原典にみる葛根湯

 

ここに紹介しているのは漢方のバイブルとも言える「傷寒論」の冒頭部分です。どうでしょうか。めまいがしている方もいるかも知れませんね。古典を原文で読むというのはこういうことで実際には手で写したものも多く、これは活字ですからまだ見やすいですね。傷寒論ではこの続きが約400条あります。漢字のないところは★になっています。

では実際にカゼ薬で有名な葛根湯のところを見てみましょうか。ちょっと下へスクロールして下さい。

 

太陽病 上編
一 太陽之為病、脉浮、頭項強痛而悪寒。
二 太陽病、発熱、汗出、悪風、脉緩者、名為中風。
三 太陽病、或已発熱、或未発熱、必悪寒、体痛、嘔逆、脉陰陽倶緊者、名為傷 寒。
四 傷寒一日、太陽受之。脉若静者、為不伝。頗欲吐、若躁煩、脉数急者、為伝 也。
五 傷寒二三日、陽明、少陽証不見者、為不伝也。
六 太陽病、発熱而渇、不悪寒者、為温病。若発汗已、身灼熱者、名風温。風温為病、脉陰陽倶浮、自汗出、身重、多眠睡、鼻息必鼾、語言難出。若被下者、小便不利、直視、失溲。若被火者、微発黄色、劇則如驚癇、時★★。若火熏之、一逆尚引日、再逆促命期。
七 病有発熱悪寒者、発於陽也。無熱悪寒者、発於陰也。発於陽、七日愈。発於陰、

六日愈。以陽数七、陰数六故也。

八 太陽病、頭痛至七日以上自愈者、以行其経盡故也。若欲作再経者、針足陽明、使経不伝則愈。
九 太陽病欲解時、従巳至未上。
一〇 風家、表解而不了了者、十二日愈。
一一 病人身大熱、反欲得衣者、熱在皮膚、寒在骨髄也。身大寒、反不欲近衣者、寒在皮膚、熱在骨髄也。
一二 太陽中風、陽浮而陰弱、陽浮者、熱自発。陰弱者、汗自出。嗇嗇悪寒、淅淅悪風、翕翕発熱、鼻鳴乾嘔者、桂枝湯主之。方一。, 桂枝湯方 桂枝三両去皮 芍薬三両 甘草二両炙 生姜三両切 大棗十二枚擘,右五味、★咀三味、以水七升、微火煮取三升、去滓、適寒温、服一升。服已須臾、歃熱稀粥一升余、以助薬力、温覆令一時許、遍身★★微似有汗者益佳。不可令如水流離、病必不除、若一服汗出病差、停後服、不必盡剤。若不汗、更服、依前法。又不汗、後服小促其間、半日許令三服盡。若病重者、一日一夜服、周時観之、服一剤盡、病証猶在者、更作服。若汗不出、乃服至二、三剤。禁生冷、粘滑、肉麺、五辛、酒酪、臭悪等物。

 

有名な葛根湯は太陽病の中編というところに出てきます。なおこの通し番号は原典にはありません。昭和の漢方家奥田謙蔵氏の「傷寒論講義」の番号です。流派にもよりますが、標準になる解説書を決めておくというのは塾内でのひとつの規則のようなものです。

 

太陽病 中編
三一 太陽病、項背強几几、無汗、悪風、葛根湯主之。方一。

葛根湯方 葛根四両 麻黄三両去節 桂枝二両去皮 生姜三両切 甘草二両 芍薬二両 大棗十二枚擘

右七味、以水一斗、先煮麻黄、葛根、減二升、去白沫、内諸薬、煮取三升、去滓、温服一升、覆取微似汗。余如桂枝法将息及禁忌、諸湯皆倣此。

 

さてカゼ薬というもののどこにも「風邪」なんて書いてないですね。葛根湯の目標は「項背強几几、無汗、悪風」だけです。つまり首の後ろから肩、背中が凝り、汗はなくて悪風するというのが目標になっています。そのあとに葛根から大棗まで7つの薬草が書いてあり、その時の調整法つまり皮をとっておけ「去皮」とか、あぶって使え「炙」とかの指示、分量ものせてあります。両というのが昔の量の単位です。

そのあとに煎じる方法が書いてあります。水一斗を用いてはじめに麻黄と葛根を入れて沸騰させて減らして白い泡をとり、その後残りを入れて3升が出来上がり。カスを捨てて、温めて飲むこと。ずいぶん親切ですね。そして汗を出しなさい。食べてはいけないものや飲み方はは桂枝湯のところに書いてあるのと同じだからよく養生しなさいよ!という注意書きがあります。

 

三二 太陽与陽明合病者、必自下利、葛根湯主之。方二。

葛根湯 葛根四両 麻黄三両去節 桂枝二両去皮 生姜三両切 甘草二両炙 芍薬二両 大棗十二枚擘

 

次の条文です。ここでは「必自下利」とあるでしょう。下痢をしているカゼに葛根湯を使うのはこの条文をもとにしています。

 

三三 太陽与陽明合病、不下利、但嘔者、葛根加半夏湯主之。方三。

葛根加半夏湯方 葛根四両 麻黄三両去節 甘草二両炙 芍薬二両 桂枝二両去皮 生姜二両切 半夏半升洗 大棗十二枚擘

右八味、以水一斗、先煮葛根、麻黄、減二升、去白沫、内諸薬、煮取三升、去滓、温服一升。覆取微似汗。

 

さらにここでは「但嘔者」とあります。これは簡単にいうと胃腸の働きが弱っているカゼで、葛根湯を飲むと吐き気がします。そこで「加半夏」半夏という生薬を事前に加えて用いるべしというわけです。半夏はいわば胃薬です。葛根湯は人によっては胃にこたえますからそれを教えています。

 

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