劇団四季オリジナル・ミュージカル
異国の丘
企画・演出・美術=浅利慶太
音楽=三木たかし ほか
作詞=浅利慶太、岩谷時子 ほか
ルビ吉観劇記録=2002年(名古屋) |
|
【このミュージカルについて】
直木賞作家・西木正明の「夢顔さんによろしく」に想を得て作られたミュージカル。テーマは、企画・演出の浅利慶太によれば「我民族にとって前世紀最大の悲劇“シベリア抑留”」とのこと。こういう硬派なテーマをミュージカルとして作り上げてしまうところに、劇団四季の底力を感じる。劇団四季が制作する、第二次世界大戦を時代背景にした人間ドラマは「李香蘭」に続いて二作目だが、今回も実在の人物をなぞらえている。時の首相・近衛文麿の長男、近衛文隆(=九重秀隆)が今回の主人公だ。脚色してあるとはいえ、実在した人物の実際に起きた事実に沿ってストーリーが展開していると思えば、伝わる何かも違ってくるというもの。因みにこの本は第13回柴田錬三郎賞を受賞している。
|
【物語と感想】
1937年アメリカ。主人公・九重秀隆は、中国人の愛玲と知り合う。敵国同士の恋愛は許されるものではないと知りながらも、2人は惹かれあう。日本の総理大臣の息子と、中国の高官令嬢にして、やがては蒋介石の息子との結婚が約束されている身分の娘との恋愛に、周りも目が離せない。ふたりを引き裂こうとする者、ふたりを利用しようとする者…。秀隆と愛玲は、やがて日中の和平を試みるようになる。しかしその終焉は、愛玲が銃殺されるという悲惨な結果を招いただけで、和平工作は失敗に終わる。
やがて戦争は終わるが、秀隆の悲惨な人生はそこから始まる。終戦後、秀隆を待ち受けていたのは、終わりのないシベリア抑留であった。彼の身分や性格、行動力がすべて適合すると踏んだロシアは、“解放”を条件にロシアのスパイになる話を持ち寄るが…。
息つかせぬ二時間といった感じでしょうか。歌を聞かせるシーンやダンスを見せるシーンもあるのですが、いかんせんストーリーを追うのに一生懸命で、それらを楽しむ余裕が俺には持てなかった…というのが実感ですね。ストーリーは一幕は秀隆と愛玲の恋愛、二幕はシベリア抑留での秀隆の苦悩に重きをおいて展開していくのですが、その2つのストーリーがそれぞれ独立したものに見えなくもない。秀隆の人生を縦軸に描く作品とするなら、愛玲のウエイトが高過ぎる気がするし。秀隆と愛玲の悲恋モノなら、二幕でももっと愛玲が登場すべきだろうし…。目を覆いたくなるような史実がベースにある作品なので、確かな見ごたえはありますが、イマイチ感動のヤマを迎えないまま幕は下りてしまった…そんな“物足りなさ感”は拭えません。
さて今回感心したのは、美術。舞台装置ですな。装置らしい装置はないのですが、紗幕を上手く使った舞台転換はなめらかで鮮やかでした。 |
【ルビ吉の好きなシーン、好きなナンバー】
■♪名も知らぬ人
■♪悲しみの祖国
■♪風に吹かれて
音楽は印象に残るものが、すべて一幕に集中。二幕に入ると音楽的な楽しみはグッと減るような気がしました。
|
【ルビ吉の俳優雑感】
石丸幹二(九重秀隆)…マルちゃんは何を演ってもマルちゃん(笑)。相変わらずの大根ぶり。オトコマエという評価ポイント以外に、何もありません。しかし俺はそれで充分…かな。シベリア抑留のシーンでは他の役者は顔を汚すというメイクをしているにも係わらず、マルちゃんだけはキレイな顔!そんなバカな、と思いながらも、マルちゃんは顔が命。それでいいのですね。
マルちゃん(=オトコマエ)☆
保坂知寿(宋愛玲)…この人の声は衰えることがあるのだろうか?と思うほどの美声ぶり。美声と、独特の歌いまわし(保坂節)が今回も冴え渡っておりました。でも…もう飽きたよ、保坂知寿。
久野綾希子(アグネス・フォーゲル夫人)…秀隆と愛玲を引き合わせ、ふたりに和平工作をさせる仕掛け人の役。ぴったりでした。余裕の貫禄が、役の上でも“裏社会の大物”ぶりに反映されていたといっていいでしょう。
坂本里咲(李花蓮)…花蓮は愛玲の親友。愛玲を秀隆から引き離そうとするが、結局は愛玲の手助けをしてしまう。和平に反対する恋人を持ち彼の言うことを信じ、その結果、愛玲を死に追いやってしまう。坂本ちゃんは、滑舌がよく台詞がハッキリしているのが特徴。でも、それも良し悪しで、時として学芸会チックなムードを舞台に漂わす。今回も明らかにそのパターンでした。 |