この冬に観た2本の芝居![]() ![]() ミュージカルが続くとストレートプレイ(普通の芝居)も見たくなるもので、この冬に2本の舞台を観ました。ただストレートプレイと言っても今回観たものは、ややミュージカルテイストもあるような作品。1本は吉川徹演出、愛華みれ主演の『ゴースト』。吉川さんはミュージカル・ファンには『キス・ミー、ケイト』や『レント』などでお馴染み。愛華みれは言うまでもなく、宝塚の元トップスターです。 ストーリーは大ヒット映画と同じ。結婚を誓い合ったカップルの男が、ある事件にからんで殺される。残された彼女は、その事件がらみで危機に晒されるが、男が幽霊となって救うというアレです。今回は女(モリー)を愛華みれが、男(サム)を沢村一樹が演じました。沢村一樹は初舞台ということもあって新鮮味はあるものの、芝居はまるでダメ。愛華みれはさすがの存在感ではあるものの、淡々とした演技で何も伝わらず。「すみません、あなたたちプロの役者ですか?」といった具合。と、まぁ骨格部分はなっていないのですが、素晴らしいところもありました。ひとつはオダ・メイというインチキ霊媒師。映画ではウーピー・ゴールドバーグが演じて評判でしたね。今回の舞台は佐藤オリエが演じました。「佐藤オリエがオダ・メイ?キャラ違いでは?」と俺などは思ってたのですが、これが笑わせてくれる。ベテラン女優の成せる技でしょうか、とにかくオダ・メイそのもの。ウーピーの芝居をパクるわけでもなく、まったくオリジナルな日本人オダ・メイ。こういう発見は「劇場まで足を運んでよかった」と思わせる何よりの収穫です。さてもうひとつ素晴らしかったと思えたのは、舞台美術。何せ幽霊の話ですから、映画で観たあのシーンやこのシーンをどう見せるのかに期待しちゃいます。結果としては、部屋の中で物が勝手に動くシーンも、地下鉄で幽霊同士が言い合うシーンも、舞台でも完璧に「超常現象」として見せてくれたのでした。ひとつひとつ丁寧に見ていくと、これといって目新しい仕掛けはないのですが、その分アイデアが豊富で“ゴースト・ショー”でも見てるかのよう。期待以上のものがありましたね。 と、まぁ、素晴らしいところもあるのですが、誰もそれを目当てにチケットを買うわけではありません。まずは話の骨格を成す主役ふたりが「金を取るに相応しい芝居」を見せること。『ゴースト』の感想はこのひとことに尽きるのでした。 『ゴースト』のように1000人前後の劇場で、テレビや舞台の人気俳優を得て上演される芝居というものが最近多いように思えます。しかし役者の名前でチケット買わせてるだけというかナンと言うか、チケット料金と中身が合っていないケースがままあります。一方500人程度の劇場でこじんまりと上演される“小劇場モノ”(俺はミュージカルにハマるまでは小劇場マニアだったのです、実は)。こちらのタイプの舞台は最近とんとご無沙汰だったのですが、この冬にいい出会いがありました。昨年12月に新宿のスペース・ゼロで上演された自転車キンクリートSTORE『ダイアナ牧師の大穴』。出演者は女優のみ6人という小ぶりな演目。こちらは期待以上の出来映えでした。 物語の舞台は小さな田舎町にある潰れかけの教会。真面目な牧師さん、日常に不満を持ちながらも平和な主婦たち、そこに突如訪れる女勝負師が絡んでいって、とんでもなく楽しい、そしてほのぼのとしたストーリーを展開してくれます。そもそも教会を舞台にして競馬の話というのが不謹慎なんだが、実はこの作品は“讃美歌ミュージカル”と銘打ってて、讃美歌を勝手に替え歌にして歌うのだから困ったもの(笑)。プログラムの中で演出の鈴木裕美は「大作ミュージカルではなく、みみっちぃミュージカルを作りたい。あったま悪〜!ってツッコミが入るようなミュージカル」と語っているが、どんなんやねん(笑)。荘厳な讃美歌のメロディーに乗せて歌われてる歌詞は、競馬の言葉やなんだとメロディーからは最も遠いところに存在するものばかり。演出家の望む通り「あったま悪〜」というツッコミを入れたくなるものの、実はかなり高等な笑いであることを見せつけられました。役者たちは池田有希子を除き歌える者はひとりとしておらず、それがまたいい味わい。普通程度の歌唱力の女優たちがバカっぽい歌詞で讃美歌の替え歌を朗々と歌う。しかも曲によったら昔のアイドルのようなフリまでついてるから手におえない…そんな感じ(笑)。敢えて馬鹿馬鹿しく見せる技というか、B級感のようなものがこれほどまでに楽しいとは知りませんでした。これはかなりのオススメですよ。この演目を見かけたら、チケットは即買いデス。 小劇場モノも侮っていたらヤバイっすね(笑)。 ![]() |