三人吉三東青春

さんにんきちざえどのあかつき


原作=鈴木輝一郎
脚本・演出=松村 武

ルビ吉観劇記録=2003年(東京)
【この芝居について】
“カムカムミニキーナ”の松村さんが明治座で芝居を作ると聞いて、俺は興味津々。
いわゆる小劇場・小劇団の人が、明治座というおよそ似つかわしくない老舗劇場で芝居をするってどんなんだろう?と思い始めたら、居ても立っても居られなくなって劇場に飛び込んだのでした。

『三人吉三』は歌舞伎の名作。それをモチーフに大胆なアレンジを加えた鈴木氏の
原作『三人吉三〜明日も同じたぁつまるめぇ〜』の舞台化というのも興味をそそります。

【物語】
吉原の煙管屋の娘おきち(絵麻緒ゆう)は、指の先から火を起こすことができるという奇妙な体質。しかしそれがゆえに、父親に見世物として商売に利用され、明日への夢も希望も持てない。旗本の息子・御坊修三郎吉光(高橋和也)は、男として何か成し遂げたいと悶々と暮らしている。生臭坊主で遊び人風情の吉兆(近藤正臣)は物書きの腕は持ってるも、書くネタがなくて困っている。そしてある日、この三人は出会ってしまった。

時は元禄。江戸の町は平和ながらも退屈と倦怠が蔓延していた。そして“生類憐みの令”と、度重なる大火事に悩まされていた。
吉兆はおきちと修三郎にある話を持ち寄る。おきちの火炎の術によりあちこちで火事を起こさせ、幕府の防火体制の不備をつく。また修三郎に犬を斬りまくらせ、“生類憐みの令”に反発する。吉兆の企みはそれらを書きとめ、庶民に広めることで、退屈なこの世をあおろうというものであった。

「明日も同じたぁつまるめぇ!」
三人は意気投合。かくして三人吉三が誕生!
あちこちで火災が発生し、犬の死体が散乱。
退屈していた江戸の庶民たちは、この三人吉三の話題で大騒ぎ。

三人吉三の騒動に終わりはあるのか?
そして三人吉三に明日はあるのか?!
【観劇記】
行って参りました、明治座。若い俺には縁のない劇場かと思ってたんですけどね(笑)。

威風堂々とした建物。のぼりなども“らしく”ていい。創業は1873年だそうです。まさしく老舗劇場ですね。大阪の新歌舞伎座や梅田コマ劇場、東京の帝劇なんかも老舗劇場だと言えるわけですが、ココはなんだか独特の趣があります。場所も人形町という下町風情の所だし。老舗と言っても、現在の建物は平成5年に再建したもの。外も内も新しい感じが残ってました。

さて、舞台。これはまさに青春モノ時代劇版です。しかしこれが新鮮で面白かった。
まずはストーリーが秀逸。指の先から火を起こすという奇想天外さ、生類憐みの令の下での犬斬りという小気味よさ。江戸の庶民ならずとも三人吉三の次の展開が気になるというものです。ストーリーの秀逸さは物語の終幕近くでも感じました。やがておきちは火を起こすことが出来なくなり、また修三郎は犬を斬れなくなってしまうのですが、そうなってしまった理由が素晴らしい。ネタバレになるから具体的な内容表記は控えますが、俺はちょっぴり感動しました。

脚本、演出の良さも際立ってました。青春モノは下手すると青臭さが鼻に付きます。しかし『三人吉三』はそうなる手前で、特に小劇場系の若手俳優により、笑いの場面へと転化してくれます。三時間十分の公演時間を飽きさせずに見させるのは、テンポの良さと、こうした緩急のつけ方が上手いのだと思いました。
ストーリーを読んで、どう舞台化するのだろう?と興味をそそるのが、おきちの火炎の術。これに関する演出は何通りも用意されているんですが、どれも上手い。イチバン最初などは本当に絵麻緒さんの指から炎が出て、ビックリしました。その後も舞台は消防法との戦いとばかりに、火事シーンが繰り広げられます。必ずしも「火」を使うわけではないけれど、本当に火事っぽかったし美しかった。一方修三郎の犬斬りは驚く類のものではありませんが、笑わせてくれます。明治座の舞台機構(花道、セリ、盆など)をフルに使い、またスペース的に舞台を目一杯使っていたことも、こういう芝居では目新しい感じがします。ただ大きなセットもない中で舞台をフルに使っているせいか、ガラーンと散漫な印象を与える場面もあったのは仕方ないというか残念。

ストーリーだ演出だと言っても演じる役者に表現力がなければ、なにも見えません。しかし松村さんは実にいい役者を揃えたものだと感心しました。元タカラジェンヌ、元ジャニーズ、大物俳優に小劇場の若手俳優、スタジオライフのイケメントリオ。ありとあらゆるところから集められた役者陣は、見るものを飽きさせません。

【役者の感想】
絵麻緒ゆう=お嬢おきち

俺の今回の注目は絵麻緒ゆう。初めて見たのですが、本当に姿が美しい。
タカラヅカでトップを張った女優さんを最近見直しつつある俺ですが、絵麻緒さんを見て「やっぱりトップスターは違う!」。彼女たちは、舞台での所作に独特の折り目があるように思います。手の動き、体のラインの作り方、決めのポーズ…いずれも隙がない。顔が美しいのみならず、舞台映えする姿の美しさがあります。絵麻緒さんは役柄とも相まって、本当にかっこよかったですね。

高橋和也=御坊修三郎吉光
男闘呼組の面々も一体いくつになったんでしょうね。高橋和也、若々しくてびっくりです。青春前期にある、心が空白な青年像を見事に演じていました。

近藤正臣=吉兆
いつもの「こんどぉ〜です」って感じ。ベテランだし、上手いし、俺が今更あーだこーだと書くこともなし。

毬谷友子=シノ
もう1人のタカラヅカ出身女優と言えば、毬谷友子。クセのある芝居に長けた女優という印象がありましたが、今回もいい味を出しまくり。やはり芝居が上手いんでしょうね。演出家の意図まではわかりませんが、少なくとも見る側が望む芝居を見せてくれました。彼女が演じるシノの人物像は、男気の強い、キップのいい女。毬谷さんは見ていて気持ちがいいくらい、サバサバした女を見せてくれました。

他にも萩原流行さん、深沢敦さん、青山良彦さん、そして超大物俳優の北村和夫さんなど、芸達者な役者さんたちでした。

モドル