『10.10.10』

平成10年10月10日。この珍しい日付に、様々なイベント事が企画されているようだ。しかも祭日ともなれば、当然のことなのだろう。

僕は、この「10並び」の日に、とある約束をしていた。しかし、その約束は結局果たされなかった。その約束が果たされないことは、もう1年以上前にわかっていたことで、それにまつわる事柄については、時間はかかったものの、もう僕の中では完全に過去のものとなっていた。しかし、この日という「時間」だけは過去のものにはできなかった。やはり、この事実を真正面から受け止めて、全てを過去へと送り出してやる必要があったのだ。

その過去の約束に束縛されていたわけでもないし、こだわっていたわけでもなかった。しかし、この日が近づいてくるにつれて、それにまつわる様々な出来事を思い出した。まるで、スプリングを押さえ込んでいた手を放したかのように一気に、早送りのテープでも見ているかのように蘇ってきた。それを見ていた僕といえば、不思議なことに懐かしみも喜びも悲しみも感じてはいなかった。ただただそれを見ている状態。事実を再認識しているだけだった。しかし、この日に対する気持ちだけは別だった。きっと、心のどこかでこの日に対する意識が残っていたのだろう。

この約束が果たされなかったことが、良かったのか悪かったのかはわからない。あえてこじつけるかのように、無理に答えを出す必要もないと思っている。どちらにしても、その出来事を考えてみたところで、最後には自分の考え方を肯定するような答えしか出ないのだから。それは決して自分が正しいという、傲慢かつ自己中心的な答えではなく、自分を納得させてしまうような、都合のいい慰めにも似た答えしか出ないのだろうということ。だから、今日この日を迎えて感じていることは、あらゆる意味でこの出来事が過去のものとなったという事実だけである。この日に至るまでに色々考えた結果が、今のそういった感情になっているのだろう。

今、僕がわかっていることは、「過去の僕」という土台の上に「現在の僕」が立っていて、「将来の僕」がやってくるのをどこか楽しみにしているのだろうということ。今日という日を迎えたことで、僕は一つの歴史を、過去として、思い出の箱に仕舞い込む。きっとその箱は2度とは開けられないものなのであろうが、僕の土台として残っていくことに違いはない。ただ、現在を生きていく上で、その出来事をトラウマであるかのように引き出していくようなことをしたくないだけである。中途半端に過去の世界を現在に組み込んでしまうことは、今の自分にとってはプラスにはならないと思っているのである。そのことは、この1年近くの間でわかってきたことだ。

いつの間にか「ALL AROUND ME」だって、笑って聴けるようになっていた。時間が過ぎていくのをただ眺めていたのではなかったのだと感じる。そう考えると、僕にとってこの1年近くの時間はすごく大きい意味があったと思うのである。



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