十二夜


原作=ウィリアム・シェイクスピア
演出=鵜山 仁
音楽=八幡 茂
作詞=斉藤由貴

ルビ吉観劇記録=2003年(東京)
【この芝居について】
東宝の高井社長いわく「シェイクスピア喜劇の一番の傑作」である『十二夜』。それを東宝がオリジナル・ミュージカルとして上演。東宝オリジナル・ミュージカルとしては近年では『ローマの休日』『風と共に去りぬ』に続くもの。前2作同様、大地真央を主演に、帝国劇場での長期公演として上演されました。

【物語】
メッサリーンの双子の王女ヴァイオラと王子セバスチャンは、父を亡くし国を追われた。船上の2人は海賊に襲われ、海へ投げ出され、それぞれ別れ別れになる。
ヴァイオラはイリリアの浜辺に漂着し、なんとか命拾いをする。イリリアはオーシーノー公爵が治めているが、その公爵はオリヴィアという伯爵令嬢に夢中。アレコレ策を講じるも埒が明かない。そんな折、ヴァイオラはオーシーノー公爵のもとで働けることになった。ただし男として小姓として公爵に仕えるのである。新しい名前はシザーリオ。シザーリオに最初に与えられた仕事は、オリヴィアに公爵の気持ちを伝える使者。しかしあろうことか、オリヴィアはシザーリオに一目惚れ!戸惑うシザーリオにもひとつの恋心があった。その相手はオーシーノー公爵。男として、シザーリオとして生きることを決めたヴァイオラにとっては、永遠に叶わぬ恋であった。
そんな頃イリリアには、シザーリオと同じ顔を持つセバスチャンが現われる。双子の王子も生きてこのイリリアに漂着したのだが…。

クリスマスから数えて12番目の夜。1年を通して最も寒い夜。それが十二夜。夜が明けると、暖かい光は瞬き始めるのか?!
【観劇記】
楽しみにしていたのですが、かなり中途半端なミュージカルでした。はっきり言って、演出意図がわかりません。『十二夜』の面白さは、ヴァイオラが男装して生きていたり、また彼女には瓜二つの双子の兄(弟?)がいるということによる、周囲の人間の混乱にあると思うのですが、『ミュージカル十二夜』では観劇後にそういうことが面白さの印象として残らないわけです。なぜか?
ひとつは、恋愛関係になるヴァイオラ(=シザーリオ)、セバスチャン、オーシーノー公爵、オリヴィア以外のキャラが立ちすぎているのではないかと。悪巧み四人組が出てくるのですが、特にコイツらのドタバタぶりと来たら…。しかもベテラン俳優(上條恒彦、鷲尾真知子ら)を使ってるから存在感もえらくあり過ぎて、大地真央以外のメインの3人(セバスチャン、オーシーノー公爵、オリヴィア)が霞んじゃうありさま。悪巧み四人組以外にも狂言回しのピエロや、なんだかよくわからない猫。この役自体の是非を問いたい以前に、演じるのが川崎真世と本田美奈子と、こちらも存在感あり過ぎ。もう何がなんだか。
面白さを阻害する要因のもうひとつは、大地真央の男装が女過ぎるということや、大地真央と岡幸二郎が瓜二つの双子を演じることの無理、といった見た目の問題。男装した大地真央と岡幸二郎を、周囲の人間が見間違うことから混乱が起きるわけですが、そんなことあり得ない。確かに演劇ですからそういうことはイマジネーションを働かせながら楽しむものなんでしょうけど、イマジネーションにも限界があるっちゅーものです。

てなことで書き出したらキリがない『ミュージカル十二夜』の中途半端さなんですが、もちろん楽しめた部分もあるわけです。上で書いたこととは逆説的になりますが、役者陣の豪華さ華やかさは相当なものでしょう。勝手な推測だけで言わせてもらうなら、チケットを買ったほとんどの人はそれに惹かれたのだと思います。もちろん俺もそうです。
あと音楽も良かったです。1曲1曲もいいものが多いし、全体のバランスもミュージカルらしい構成でよかった。八幡茂さんの曲は初めてだったのですが、これから注目です。

舞台装置等の美術面は、帝劇の舞台をフルに使ったと思われる奥行きが好印象だった程度。鏡の多用などはあまり良いとは思わなかったし、全体のコンセプトもあまり感じられない散漫なセットだと思いました。

【役者の感想】
大地真央=ヴァイオラ、シザーリオ
コメディエンヌとしての魅力を発揮できる場所が、今回はあまり設定されていませんでした。それでも笑わせるところは確実に笑わせてくれます。さすがです。歌については、もうコメントしなくていいですね(笑)。

愛華みれ=オリヴィア
この人も男役をやっていたことが想像できません。特に今回は女として美しくチャーミングでありました。タカラヅカのトップスターであった女優さんって、等身大の女を演じたら辛いものがあるけど、こういうコスプレものをさせたら本当に輝きますね(笑)。ま、要はいい意味でも悪い意味でも「現実離れしてる」ってことなんでしょうな。

鈴木綜馬=オーシーノー公爵
美声だけど、相変わらず音がこもって聞き取りにくい台詞でした。それとこの人は地が出るのか(笑)、時折しなをつくるんですね。公爵役なんだから、そこは耐えて欲しかったな、と。

岡幸二郎=セバスチャン
今回は特に歌が上手いなぁーと思いました。台詞回しも明確だし、ミュージカルにはピッタリの役者です。岡さんも本来は「しなをつくる」タイプのオネエさん、いえ、役者さんですがそこはちゃんと耐えてました。見習え、鈴木綜馬!

川崎真世=道化
狂言回しとしての道化役。役そのものが必要ないと思ったし、コイツのオヤジギャグときたら!しかも「俺のギャグはみんなからオヤジギャグって言われてます」的な確信犯で、聞いてるだけで不愉快でした。

本田美奈子=猫
これもようわからん役。因みに原作にはない。理屈で言えば四人の恋愛関係を客観的に見守る役どころとかそういうことになるんでしょうけど、いない方がスッキリするでしょう。しかも本田美奈子クラスの女優が演じる役だから、見せ場も何度か作られていて意味不明。舞台の途中途中で意味もなく本田美奈子の歌が入る…といった感じで絡んできます。歌はさすがなんですけどね。ま、俺は好きな女優だから、俺はウエルカムなんですが←俺も意味不明。

秋川雅史=レオナート
役名はあってもどういう役どころなのかはよくわからん。しかし、この人って一流のテノール歌手なんです。それゆえ1曲だけ、突如レオナートが前に出てきて歌う場面があるわけです。贅沢なキャスティングと言えるわけですが、こういう演出をするから猫役同様にストーリーを散漫に感じさせるわけですな。
因みに秋川さんはオットコマエ。だから俺的には、「ま、いいっか」でありました(笑)。
こうして考えていくと、本田美奈子の猫といい秋川さんのレオナートといい、どうでもいい役の見せ場があるのは俺のために設けられた演出なのかも?(なワケない)


モドル