スウィート・チャリティ
脚本:ニール・サイモン
作曲:サイ・コールマン
作詞:ドロシー・フィールズ
演出・振付:川崎悦子
ルビ吉観劇記録=1993年(神戸)、
2006年(東京、大阪)
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【このミュージカルについて】
イタリアの名匠フェデリコ・フェリーニ監督の『カリビアの夜』を原作に、ダンサーにして振付・演出家のボブ・フォッシーが『スウィート・チャリティ』を作り上げたのが1966年。3年後にはシャーリー・マクレーンを主演に映画化もされている。フォッシー・スタイルと呼ばれる、彼独特のダンスが随所に散りばめられた作品だが、今回はそれを原案として川崎悦子がオリジナルで振付をしている。
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【物語】
チャリティは場末のダンス・ホールに勤めるホステス。お人よしが過ぎて、男にいいようにカモにされるのが常。そしていつもホステス仲間のニッキーやヘレンに慰められている。しかしある日「こんな店にいつまでもいるわけにはいかない。私にはもっと別の仕事があるはず」と職業斡旋所に出かける。そこで“自己啓発セミナー”に来ていた、閉所恐怖症の男・オスカーと共にエレベーターに閉じ込められてしまうのであった。
暗闇の中で支えとなってくれたチャリティに恋をしてしまうオスカー。女性経験もほとんどなく、いまひとつ冴えない男だが、自分に一生懸命になってくれるオスカーにチャリティもやがて彼を好きになっていく。ふたりは日増しにいい関係になっていき、チャリティの幸せは目前。しかしここには問題があった。オスカーはチャリティの職業を知らないのだ。真面目でオクテなオスカーが、チャリティの仕事や過去を知ったら…。
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【観劇記】
ミュージカルそのものも素晴らしいのだが、ニール・サイモンの本が本当によく出来ている。チャリティにとって決してハッピー・エンドで終わらないにもかかわらず、ほのぼのと心を暖かくしてくれるし気持ちを前向きにさせてくれるのは、ひとえにニール・サイモンの優しさが溢れる本のおかげだろう。そして彼の本はコメデイのセンスも抜群。チャリティを取り巻く登場人物だけ見ても、笑いが期待出来てしまおうかというものだ。薄暗い店でしか勝負できなくなった年長ホステスのニッキーとヘレン。小うるさくケチなダンスホールのオーナー、ハーマン。かつてはスターだったが今はパッとしない役者、ヴィットリオ。そして閉所恐怖症で真面目な男、オスカー。人気ランキング7位の怪しげな宗教団体の教祖までも出てくる。彼らがチャリティを取り巻き、時には密接に関わりながら、笑いと優しさ溢れるシーンを紡ぎだしてくれるのがニール・サイモンが描く『スウィート・チャリティ』なのだ。
さて2006年版の『スウィート・チャリティ』は、タイトルロールに玉置成実を迎え溌剌としてフレッシュな舞台に仕上がっていた。おそらくチャリティの本来の役柄は30才前後の女性で、それほど可愛くもないがキャラクター勝負で愛されるホステスといったところのはず。しかし玉置成実は18才とめちゃくちゃ若い上に美人で可愛い。とても本来のチャリティ役を演じられるわけがない。それでも一気に演じきったのは彼女の溌剌とした明るさが、チャリティのキャラクターとうまく重なったからだろう。俺の知る『スウィート・チャリティ』とは正直なところ別物の作品になっていたが、観劇後に残る印象はどちらも同じという不思議な結果であった。
玉置成実は初の舞台出演ということらしい。にも拘らず、実に堂々とした舞台パフォーマンス。華も存在感もたいしたもの。また、ミュージカルとしては荒削りな感もあるが歌とダンスの上手さにも驚かされた。新聞などでは「新しいミュージカル・スターの誕生」と絶賛する批評も出たが、まったく同感である。
脇を固める役者も良かった。特筆はオスカー役の岡田浩暉。エレベーターに閉じ込められた時の混乱振りや、チャリティと一緒に過ごしている時のはしゃぎ方などを実に上手く演じていたし、笑わせるところは十分に笑わせてくれた。玉置成実との並びも絵になっていた。場末感たっぷりのオバハンホステス・ニッキーとヘレンは樹里咲穂と初風緑が努めた。どちらも宝塚の男役スターだったそうで、身長が高い。その背の高さがこれまた“売れないだろうなぁ、このホステス”といった印象に哀愁までも高め、役柄としてはピッタリ。チャリティとのバランスもよく、彼女の良き姉さんたちといった存在感は物語後半で生きてくる。ダンスはさすがの上手さ。今回ひときわ濃い目の役柄をふたつ演じたのは石井一孝。ヴィットリオ、そして怪しげな宗教団体の教祖ダディ、どちらも好演。この人のこんなはじけた役は初めて見たが、案外似合っている。
作品の魅力に加え、今回はキャスティングの素晴らしさ(妙と言うべきか?)、そしてサイケ調の舞台美術も目に新しく、俺的にはかなり評価の高い『スウィート・チャリティ』であった。早くも同じメンバーでの再演が待ち遠しい。
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