なにわバタフライ
作・演出:三谷幸喜
演奏:小竹満里、山下由紀子
方言指導:生瀬勝久
ルビ吉観劇記録=2005年(大阪)
|
|
【この芝居について】
三谷幸喜の3年ぶりの新作。三谷氏にとっても出演の戸田恵子にとっても初めての“ひとり芝居”。ストーリーは関西を代表する喜劇女優・ミヤコ蝶々の生き様をモデルに展開していく。
|
【物語】
物語は戸田恵子演じる喜劇女優が、その半生を本にして出版するところから始まる。編集者の取材を受けながら、父親の思惑で彼女が女座長としてドサ回りをしていた幼少期まで話は遡っていく。
劇場主の息子に想いを寄せた初恋は淡くも消え、不倫の末に掴んだ大物噺家との結婚は夫の浮気で離婚。次に年下男と結婚し舞台の相方として育て上げるも、彼の浮気、離婚。そして死別…。
女性としても芸人としても怒涛の人生を送った彼女の人生とは一体…?
|
【観劇記】
さすが、三谷幸喜。さすが、戸田恵子。一人芝居は飽きてくるだろうなぁ…という観劇前の不安は、幕が開いて15分で消し去られた。俺も一人芝居を観劇するのは初めてで、見る前はなんとなく落語のような会話劇を想像していた。
「え、何だって?おまえさんがここにあった団子を食っちまった…って?冗談じゃねーよ、あれは俺が後で食おうってんで大事に取っておいた団子だ」みたいなノリを想像していた。しかし三谷さんはそんなオーソドックスな手法を用いずに、一人芝居の会話劇を成立させていたのである。つまり上の例で言えば
「なんでアタシの大事な団子を勝手に食うかなぁー!」のひとことで状況はわかるし、
「いいわよ、もう」「いいって言ってんでしょうが!」と続けば、相手の台詞はなくても会話も会話の温度も見える。プログラムの三谷幸喜インタビューによると、一応は相手の台詞も書いてみたらしいのだが、観客の我々にわかることはないし知る必要もない。
その他、戸田さん以外にもスポットをひとつ使って、相手役(夫や父親役)がいるように見せる演出にも感服した。アイデア満載の一人芝居である。
本もよく出来ていた。ミヤコ蝶々さんの、どちらかと言うと“女”としての側面に沿って書かれているのだが、我々の知る蝶々さんと言えば、物怖じしないはっきりとした性格のオバチャン。そんな蝶々さんの“女”としての人生も、実に痛快なもの。どこまでがフィクションでどこまでがノンフィクションなのかはわからないが、「いかにもそうであっただろうなぁ」と思わせる女の半生である。しかしそう生きてきた心の奥底に、意外な心理が働いていたことを観客は最終場に知らされる。こうした本の構成も上手いとしか言いようがない。
戸田恵子氏については、もう語るべきことがない。芝居の上手さは言うに及ばず、約二時間の一幕ものの舞台で、テンションを変えずに毎日毎日ひとりだけで演じ続ける女優魂は「凄い」としか言いようがない。 |