スペクタクル十戒

演出:エリ・シュラキ
音楽:パスカル・オビスポ
衣装:ソニア・リキエル
装置:カメル・ウアリ

ルビ吉観劇記録=2005年(大阪)

【このミュージカルについて】
 2000年にパリで初演。その後ヨーロッパ・ツアーを経て、計240万人の観客動員を記録した大作(らしい)。物語は旧約聖書の第二の書である『出エジプト記』を題材にしたもの。
【物語】
 「ヘブライ人の中から救世主が現れる」という予言を恐れた時のエジプト王・セティT世は、その年に生まれたヘブライ人男児を皆殺しするよう命じる。男児を出産したヨケベットは「殺されるよりはまし」と断腸の思いで、わが子をナイル川に流した。しかしその子は運良く、エジプト王の妹・ビティア王女の手によって拾われる。子のいない王女は、ヘブライ人の子供だと知りつつもそれを隠し、わが子として育てる決心をする。そして名前をモーゼと名づけた。

 モーゼは王の実子ラムセス王子の義兄弟として育てられ、やがて青年になった。ふたりは世襲王女ネフェルタリに恋をする。王女と結ばれた男が次のエジプト王として君臨するが、セティT世はふたりのうちどちらが王を継承してもよいと考えていた。しかしそんな頃、モーゼは市内でヘブライ人奴隷に乱暴を働くエジプト兵士を誤って殺してしまう。思いがけず出生の秘密まで暴かれたモーゼはエジプト追放を命じられる。

 エジプトを出て何ヶ月も砂漠を彷徨い続けるモーゼは、マディアンの町に辿り着く。そしてそこで知り合ったセフォラと結婚し羊飼いとなった。ある日、はぐれた子羊を探してシナイ山に登ったモーゼは、神から「ヘブライの民を解放せよ」という啓示を受ける。
その頃エジプトではネフェルタリと結ばれたラムセスが王位を継承し、一人の男児をもうけていた。神の啓示によりエジプトにやって来たモーゼは義兄弟であるラムセスに、ヘブライ人解放を訴えるが聞き入れてもらえない。するとエジプトに十の災いが降りかかった。国中の男児皆殺しという十番目の災いは、ラムセス王の息子も容赦なく殺してしまい、王は途方にくれる。
 自分の息子さえも失ったラムセスはモーゼの願いを聞き入れざるを得なく、ヘブライ人は自由の身となってモーゼと共にエジプトを脱出。しかしラムセスは軍を率いて彼らたちを追う。いよいよ紅海まで来た時、エジプト軍はモーゼたちに追いついた。しかしその時、海は二つに割れ、そこに道ができ、ヘブライ人たちはエジプト軍の手から逃れられるという奇跡が起きた。

 モーゼは再びシナイ山に登り、40日を経て麓に戻ってみると、そこには信じられない光景が広がっていた。奴隷から解放されたヘブライ人たちは酒池肉林に溺れ、堕落しきっていたのである。そして禁じられていた偶像崇拝まで始める始末。怒りにふるえるモーゼは、シナイ山で神から授かった「十戒」をヘブライの民に告げるのであった…。

【観劇記】
 この年で旧約聖書に触れることになるとは思いもしませんでしたが、良い機会ではありました。大学の必修科目でキリスト教に関わる勉強もしましたが、我々が触れるのは新約聖書であり、一冊の本にはなっていない旧約聖書に触れる機会はあまりありませんからね。
 40近い書から構成される旧約聖書の中でも、割とポピュラーなのが第二の書でもある、この『出エジプト記』ではないでしょうか。「十戒」の内容もすべて言えずとも、ひとつやふたつは知っているでしょう。また海が割れて道が出来るなどというくだりをご存知の方も多いはず。

 さて、『スペクタクル十戒』。壮大なストーリーを持つ「出エジプト記」をベースにしているだけあって、公演会場も大阪は大阪城ホール、東京は代々木体育館とアリーナ系の会場。さすがに“スペクタクル”と謳うだけのことはあります。しかし壮大なストーリーではあっても、所詮は人間が主人公の物語です。こんな大きな場所で見せられたって、肝心の人間が見えなければ客席で心動かされることがありません。大体が誰が歌っているのか、誰の台詞なのかがわからんのです、遠すぎて。芝居として成立しませんがな…。私的には、はっきり言って大ハズレの演目だと思いました。
 例えばせめて舞台装置が凝っていて、スペクタクルな演出があるのであれば、見た目の楽しさがあります。しかしそれも希薄。海が割れる場面などはすごく期待していたのですが、ビジュアル的には背景の粗い映像とスモークだけで構成。音の部分で多少の迫力を出してはいたものの、全体としては何の工夫もありません。横長に広く設営された舞台は最後まで、これといって生かされることもなく終わりました。横長の余り、舞台両サイドに掲げられた字幕電光板が、舞台中央の芝居と離れすぎていてやたら見づらいという不満だけは確かに残りましたが。
 物語の構成も、「出エジプト記」を順を追って淡々と展開しているに過ぎず、メリハリがありません。つまり大きな山場、見せ場に欠けているのです。最終場になる、モーゼがヘブライの民に十戒を告げるところくらいはかすかな感動もありましたが、強いて言えばそこだけ。

 出演者の技量は高いと思います。但し芝居部分、つまり演技力は見えていないのでよくわかりません。しかし歌やダンスのレベルは高かったと思います。

以上、「いい所なし!」といった内容になってしまいましたが、これはあくまでルビ吉の個人的感想でありますことを、今回は特に強調して一文添えておきます。


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