『異国の丘』大阪公演
ブラボー!!佐渡寧子!


劇団四季に新風か?!
佐渡寧子・四季入りの謎…

 『異国の丘』大阪公演が始まりました。あの暗くて重く、そして難しい…三重苦のようなミュージカルです。俺の初見の感想は、「review」に書いてあるので参考にして下さい。今回はいちど見ているということもあって、さすがに「難しい」という苦は逃れましたが、それでもシベリア抑留の話は観る者の心に重くのしかかります。
 と、まぁ、そういう題材のミュージカルなんですが、今回はヒロイン役を射止めた佐渡寧子が演じることに見るべきポイントがあります。俺の印象では劇団四季のオリジナル・ミュージカルとストレート・プレイは、四季で純正培養されてきた役者が大きな役を務める印象があります。この作品も前回の主役は石丸幹二と保坂知寿。どちらも看板の俳優であり女優です。二代目を引き継ぐとしても、同様に“四季らしい役者”でなければあり得ないと思ってました。輸入モノのミュージカルと違って、オリジナルで作り上げた大作は、浅利慶太氏の思い入れ度が違うだろうし…と。輸入モノミュージカルだって、例えば『マンマ・ミーア!』。大々的にオーディションまで開催して、キャスト発表の会見までやったのに、合格者として発表されたサム役の狩人のお兄ちゃんや、ソフィー役の吉沢梨絵ちゃんなどは、一体どうなっているのか…。ソフィー役なんて、最初に名前のなかった花ちゃんが演じているわけで…。話は逸れましたが今回は、東宝ミュージカルで活躍していたポッと出の女優が、いきなりこんな大役の二代目を引き継ぐことに俺は驚いてしまったのでした。

 さて、佐渡寧子。メイクのせいなのか初めから顔立ちが似ているのか、彼女が演じる愛玲も保坂知寿が演じる愛玲も、見た目は同じ。しかし歌と芝居が違います。保坂知寿の愛玲は、それはそれで完成されたものではあるのですが、ナンと言うか、「四季そのもの」って感じがしちゃうのですね。ついでに言うと、保坂知寿のハマリ役を引き継ぐ二代目は、なぜか保坂知寿化していく不思議が拭えません。例えば『夢から醒めた夢』のピコ役・樋口麻美、『クレイジー・フォー・ユー』のポリー役・濱田めぐみ。ところが二代目愛玲役・佐渡寧子は違ったのです。保坂さんほどには抑揚の差が大きくない芝居、クラシックの歌唱を基本とした歌。見た目は同じでも、芝居と歌が違えば、随分印象が違うものです。ましてや愛玲役のように露出が多い役がそういうことであると、作品全体の印象も変わってくることにも気づかされました。
 保坂愛玲と佐渡愛玲、どちらがいいのか?というと、これはまったく個人の好みだと思いますが、俺は断然に佐渡愛玲です。理由は簡単。四季くさくないから。この人ひとりのおかげで、四季のエッセンスを集結したようなオリジナル・ミュージカルが、とても新鮮に観ることが出来たのでした。もちろん四季が好きで観に行ってるのだから、四季くさくて結構なんですけど、違う味付けのものを見たくなるのも人情でしょう。四季のオリジナル・ミュージカルに関して、俺と似た意見を持っている人には、『異国の丘』大阪公演はかなりオススメです。

 ところで余談ですが…。佐渡寧子が四季に入ったという話は、去年の9月頃にある人から聞きました。聞けば疑問に思うのは、それまでは東宝ミュージカルの大役を務めてきた彼女が、なぜに四季に?ということ。事実関係は知らない…ということを強調した上に詳細は伏せて書くと、彼女が出演していた東宝の舞台で何やらあったとかなかったとか。以来、お呼びがかからなくなってしまったとか。それが事実ならば、もちろん彼女に責任がある話ではないのです。話してくれた人も「佐渡ちゃん可愛そうだったから、四季に入れてよかったよ」と感想を漏らしていました。
 俺はあくまでも人づてに聞いた話だから俺の中では噂の域を越えないのですが、実力あるのに気の毒な女優を四季に入れてヒロインを演じさせる…という図式は、これまでにもありました。大平敦子さんが記憶に新しいですよね。宝塚歌劇団にいた彼女(当時の芸名は“千紘れいか”)は、実力派と言われながらも大した役も貰えず不遇に過ごしていた。そして四季に入団するや、いきなりライオン・キングのヒロインに抜擢。しかもそんな裏話を会報誌に記事として書いてしまうのは、外部団体へのアテツケでしょうか…。大平さんの前には濱田めぐみの音楽座時代の不遇さを記事として掲載していたこともありましたっけ…。四季の会報誌に書かれていることは事実だろうし、そう考えると佐渡さんの話も「さもありなん」と思ってしまうのですが、どうでしょう。


「佐渡寧子」
フェリスの声楽を卒業後、二期会に所属。クラシック歌手を目指していたところ、『ファンタスティック』のオーディションを受け主役を射止める。その後は『レ・ミゼラブル』のコゼット、『回転木馬』のキャリー、『王様と私』のタプチムと、東宝ミュージカルの大役を務めてきた女優です。いつ見ても美しい立ち姿、品のある顔立ち、そしてナンと言っても彼女の最大の魅力は心に染み入るソプラノ。舞台を見ていても、佐渡さんのソロナンバーのシーンを俺などは心待ちにしたものです。