SHIROH

作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
音楽:岡崎 司
作詞:デーモン小暮閣下、山野英明、中島かずき
いのうえひでのり

ルビ吉観劇記録=2005年(大阪)

【このミュージカルについて】
 劇団☆新感線はこれまで“なんちゃってミュージカル(いのうえ氏談)”を何本か上演してきたが、ミュージカルを真正面から捉えて制作したのがこの『SHIROH』。そしてこれは、帝劇や梅田コマ劇場といった大劇場を縦横無尽に使ったスペクタルなロックミュージカルとして仕上がった。
 天草四郎、島原の乱といった歴史上の人物や史実をモチーフにした物語だが、これはいのうえ氏の十年来の構想だという。
【物語】
 三代将軍家光の世。島原の民衆は圧政とキリシタン弾圧に苦しめられていた。人々は、奇跡の力を持つ益田四郎時貞(上川隆也)を救世主として崇めるが、青年となった彼にはもはや奇跡の能力など存在しなかった。隠れキリシタンの集会で、父や姉たちにまで挙兵を促され、四郎はひとり苦悩する。一方天草の入り江には異人の子たちと難破船で気楽に暮らしている、もうひとりのシロー(中川晃教)がいた。彼は人の心を動かす不思議な歌声を持っていた。彼の声に惹かれた女・お蜜(秋山菜津子)は、「苦しめられている民衆のために、その歌声を使う気はないか」とシローに声をかける。しかしこの女こそ、老中・松平伊豆守信綱(江守徹)の送った密偵であった。

 すべては信綱の描いた青写真と知らず、やがて四郎とシローは出会う。そして三万七千の民衆を従えたキリシタン反乱軍として反旗を翻すが…。

【観劇記】
 まずひとこと言いたいのは、長い!3時間45分の上演時間はあまりにも長すぎる。しかし決して無駄に長いわけではない。物語の要素が多過ぎるのである。それゆえストーリーの壮大さは感じられるものの、肝心なテーマがぼやけてしまったのでは満足感が得られない。ストーリーを追いかけるのに必死にならされるのも、ミュージカルの場合は困りものだ。楽曲にも同様のことが言えて、やたらと曲数が多い。後でプログラムを見るとなんと46曲もあるではないか。多彩な音楽を制作した岡崎司氏の才能には驚かされるが、バラエティに富んだ46曲を聴かされたら、逆に見終わった後に1曲たりとも覚えていないのである。これでは勿体無い。

 と、まぁ、不満から書かざるを得ないのが今回の正直な感想なのだが、見どころも多かった。自分は劇団☆新感線の活劇テイストが好きなのだが、特に今回は大舞台で繰り広げられる芝居であったため、その楽しさも倍増。島原の乱をモチーフにした芝居というのも新鮮で興味深いものがあった。そして適確なキャスティングも見事としか言いようがない。これだけ役柄と俳優がうまく合っているのは、最近では出色ではなかろうか?
 まずシローは、人の心を動かす力を持っている声という設定だが、中川晃教の歌声は正にそのもの。中川氏のルックスも、出生の知れぬシローを演じるにはピッタリ。
益田四郎時貞は上演中のほとんどを苦悩しているわけだが、上川隆也はそつなくそれを表現していた。苦悩が似合う顔立ちとでも言うべきか。ついでに上川氏は剣さばきも鮮やかで驚かされた。
 あまりにも下手な歌には椅子から転げ落ちたが、江守徹の老中としての存在感、声の重量感は格別。舞台が締まった。女優では秋山菜津子が頭ひとつ抜きん出ていた。彼女は特にスタイルの良さから来る動きの美しさに目を見張るものがある。堂々としていてしなやかな動きは密偵とは思えないが(笑)、舞台に確かな存在感と華やかさを残した。歌も上手い。舞台のストーリーテラーであり、闇市の女元締めにして南蛮絵師の寿庵・高橋由美子は、今回もこうしたややこしい役どころではその才能を発揮。
高田聖子
、歌手の杏子も好演。四郎とシローの目にしか見えないというリオを演じた大塚ちひろ。今ひとつ釈然としない役どころではあったが、澄んだ美しい歌声は、他の役とは違いそこに存在しない人間であることをうまく表現していたように思う。

 テーマや物語は興味深いものだし、音楽も悪くない。キャスティングの素晴らしさは上に長々と書いた通り。構成し直してくれるのなら、実に再演が楽しみな作品だ。

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