ダンス・オブ・ヴァンパイア

音楽:ジム・スタインマン
脚本・歌詞:ミヒャエル・クンツェ
演出:山田和也

ルビ吉観劇記録=2006年(東京)
【このミュージカルについて】
 初演は1997年まウイーン。脚本と作詞は『エリザベート』『モーツァルト!』のミヒャエル・クンツェ氏。ヴァンパイアを主人公にした話は数あるが、このミュージカルは1966年の映画『ロマン・ポランスキーの吸血鬼』を原作としている。映画同様、ミュージカルも怪奇ホラー・コメディといった体である。
【物語】
 極寒のトランシルバニア。一軒の宿屋にヴァンパイア研究家アプロンシウスと、若い助手アルフレートが転がり込んでくる。寒さに気絶寸前の教授を宿屋の主シャガールと女将レベッカ、そして村人たちも親切に介抱するが、教授がヴァンパイアのことを尋ねると口を閉ざすのであった。
 ところでこの宿屋には美しい娘サラがいた。年頃の娘を危険に晒すまいとうるさく言うシャガールであったが、サラは束縛されている気分でいっぱい。自由に解放されたいと願っていた。そんな折、アルフレートはサラに一目ぼれする。サラもまんざらではない。しかしサラを狙っていたのはアルフレートだけではなかった。大きな黒い影がサラに忍び寄っていたのである。そしてある日、サラは宿屋から忽然と姿を消してしまう。
【観劇記】
 観劇記を書くにあたって、正直どう書けばよいのかを悩んでいます。「おもしろかった」としか言いようがないのです。敢えて書けるとしたら、出演者の芸達者ぶり。
 まずは二大巨頭、市村正親山口祐一郎。ヴァンパイアの研究家アプロンシウスは市村さん。ボケ味とシリアス味が混在の老教授とくれば、市村さんの他にキャストは考えられません。「誰?」ってくらいの変装ぶりなのですが、確かな存在感を示せるのは彼が演じればこそ。若い助手アルフレートのコンビネーションも最高。いかんせん頼りない助手なのですが、教授と助手はボケとツッコミになっていて笑えます。アルフレート役の浦井健治も健闘していました。一方ヴァンパイアであるクロロック伯爵は山口さん。伯爵は客席から登場。いつ出てくるのかなぁと思っていた矢先、俺の席の近くに立っていて息が止まりそうでした。もともと大柄な山口さんが衣装でさらに大きく、しかも全身真っ黒ないでたちで暗い通路にいるわけですから、マジで恐かったです。見た目といい、艶のある低音の声といい、クロロック伯爵役は山口さん以外に想像しづらいですね。怪奇ホラーの半分くらいは、この人が担っていたかもしれません。
 宿屋の夫婦は物語の導入部分で大いに盛り上げるのですが、佐藤正宏阿知波里美は適役。芝居もしっかりとしているし、笑いも取れる。しかも歌が上手い!特に阿知波さんの声は艶があって聞きやすく、本当に素晴らしい。サラ役は大塚ちひろ。歌の上手い期待のミュージカル女優なのですが、今回ばかりはWキャストの剣持たまきの方がよかったかも…と思わせました。大塚さんのルックスはどうもしっかり女のイメージで、ヴァンパイアにさらわれてもひとりでなんとか逃げ出せそう…と思えたのでした。クロロック伯爵の息子ヘルベルトはゲイという設定で、サラを助けるべくヴァンパイアの屋敷にやって来たアルフレートを追いかけます。ヘルベルトは吉野圭吾が熱演というか怪演。黒のTバックも露に登場します。ダンスで鍛えたしまったケツと股間のモッコリはサービスショットというところでしょうか。そんな格好といい、また芝居でも笑いをそこそこ取って、吉野さんの役者魂を感じました。役者についてはこんな感じで、とにかくいい役者を揃えて舞台は一気に楽しくなったと思います。
 今回は役者の話だけで終始してしまいましたが、音楽もなかなか良いです。馴染みやすい曲も多いですし。それからストーリーは他愛もない話だと思うのですが、構成がよいせいか飽きさせません。次はどうなる?という興味をずっと抱かされました。特に結末には感心しました。ただ演出の部分で思ったのですが、客席をやたらと使うのはいかがなものでしょう。客との一体感は強くなるのでしょうが、俺は見るべきところが散漫になっていただけません。ほどほどにというか、もっと効果的に使ってほしいものです。

【おまけ】
 ホームページを通じて知り合った人に随分前からこの作品を勧められていました。ドイツ語も堪能な彼はウイーン版を見ていて、彼の中でのナンバー1ミュージカルであると熱く語ってくれたのでした。それから数年経た今年、日本で上演されることになったのです。もともと吸血鬼には何の興味もありませんでしたが、彼の話を聞いて『面白いかも…』と思っていた俺は、速攻で観劇を決めたのでした。
 俺の中ではとにかく不思議なミュージカルです。正しくは独創性の高いミュージカルと言った方がいいかもしれません。何と言ってもホラーであり、コメディですから。ジャンルとしては珍しくないのですが、ミュージカルでそのジャンルの作品は数少ないでしょう。しかしこの手合いの作品はハマれば、何度も見たいと思わせる何かがあります。今回の東京公演も出だしは空席も多かったようですが、後半はリピーターが増えたためか満員御礼。俺も二度目の観劇を決めた頃には、チケットは完売していて涙を飲んだのでした。

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