美女と野獣

音楽=アラン・メンケン
作詞=ハワード・アッシュ ティム・ライス
ルビ吉観劇記録=1995、1996、1997年(大阪)
2003年(京都)
【感想】
 このミュージカルを最後に観てから、およそ6年ぶりの観劇。ハイテクを駆使した舞台演出も6年前は目新しかったが、今見ると驚くべきところもありませんでした。技術の進歩をしみじみと感じます。しかしそういう意味では派手目の仕掛けなどに目を奪われることもなく、また自分自身も確実に6つ年を取ったということもあり、あらためて『美女と野獣』の物語の緻密さに惹きつけられたのでした。

 原作のテイストとは違い、ディズニー・ミュージカル『美女と野獣』に、俺は意外にも
ラブ・ロマンスを感じません。むしろ孤独の中で生きてきた人間ふたりの対照的な姿や、マイノリティーな立場にある者が群集の中で受ける仕打ち…そんなことばかり感じ取ってしまいました。

 物語の主人公・ベルは美しいけれど、無類の本好き。小さな田舎町では「女が本を読むなんて!」と、“変わり者”扱いされている。野獣は魔法使いに醜い姿に変えられて以来、すっかり気持ちを閉ざし、暴力でしか人に対応しない。ガストンは町いちばんのイイ男で人気者だけれど、プライドが高く自己中心的。そして群集は噂好きで無責任。自分の意見を持たず声の大きな者の意見に左右される。「ベル」「野獣」「ガストン」「群集」と4つの要素が絡み合って、『美女と野獣』の世界ってなんだか現代社会そのものだなぁ、と俺などは思ってしまうのでした。

 ところで初見の頃から俺が好きなのは、野獣の召使たち。王子が魔法をかけられて野獣にされてしまった時、「王子をわがままに育てた責任」として召使たちもまた魔法をかけられます。彼らはすべて“モノ”に変身させられている…という設定の召使たち。舞台版『美女と野獣』では、この召使たちが実に人間くさい!まじめで気が小さいがおだてに弱い執事・コッグスワース(時計)。燭台に変身させられても恋に生きる快楽主義者ルミエール。皆の母親のような存在であるミセス・ポット、過去の栄光に生きる歌姫マダム・ブーシュ(たんす)などなど。彼らは人間に戻れるために右往左往しながらも、決して希望を忘れない。その姿に俺などは心打たれてしまいます。特に召使一同が歌う『人間に戻りたい(ヒューマン・アゲイン)』というナンバーは、その“希望”をきわめて明るく、そしてさわやかに歌い上げる秀逸なナンバー。俺はいつも拍手大喝采です。
 
【ルビ吉の好きなシーン、好きなナンバー】
■♪変わりものベル
序曲あとの一幕第一場。オープニングに相応しい明るくさわやかな曲。内容は主人公ベルの設定を説明するための歌です。
■♪ミセス・ポットの助言
父親の身代わりとして、野獣に人質にされてしまったベル。絶望の淵にいるベルにミセス・ポットは「気持ちの持ちようによって、この城は夢のある場所にもなるはず。希望を失ってはダメ」と優しく励ます。
■♪ビー・アワ・ゲスト
作品の最大の見せ場。アニメで食器や調理器具が歌い踊るシーンを舞台ではどう見せるんだろう?と、俺はいちばん興味のある場面でした。もちろんアニメ通りではないにせよ、テイストはアニメと同じ。さすが、ディズニーです。こういう演出はうまいなぁ。
因みに舞台奥に積み上げられた皿の階段、ブロードウェイ版の方が枚数が多い!
どういうこっちゃ?!劇団四季!!
■図書館のシーン
文字の読めない野獣に、ベルは『アーサー王』の伝説を読んで聞かせます。初めて知る本の世界に野獣は「本はまるで自分をどこか遠い所へ連れて行ってくれるようだ」と感想を漏らします。その言葉を聞いたときベルは、野獣が自分と同じく、いかに孤独な世界で生きてきたのかを知ります。
■♪人間に戻りたい
「もし人間に戻れたら、何をしたいか?」と召使たちが次々に歌っていきます。逆境の中にいても前向きな彼ら。俺はちょっぴり感動です!
【ルビ吉の俳優雑感】
木村花代(ベル)…花ちゃんは劇団四季の女優陣で、俺のイチオシ。「だからどうした?」って話ですが、つまり舞台に立ってくれてるだけで俺はメロメロ。感想なんてありません(笑)。ただちょっと、ベルの化粧は濃すぎ。花ちゃんに似合ってないんだなぁ…。歌と芝居は初代ベルの野村玲子さんに似ています。
井上智恵(ベル)…もうひとりのベル役は知恵ちゃん。東京芸大声楽科のキャリアらしく、歌もどこかクラシック調。そういう意味では花ちゃんとまったく違う味わいです。
柳瀬大輔(野獣)…野獣役は王子に戻ったときの顔が命。終幕前の5分間くらいしか顔をさらさないのですが、「若きプリンス!」って感じの見た目が野獣役の俳優には欲しいところなんですね。柳瀬くんは、まぁ、ギリギリ合格かな。これまでにも「アンタ、もう一回野獣に戻れば?」って言いたくなる男優もいましたから、それを考えるとギリギリ合格…と。歌はなかなかよいです。智恵ちゃんと同じく東京芸大声楽科出身の俳優。
横山幸江(ミセス・ポット)…横山さんも東京芸大チーム。四季では歌唱指導なんかもしているらしい。一時は横山さん、喉の調子のせいか歌が聞きづらい時もありましたが、この舞台では大丈夫でした。温かみのあるミセス・ポットを演じていました。因みに有名なタイトル曲「美女と野獣」は、このミセス・ポットが歌うナンバーです。

【このミュージカルについて】
ディズニーが演劇ビジネスに初進出した作品が、この『美女と野獣』。1994年4月、ブロードウェイで幕を開けた。以降オーストラリア、カナダ、オーストリア、そして1995年には日本でも開幕。日本では東京と大阪の二都市で同時開幕という、画期的なオープニングが話題を呼んだ。開幕から9年経った現在は、ブロードウェイ、サンパウロ、京都で公演中。
【物語】
 昔、遠い国にひとりの若く美しい王子がいた。王子は周りから甘やかされ、いつしか優しさを失っていた。ある寒い夜、ひとりのみすぼらしい老婆が一輪のバラと引き換えに宿を乞うが、王子は老婆の醜い姿を嫌って、彼女を追い払ってしまう。するとその途端、老婆は美しい魔法使いに変身した。そして王子に、王子を甘やかした召使たちにも魔法をかけてしまう。王子は醜い野獣に、召使たちは“モノ”に姿を変えられた。一輪のバラの花びらがすべて落ちるまでに、王子が「人を愛し、そして愛される」ことを学ばなければ、魔法は永遠に解かれることはない。王子は自分の姿を見て絶望の淵に立たされる。「こんな醜い姿を一体誰が愛してくれるというのか…」
 ある小さな町では今日も、美しい娘ベルが朝の買い物に出かけている。歩きながらも片時も本から目を離さない。「女が本を読むなんて」と、町の人々は噂する。美しいけれど変わった娘…それがベルに対する町の人々の評判だ。そんな中、町イチバンのいい男・ガストンがベルに目をつける。「イチバンいい男には、イチバンいい女がお似合い」と、ベルに力づくでプロポーズ。しかしベルは「私が、ルックスだけで頭の中が空っぽの男の妻になるなんて!」と、プロポーズを断る。「こんな平凡で小さな町を抜け出して、どこか遠くへ行きたい。本で読んだ憧れの世界にいつか行きたい」と、彼女の夢は募るばかり…。