![]()
|
|
【このミュージカルについて】 1862年、イギリスの夫人がタイ王室に現れました。名前はアンナ・レオノウエンズ。当時28歳の未亡人でした。その日から5年間、彼女はラーマ4世モンクット王の子供達の教育に専念しました。当時のタイは、大変な状況下。西欧勢力の進出により近隣国が次々と侵略されていくなか、タイにもその悪魔の影は忍び寄っていたのです。モンクット王の政策は、タイを近代化させることによりその影をかわすことにありました。近代化政策の中でも王が特に心を配ったのが、次世代を担うチュラロンコン王子の教育だったといいます。そしてこのチュラロンコン王子は、アンナ先生の誠心誠意の教育が結実して、見事近代化を推し進め国力の向上に努め、なんとか独立を保ちました。チュラロンコン王は今もなおタイ国民からもっとも讃仰され誇りとされる王として、歴史に名を残しています。 アンナは5年間のタイでの生活を2つの回想録に残しました。後年、それらをもとにマーガレット・ランドンが一冊の小説にまとめました。そしてこの小説が初演でアンナを演じた女優ガートルード・ローレンスの目にとまり、1951年、ミュージカル「王様と私」として幕を開けたのです。 話は少しズレますが、女優が本を持ち込んでミュージカルが作られるというのは、当時は(今も)稀なことです。女優にとって、きっとそれほどまでにアンナ・レオノウエンズの半生に魅力があったのでしょう。ガーとルードの渾身の演技は、ニューヨーク市民を虜にしました。そして一年以上も舞台が続いた頃、最後の力を振り絞るように舞台でアンナとして生き、この世に別れを告げたそうです。 日本では1965年に、この4月にも上演される梅田コマ劇場で初演の幕を開けました。アンナは越路吹雪、王は松本幸四郎が務めたそうです。アンナはその後、那智わたる、草笛光子、安奈淳、鳳蘭が演じ、31年後の1996年より現在まで一路真輝が演じています。一路真輝初演後のレビューでは、「彼女の当り役」「歴代アンナでもっとも素晴らしい」と批評家は賛辞を文字にしています。 |
|
【みどころ】 近代化を推し進めながらも苦悩する王の姿。カルチャー・ショックの連続に気力を失いつつも、毅然と王に立ち向かっていくアンナ先生。そして本来相容れない頑固者同士のふたりが、少しずつお互いを認め合っていくプロセス。また「新」と「旧」、「東」と「西」…相反するふたつのものがぶつかる場所に生まれるドラマも見逃せません。アンナと王以外にも、王への貢物として送り込まれるビルマ人女性タプチム(本田美奈子)もこのミュージカルのドラマ性を盛り立てます。また王を一途に愛する第1夫人チャンも、何度となく我々の心を震わせてくれます。近代への夜明けを予感させるチュラロンコン王子の苦悩も、父王同様にみどころと言えるでしょう。 |
|
【ルビ吉の好きなシーン、好きなナンバー】 ■アンナが初めて王に謁見する場面 アンナの最初のカルチャー・ショック。タプチムを「ビルマ王からの貢物」として紹介される。気丈なアンナも、貢物として人を贈り贈られている慣習に、一瞬うろたえてしまう。 ■(1幕終わり近く)チャン夫人がアンナを説得する場面 アンナを“召使い”呼ばわりしてしまった王。王の野蛮で我儘、思いやりのない姿勢に怒り、帰国を決めるアンナ。しかし王にとって、もはやアンナなしに近代化推進は不可能。それがわかっているチャン夫人は、「彼を助けてあげて欲しい」と深夜、アンナの部屋を訪ねる。しかしアンナは「誰に何と言われようと、私の心は変わらない」と頑固な姿勢でにべもない。そこでチャン夫人は「王は悪いところも多いが、それに隠れて素晴らしい所もたくさんある。どうかそこも見てほしい」と歌う(♪Something Wonderfil)。チャン夫人に心を動かされたアンナは、ピンチを救うために王の下に駆けつける。 ■タプチムと恋人ルンタが王宮から逃亡を図る場面 王宮の裏庭で「もう明日から僕達は、コソコソ隠れて会わなくても済むんだ」と2人は歌う(♪I Have Dreamed)。それを偶然見つけてしまったアンナは「無謀すぎる」と諌めるが、二人の心は固い。やむなくアンナは「どうか2人が無事に逃げ切れるように」と、せめても神に祈る。 ■Shall We Dance? ミュージカル最大の見せ場であり、このミュージカルから生まれた最大のヒット曲。 ■最終場 王の、王であるがゆえの大きさや、王とアンナの関係がいかに素晴らしいものであったことかをあらためて思い知らされる場面。そしてアンナの教育が結実して、タイが近代化に向かうこと予感させる場面でもある。 |
|
【ルビ吉の俳優雑感】 一路真輝(アンナ・レオノウエンズ)…実に適役。エリザベートもそうだが、芯のしっかりした女性を演じると「さすがだなぁ」と思う。芝居も上手い。ただ歌に関しては、俺は決して上手いとは思わない。特に高音部が辛い。タカラヅカ男役の名残か…。 高嶋政宏(シャム王)…この役は別にコイツでなくても、という感じ。王の役は歌もダンスもあまりなく、ただひたすら存在感が求められる。高嶋はよくもなければ、悪くもないといったところ。 本田美奈子(タプチム)…抜群の声量と叫びのような歌唱に、最初聞いた時は体が止まった。知識も教養も、そして美貌も兼ね備えた女が、貢物という奴隷同然の扱いを受ける、というのがタプチムの設定。そんなタプチムの魂の叫びを本田美奈子は、歌と演技で見事に演じきっている。最高の適役。 石井一孝(ルンタ)…ルンタはタプチムの恋人でありながら、ビルマからタイまで彼女を引き連れて来なければならない使者の役。ルンタ役の俳優は若々しさと、その裏に隠された苦悩を演じなければならない。石井は今回の大阪再演で初キャスティング。演技のほうは見ないと何とも言えないが、歌に関しては問題ないだろう。そこそこのオトコマエです(笑)。 秋山恵美子(チャン)…チャン夫人は1幕終わり近くに、劇中もっとも聞かせるナンバー「Something Wonderful」を歌う。歌の上手い人以外は絶対に歌ってはいけない名曲。秋山さんはオペラ歌手であり、見事な「Something Wonderful」を聞かせてくれる。ただ、高嶋の夫人というよりは、母親って感じがするのはお年のせい?? |