『X'MASの出来事』

11月も終わりが近づいてきた。それに合わせるかのように、街にはクリスマスを彩るための飾り付けがなされてきた。ああいった飾り付けは、ロマンチックというより、なんだか子供の頃に戻ったかのような気分になれる。そして夜になり、イリミネーションが点灯されると、さらにワクワクしてくる。その風景を間近でなく、電車の車窓から眺めていても美しいと思える。そんな街の様子を見ていて、ふと懐かしい出来事を思い出した。

僕が高校2年の頃だった。12月の期末テストも終わりに差し掛かり、いよいよ近づいてくる大学受験に備えるために、僕は週に3回塾通いをしていた。クラブ活動が終わってから行くため、家に帰れるのは午後9時過ぎになった。そんな頃、いつも僕が塾にいる時に電話がかかってきていた。3回ほどあったであろうか。塾から帰ると、母からその電話の件を伝えられた。ところが名前を聞いても、心当りがない。同じ名字で知っている人は何人もいたが、女性となると、話しは別だった。どんなに考えてみても、誰だか見当がつかなかった。

そして、12月24日。ちょうどこの日、学校は終業式だった。塾の時間も、この日から冬休みシフトに入り、クラブ活動をしていない人たちは、昼過ぎくらいから塾に来て、勉強していたようだった。では、僕はどうだったかというと、クラブをいい理由にして、少しでも塾にいる時間を短くしようと企んでいたのである。とはいえ、夕方には塾に行き、イヴの日くらい早く家に帰ってテレビでも見ようとしていた。

その日、塾から家に帰ったのが午後7時半くらいだったと思う。一応気になっていたので、電話の件を母に確認したところ、今日はまだかかってきていないということであった。そして、自分の部屋に戻ってすぐに、電話が鳴った。近くにいた母が出て、僕を呼ぶ。やはり、その気になる人物からの電話だった。ついに、僕が話しをする時がきたのである。ほんの少しの不安と緊張感の中、受話器をとった。

改めて名前を告げる彼女。少し声を聞いていると、以外にも最近身近にいた人であることがわかった。秋の体育祭の時に、組み毎に結成される応援団に入っていたのだが、そのメインイベントであるダンスの時にペアを組んでいた人だった。しかし、彼女は学年が一つ上。まさか、その人から電話がかかってくるなんて、思ってもみなかった。

「私のこと覚えてる?」
「ええ、ご無沙汰してます。お元気でした?」

ついつい敬語になってしまう。
体育祭が終わってから、たまに学校で会っても、ずっとそんな調子で挨拶していたのだから仕方がない。

そして話しは核心へと向かう。

「今でも、あの娘のこと好きなの?」

へ?なんでそんなこと知ってるんだ?

というのも、この秋、僕は一途だった恋を実る寸前で破滅させてしまっていた。でも、その事を彼女に話したことはなかったのに、どうして知っているのか一瞬不思議に思った。しかし、その疑問はあっという間に解決されてしまう。

実は、彼女は、僕が一途に好きだった人のクラブの先輩だったのだ。そういえば、ダンスの練習の時、雑談の中でクラブのことを聞いたことがあった。
「しかし、どうして先輩のあなたが知っているんだ?」
かなり動揺して、心の中でそうつぶやいた。
世の中狭いものである。少し癒えかけていた傷を思い出しそうにもなったが、僕にはそんなことを言ってられるほどの余裕は無かった。

「ゴメン。変なこと言ってしまったね。」
彼女はそう謝ったあとに、次の言葉を続けた。
「よかったら付き合ってくれない?」

「えっ?」
一瞬、僕はためらった。というより、彼女からそんな言葉が出てくることなんて、想像もしていなかったからだ。その頃の僕にとって、年上の女性からそんな告白を受けるなんて驚き以外の何物でもなかったのだ。

「ゴメン。それだけが言いたかったの。もう伝えられたから・・・。本当にゴメンね。」
本当に電話を切ってしまうかのような勢いであった。
「ちょっと待ってくださいよ。今何処にいるんですか。」
そう聞くと、結構近くの24時間営業の喫茶店にいることがわかった。
「今すぐ行きますから、そのままそこにいてくださいね。」
そして、僕は彼女のいる喫茶店に向かった。

喫茶店に着くと、彼女の友達らしき人が何人かいたが、僕が着いたのを見るや、席を後にした。その店で何時間か話しをしたのだが、以外にも核心の話しにはならなかった。僕も照れ臭かったし、彼女もそうだったのであろう。そして店を出て、家に向かって歩いている途中で、僕はOKの返事をした。OKとはいっても、「こちらこそよろしく」という感じの返事をしたと思う。

何だかバタバタしたけど、何か運命のようなものを感じたのだろう。時はクリスマスイヴの夜。ましてや、非常に好感の持てる人だったし、きっとこの人となら楽しくやっていけると思ったから、そう返事したのだ。

「今日って、イヴなんですよね。」
相変わらず敬語でしか話すことのできない僕。
それが一番自然でよかったのだろうと思う。事実、彼女と付き合った約1年半の中で、最初の3カ月くらいはそのままの口調だったのだから・・・。

今思い出しても、素敵なクリスマスの出来事。10代だからできたことなのかも知れないけど・・・。でも僕にとっての、大切な思い出の一つであることには違いない。



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