『再考〜愛の玉手箱』

XTCのニューアルバム『APPLE VENUS VOL.1』発売から二ヵ月。チャートでも頑張ってた。オリコンなんかの、いわゆるメジャーどころのランキングは知らないが、都内大手レコード店でのセールスを集計したものによると、初登場3位。二週目7位。へ〜、そんなにXTCファンっていたんだ、と関心する。

いくつかのレコード店でも、特集コーナー組んだり、フリーマガジンなんかに載せたりと、結構気合いが入っていた。しかし、友人に教えてもらって見に行った店の特集コーナーには失望。書いている文章が酷すぎた。使っている言い回しとを見るかぎり、本人は解説(ライナーノーツ)のつもりで書いているのだろうけど、あれでは単なる個人的な感想文。そんな調子で、ご丁寧にファーストアルバムから関連づけなんかをしつつ解説しているのだが、おかしな内容が目につく。

視聴のできない古いアルバムを買う人って、そういう「おすすめ文」とか見て買うこともあるんだから、もうちょっと勉強してから、そういう語気の強い文章を書いて欲しい。もちろん音楽なんだから、聴いた人によって受けるイメージが違うのは認めるが、セールスとか、店の売り上げとかにつながる文章を書くにあたって、もうちょっと謙虚にやって欲しかった。「という感じです」とか、「と思います」とか、ね。それなら許しただろうが、あの「どうだ!」と言わんばかりに誇示された文書には、ちょっと参った。

あちこちの雑誌でも特集が組まれる。インタビューあり、コメントあり。おまけに、来日してのイベントまであった。ファンとしては嬉しい限りではある。しかし、内容を見たり聞いたりしてみると、必ずライブについての質問が投げかけられている。「やらないんですか?」とか、「今度はライブで!」というようなもの。どうしてみんな彼らがもう一度ステージに立つことを望むの?正式なライブとしては、20年近くステージに立っていないというのに、今さら何を望むの?僕には、どうしても解せない。

彼らがライブ活動を辞めてから後、『ORANGES & LEMONS』の時に、アメリカで「アンプラグド」のはしりとなるようなステージを披露したのは確かだ。しかし、この20年近く彼らが積み重ねてきた、アルバムに対するエネルギーというのは、もはやステージ上では昇華しないような気がする。だから、ライブ音源全集のような「TRANSISTOR BLAST」は、一種のケジメ。ライブに関しては、僕はあれ以上望むものはない。

『APPLE VENUS VOL.1』を聴いてしまったら、もう昔の曲とかをやるステージを見たいとは思わない。それはそれとして、歴史というか、彼らのキャリアの一部分として、大切にしまっておいたほうがいいような気がするのである。こんな極上のアルバムが生み出されたのは、彼ら(正確にはAndyただ一人)がステージを放棄したお陰なのだから。もし、次回発売される『VOL.2』があまりにもライブの香りがするものであれば、『VOL.2』の曲だけでライブをやって欲しいと、わがままの一つでも言ってみようかと思うのだが、今回の作品を聴く限りにおいて、ライブをやるエネルギーがあるのだったら、これからも同じスタンスで素晴しい曲を聴かせてくれることを願うのである。

彼らが出演したラジオで、Andyがこんなことを言っていた。
「このアルバムは、今までの作品の中で、最高の出来かもしれないね。」
通訳通しのため、若干言葉のニュアンスに違いがあるのかもしれないが、あくまで「かも」なのである。そんなところが、これまたカッコイイ。とはいえ、これだけ力強いコメントを聞けるのも、初めてのことだ。

他に出てくるコメントも皮肉タップリ。
「レコード会社をつくったからって、航空会社をやろうとは思わない。」
きっと、デビューから20年近く所属してきたヴァージンレコードを意識したコメントだろう。う〜ん、これぞAndy節。年月が流れても、そのキレは落ちていない。しかし、皮肉の一つでも言いたくなるくらい、この20年、そしてこのアルバムを生み出すまでに苦労してきたのである。(Andyのわがままがあったのも事実であろうが・・・。)その結果、自らのレーベル『アイデア・レコード』を設立。このキャリアにして、ようやく自分達の音楽性を断固として守るための策に出たのである。何ともいたいけなお話しではないか・・・。

オーケストラを使った壮大なスケール。時折見られる内省的な歌詞。そして、この作品に対する自信と誇り。そういった様々な要素を考えてみても、この作品は見事なまでに彼らの思惑通りに完成されているように感じる。こうして一つの結末を迎えて、また新たなる挑戦がはじまる。「同じようなアルバムは作らない」のだ。XTCの歴史は続いていく。「野心的」な作品を世に送り出すために、一切の妥協をすることなく・・・。

「ラブリー」
『APPLE VENUS VOL.1』ついて、Andyが使った表現である。まさしく、僕が初めて聴いた時に覚えた心境。そして、今でもその心境に変わりはない。これぞ、「愛の玉手箱」だと思う。溢れんばかりの"愛"が詰まった『APPLE VENUS VOL.1』。このアルバムができるだけ多くの人の心に届くことを願っている。



〜TUBUYAKI TITLEページへ〜