『目覚まし時計』

朝、起きるのが辛い季節になってきた。寒い季節、温かい布団から出ることができず、そのまま寝坊してしまうのが普通なのであろうが、僕の場合、普通の人とは逆。冬に比べて、夏の方が寝坊する比率が高い。寒いのが嫌いな僕にとって、暖かい季節の訪れは、活動的になれる反面、寝坊との戦いが始まることを意味している。

そんな状況の中、厄介なことに目覚まし時計が壊れて困っている。とは言っても、まだ2つはまともに動いている。今まで5つあったうち、3つが動かなくなったのだ。長年の習性とは怖いもので、2つの時計が鳴っても、アッという間に止めてしまっている。しかも、止めても5分おきに鳴る時計が壊れたものだから、止めた後、もう一度、眠りに入ってしまっているのである。

買えばいいだけのことなのだが、なかなかそれができない。ここにある目覚まし時計、一つを除けば、全て貰い物だからである。しかも、今までの人生の節目となるような時にもらっている物ばかり。どの時計にも、それなりの思い入れがある。そういうものが手放せない性格なのである。

その中で、19歳の時、付き合っていた彼女にもらった時計には、一番思い出がつまっている。確か、引っ越し祝いとかいうことで、もらったように記憶している。実家から持ってきた目覚まし時計の調子が悪かったか何かで、僕が文句を言っていたのを聞いて、プレゼントしてくれたものだったと思う。

この頃、実家からスクーターで30分くらいのところにある大学に通っていた僕は、周りの友達の影響を受けて、独り暮らしを始めたいと思うようになった。父は賛成してくれたものの、母はなかなか認めてくれなかった。環境や経済面を考えれば、母の反対は当然のものだと思ったが、自分の甘えている環境を変えるためにも、どうしても譲ることができなかった。最初に話してから、一週間ほど説得を続けただろうか、「一年だけ」という条件つきで、実家を出ることが叶った。

決して、彼女がいたから独り暮らしを始めた訳ではなかったが、こういう環境になると、彼女も遊びにくる。彼女は既に働いていたので、月に一度か二度くらいしか遊びに来れなかったものの、それなりに楽しい日々を過ごした。結局、「一年だけ」の契約を守り、僕は実家へと戻っていったのだが、実家に戻る前日に、彼女が家にやってきて、大泣きしていたことを、今でもはっきり覚えている。

その後、半年ほどして彼女とは別れてしまったが、僕が東京に来る少し前に、再会することとなった。別れから一年半近く経っていたのだが、就職して、どこか他の地方に飛ばされる前に、一度会っておきたいと思い、僕から声を掛けたのだ。そんな再会の時、彼女から結婚することを告げられた。その時、素直に「おめでとう」と言えなかったことが、今でも悔いに残っている。

今、彼女にもう一度会ってみたいと思う。彼女に対して、今さら未練がある訳でもない。きっと、子供もいるであろう彼女が、どんな「お母さん」になっているのか、見てみたいのである。今なら、きっと湿っぽい雰囲気にならず、お互い笑って、昔を懐かしみながら話しができると思う。

もし、出会ったとしたら、彼女にとって、今の僕はどんな風に映るのだろうか。



〜TUBUYAKI TITLEページへ〜