2002年2月15日(金)

 kriloさん、さちこさんとオフ会をしました。

 日時は1月15日、場所は前回に引き続き、札幌です。「寒いし、冬だし、やっぱり鍋を食べたいね」と鍋メインで始まったはずのオフ会は、あれよあれよという間に関係各所から様々なオプションが付け足され、最終的に次のようなタイトルに落ち着くこととなりました。

 「カマドウマ・鍋オフ会にかこつけてもろやんを懲らしめる会」

 冒頭の「カマドウマ」については、夏のオフ会で次回は必ずカマドオフだね、という固い約束を交わしたことから実現の運びとなりました。といっても、この「カマドウマ」という名称は、あくまで義務的なものでしかありません。決して、カマドウマをごっそりと鍋に入れてぐつぐつ煮詰めてだしをとろうとか、隠し味にすりつぶしたカマドウマのカラを入れてみようとか、そういうわけではないので誤解のないよう。

 また、最後の「もろやんを懲らしめる」は、オフ会直前に、もろやんが自分のサイトの掲示板でkriloさんに対して、kriloさん的には穏当でない発言をしたということで追加されました。などと微妙なニュアンスを含ませた書き方をしてみたりもしますが、この記述がまた波紋を呼んで、次回のオフ会も引き続き「もろやんを懲らしめよう」というコンセプトが含まれることになったらどうしようとも思ったりしているので、kriloさんごめんなさい。それからこの文章、日本語が壊れているのでよい子は真似しないでね。

 閑話休題。

 kriloさんと初対面で、お互いの顔も知らなかった前回に比べて、今回の集合は数段楽になりました。「1月15日の午後5時に、大通駅改札のペコちゃん前」とだけ伝えておけばことは足りてしまいます。目印に『どすこい(仮)』を持っていったり、青い人になったりする必要は一切ありません。一度お話して、会話のリズムもある程度掴めているということで、僕は何も心配することなく、家を出発しました。

 舌を出した人形の前に着いたのは約束の時間の5分前です。常日頃は先生がゼミに遅れてやってくることを見越し、5分後行動を肝に銘じている僕としては珍しく早い到着です。kriloさんとさちこさんはしきりに「もろやん早いねえ」と誉めてくださいましたが、普段の僕の行動を見ていたら、きっとその言葉を利息付きで返して欲しくなると思います。

 ペコちゃん前でそれぞれ自己紹介をしたあとは、お店を予約した時間まで少し余裕があるということで、三越地下の喫茶店に入りました。この喫茶店は、場所柄なのか店員が女性しかおらず、それに連れてお客の女性率も非常に高くなっています。僕が観たところ、男女比は20:1。kriloさんの日記によれば、どうやらこの華やかな雰囲気で僕を軽く懲らしめるつもりだったようですが、思いがけないところで誉められて少々舞い上がっていた僕は、そんなこととはつゆ知らず、ジェイクくん(kriloさんのプリティな愛猫)の写真を眺め眺め、ミルクティを水のようにがぶがぶと飲んでしまいました。思えばもったいないことをしたものです(この文章は二通りに意味が取れます)。

 三人はめいめいに紅茶を飲みながら、しばし軽い会話を交わします。ボクシングでいえば、序盤戦のジャブの応酬という感じでしょうか。お店の雰囲気もあいまって、和気あいあいとした空気が流れます。初対面のさちこさんとも気軽に話をすることができました。どうやら今回も、イメージ戦略第一弾は成功しているようです。

 安心すると無駄に気が大きくなってくるのが僕の悪い癖です。このときも、そのままのリズムで会話を続けていればいいものを、どういうわけか心が騒いで、余計なことがしたくなってしまいました。会話が途切れるリスクを頭の片隅では理解しながらも、一度浮かんだ思いつきは消えてくれません。僕は少し会話が途切れたのを見計らって、「ちょっと待って下さいね」とバッグのなかを探ります。頭のなかでは相変わらず、やめるならいまのうちだという声が響いていましたが、いかんせんここまで来て「やっぱりあとで」と躊躇するのは格好のいいものではありません。ほんの数瞬だけ逡巡したあと、僕はままよと手を引き上げました。






 

 「宇宙への使者まんじゅう」

 北海道は余市町の名産品です。
 包装から察するに、どうやら余市出身の宇宙飛行士、毛利衛さんにあやかった便乗商品のようですが、これはどうがんばっても毛利さんには見えません。

 

 彼はどうして歯を見せるのでしょうか。
 どこかにヒントが隠されていないかと眺めていたら、彼の腕にステッカーがありました。

 

 NASAではなくYOICHIで訓練を受けたようです。
 もしかしたらYOICHIでは、「宇宙飛行士は歯で笑え」と教えているのかも知れません。

 包装紙の中央に陣取るスペースシャトルをチェックしてみると、YOICHIに関するさらなる事実が明らかになりました。

 

 YOICHI製。
 町のレベルでスペースシャトルを製造できるとは、YOICHI恐るべし。しかもよく見れば、このシャトルにはまだ世界に知られていない、最先端の技術が使われていることがわかります。
 そのひとつは、翼に備えられた極めて特殊な機構です。

 

 翼の前方に吸気口。
 物質の稀薄な宇宙空間でなにを取り込むのかは謎です。

 さらにシャトルの前方。

 

 窓がずれています。
 YOICHIの技術力をもってすれば、空気漏れも怖くないに違いありません。

 ここまではYOICHIの技術力の高さを示してきましたが、この包装紙からは、YOICHIは科学の分野だけではなく、語学でもかなりの独自性を持っていることがわかります。

 

 「messenger to the space」
 と味のある筆記体で書かれています。

 僕の手元にある英語の辞書を見てみると、「messenger」は冠詞が必要な名詞、「space」は冠詞がいらない名詞となっています。よって、このフレーズは「the messenger to space」が正しいということになるのですが、YOICHIではそんなことは全く気にならないようです。きっとエスペラント語を凌ぐYOICHI独自の文法が確立しているのでしょう。語学でも最先端を走っているとは、YOICHIはつくづく恐ろしいところだと思います。

 「宇宙への使者まんじゅう」と、それによって明らかにされたYOICHIの技術力の高さは、kriloさん、さちこさんにもショッキングだったようです。kriloさんは「いつか独立国家になるとか言い出すんじゃないだろうか」という懸念まで表明してくれました。ここまで危機感を持ってくれたならば、思い切って包装を見せたかいがあったというものです。資料を見せ、「ね?」「うん」とうなずき合うだけで分かり合えるオフ会はそうそうあるものではありません。今回のオフ会の成功はこの瞬間に確定されていたといっても過言ではないでしょう。(このオフレポはあと2回ほど続きます)


2002年2月18日(月)

 昨年10月のことです。

 そのころ、大学時代の友人たちが北海道に遊びに来ていました。就職やら進学やらで散らばってしまい、大人数で集まることが難しくなっていた矢先、7名もの都合が合ったのはほとんど奇跡です。卒業以来はじめてといってもいいクラス旅行に、僕を含めて、きっと誰しもが心を躍らせていたと思います。

 そんな一行が、余市に向かったのは旅行2日目のことでした。初日からエンゲル係数が急上昇するのも無視して、海の幸と美酒のアンサンブルに酔っていた僕たちが目指したのは、ニッカのウィスキー工場です。ガイドブックによれば、ここでは作りたてのウィスキーが好きなだけ試飲できるとのこと。観光よりもなによりも、食と酒をターゲットにした今回のツアーで、まさか外すことなど考えられない場所です。

 昼食(もちろん寿司)を食べた小樽からバスに乗り、一路ニッカウィスキー工場へ向かいます。車中では、さきほど胃に入れたお寿司が醸し出す幸福感と満腹感のため、ほぼ全員が眠りこけています。車窓には北の海が広がっていましたが、そんなものは今回のツアーでは二の次です。なるべく多くの酒を取り込むため、いまは体力と胃のスペースの確保が至上命令となっていました。

 工場に到着すると、さっきまでとろんとしていた一行の目にギラギラした光が宿ります。ひとまず社員のあとについて工場を回りつつ、一通りウィスキーについて説明を聞きますが、どこか上の空です。心の7割はもう、最後に到着する試飲会場に向いているのでしょう。

 説明が終わり、会場に入ることができたのはそれから40分ほどあとのことでした。一行はそれぞれ、グラスにウィスキーをついでもらい、おつまみを買ってテーブルの上に広げます。窓の外の眺めといい、落ち着いた会場の雰囲気といい、無料で提供されているのが信じられないほどの心地よさです。試飲の時間制限がないのも、好きなだけウィスキーのおいしさを味わうためにはうれしい配慮。札幌から少々離れているにもかかわらず、この場所が観光地として人気が高いというのも理由がわかる気がしました。

 工場を出るころには、全員がほろ酔い気分になっていました。このあとには、札幌で高級和食の予約を入れています。もちろんその席でも、美味しいお酒を飲むことになるのでしょう。本当に素晴らしい一日というのは、もしかしたらこのような日のことをいうのかもしれません。

 札幌までの移動にはJRを使うことにしました。列車に乗るために、工場近くにある余市駅に向かいます。アルコールが入っているとはいっても、10月の風はもう冷たく、ほとんど駆け込むようにして待合室に入ります。それほど列車の本数が多くないため、駅舎自体も小さなものです。駅員室とキオスクがある以外は、ストーブを真ん中にして、いくつかの椅子が並べられているだけでした。

 ストーブで暖まり、気持ちに余裕が出た僕は、待ち時間の間、駅舎とその隣にあるおみやげ売り場をふらふらと歩き回ることにしました。お店に並べられているのは、まりもキティやクリオネキティをはじめとした、札幌でも見慣れている商品ばかりでしたが、そのなかにひとつだけ、独特のオーラを発している商品がありました。

 宇宙への使者まんじゅう。

 思えばこれが、僕と宇宙への使者まんじゅうとのファーストコンタクトでした。
 チープであるにも関わらず、どこか含蓄を感じさせる包装は、すぐに僕の心の琴線に触れてきました。いてもたってもいられなくなって、僕はこの発見をクラスの面々にも伝えます。「すごいものを発見してしまったのだが」とパッケージを指さすと、そのうちの3人が顔色を変えました。

 「買わないと。今すぐに」

 この日、宇宙への使者まんじゅうは売り切れました。

 完売というのは、おそらくYOICHI史上初の快挙だと思われますが、ここでひとつ、僕が心配になったことがありました。宇宙への使者まんじゅうは、どう考えても人気商品ではありません。したがって、毎月売れる数というのはそんなに多くはないはずです。しかし、そんなところへ僕ら一行が現れ、あろうことか商品を買い占めてしまったとしたらどうでしょうか。凄まじいまでの売り上げ増を目の当たりにして、生産者はきっと思うはずです。

 「増産してみっか」

 すわ、宇宙まんじゅうメジャー化か。
 もしかしたらいま余市にいったら、あのまんじゅうが売れ筋商品としてディスプレイされているのかもしれません。六花亭バターサンドやロイズ生チョコを押しのけ、北海道を代表する銘菓になる宇宙まんじゅう。北海道のお菓子メーカーには、宇宙への使者まんじゅうに対抗する新商品を開発した方がいいということを、警告しておきたいと思います。

 ずれてきてしまったのでこの辺で。
 それではまた。


2002年2月21日(水)

 余市を訪問した日の夜。

 宇宙への使者まんじゅうを買い占め、札幌に戻ってきた一行は、夕食後、それぞれの寝床に帰っていきました。全7名のうち、ホテルに宿泊していたのが3人、僕の家に泊まっていたのが2人、残りの2人は、札幌ツアー期間中、タイミングの悪いことに実家に帰っていた友人宅(彼も大学が一緒で、面識があります)に泊まらせてもらっていました。

 友人宅の鍵をあずかっていた僕は、そこに泊まる2人とともに彼の部屋に乗りこみました。帰省前に片付けていったのか、部屋の中はきちんとしています。しかし、きちんとしていればしているほど、いたずらをしたくなるのが人情というもので、僕たち3人は当然のようにインテリアの物色をはじめることにしました。その結果は悲惨なものです。本棚に並べてあったキューピーはことごとく首を外され、ザクは倒立、ペプシマンはヘンなポーズを取らされることになりました。もとの几帳面な並べ方は見る影もありません。合掌。

 近しい人間ほどタチの悪いいたずらをするもので、僕たちの悪さはこれだけには留まりません。最終的に、部屋中のあらゆるものに仕掛けを施さなければ気が済まないようです。が、そうして次々とターゲットを探しているうちに、さすがに良心が咎めたのか、誰からともなく意見が出されました。

 「でも、部屋を借りたお礼はきちんとしないとね」

 親しき仲にも礼儀あり。
 いかに気心が知れているといっても、そこはきちんとしておかなければなりません。この意見に反対するものは誰もいませんでした。

 感謝の気持ちとして何が相応しいか、僕たちは考えます。彼へのお礼状を書くことは当然なのですが、さすがにそれだけでは足りない気がします。「何かお礼の品をを用意してもいいよね」と僕がいうと、3人はハッとして顔を見合わせました。

 ――宇宙への使者まんじゅう。

 決定です。
 これ以上ありがたいプレゼントはないでしょう。
 包装紙とまんじゅうの両方を味わうことができ、さらに「僕たちは余市にいってきました」という報告にまでなります。札幌ツアーのおみやげとして過不足ありません。結論に達した3人は、すぐさまバッグから件のまんじゅうを取り出し、テーブルの上に配置することにしました。札幌に帰ってきた友人は、これを見てきっと思うことでしょう。

 「こんなに感謝してくれたなんて」

 もしかしたら感激のあまり涙まで流してしまうかも知れません。
 そして友情の絆はさらに固く結ばれます。

 この想像に気をよくした僕らは、さらにこのプレゼントが効果的になるように作戦を練ることにしました。具体的には、包装紙のカラーコピーを2枚ほど取ってきて、それを部屋のところどころに配置します。これならば、コピーを発見するごとに、友人は僕たちの感謝の気持ちを思いだし、感動を新たにすることができるはずです。涙が出るほどの感動が何度も味わえるなんて、なんて幸せなやつなのでしょうか。僕たちはそれぞれに彼の喜ぶ姿を想像しながら、コピーを張る場所の選定を始めました。そして、最終的に決まったのは以下の二ヶ所です。

 1、ベッドの上の天井
 2、冷蔵庫の中

 1については、「夜寝る前にあの包装紙を見て僕たちを思いだして欲しい。それから朝起きるときも、同じように僕たちを思いだして欲しい」という祈りが込められています。言い換えれば、おはようからおやすみまで、暮らしを見つめる宇宙まんじゅう。こんな幸せな生活は滅多にありません。

 2については、「何か食べたり飲んだりするときに、この包装紙を見て僕たちを思いだして欲しい。でも飲み過ぎには注意だよ☆」という祈りを込めてみました。大学時代さんざん一緒に飲んだ僕たちがこのセリフをいうのではなくて、毛利さん(らしき人)がいうところに説得力があります。そこまで読んでメッセージを残すなんて、なんて友達思いなんだ僕ら。

 一連の作業に満足した3人は、最後にお礼状を書くことにしました。「部屋を貸してくれてありがとう。君のおかげで楽しいツアーになりました」。感謝の気持ちを込めて一字一字丁寧に記していきます。これだけ念入りに作戦を練ったのだから、もう言葉は必要ではないかもしれません。彼は十分にわかってくれるでしょう。しかし僕たちは、最後の仕上げとして、その手紙の最後にこう付け加えることにしました。

 「追伸 コピーは全部で3枚あります」

 友人は幻のもう一枚を探し続けたそうです。


2002年3月8日(金)

 ところで、カマド・鍋オフレポ第2弾です。

 間に強烈なネタが二つも挟まってしまったので(宇宙への使者まんじゅうキ○タマリオ)、もしかするとこれまでの展開を忘れている方もいらっしゃるかもしれません。そんなみなさんのために、まずはここまでの流れをまとめておくことにします。

 <あらすじ>

 ――西暦2001年8月。悪の秘密結社がダミー企業にしているスターバックスコーヒーが札幌に上陸した。ある情報筋からその報を受けたkriloともろやんは、洗脳され、行列を繰り返す札幌市民の目を覚まさせるため、スターバックスに乗りこむことにする。頼りの武器は、ドトールで入手したクリームと自分たちの度胸。有力コーヒーショップのシェア争いを激化させ、スタバとドトールを同士討ちさせるのがこの作戦の狙いだ。決死の覚悟で敵陣に乗りこんだ2人を待ち受けていたのは、奸智に長けた敵の誘惑。休む間もなく襲いかかる危機の連続に、ときに目的を見失いそうになる2人だったが、最後にはドトールのクリームを残してくることに成功し、勝利を収める。見事スタバを懲らしめたのだ。

 この成功に気をよくした2人は、さらに札幌を住みよい街にするべく活動を続けることを決意する。最先端技術を駆使して情報の交換をしあった結果、次のターゲットに選ばれたのは、驚くべきことにもろやんだった。身内のはずのもろやんには、一体どんな懲らしめられるべきところがあったのか。kriloは、死線を一緒に越えてきたもろやんを懲らしめることができるのか。そして新たにチームに加わったさちこはいかなる使命を負っているのか。3人の思惑が絡み合ったまま時は満ち、作戦決行時間が迫る。

 2002年1月、それはペコちゃんの前からはじまった――。

 スパイ物で攻めてみました。
 個人的にはこういうトーンは嫌いではないのですが、放っておくとそのうち「全米震撼!」とか「世界中が涙した」とか書きそうなので、この辺で自粛しておきます。なお、文中に登場する「ある情報筋」は映画「オースティン・パワーズ;デラックス」、「最先端技術」はネットとメールですので誤解のなきよう。

さて、前回までのストーリーを押さえたところで、その後の話に入ります。僕がkriloさんとさちこさんに「宇宙への使者まんじゅう」を披露したあと、一行は予約を入れていた飲み屋に向かいました。すすきのにある魚料理のお店です。出された料理は、だし巻き卵や鍋といった定番のものから、ソイのお作りやふぐ刺しなど、これぞ北海道、という感じのものまであります。

 僕とkriloさんはビール、さちこさんはワインをちびちびとやりながら、それらを思い思いにつついていました。もちろん、その間も口は止まりません。kriloさんの入院話が盛り上がれば、さちこさんと僕も負けじと突っ込みを入れ、自分のネタを披露します。それは思い返せば思い返すほど楽しい時間で、何度でも繰り返し体験したいくらいでした。ひとつだけ問題があったとすれば、テーブルの中央にでんと据えられたソイの活け作りでした。

 活きがよすぎる。

 これから食べるんだから跳ねないでください。
 えらが動く程度なら許容範囲なのですが、口を盛大にあけたり、身もだえするように体を動かすのは却下です。切り身にされたお腹が痛々しくなってきます。楽しい話をしていても、ソイが動くと思わずそちらが気になってしまいます。とくに自分が話している最中などは最悪です。「びくっ」っとやられると気が気ではなく、ショックで話す内容すら忘れてしまって困ってしまうこともありました。

 すっかりまいってしまった僕は、正面に座っているkriloさんに曖昧な視線を送りました。自分としては「これ、どうしたらいいでしょうか?」というメッセージを込めたつもりです。それを読んでくれたのか、kriloさんはすかさず行動に出てくれました。ソイが「ンガッ」っと口を開いた次の瞬間、「はっ」という気合いとともに彼女の指が動きます。できあがったのは、凄まじいまでにシュールな光景でした。

 kriloさんの指を喰う活け作りのソイ。

 意味がわかりません。
 活け作りの魚が何を喰おうというのでしょう。
 「ザルで水をすくう」ということわざがありますが、どこかあれと同じ歯がゆさを感じさせます。これでは栄養はすべて素通りです。何を食べてもカロリーゼロ。最高級のダイエット法かもしれません。

 kriloさんのこの行動から、僕はあるメッセージを読みとりました。

 「困ったらネタにしろ」

 まさに芸人魂。
 さすがはkriloさんです。だてに何かを懲らしめ隊の隊長を務めているわけではありません。実をいうと、何かを懲らしめ隊はたったいま結成したのですが、kriloさんの教えの前では、そんなことは些細なことのように思えます。「人生是ネタ」。この日の体験は、ぐうたらに新しいエネルギーを呼び込んでくれるに違いありません。

 などと適当にまとめていたら、いつのまにか長くなってしまいました。当初の予定では、カラオケネタまでいくことになっていたのですが、不覚です。こんなことにならないためにも、思いつきで余計な前置きをしない方がよいですね。

 それではまた。ソイうまかったなあ(結局食べた)。


2002年4月4日(木)

 1曲目に何を歌うか。

 カラオケに行くといつも悩みます。親しい友人の間でもそうなのだから、初めて行く人とだったらなおさらです。可視・不可視、様々な基準で人間がカテゴライズされていく昨今、歌もその基準のひとつになる場合もあります。たとえば、1曲目に与作を選ぶか、GLAYを選ぶか、モーニング娘。を選ぶかで、周りの目はがらりと変わってくるでしょう。さすがに僕自身は試したことがないので、確たることはいえませんが、たぶんRanaくんあたりなら、その差異化のメカニズムを自分の体験として語ってくれるに違いありません。なんといっても彼は、あややの「桃色片想い」で入りましたから(実話)

 閑話休題。ソイの活け作りを(いろいろな意味で)堪能したあと、カマド・鍋オフの一行が向かったのはすすきのにあるカラオケボックスでした。映画館の向かいにあるその場所は、前々からkriloさんが目を付けていただけあって、ネタの匂いがぷんぷんする、異様な雰囲気を醸し出していました。ふと看板を見上げれば、恥ずかしげもなく書いてあります。

 スリラーカラオケ。

 何がスリラーなのでしょうか。
 ネーミング自体がスリラーです。

 一行は「内装がスリラーだ」とか「マイケル・ジャクソンの『スリラー』を歌うとスリラーだ」とか「あの店員の髪型がスリラーだ」とか、口々に適当なことをいいながら受付を済ませましたが、その実態が判明したのは、リモコンを受け取って部屋に向かう途中のことでした。

 不動のエスカレータ。

 ぴくりともしません。
 あまつさえ赤い絨毯でカモフラージュしてあったりもします。
 もとはエスカレータなのですが、スリラーカラオケではどうやら単なる階段として使っているようです。そうまでして電気代を節約しなくてはならないとは、このカラオケ、財政もスリラーのようです。

 スリラーカラオケのスリラーぶりに満足し、おかしなテンションになっていた三人は、部屋に入るとさっそく歌に入れる体勢を作りました。一番手はkriloさん。「大ちゃん数え歌」を持ち前の歌唱力で歌い上げます。「♪ひとつひとより力持ち〜」。ネタ的にも文句のない選曲だといえるでしょう。
 こうなってくると、2番手である僕にプレッシャーがかかってきます。kriloさんが最良の選択をし、場の雰囲気を盛り上げた以上、僕も同様の選択をしなくてはなりません。しかし、かといって「大ちゃん数え歌」に匹敵するようなレパートリーは、そうそうあるものでもありません。さんざん悩んだ挙げ句、僕は運命の1曲目を選択しました。

 嵐で「A・RA・SHI」。

 ジャニーズです。
 若者ぶってみました。
 でもこの曲、歌詞の情けなさがなんともツボなのです。

 はじけりゃYea! 素直にCool! だからちょいと重いのはBoo!
 That's all right! それでも時代を極める そうさ僕らはSuper Boy!

 やけに景気よくはじまるラップは、昨今のJ-POPではあまり見かけなくなった、ストレートな勢いを持っています。とくに、「それでも時代を極める そうさ僕らはSuper Boy!」のくだりは、向かうところ敵なし、といわんばかりの力強さです。この畳みかけには、さすがはジャニーズ、と一瞬感動すら覚えますが、しかし、続くフレーズでは、どういうわけかその力強さはなし崩しになってしまいます。

 We are cool! やなことあってもどっかで格好つける
 やるだけやるけどいいでしょ? 夢だけ持ったっていいでしょ?

 誰に許可を求めているのでしょうか。
 Super Boyなら自己責任でやってください。
 他人の顔色を窺うような身振りは、もしかしたら昨今の男性像をうまく表しているのかもしれませんが、だとしてもそのあとに、こんなフレーズが来るのはまずいのではないかと思います。

 You are my Soul! Soul! いつもすぐそばにある
 ゆずれないよ 誰も邪魔できない
 未来に向かって激しく
 突き抜けろ A・RA・SHI! A・RA・SHI! for Dream

 許可を求めた上で、「誰も邪魔できない」もなにもないと思います。
 「未来に向かって激しく突き抜けろ」などといわれても、それはあくまで、安全圏に留まっているような気がしてしまいます。ラップとサビとの強烈な乖離が、この歌詞のポイントだといってもいいでしょう。
 kriloさんとさちこさんは、この歌のおかしさを共有してくれたようでした。ラップが入るごとに笑い転げてくれています。つかみはばっちりだと感じた僕は、普段のカラオケよりもさらにネタ度の高い曲を乱発することにしました。そのなかで、もっともウケがよかったのは北島三郎のあの曲です。

 おじゃる丸主題歌。

 「♪まったりまったりまったりな〜 急がず焦らず〜 まいろうか〜」

 のほほんとしたサビが響くスリラーカラオケ。
 そこには、ミスマッチ感覚を越えた何かががあります。
 kriloさんたちは、この曲が気に入ってくれたのか、歌い終わった僕にこう言ってくれました。

 「それ、もろやんのテーマ曲ね」

 「ね」というあたりに有無をいわせない力強さがありましたが、実際、ぐうたらのトップページを開いたときに、おじゃるの曲が流れたとしたら、それはそれでかなりのミスマッチではないかと思います。少なくとも、まったりまったりで毒のないおじゃる世界のファンからは、苦情が来ることになるでしょう。カラオケの1曲目と同様、トップページの印象も大切です。来る人を混乱させないためにも、わかりやすいページづくりを心がけていきたいですね。と、一般論に流れてみました。話がまとまらない場合に重宝できる手段です。

 それではまた。


2002年7月17日(水)

 「そういえばこれってヘンなんじゃないか」

 という一瞬は、誰しも経験があるのではないかと思います。たとえば、いままでカレーを食べるのに何の抵抗もなく箸を使っていたとか、とんかつには醤油をかけるのが普通だと思っていた、など。普段何気なくしていたことが、ある時ふとヘンに思えてしまう瞬間は、誰にでも平等にやってくるものだと、僕は勝手に信じています。

 kriloさん、さちこさんとカマドオフをしたその日、スリラーカラオケで至福の2時間を過ごした一行は、感動のフィナーレを飾るべく、一路札幌駅に向かいました。時間は既に11時近く。kriloさんたちが乗る最終電車もそろそろ出発するころです。

 駅の待合所に座って温かいジュースを飲みながら、はやくも次回のカマドオフの話などをします。はじめて会ったさちこさんとも、このころには緊張がほぐれ、自然に話すことができるようになりました。仕事のこと、遊びのこと、HPのことなどなど、次から次へと話題は移っていきます。

 しばらくして、電光掲示板を見ていたkriloさんが口を開きました。

 「電車の時間、合ってるかな?」

 その言葉につられるように、さちこさんと僕もきょろきょろとあたりを見回します。確かに、僕たちが座っているところからは電車の時間表示は見えませんでした。kriloさんは不安になったのか、席を立って時間を確認しにいこうとします。と、僕はあることを思い出して、kriloさんを呼び止めることにしました。

 「あ、待って下さい。時刻表ここにありますから」

 そういっておもむろにバッグから手帳を取り出します。この手帳の最後の見返しには、以前札幌駅でもらった簡易時刻表が挟んであります。いますぐにこれが確認できるなら、わざわざ席を立って電光掲示板を見に行くまでもありません。

 少々自慢げに、僕は手帳の見返しを開きます。そこはメモやらプリクラやら名刺やら、細かいものをまとめて保管する場所になっているのですが、一番実用性のある時刻表は、それらの一番上に収まっていました。

 僕は時刻表を引き抜き、kriloさんに渡します。「これって実はヘンなんじゃないか?」と思ったのは、まさにそのときでした。時刻表の下から出てきたのです。

 スナックのママさんの名刺(携帯の番号つき)。

 誤解されかねません。
 特に、携帯番号つきというのは決定的です。
 本当は、アルバイトの関係で持っている完全にビジネスな名刺であって、実際にスナックにいったとか、ママさんと親しいとか、そういうことは一切ないのですが、そのような裏の事情を、kriloさんやさちこさんが知っているはずはありません。

 「これでは自称ピュアな好青年のイメージが破壊されてしまう」

 と背筋が凍るような危機感を感じた僕は、kriloさん、さちこさんの様子を窺います。が、二人がこの名刺に気づいたのか気づかなかったのか、いまいち読みとれません。相手の対応を見てから策を練ることは、あきらめなければならないようです。とすると、次なる選択肢は二つに絞られます。

 1、なかったことにする。
 2、ネタにする。

 一瞬の逡巡のあと、僕は決断を下しました。

「いやあ、これ見てくださいよ。こんなところにこんな名刺があるんですよ。というかこれ、本当は家庭教師先の関係で持ってるんですよね。でも下手をすると誤解されちゃいますよね。携帯の番号まで書いてあるし。しかも手書きだし。いや、今になって気づきましたよ。まいったな、本当にスナックいってるわけじゃないですよ。ね。あはは」

 白々しさ満点。
 「墓穴を掘る」とはこのような状況をいいます。

 この僕の弁解を聞いたkriloさんとさちこさんが、実際にどう思ったのかは定かではありません。笑顔では応えてくれていましたが、内心はかなり疑惑が沸き上がっていたのではないでしょうか。少なくとも、「どうしてそんなに汗をかいて弁解するのか」とは思ったに違いありません。帰りの電車のなかで、お二人がどんな会話をしたのか、あれから半年が経ったいまでも気になって夜も眠れません(誇張あり)。いや、でも、本当にそういう事実はありませんので、そこんとこよろしくお願いします。

 それでは、また。

<kriloさん、さちこさんへ>
 とても楽しいオフ会でした。またぜひ機会を設けたいですね。
 ひとまず、今年の夏にでも(それ、いま)。