『自転車に乗って』

ウチの会社では、週に一度、部署単位で洗濯当番が廻ってくる。洗濯といっても、トイレや台所で使うタオルをコインランドリーへと洗濯に行く係。ちょうど今週はわが部署が当番だった。いつもは、そのコインランドリーの近くにクライアントを持っている人が、そこに行くついでに寄ってくれるのだが、その日はそこへ行く予定が無さそうであったことと、いつもいつも行ってもらうのも悪い気がしていたこともあって、僕が行くことにした。

しかし、このコインランドリー作業が面倒くさい。仕事中にそんなところに一時間もビッタリついている訳にもいかないのだ。自転車で5分くらいのところにあることが、逆に恨めしくなってくる。行って洗濯物を放り込んで、5分かけて戻ってきて、また30分くらいしたら乾燥機に入れに行く。次に乾燥機から取り出して、ようやく終了。都合、三往復するという訳だ。

運良くその日は最高の天気。このところの週末のうっとうしい天気を忘れさせてくれるくらいの快晴だった。こんな洗濯をするくらいなら、わが家の洗濯をしたいと思えるくらい心地よい日差し。僕は会社の自転車に乗って、コインランドリーへと向かった。しかし、スーツ着て、自転車乗って、大きなカバン持って、行く先はコインランドリー。人とすれ違ううちはよかったのだが、いざコインランドリーに入って、人と出くわした時はちょっと恥ずかしかった。まぁ、それも洗濯曹のシャワー洗浄が終わる頃まで。開き直ってしまえば、なんてことはない。二往復目あたりから、かなりペダルを踏む足にも力が入る。ますます、風が心地よく感じられるようになる。気分はすっかりツール・ド・フランス。このまま、何処かへ行ってしまいたい気分になった。

その時、ふと思いついたのが、自転車での冒険。休みの日にカメラだけぶらさげて、見知らぬ街を回ってみようという発想である。かつての家の近くには大きな公園があって、春になると撮影に出かけたものであったが、今の環境ではそれもできない。それどころか、今の家の近くに何があるのかすらわかっていない状況である。となれば、勘に任せた自転車ツアーも悪くはないように思えたのである。どうやら、去年の夏の一人旅以来、僕には放浪癖がついたようである。

とはいえ、わが家の自転車は無残にも放ったらかしの状態。寒いのが苦手な僕は、冬場は絶対に自転車に乗らない。そして、今年に入ってもまだ乗っていない状態であった。冬の間、放置同然の状態で置かれていた自転車は、案の定ドロドロになっていた。雨に打たれたりしながら冬場を耐えた自転車。僕はお詫びの気持ち目一杯込めて、自転車を掃除してやった。しかし、きれいにはなったものの、タイヤの空気はすっかりなくなっている。何でも、「モノ」は、放っておくとロクなことにならないことを思い知らされた。

そんなことをしている間に、いつの間にか5月になろうとしている。そして、また憂鬱な梅雨の季節がやってくる。春の時間もそれほど長くは残されていない。



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