レント

作詞・作曲・脚本:ジョナサン・ラーソン
演出:エリカ・シュミット

ルビ吉観劇記録=1998年(大阪) 2008年(東京)
【観劇記】
 1998年に初めて見た時は、宇都宮隆や藤重政孝、坪倉唯子、森川美穂といったミュージシャンたちがミュージカルに出演するというもの珍しさと、とにかくブロードウェイで大ヒットしている演目だということだけで見に行った。しかし感想は「???」。正直なところ作品のテーマも感じられないまま幕が閉じたことを記憶している。
 このミュージカルは、家賃(レント)の支払いにも事欠く貧困や蔓延しつつあるエイズと闘いながら、愛に目覚め、生きる希望を取り戻していく若者たちの姿を描いている。最初に見た時から10年経った2008年、新キャスト、新演出で観劇したが、やはり彼らの姿に何かを共感することは難しかった。ただ不思議なのは、何か崇高でピュアなものを見せられた気がする。それは舞台から発する強い光のようなもので、言葉ではうまく語れない何かなのである。

 『レント』には二幕はじめに歌われる「Seasons of Love」という大ヒット曲があり、自分も普段から様々なアーティストが歌っているものをよく聞いている。しかし今回は歌が抜群に上手い役者を揃えたこともあり、今まで聞いたどの「Seasons of Love」より素晴らしい出来栄えであった。聞いているだけで鳥肌が立った。
 役者は森山未来米倉利紀田中ロウマ白川侑二朗安崎求田村雄一の6人以外は初めて見るキャストであったが、全17人、実に歌の上手い人で揃えられたものだと感心した。いずれも甲乙つけがたいが、やはり本業が歌手である人たちの歌は個性を感じさせ、群像劇である『レント』を盛り上げた。中でもジョアンヌ役のSHIHOは、本業はジャズ・ヴォーカリストらしいが、彼女の歌には強く惹きつけられた。上で書いた「崇高でピュアなもの」は、もしかしたら彼らの歌のチカラによる何かなのかもしれない。

 話は逸れるが、劇団四季をはじめ、ミュージカルを本業とする役者にも歌の上手い人は多数存在する。そして彼らはミュージカルという形式に則ってその上手さを発揮してくれる。もちろん俺としてはそこが大前提なのだが、わがままなもので、時としてみんな同じような声で同じような歌い方…そんな風に退屈することもある。今回の『レント』は全キャストがオーディションによって選ばれたというが、他の作品も幅広いジャンルから新しい可能性を持った役者をどんどん登用してほしいと観劇後にふと思った。

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