モダン・ミリー

演出・振付:ジョーイ・マクニーリー
脚本:・リチャード・モーリス、ディック・スキャンラン
音楽:ジャニーン・テソリ
作詞:ディック・スキャラン
※タイトル曲のみサミー・カーン作詞、ジミー・バン・
ヒューゼン

ルビ吉観劇記録=2007年(東京)
【観劇記】
 もう20年くらい前に深夜映画でこの作品を観た。ジュリー・アンドリュース主演で、『ベイビー・フェイス』などのスタンダード・ナンバーも楽しいミュージカル映画であった。そのころ俺はまだミュージカルに関心などなかったが、この映画のサウンドトラックが欲しくて東京中を探し回った。インターネットもまだない時代にマメに情報を収集し、やっとの思いで手に入れたCDは今も貴重な一枚だ。それから10数年。映画の記憶も薄れつつある頃、ブロードウェイでこの映画が舞台化されたと聞いた。残念ながら見る機会は得なかったが、ネットでサントラだけは購入。しかし舞台は映画の音楽をほとんど使わず、舞台用に作られたオリジナル曲で構成されていたため、懐かしさに浸ることもなく、CDは棚の奥にしまわれる一枚となってしまった。
 今年の冬、『モダン・ミリー』の日本公演が発表された。音楽こそ映画と違えども、ストーリーはほぼ一緒である(厳密には違う)。あの楽しい映画がどうやって舞台化されるのか興味は尽きない。そして20年の歳月を超え、待ちに待った観劇の日が訪れたのである。

 間違いなく楽しい舞台であった。この作品のキーでもある“1920年代のおしゃれなアメリカ”も演出されていたし、映画版とは違うオリジナル曲も悪くはない。しかし何かが少しだけ足りないと思わせるのである。なんだろうか。たぶんそれは妙にこじんまりとまとまっていたことだと思う。華やかさもダイナミックさも少し足りない。主演女優も全編出ずっぱりという大役の割には、スター性にやや欠ける。つまりビジュアル的な部分が物足らないのだ。新国立劇場中ホールなどではなく、出来れば帝劇くらいの大きな舞台で、役者の数も多めにドカーンと派手にやる方が、この作品の良さがもっと引き立つように思った。特に舞台美術はもう少し工夫の欲しいところだと思った。特に、タップを踏まないと動かないという設定のエレベーターは、ミュージカル冒頭の見せ場のひとつである。しかし今回は舞台装置として、何ら用意されておらず残念。ビジュアル部分で評価できるところがあるとすれば、衣装。ブロードウェイ版のオリジナルを使っているということなので、そこはさすがといった感じであった。

 主演女優のスター性に少し欠けると書いたが、出演者は芸達者が揃っていた。主演の紫吹淳はエルネギッシュなステージ・パフォーマンスに好感が持てた。歌は難アリだが、ダンスは素晴らしい。芝居も、ミリーのキャラクターを上手く伝えていたと思う。
今陽子前田美波里の上手さは、俺などが語るまでもなく素晴らしい。さすがである。そして今回感心したのは樹里咲穂。『スウィート・チャリティ』で初めて観た女優だが、あの時は“場末の年増の売れないホステス”役。宝塚の男役出身だから、やはりこういう役は上手くこなすなぁくらいに思っていたが、今回は世間知らずのお嬢様役。まるで正反対の役である。観る前はミス・キャストかとも思ったが、とんでもない。見事に演じていた。歌などもハイ・トーンの曲を難なくこなし、驚かされた。なかなか底の深い女優である。あとミリーが最初に働く会社のお局様的存在のミス・フラナリーを演じた高谷あゆみ。コメディ・リリーフとしての役柄だが、やはりこの人は上手い。かつては『レ・ミゼラブル』のテナルディエの妻も務めた女優である。その後は大役につかないのが不思議だが、高谷あゆみがコメディ・パートを務めると大抵おもしろい。今回も全身全霊で観客を笑わせてくれた。男性陣は川崎麻世岡幸二郎と濃い目のふたりがメインであったが、余り印象に残っていない。『モダン・ミリー』という作品自体が、オンナたちの話なので仕方あるまいというところか。

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