『新生活その2』

新たな環境に移って一週間。外見的にはすっかり落ち着いてしまったものの、まだ僕自身落ち着いていない気がする。地に足が着いていないといった感じだ。どこかのホテルの一室に宿泊しているような感覚の中で過ごしているせいか、あまり気が休まっていない。しっかり寝ているつもりが、どうも疲れが残る。仕事が少し忙しいこともあるのかもしれないが、それだけではなさそうだ。

まだ、新環境のリズムに合っていないんだろう。何か初めて顔を合わせたメンバーとセッションをやっている感覚だ。みんなそれぞれいいんだけど、全体的にみればバラバラ、というような状況。もう少しこの環境とコミュニケーションをとっていけば、うまく流れていくような気がする。やはり時間が必要だ。

しかし、長年の習性というものは恐ろしい。前の家では洗面器が無かったので、台所で洗面を済ませていたのだが、今回の家にはちゃんと洗面器がついているにも関わらず、朝起きたら台所へ向かってしまう。僕が大好きな風呂にしても、前の家に比べて随分広くなり、のんびり落ち着いて入れるものの、どうも小さくなって使っているような気がする。

一番困っていることは、まだ一週間だから仕方がないようにも思うのだが、異様に時が経つのが早く感じられることだ。時というのは普遍的なもので、場所が何処になろうとも変わらないはずなのに、同じことをこの家でやっていても、時間が足りない気がしているのである。様々な外的時間を短縮するための引っ越しでもあったのに、これでは意味が無くなってしまう。やはり、これにももう少し時間が必要なのだろうか。

引っ越しに伴い、何人かの友人、知人から連絡が来た。環境的に離れてしまっている人達からの連絡がほとんどだったのだが、彼等との内面的な距離の無さを感じられて嬉しく思う。

その中の一人から、パソコンを始めたとの連絡があった。大学時代一番近かった存在だと言える彼とは、東京に来てからもしばしば連絡をとり合っていた。下関と東京という距離の関係で、殆どが電話というものだったのだが、彼が昨年就職したのが夜勤ありのところ。そのため連絡も少し疎遠になっていた。

「パソコン買ったから、何かあったらメールでも連絡がとり合えるな。」

僕はこういった形でのコミュニケーション手段の拡がりが好きだ。

この前、別の友達もパソコンを購入していることが判明した。地方にバラバラになってしまった大学時代の共同体を、数少ない連絡経路を駆使して維持できることを非常に嬉しく思う。

「みんなで集まって、セッションみたいなことをやって、アルバム的なものが作れたら素晴しいと思う。」

その友達からもらったメールに書かれていたことだ。

あの連中の中で、楽器をやっているのは僕くらいなものなのに、その発想がすごく素敵だと思う。

新生活の中での、新しいものと今までのものとの解け合い。それが今始まろうとしているような気がする。



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