『京都にて』

〜'98.12.28〜

約1年ぶりの帰省。しかし、どういう訳か、久しぶりという実感が湧いてこない。 すっかり様変わりしてしまった風景だってあるというのに、不思議だ。

僕の実家は、新幹線を降りて、在来線で一つ東京側へ戻ったところが最寄り駅となっている。京都駅からの乗車時間は約5分ほど。新幹線を利用する僕にとって、この上ない環境だ。京都駅を出てすぐにトンネルを抜けると、僕の生まれ故郷である山科の情景が見えてくる。思い出の道、建物、そういったものが目に入ってくるのだが、駅前の様子は随分変わった。かつて市場なんかがあった商店街の面影は全くなくなり、今や駅前中層ビルが立ち並んでいる。かつて点滅信号だったところでさえ、信号名がつけられて、立派な時間差信号になっていた。とはいえ、変わったところは駅前くらい。駅前を抜けると、僕が22年間過ごしてきた時と、ほとんど変わらない町並が現れる。

荷物もあるので(何を隠そう、今回ギターを持って帰ってきてしまったのだ)、タクシーでも利用しようかと考えたのだが、ヘッドホンからながれる「BETTER MAN」が心地よかったので、15分ほどの道のりを歩いていくことにした。重い荷物を持って歩くには、ちょうどいいリズムだ。

そして、我が家。ここは何も変わっていない。もうこの家を離れて5年にもなろうというのに、つい昨日まで生活していたような錯覚に陥る。強いて変わったことといえば、祖父や祖母の耳が遠くなっていたことくらいだろうか。さすがに90歳ともなると、年々衰えていくのが本人にもわかるようだ。その割りには、相変わらず気が強い二人。顔を合わせては、口げんかをしている。それもまた、5年前の日常へと、僕を引き戻していく。

しばらくすると、夫婦仲良く買い物にいっていた両親が帰ってくる。父とは、 彼が6月に東京に来ていた時に一度会っていたのだが、母とこうしてじっくり話をするのは、一年ぶりということになる。

話を聞いていると、どうやら姉が昨日までいたということがわかった。つわりがひどいらしく、ここのところ、通勤日には実家から通っていたらしい。一人残される旦那がかわいそうだと思ってしまうのだが、つわりとなると仕方がないのかもしれない。男には一生わからない苦しみなんだろう。実家から車で10分くらいのところに住んでいるにも関わらず、あの辛抱強いはずの旦那が姉を連れてきて、「お願いします」と言ったというのだから、よほど酷いのだろう。一度会ってみないと状況はわからないが、きっと、最初のつわり以来、「次こうなったらどうしよう」という不安が、つわりの酷さを増長させているに違いないと思う。姉は、そのくらい、ここ一番のプレッシャーに弱いのだ。普段は、気の強いところを見せているのだが、実は気が小さいことの裏返し。20年以上付き合っていると、そんなことくらいわかる。とはいえ、やはり心配になってしまう。

こうして約半日いただけだというのに、この5年間、帰省していた時の出来事をいろいろと思い出してしまう。帰省していた理由も理由だったのだが、特にその時のことを思い出してしまう。とはいえ、昨年は暗い気持ちで、その事実から目をそらすようにしていたのだが、ようやく真正面から見つめ返すことができるようになっていた。そう、単純に今の僕の土台となっている事実として・・・。

〜NEXT〜



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