合わぬ、高い階級の襟章を付けている。
「挨拶は統幕議長に任せれば大丈夫だろう、私は一足先に市ヶ谷へ戻る。」
「ハッ、了解しました!」
敬礼する部下に見送られ、黒木特佐は戦いの余韻収まらぬスタンドを離れ、一人廊下を歩いていた。
「(メカゴジラ、MOGERA、どちらも超兵器の名に違わぬ性能を持った兵器だ。だが私は力だけでゴジラを倒せるとは思えない…!)」
黒木は思った。彼は数年前、自衛隊全部隊を指揮しゴジラに挑んだ。にも関わらず彼は切り札であったスーパーX2、そして尊敬する上司であった権藤を失い、ゴジラの途方も無い力を、そして自分の未熟さ、浅はかさを痛感していた。その後の自衛隊人生は彼をカリスマ的指揮官に変貌させた。
「(ゴジラは俺達が倒す…!必要なのは力以外の”力”なんだ…!!!)」
その後今回の性能試験を踏まえて、対ゴジラ性能の充実が決め手となってメカゴジラが正式導入第1号となった。そして翌年、メカゴジラがゴジラと交戦。MOGERAもまた修復・改良を終え、ゴジラと相対することとなるのだった――
終