『行進』

テクテクテク・・・一体どうしてこんなことを始めてしまったのであろう。

しかし、自分の勢いというか思い付きには、時々びっくりさせられる。ふと時計をみると3時半。一時間で進める距離を把握する。

あの時間にもかかわらず、全く時間を感じさせないくらいに明るい新宿の街をあとにして、すっかり寝静まった通りを一人歩いている。ふと空を見上げると、そろそろ朝の太陽を登場させる準備を始めているかのように、白んできている。あの空の色はなんとも表現し辛い。どこか寂しげでありながらも、何か希望を感じさせる表情。僕は自分が何をしようとしているのかということを考えながらも、このまま朝がやってくることに少しワクワクしていた。

う〜ん、家まではあとどれくらい歩けば着けるのだろう。でも、今さら辞めるわけにもいかない。辞めたところで電車は動いてないし、一度巻いたゼンマイは伸びきるまでは止められない性格である。しかし、そんな不安も徐々に本来の色を取り戻してくる空の青を見ていると、無くなってくるものである。

地図を片手にひたすら西へ向かう。いくら方向音痴の僕でも、大通り沿いをあるいていれば、迷うことはない。しかし歩けば歩くほど、スーツという格好の不自由さが身にしみてくる。革靴。歩きづらい。スニーカーが恋しくなる。

4時半。鳥が鳴き始める。それまでに新聞配達の人達と何度かすれ違いはしたが、「ご苦労さま」という気持ち以外には何も感じなかった。僕にとっては、鳥の声が一日の始まりを確認する存在らしい。鳥が鳴き始めるということには、あまりいい思い出がない。しかし、それも今日のこのすがすがしい朝のお陰で一掃できた。今日は快晴。早く家について洗濯したい気分。しかし、家まではまだまだのようだ。

まいったことに足に痛みが走る。靴のせいでもあろうが、膝や足首がいうことをきかなくなってくる。そこで、一旦コンビニにピットインして休憩。チョコアイスなんぞを買う。そこでもう一度地図を確認して、最寄りの駅へ向かうことに変更する。しかしその駅までも結構遠いことに気付く。しかし、ここでこれ以上の妥協はできないと、訳のわからない決心をして再スタート。もうその頃には街は動き始めていた。

6時。ようやく駅に到着。心のなかではゴールテープを切っていた。駅にいる殆どの人たちはこれから一日をスタートさせようとしているのに、僕は本来のゴール地点である家に向かおうとしている。なんか、変な感じがする。ガラガラの電車に乗り込み、席につく。酔っ払ってでもいればすぐに寝てしまうのであろうが、すっかり醒めてしまっていたし、気持ちも高ぶっていたので眠れない。約20分間の車中で、この大作戦について振り返る。次回は、かならず「完走」しようと誓う。

しかし、この大作戦の間中、いろんな考え事をしていた。今の自分、これからの自分、今までの自分・・・。まるで自分の前に自分が歩いていて、その自分と会話しているような感じだった。やはり一人でいると、自分という人間のことがよく見えてくる。たまには、何もしないで、ぼ〜っと自分のことを考えてみようかなどと思う。結構大切なことなんだろうな、そういう時間を持つというのも。

次はいつなんだろう、こうして歩くのは・・・。



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