『This is POP !?』

彼らと出会って、もう8年くらい経つだろうか。大学に入学してすぐに、クラスの友達の家で聴いた「ORANGES&LEMONS」が最初だった。初めて聴いた時は、「イギリスっぽい音」としか感じていなかったのだが、日が経つにつれて、気になって仕方がなくなってきた。そして手にした「ORANGES&LEMONS」。聴けば聴くほど、彼らの醸し出す不思議な音の世界にハマっていった。結果、今ではすっかり虜になっている。今思えば、出会った時、すでにXTCの音の催眠術にかかっていたのだろう。

少しXTCの紹介をしておくと、メンバーは現在、アンディ・パートリッジ(Vo.G)とコリン・モールディング(Vo.B)の、20年間XTCの音を作り出してきたソングライター二人だけだ。デビュー当時はこの二人に加えて、バリー・アンドリュース(Key)とテリー・チェンバース(Dr)の4人で活動。パンキッシュなニューウェイブサウンド(僕にはこの時のサウンドすら、どのカテゴリーにも当てはめられない・・・)を世に送り出していた。当時、サウンドの柱になっていたのはバリーだったが、アンディとのエゴ戦争のもと2枚目のアルバム「GO2」を最後に脱退。変わってデイヴ・グレゴリー(G.Key...Anything else!!)が加入。それまでのバリーのサイケなキーボードサウンドに変わって、影ながらもXTCサウンドには欠かせないギタリスト&サウンドメーカーなっていった。

そうして少しずつ音楽的成長を遂げていく過程で、バンドを根底からひっくり返す事件が起こる。5枚目のアルバム「ENGLISH SETTLEMENT」発売後のツアーが始まった直後に、アンディのステージ拒否病(?)が発病(そもそもアンディはこのアルバムをひっさげて、ライブなんてやりたくなかったのだ)。全てのステージをキャンセルすると同時に、今後ライブ活動を行わないことを発表した。ここからスタジオバンドとしてのキャリアがスタートすることとなる。そして6枚目のアルバム「MUMMER」レコーディング中に、ライブに全てをかけていたテリーが脱退。こうして、現段階での最新アルバム「NONSUCH」(92年発売)まで、3人での活動を続けてきた。その後、所属していたヴァージンレコードとのトラブルが尾を引くかたちとなり、ここ6年の間は目立った活動をしていなかった。そしてめでたく移籍先が決定したかと思えば、デイヴ・グレゴリー(G)が脱退。最後には心臓部のソングライター二人だけが残るかたちとなってしまった。

長々と彼らの遍歴を述べてしまった。もう20年以上もバンドとして存在しているのだから、これくらい事件が起こっていても不思議ではない。しかし、彼らはこの長いキャリアのなかで、一度も「大ヒット」というものを経験していない。本国イギリスでさえ、NO.1ヒットを記録した曲もアルバムもない。にも関わらず、彼らよりも遥かにビッグネームである世界中のアーティスト達から賞賛されている。こんな形で存在し続けるバンドというのも不思議なものだ。

しかし、間違いなく彼らは、ビートルズ以降の音楽シーンにおける、最強の鬼才バンドである。単純にカテゴライズできない、彼ら特有の音楽世界はアルバムの枚数を重ねるごとに姿を変え、進化し続けている。彼らの、とりわけアンディの音に対するこだわりは、ライブを拒否し、レコーディングのみに集中するという形をとってしまったが、それはビートルズが「Sgt Pepper's...」を誕生させた経緯と似ている。そして、中には世界的に有名な人物も含まれるが、ほとんどのアルバムで組んできたプロデューサーは、誰もアンディを納得させることはできなかった。であればセルフプロデュースをすればいいという意見もあるのだが、他のメンバーからすれば、アンディを独走させないためにも、第3者的な立場の人間にプロデュースさせる必要性があったのである。それでいて、ここまでやってこれたのだから、その音同様に不思議だ。

きっとデイヴの脱退も、そういうことが原因の一つとなっているのだろう。今まで、アンディとコリンという、最高の素材調達人が用意してきたものに対して、最高の調理を施すシェフもしくはソース職人といった存在だっただけに、今後のXTCサウンドに大きく影響することに間違いない。でも、そうやって繰り返されてきた歴史の中で、彼らはいつも僕らの想像もつかないような魔法のような音を提示し続けてきてくれた。だから、今春に発売されるアルバムも、いい意味で期待を裏切るものとなるだろう。

そう、いつだって僕たちをビックリさせてきてくれたのだから・・・。

(つづく)

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