ユーリンタウン
音楽・詞=マーク・ホルマン
脚本・詞=グレッグ・コティス
演出・振付=宮本亜門
ルビ吉観劇記録=2004年(大阪)
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【この芝ミュージカルについて】
公衆トイレをひとつのキーワードに展開する、風変わりなこのミュージカルは、2002年のトニー賞で三部門の賞に輝いた。本家ブロードウェイは劇場の老朽化により一旦クローズしたものの、韓国、カナダ、イギリス、ドイツ、オーストラリアで上演または上演を予定している。このたびの日本初演版は宮本亜門が演出。
ちなみにタイトルの“urine”とはおしっこのこと。ユーリンタウン=おしっこの街。
2文字で書けば“尿街”。2文字で表現する必要もないが。
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【物語】
20年にもわたる干ばつにより、節水を余儀なくされた街。住民たちは誰もが有料公衆トイレの使用を義務付けられていた。うっかり“おもらし”などをすると逮捕。違反者は、誰も見たことがなく、しかし誰もが恐れている“ユーリンタウン”に送り込まれることになっている。街のトイレすべてを管轄しているのはUGC社。この法律はUGCの社長クラッドウェル(藤木孝)が賄賂により成立させたものであった。
ある貧民街では今朝も、トイレに行きたくても行けない貧しい市民たちが大騒ぎ。しかしトイレの番人ペネロペ(マルシア)は容赦ない。そのとき、ペネロペの助手ボビー(別所哲也)の父親が“おもらし”をしてしまい、あっけなくユーリンタウン送りにされてしまう。ボビーは失意の中、ひとりの美しい娘ホープ(鈴木蘭蘭)と出会う。ホープの純粋な心に触れたボビーは、やがて自分が今すべきことに気づく。それは誰もが自由におしっこをする権利を求めて革命を起こすことであった。ペネロペを無視してトイレを開放し、また他のトイレの番人助手にもビラを配ってトイレの開放を扇動し、やがて街は大混乱。
しかしいよいよクラッドウェル社長と対峙した時、愛するホープは彼の愛娘だと知り…。
その時ボビーは?ホープは?公衆トイレの運命は??そして誰も知らないユーリンタウンとは一体どこなのか?話は意外な結末をもって幕を閉じる。
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【観劇記】
公衆便所ミュージカル!放尿シーン付き!!…そんなミュージカル、見たくないでしょう(笑)。でもそんな便所モノがトニー賞を取ってる理由も知りたいなぁ…と、俺は長らく見るべきか見ざるべきかで悩んでいました。しかしある日、開演10分前の劇場近くに偶然居合わせたことも何かの縁だと思い、チケット売り場に走ったのでした。
結果としては見てよかった!見逃さなくてよかった。新しい作品を見る見ないは、当然のことながら自分の直感で決めるわけですが、そういう意味では俺の直感も大したことないなぁ〜と今回もつくづく(笑)。
とにかくこのミュージカルはよく出来ている。まず物語の展開のさせ方が、本当に上手いなぁと感心しました。ストーリーは「市民への重圧→解放・自由」という図式で概ね進行していくのですが、決してハッピーエンドで幕を閉じない。物語の最後は、市民がトイレを自由に使えるようになりますが、それにより市民は新たな苦しみを背負います。また、罪を犯した者が送られるユーリンタウンという街がどんな場所なのかを後半まで明かさないのも、俺はワクワクさせられました。ま、期待しすぎたせいか、ユーリンタウンの正体がわかった時の感想は「微妙…」でしたけど(笑)。
音楽もよいです。冒頭で歌われるタイトル曲などはブレヒトの『三文オペラ』で味わったクルト・ワイルの音楽を連想するような、一見変わった旋律であったり。かと思えばゴスペル調の曲があったり、美しいバラードがあったり。ミュージカルとしては申し分の無いバリエーションで音楽が展開されます。
演出も楽しいものでした。客席の通路も舞台の一部とばかりに頻繁に役者が降りてきて芝居したり歌ったり。あんな頻繁に役者が客席に降りて来るミュージカルを見たことありません。もう、嫌でも作品に引き込まれます。演出面で楽しかったもうひとつは狂言回しのあり方。ストーリーの説明をするというより、『ユーリンタウン』というミュージカルそのものを説明する狂言回し。こんな狂言回しも見たことがない。そのほかにも衣装やメイク、松井るみさんの舞台装置もオリジナリティ溢れていて楽しかったです。本来シリアスな話なんだろうけど、それを最後まで感じさせず笑いと楽しさを以って見させてくれたのは、そうなるように細かく演出されていたからなんでしょうね。宮本亜門の演出って好きではなかったんですが、今回ばかりはアッパレでした。
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【キャスト】
南原清隆=ロックストック巡査
歌やダンス、芝居も含めてまぁまぁのレベル。狂言回し役でもあった今回、風変わりなミュージカルを、テレビ的な親しみやすさを持たせたのはこの人の芸だと思います。ナイス・キャスティングでしょう。
別所哲也=ボビー
前年の『レ・ミゼラブル』では、初めてジャン・バルジャン役を努めて余り良い評判を聞きませんでした。俺は彼の公演日に観ていないので、舞台で見るのはこれが初めて。確かにバルジャン役はしんどいだろうなぁと想像させる歌でした(笑)。もちろん下手ではありませんが。ボビー像を我々に伝えるだけの演技力はあったと思います。
マルシア=ペネロペ
上手い!歌の上手さは想像できたのですが、芝居も上手い。もともとそういう設定なのかマルシアが演じたからそう思えたのかはわかりませんが、ペネロペだけが妙にリアルな芝居で作品全体の中でひとつのアクセントになっていたと思います。
鈴木蘭蘭=ホープ
この人もとても良かった。見る前は「何故に鈴木蘭蘭?」と謎でしかなかったのですが、この人本来の持ち味を生かした演出がされていたためか上手くハマっていました。歌は上手くも聞こえたり下手にも聞こえたり、ちょっと不思議な感じ。ホープ役には最終場で美しいビッグナンバーが用意されているのですが、鈴木蘭蘭さんはかなりいっぱいいっぱいの状態で歌っていた感じです。
藤木孝=クラッドウェル
ミュージカルでも普通の芝居でもお馴染みの藤木さん。ベテランの味わいが我々に安心感を与えますね。それにこういうくせのある役どころは本当に上手い!
以上の他にも、大御所女優の荒井洸子さん、抜群の歌唱力を持つ安崎求さん、『ミス・サイゴン』で主演のキムを努めた入江加奈子さん、元劇団四季でダンスに定評のあった高谷あゆみさん、同じく元劇団四季で『ライオンキング』のシンバ役を務めていた原慎一郎さんたちが出演されており、『ユーリンタウン』のキャスティングの魅力を高めていたと思います。
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