わが歌ブキウギ
〜笠置シヅ子物語〜
作:小野田勇
潤色・演出:小野田正
音楽:服部隆之
ルビ吉観劇記録=1994年?(大阪)、2005年(大阪)
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【このミュージカルについて】
1987年にNHK銀河テレビ小説で放送された同名のドラマが人気を博し、翌年には舞台化。ドラマ、舞台とも笠置シヅ子役は順みつきがあたっている。2005年は笠置シヅ子さん没後20年、そして笠置さんの良きパートナーであった服部良一さんの十三回忌の年にあたり、キャスト、演出とも一新して華やかな再演となった。
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【内容】
ブギの女王として知られる笠置シヅ子さんの伝記もの。笠置さんは困難をものともしない明るさと前向きさを持ち、そして人一倍人情味溢れる女性。彼女のダイナミックでパワフルな歌声は、当時は新進の音楽家であった服部良一の新しい旋律と共に、戦後の沈んだ日本人の心に明るさを取り戻した。
物語は松竹歌劇団で同期であったユリー五十鈴や服部良一、座付きピアニスト・木暮五郎、売春婦のお葉たちとの友情、そして吉本興業の御曹司・花森英介との恋愛を中心に、彼女が突然歌手を引退するまでを描いていく。なお狂言回しに、シヅ子の弟子・生駒芙美子があたる。
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【観劇記】
平日でも夜の部が4時開演と、典型的な婆ちゃん興行の体を取っていましたが、内容は古臭さを感じさせず華やかで豪華。なかなか楽しめるものでした。もっとも俺は笠置シヅ子さんの歌がもともと好きなので、特に楽しめたのかもしれません。昭和初期に上海の租界で演奏されていたという和製ジャズの存在を知ったのが大学一年生の時。以来“モダン”という言葉の似合う音楽や美術全般に興味を持ちました。笠置シヅ子さんや服部良一さんのことは、その流れで知ったのです。
さて今回の『わが歌ブキウギ』で笠置シヅ子役を務めたのは真琴つばさ。彼女がまだ宝塚に所属していた頃に『ミー&マイガール』『カン・カン』というミュージカルで見たことがあるのですが、歌の下手な女優という記憶だけが残っていました。それゆえに今回はキャスティングに一抹の不安を持って観劇したわけですが、それなりに笠置シヅ子だったと思います。歌は上手いとも下手とも言えない微妙な感じでしたが、パワフルでダイナミックといった笠置さんの雰囲気は充分に演じられていたと思います。また出てくるだけで舞台全体が明るくなる、真琴さんの持つ“華”も笠置さんのスター性を表すのに充分だったと思います。真琴つばさは結果として心憎いキャスティングだと言え、俺としては満足のいくものでした。
共演者の印象も少し記しておきましょう。服部良一役は草刈正雄。実在の服部先生がどんな方だったのかは知りませんが、草刈さん独特の台詞回しは新進の音楽家という雰囲気に合ってたように思います。花森英介役の杉浦太陽は初々しく、“ええとこの坊ちゃん”風を上手く醸し出していました。しかし台詞回しがまだ芝居に慣れていないようで、時々鼻につく大根ぶりが玉に瑕。お葉役の沢田亜矢子はさすがの存在感で、有楽町のパンパンガールを牛耳る姐さんの風格に文句ナシ。声はよく通るし、歌も上手いのですね。知りませんでした。生駒芙美子役・中澤裕子の狂言回しは、これがなかなかよろしい。もともと大阪弁アクセントのしゃべりである中澤さんですが、今回はそれが功を奏した感じです。物語を絶対に暗くさせない、アホっぽいしゃべり方もよかったと思います。
笠置シヅ子さんの歌を知らない人に楽しめるかどうか…というところはありますが、彼女の半生は見ているだけで元気になれます。また歌の場面での真琴さんの底抜けに明るい姿も、悩みなんかを吹き飛ばしてくれる感じです。大阪公演は終わってしまいましたが、2006年1月は27日まで名古屋・名鉄ホールで、2月1日〜7日までは東京・アートスフィアで公演があります。なお一部キャストチェンジ(沢田亜矢子→中尾ミエ)はあるそうです。
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