天使は瞳を閉じて

作・演出・作詞=鴻上尚史
作曲=杏里、GAKU-MC、岸谷香、
木根尚登、TAKE、TAKUYA、デーモン
小暮閣下、中西圭三、山本恭司、高橋幸宏
美術=松井るみ

ルビ吉観劇記録=2003年(大阪)
【このミュージカルについて】
1988年の初演以来、何度も上演されてきた第三舞台の人気演目『天使は瞳を閉じて』。今回はそのミュージカル版にリメイクしての上演。鴻上尚史がミュージカルを初めて手がけるということが話題に。

【物語】
 もうほとんど人類は残っていない地球。そんな地球を天使たちが見守っている。天使には“受け持ち地区”というのがあって、天使1と天使2が見守る地区にはタヌキとか亀しかいない。ある日、天使2は透明な壁に覆われた不思議な街を発見。街ではまさに人間が結婚式を挙げている最中。新郎新婦の幸せそうな顔に惹かれ、天使2は「今日から人間になる」と言い、人間界に溶け込んでしまう。
 ところで街を覆う透明の壁は、放射能から人間を守るために存在しているらしい。しかし人間はその壁を壊すことに、今日も懸命だ…。
【観劇記】
今でこそミュージカル観劇が中心な俺ですが、以前は小劇場にハマっている時期がありました。新感線、青い鳥、そとばこまち、南河内万歳一座などなど。中でも熱心に観たのは鴻上尚史さん率いる第三舞台でした。もう何本観たのかもわからないほど観まくってました。この『天使は瞳を閉じて』も3,4回は見ていると思います。物語はあってないような作風なんですが、それでも伝わってくるメッセージに酔いしれていた自分がそこにいたと思います。

そして初演から15年という歳月を経て、『天使は瞳を閉じて』はミュージカルとして俺の前に現われました。興味津々ではあるものの、見ない方が良いのでは?という漠然とした予感の狭間で気持ちは揺れましたが、結局観に行ったのです。結論から言うと、「観なきゃよかった」。ミュージカルとしても中途半端、芝居としても中途半端。鴻上さんの初ミュージカルは惨憺たる結果に終わった…としか俺には思えませんでした。俺が思うイチバンの敗因は、ミュージカルの題材として選んだ本(作品)が間違い。難しいことはわかりませんが、演出だとか音楽だとか言う以前に、そもそも『天使は瞳を閉じて』という本がミュージカルに馴染まないんじゃないか?と思います。それゆえに「突然歌が始まったり、突然踊りだしたり、なんだか変」といった、アンチ・ミュージカル派の人がよく言う感想を、ミュージカル好きの俺でも感じるところとなりました。

それでもこのミュージカルに救いがあったとすれば、ひとつは音楽でしょう。杏里や木根尚登たちの作った曲は、ミュージカル・ナンバーとしての聞き応えがありました。また断片的ではあるものの、そのシーンを盛り立てるものでもありました。複数のアーティストが作っているのに、いずれの曲も同じテイストを持ち合わせているのは不思議でありお見事。音楽の良さ以外では、色んなジャンルの役者をキャスティングしたことが見ていて飽きさせない役割を果たしていたように感じます。天野ひろゆき、純名りさ、辺見えみり、橋本さとし、大高洋夫というジャンルの違う役者たち。この“組み合わせの妙”は見る側の期待感のようなものを刺激し、寒いミュージカルを観賞する上ではせめてもの救いでした。

役者の感想としては、まず天使1を努めた「天野ひろゆき」に感心。芝居のセンスも伺えたし、歌唱力もある。そして、ナンと言っても彼は声がいいですね。見た目に個性的ですしダンスは厳しいでしょうから「役柄さえ合えば」という条件付ですが、ミュージカルでは大いにアリな人材だと思います。また、天使2を演じた「純名りさ」は歌の上手さが際立っていました。純粋無垢な天使2のキャラも、上手く演じきっていたと思います。他にはダンスの上手さで群を抜いていた「風花舞」が印象に残りました。

モドル