『みんなのクリスマス』

この家に引っ越してきて、もう一年が経った。個人商店がならび、一軒家がそこそこに目立つ、どことなくこじんまりした街。都内に住みながらも都会嫌いな僕には、合っているのかもしれない。

ちょうど去年の今頃、深夜だったと思う。残業を終え、家に帰る途中、我が家に程近いところにある家の出窓のところから、何やらチカチカと点滅する光がもれているのが目に入った。それは、出窓に飾られたクリスマスツリーだった。

僕が驚いたのは、部屋にはカーテンがかけられていて、そのツリーが部屋の中に向けられた飾りではなかったということだった。しかも、その家の電気はすべて消えていた。明らかに、自分の家で楽しむためだけに飾られたものではなく、外にも向けられたイルミネーションだった。

今まで、こういう風景を見たことはなかった。イルミネーションといえば、せいぜい繁華街やデパートといったところくらいしかイメージすることができなかった。あとは、家の中で、家族や恋人で楽しむためのもの。それが、深夜の仕事帰り、キラキラと輝いているの光景を見つけたことに、ちょっと感動したりした。

そして、一年が過ぎた。今年はどうなんだろうと思っていたら、去年飾っていた家だけでなく、3軒の家が外に飾っている。そのことを身近な人に話ししてみたら、「最近の流行なんだよ」と言われたが、こういう流行なら、僕も大歓迎である。

やっぱり、クリスマスっていうものは、みんなのものなんだと思う。恋人だけのものでもなく、家庭持ちの人だけのものでもなく、一人であろうがなかろうが、みんなが特別な気持ちで迎えられる、素敵なイベントなんだろうと思う。あの家庭の人たちが、どういう気持ちで外に向けて飾りつけをしているかはわからないが、それが「みんなにも素敵なクリスマスがやってきますように」などという、気の効いたものであるとすれば、なおさら嬉しくなってしまう。

クリスマスという日に、思い出したくもない思い出がある人もいるかもしれない。そして僕のように、クリスマスに素敵な思い出がある人もいるであろう。でもクリスマスは、大人も子供も、男も女も、全ての人にとって、特別な感情をもって迎えられる一日であって欲しいと思う。日本の暦を考えても、老若男女を問わず、みんながお祝いできる数少ない一日なのだ。

恋人がいる人は、そのお相手と素敵な時間を共有すればいい。家庭がある人は、家族に対して、ちょっと特別な愛情を捧げてあげればいい。一人きりの人も、自分をねぎらい、そして、心の中で思いを寄せている人がいれば、その人への気持ちが伝わるように願いを込めればいい。そんな、普段とはちがった感情でこの一日が迎えられれば、こんなに素敵なこともないであろう。

そんな特別な一日。僕は、今年もワインとケーキとXTCで過ごしたい。きっと、そういうお茶目さが許される、数少ない日なんだろうと思う。



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