タンビエットの唄
〜美しい別れ〜

原案・演出・振付=謝珠栄
脚本=わかぎえふ
音楽=玉麻尚一
作詞=謝玉栄、大谷美智浩、玉麻尚一

ルビ吉観劇記録=2004年4月(東京)
【このミュージカルについて】
ミュージカル制作に意欲的な謝玉栄(しゃ・たまえ)が主宰するTSミュージカル・ファンデーションの新作。ベトナム戦争を題材にとった社会派作品。

【物語】
 ティエン(土居裕子)とフェイ(愛華みれ)姉妹の両親は、ベトナム戦争で虐殺される。親を失った姉妹は、南ベトナム解放民族戦線の5人の兵士に助けられるが、妹のフェイはアメリカ軍の残虐行為を世界に知らしめるためイギリスに渡る。
 フェイがベトナムに戻って来たのはそれから20年後の1991年。彼女がベトナムですべきことは、まず連絡の途切れていた姉ティエンを探すこと。しかしドイモイ政策の始まったベトナムはすっかり様変わりし、フェイは途方に暮れる。そこで偶然出会ったのが、
かつて自分たちを助けてくれた5人の兵士のひとりであり、今はシクロの運転手をしているトアン(畠中洋)であった。トアンをきっかけに残り4人の元兵士たちとも連絡を取り始めるが、姉の消息はつかめない。そしてフェイは、姉の悲惨で壮絶なその後の人生を知ることになり、やがて絶望の淵に追いやられてしまうが…。
【観劇記】
 土居裕子の歌が聞きたくて観に行ったミュージカルですが、堪能できたのは土居さんの歌だけかも。タイトル曲の「タン・ビエットの唄」は楽曲も美しく、土居さんの澄んだソプラノで聞くとなお美しい。まぁ、この1曲のために入場料は支払ったという感じでしょう。
 作品のテーマはベトナム戦争の悲惨さを訴えたというよりは、戦争そのものの理不尽さを謳っていて、それはそれで胸に強く迫るものがありました。しかしベトナム戦争についてあまり明るくない者にとっては、あまりにもベトナム戦争の情報が多すぎて、頭がパンクしそうになったのでした。また1991年のベトナムと20年前のベトナムのシーンが交互に演じられるため、それも見終わった後に考えてみれば、感情移入の妨げとなっていたように思います。やはり核となる場面はじっくりと見せるように作ってくれないと、「感動した!」という満足感は味わえませんね。

 土居さんは歌が圧倒的で他の役者より頭ひとつ抜きん出ています。最初に書いたように、この人の歌で持っているミュージカルだと思いました。愛華みれさんは今回、難しい役どころだと思いますが、フェイという人物像があまり見えて来ず。世田谷パブリックシアターという中規模の劇場での愛華さんは、タカラヅカのトップスターらしい華やかさとデカさばかりが目だっていたように思い、適役だったのかどうかの疑問が残ったのでした。

モドル