デュエット

作:ニール・サイモン
作曲:マービン・ハムリッシュ
作詞:キュロル・ベイヤー・セイガー
演出・台本:鈴木勝秀

ルビ吉観劇記録=2008年(東京)
【観劇記】
 このミュージカルの見どころは何といっても、保坂知寿。劇団四季の看板女優だった彼女が退団後、どんな作品で復帰するのか、ファンならずとも気になるところであった。『デュエット』での復帰と聞いた時は、あまりにも小ぶりな作品だけに「あの大女優が…」と微妙な気持ちであったが、ニール・サイモンの作品なら彼女に合っているかもしれないと楽しみでもあった。

 さて、ここからが観劇記。総合的な感想としては「まぁ、それなりによかった」といったところ。それなりにというのは、やはりニール・サイモンの本がまず良いし、音楽も楽しい。つまりこのミュージカルはある程度の“最低保障”はされている。小粋で、見終わった後はウキウキした気分にさせてくれるミュージカルだ。ただ今回の公演は何かが少しずつ足りない気がした。役者は保坂知寿と石井一孝の、ほぼ二人芝居なのだが、息が合っているようないないような。保坂知寿は劇団四季時代の実力を完全には取り戻せていない感じで、一幕の途中まで何を歌っているのか聞き取りにくかった。しかし後半から、歌では保坂節炸裂、芝居もコメディエンヌ振りを発揮。そういうわけで久しぶりに保坂知寿を堪能できた喜びがありつつも、「復帰一作目としてはこんなものか…」という印象も残した。もちろんこれは俺の期待値が高過ぎたせいかもしれない。もうひとりの主役・石井一孝は全編通して演技が暑苦しい。保坂演じるソニンがハチャメチャな分、彼が演じるヴァーノンは、大人の男が否応なしにジコチュー女に振り回されてる感がもう少し欲しかった。ちなみに石井の歌は申し分ない。
 役者に関しては以上のとおり、良かったような良くなかったような微妙な感想なのだが、同様の感想を持ったのは舞台美術。今回の『デュエット』は美術を松井るみ氏が担当している。俺の好きな舞台美術家である。今回の舞台は、巨大で真っ白なピアノが占拠している。これはそのままピアノでもあるし、アパートの一室に変化したりもする凝ったものなのだが、凝り方が面白くない。また存在感があり過ぎて「重い」という印象もある。軽快なミュージカルだけに、もっと簡素なセットでもいいのに…。更にチラシやパンフレットのデザインのような、涼やかでカラフルな色彩が欲しいとも思った。

 よかったんだかよくなかったんだか自分でもよくわからないが、終演後に楽しい気分で劇場を後にしたのは事実。やはり「それなりによかった」ということなんだろう。保坂知寿に関しては、次回作に期待している。

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