漢方質疑録

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今までに自分のネットや、その他のBBSで漢方相談に回答してきた一部をここに載せてみました。質疑を通して各論だけでなく漢方独特の考え方にもふれており、漢方全体に対するヒントがわかると思います。

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  • 温野菜というのがあると聞きましたが
  • 山査子がボケに効くと聞きましたが
  • 養生ってどうすればいいんでしょうか

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風の後に残った咳

風邪の後に咳だけがしつこく残ってしまうことがあります。咳に効く漢方薬は多種多様で、その使い分けはかなり難しいですが、訴えの状態で一番よく使われるのは柴朴湯(サイボクトウ)という薬です。小柴胡湯と半夏厚朴湯という二つの薬を足したもので、風邪の後の咳では、よく使われます。小児喘息の体質改善にも用いて非常によく効きます。く舌が真っ白になっていることがありますが、これも柴朴湯です。

この薬でうまくいけばよし、その病態が思った以上にやっかいである場合、柴朴湯ではうまくいかないこともあります。麻黄(マオウ)という生薬のはいった麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)や小青竜湯(ショウセイリュウトウ)越婢加半夏湯(エッピカハンゲトウ)や他には麦門冬湯(バクモンドウトウ)などなどを選用します。くわしい咳の症状、痰の状態、呼吸の状態、発作の時間帯と頻度、全身の倦怠感食欲等、また触診上のデータなどもいろいろ加味して考えていきます。

発作を止める漢方薬と、体質的に改善していく漢方薬とを、使い分けることもよくあります。

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食べ物の陰陽について

厳密にいうと、野菜を温野菜とか、冷野菜に分けること自体、不自然です。人間の手による改良がなされているとはいえ、太陽と水と大地からできる、自然の恵みには違いないのですから、文明以前の世界を想定して、出来るだけその土地の旬のものをたべれば、それにこしたことはないのです。春に出来るものを春に食べ、冬に出来るものを冬に食べる。日本人は日本で出来るものを食べ、インド人はインドで出来るものを食べるといった具合です。

自然はうまくしたもので、夏に出来るものはほてった体を冷やすし、冬に出来るものは冷えた体を温めるように出来ています。それと、文明以前の生活の知恵は、自然と一体となったまたは自然を拝する心から生じているので、非常に合理的でほとんど捨てるものがないと言っていいでしょう。

当たり前のことですが、寒いときには料理にも火を通して食べます。当然暖かくしたものは体を温める作用が強まりますし、氷のような冷たいものは、体を冷やすのです。陰陽の理論を食べ物で当てはめた場合、陰性は体を冷やす、陽性は温めると当てはめることが出来ます。

一般に、肉類は陽性です。果物は陰性、野菜は陰陽、穀物はほぼ中性といえます。ちなみにコーラや砂糖入り飲料水は強陰性です。これより考えると、陽性や陰性のはっきりしているものは、量で調節し、野菜に関しては個々の性質で取り分けることが必要かと思われます。先に述べたとおり、季節のものを食べれば自然の理にかなうということですが、この頃はその季節感も全くと言っていいほど薄れてしまいました。以下は、便宜上野菜を陰陽に分類したもので、正確でないかも知れません。

陰性 ・・・ なす、トマト、じゃがいも、きゅうり、こんにゃく

中性 ・・・ はくさい、だいこん、たまねぎ、ねぎ

陽性 ・・・ にんじん、ごぼう、かぼちゃ、じねんじょ、

陰陽はその調理法によってもかわります。炊いて食べるか、生でジュースにするかでは大いに変わります。漢方では患者の体質を見分けるわけですが、その際陰性の人が果物をとりすぎたり、陽性の人が肉食に偏っていたりすると、イエローカードということになります。また、慢性疾患などでなどで、かなりハードに制限が必要な場合もあります。

実際、食生活はその人の性格、体質、病気によく反映されていますので、たいていは体に悪いものほど好物であったりします。現代では栄養不足で病気になることは珍しく、食べ過ぎで病気になることがほとんどといってよいでしょう。それを薬という足し算で補うことは賢明ではありません。まずは口からはいる余計なものを引き算することの方が合理的で効果も大です。その上で薬を飲むと100%以上の力を発揮します。逆に言いますと、いくらいい薬を飲んでも奔放な食事生活をしている限り病気は治りにくいということです。

現在、特に私が警鐘をならしたいのは若い女性の食生活です。ファーストフードをはじめ、ソフトジュース、アイスクリーム、インスタントなど、将来の母胎にとっては危険なものが多すぎます。彼女たちの健康が冒されることは、即亡国につながります。マスメディアが外見ばかりの美しさをもてはやすことをやめて、人間性、特に婦徳の美しさに目覚めてくれることを切に願ってやみません。歌番組などで出てくるタレント、アイドル達の顔を観察していると、多くは冷え性、生理不順、肩こり、精神不安定、焼き肉派を彷彿とさせる相ばかりで、長時間の視聴に耐えられないのは私だけでしょうか。

いまいちど、自分たちの食生活を振り返り、完全でなくても一歩でも自然に融合したものに近づける努力が必要かと思います。その努力なくしては子孫の弱体化は免れず、次世代におおきな遺恨を残すことになるでしょう。先祖から頂いた体はなるべく良い状態で次に渡す義務があります。

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山査子の効用

「山里紅」とはまた優美な称号を頂いたものです。熟すと実が赤くなるのでその形容でしょう。普通は「山査子」と書きます。サンザシの実を乾燥させたものを山査子と呼んでいます。種をのぞき、肉だけとったものは山査肉といって区別します。

山査子というと我々はまず酸味を想像します。漢方薬で酸味のあるものというと、五味子とこの山査子が代表的です。ちょっと変わったところではハーブのハイビスカスや、ローズヒップも酸味です。

結論からいうと、ボケに効くとは思えません。一般には、消化不良、食欲不振、腹痛、下痢、二日酔いなどに用います。ただ、五臓六腑でも、胃の腑は最も基礎的な生命力を示唆するところですから、関係ないとはいえません。他の臓器に較べて脾胃が組織的に弱体化すると長生は期待しにくくなり、そういう意味では少々体調が壊れても、食欲だけは落ちないという方は長生きの切符を持っている人といえるでしょう。でも、それを理由に大食することは養生法に反することで、ボケ予防という面では小食、粗食の励行が一番です。

感覚のひとつ味覚は、生きるために絶対に必要なものではないかも知れませんが、脳への刺激を考えると重要だといえると思います。その味覚を鋭くするには密度の濃い食べ物をひかえること、体にひもじい思いをさせて奥底の動物的な野生を殺さないことが必要でしょう。この豊饒の時代には困難なことですが。サンザシの実を砂糖漬けや、蜂蜜漬けにしたものは食後に消化促進を目的に食べるというのが大陸的ですね。柑橘系を同じように加工することがありますが、酸味を持つ共通点からだと思います。秋から冬の季節ではカリンを蜂蜜漬けにしたものがお勧めです。咳によく効きます。お湯で割って飲むといいですね。

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花粉症の漢方治療

今年は例年になく花粉症の症状は重かったようです。特に目立つのが今年から初めて花粉症になったという報告です。今まではなんともなくて他人事だったのに、まさか自分が・・・ということであわてて飛び込んできた人も少なくなかったです。毎年この時期に苦しむ人たちにとってはまさに地獄であったようで、仕事を休むほどに目が腫れ上がり、夜も鼻づまりで眠れないといった具合です。

漢方治療に於いては理想としては、予想される時期以前から準備段階として先に手をうっておくというのがスマートな方法です。ところが喉元過ぎればナントやらで、此の病気を持つ人はあまり用意周到な人はいないようです。私のところでも事前から手をうっておいた人は去年よりも軽くすんでいます。要は兵法と同じで、相手が弱いときに叩いておく、つまり敵の虚を突くということです。

同じ人で、同じ症状でも、事前に飲んでおいてよく効いた薬が、次の年に本番さながらになってあわてて飲んでもさっぱり効かなかったことがありました。これなどは、薬と邪との戦いの勢力図を端的に示している証拠にもなります。花粉症に漢方薬の特効薬はあるか!残念ながらありません。花粉症といえども同じ診察法で投薬しますので、人によって薬は違います。代表的な処方としては小青竜湯や、麻黄附子細辛湯があげられます。

花粉症は器から水があふれるように出てきます。幸運にして今年難を免れた方も油断せずに、マスクをして外から帰ったらうがいをするとか、目を洗うとか、外で上着を払っておくとかやっておいて貯まった分を減らしておくのが賢明です。じわじわと見えないところで蓄積されていくのは恐いです。一度かかると翌年も試練が予想されるだけに、無駄な努力とは思えません。ともあれなったものは仕方なく、急を抑えるには新薬も用いなくてはなりません。ただ、きつい薬も多いので長期の点鼻、服薬には注意も必要です。

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漢方での養生法のとらえ方

我々は、漢方を三つの柱でとらえています。

 1.湯液

 2.針灸

 3.養生

見ても分かるとおり、養生は三本柱のひとつで非常にそのウェイトは大きいのです。初学の頃に一番理解できなかったのがこれで、そんなもの何で重要なの?何か辛抱すること?なんて表面的にとらえてました。ところが勉強が進むうちに、この養生というものの深さを知り、ともすると薬も針も用いなくても病気は治せる!ということが分かってきました。

養生の各論は多岐に渡りますが、しかし原則的なことは簡単で、「心身の歪みの婉曲的矯正の手段」とでもとらえればいいでしょうか。堅いものを柔らかくする。冷えてるものを暖める。溢れてるものを減らす。右に偏ってれば左に。止まっていれば動かす。不安定であれば安定させる・・・すべてがバランスの世界です。病気になる。治らない。これの見方を変えると、病気になる。それを維持する。おかしな表現ですが、そうともともいえるわけで、自然治癒力に勝る努力の成果?が必要なわけです。つきつめていくと、ある病気を発生させる要因は、以外と特定されてくることが分かります。易の思想や観相学、陰陽五行説なども参考資料になるでしょう。

食養生ひとつにしても、その方のライフスタイルに合わせた、つまりその方の歪みを察知した上でないと、指導は出来ません。いつも座ってる位置、エアコンの場所、光の射す角度。長年の凝り固まった環境を変えるということが、ときに有効である場合もあるでしょう。通勤の電車で本ばかり読まないで、天気のいい日は雲を眺めてボーっとする。左足を上にして足を組む人は、右を上に変えてみる。簡単ですが、どれも広義の養生です。脳天気な人にはシリアスなテーマを、眉間にしわの寄っている人にはお笑いの吉本を!

食事の原則・・・粗食、少食! お箸をおいてゆっくり、よく噛んで、また噛んで。食べ終わったら「おいしかった」と声を出していいましょう。作ってくれた人への感謝を忘れずに。

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女貞子の用い方

ネズミモチは木犀の仲間で実を薬として使います。この実がネズミの糞に似ているのでこの名前があります。漢方名は女貞子(じょていし)で冬でも葉を青々と茂らせている様を貞女になぞらえたものです。これでしたら常時在庫を置いています。よく用いられる方法は薬酒にする飲み方です。ホワイトリカー1.8リットルに250グラムほどの女貞子を入れます。三ヶ月程で出来上がります。効果としては、内臓を丈夫にし精力の増強、腰痛、神経痛などに使われます。強心、利尿作用も認められています。他の飲み方としては、一日量5−6グラムを煎じて3回に分けて飲んでもいいです。

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癌の漢方治療について

まず癌のことはさておき、ハトムギについて説明しましょう。ハトムギはいろんな形で店頭に出ています。うちでも4種類あります。生のまま(数珠玉のよう)、皮をむいたもの、焙じてから砕いたもの、粉末です。さて、この中のどれをどのように飲めばいいのでしょうか。この中では、薬用になるのは、皮をむいたものです。別名をヨクイニンと言います。粉末もヨクイニンの粉末のことです。生のままのものや、焙じたものはお茶としての扱いで、薬効はうたっていません。ですから一般にハトムギと言っても、それは皮を去ったヨクイニンのことだと思っていいでしょう。

よく子供がプールなどでもらってくる水いぼ。ヨクイニンは特効薬とされています。実際、これが見事に効いた例を母親自身から耳にしてます。癌への応用はこの「イボ」というとこです。癌も体の中に出来たイボととらえることが出来ます。他には藤棚で有名な藤の木に出来るコブ(藤コブといいます)もやはり同じような見方で癌に使います。サルノコシカケなどもつまりは木に寄生していますので、イボやらコブのようなものです。古人はその姿を見て、癌を想像し、その薬効を期待したのだと思います。

しかし、癌というと現代の最新医学をもってしても難治な病ですから、簡単にこれに効くと言うことはなかなかいえません。残念ながらハトムギで治ったという人を聞いたことがありません。臨床の場ではハトムギは同じイボでも、女性の子宮筋腫のような塊に対して適正の漢方薬といっしょに煎じると、全体の効果を確実に高めます。リウマチや神経痛の漢方薬にも配合してよく効きます。私自身癌の方にハトムギは勧めたことがありません。

しかし理想は、適切な診察による調剤した漢方薬を飲んで頂く、これが出来る限りの漢方治療であると信じています。その漢方薬はもちろん人により症状により千差万別なものになります。最も苦痛である症状に照準を合わせ、全体治療を行うという点では、癌にしろ、その他の疾病にしろ漢方治療は一貫しています。漢方薬を飲んで顔色もよくなり体も楽になって、心の整理をする時間ができたとはよくききます。家族にとっては結果のみならずその過程は非常に大事です。最後まで人間らしく、回りの人に後悔を残さないためにも漢方治療は是非取り入れてほしい、いや取り入れるべきだと言うのが私の考えです。

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ガラナの効用

ガラナ末はアマゾン流域原産の木の種を粉にしたもの。デンプン質とこねあわせた後、薫煙乾燥させたものは、いわゆるガラナエキスです。現地では興奮性飲料として偏頭痛や、神経強壮剤として使われる他に整腸剤としての効果もあります。ですから風邪の症状である頭痛や、下痢などには効果が期待できるでしょう。

主成分はカフェインでコーヒーの三倍含んでいます。次いでタンニン、サポニンも多く含んでいます。風邪で頭がボーっとしたり、新薬の副作用で眠くなったりしたときには、味方になるかもしれません。成分からして飲み過ぎると目がさえて寝れないという懸念もありますがそこは精製していないものですから、そうきつくはないでしょう。

世間では精力剤として名を馳せていますが、そちらの効果は人それぞれのようです。例えばマムシとガラナを混合して動物性と植物性でバランスをとるのも一つの方法です。これの方がガラナ単独よりさらに効果的。結論として風邪の時に飲むガラナは風邪の回復の補助剤といったとこでしょう。過信せずに安静、寝ることが第一でこれに勝る薬はありませんが。

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育毛を考える

漢方の育毛剤というとすでに商品化されてるものもあります。その成分は生薬名で何首烏(カシュウ)、センブリ等が有名です。しかしどこまで効果があるのかというとどうでしょうか。ふさふさになった人にあまりお目にかかりませんが。モノも食べるものも満足になく、プラス自然と調和して生きていた時代なら人の体も心もキレイですからそういった薬草も十分に効いたかも知れません。

結論から言って、確実に有効な手段はありません。では自分のことで恐縮ですが、私の体験から髪の毛を太くするということを考えてみたいと思います。実は私はもともとがサラサラの直毛でして、しかも神経が細い方なので、よく円形脱毛症などにもなりました。京都で漢方の修行をしていた時もやはりそのつらさから円形脱毛症を患ってしまった。しかし当時は私もあらゆることに挑戦するバイタリティにあふれていましたので玄米食を、長いこと続けました。するとどうでしょう、私のサラサラで腰のなかった髪の毛がだんだん固くそして太くなってきました。お金もなかったので、一汁一菜、玄米と、ひじきの味噌汁、胡麻、少なくとも一食はそれだけですませました。

現代栄養学的に言えば、カロリー的に見てバランスがよいかどうかわかりませんが、身体が浄化されていく感じがします。もさえる。結果、散髪屋さんでいつもハゲを気にして、円形ない?と聞くのが習慣でしたのでその答えは、いいえ が、ふつですよ になり、しっかりしてますよから、最後は 緑の黒髪 などといわれるようになったんです。さて、これは偶然でしょうか? 髪の毛の質が変わると言うことは、体も変わったんだと思います。当時、師匠に合わせてもらった 柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)を毎日飲んでましたので、それも効いたのかも知れません。

一方円形脱毛症ですが、これの治療も自分で試しました。ちょうど針灸を覚えた頃でしたので、そのはげた部分をしきりに針の先で刺激しました。これはアテズッポではなく、正当な治療法です。普通生えてくるまでに三ヶ月はかかるでしょうが、わずか一ヶ月で生えてきました。この刺激療法は確実に効果がありました。

一汁一菜とは言いませんが、肉食を断ち、淡泊な惣菜志向に激変すると、飽食に慣れた身体にはいい刺激になるでしょう。一種のショック療法ですね。海草の味噌汁、胡麻、梅干し、玄米には小豆や、いろんな豆類、穀物を混ぜます。米の量は白米の1/2以下にします。三食とは言いませんが。テレビを見ながらでもいいですから、頭部を刺激する。それにピッタリの梅花針(バイカシン)という針があります。私の経験では、玄米食にすると極端にひもじい思いがしますが、体が絞られてくると感性は高まるようです。その結果そのひもじさに代わる以上の精神的満足が得られるはずです。とはいっても、私自身、子供が小さいことを理由に玄米食をいまのところ中断していますので、強くは勧められません。家族の協力も必要です。私が育毛に関して自分の経験から思いついたことを書いてみました。

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ツムラの68番

ツムラの68番は芍薬甘草湯 (シャクヤクカンゾウトウ)という薬です。芍薬と甘草の二味で出来た漢方薬で、けいれんを止める作用の他に、一般的な鎮痛薬(腹痛、胆石痛、筋肉痛)としての利用法があります。心配なさっている副作用ですが、漢方薬の中には確かに性格の激しい種類の薬も存在します。そのあたりは新薬と同じです。この芍薬甘草湯ですが、その中では、おとなしい薬です。

芍薬はあの有名な「立てばシャクヤク・・・」の芍薬で、婦人病一般に配合されたり、胃腸薬になったり、おとなしいですが存在感のある魅力的なまさにその形容に近い生薬です。芍薬甘草湯は頓服的な使い方が多いですが、それを含んだ処方たとえば小建中湯(ショウケンチュウトウ)、柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)などは長く常用するのに適しています。ひきつれてから飲むというのは東洋医学的ではなく、それを未然に防いでこそ漢方です。ふだんから飲んでおけばいいのです。

他には抑肝散(ヨクカンサン)もいいと思います。厳密には抑肝散に芍薬を加えてつかうといいのですが、エキスにはないようなのでせんじ薬になります。漢方では問診の他に腹診といってお腹を診察します。芍薬甘草湯、小建中湯、抑肝散加芍薬これらの処方を使う方は、腹直筋が突っ張って二本棒のようになっている方が多いです。全体に緊張していることもあります。几帳面で神経質というのも目標です。

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足の三里の効用

体にある365のツボの中でも、最も有名なものはこの足三里でしょう。現代解剖学的な所見はともかく、昔から長生きの灸として有名です。さて、これが万病に効くかといえば、無理もあるかも知れません。以前にまとめたものがあるので、それをUPしておきます。効くかどうかは頭で考えずに、先ず実践してみて下さい。場所をはっきりさせるのは文章では難しいですが、膝の下10センチくらいの外側で、押すと指先まで響くところです。米粒くらいの大きさに揉んだもぐさを5−7つ程すえて下さい。出来れば一度プロのやり方を見せてもらえば、百聞は何とやらです。

足の三里の効用

1.三里はハリ・灸の学問で、胃経の土穴になっています。消化官系の脈気があつまる

  ところですから、ここに灸をすえますと胃気すなわち元気がさかんになります

  敏感な人ですとここにハリをすればお腹全体がぐうぐう鳴りだします。

2.消化器の病気一般に必ず用います。すなわち胃腸、肝、胆、膵などの病気によくき

  きます。

3.呼吸器、心臓などの病気で、消化器に栄養をつけなければならないときには、必ず

  配穴されます。

4.ノイローゼ、ことに神経衰弱やヒステリーに用いられますが、それが亢じて精神錯

  乱の場合などに用いて、実によく効きます。神経衰弱やヒステリーの傾向があるも

  のは、胃気が衰えて食欲が亢進して、放っておけば飯ビツ一杯のご飯を平気でたい

  らげます。三里は胃気を調えますので、そのいずれにもよくききます。

5.マネージャー病に追いやられる可能性のあるひとは、この三里の灸をすえてくださ

  い。このツボにはいらいらする気分をおちつける効果があります。

6.蓄膿症、鼻カタル、嗅覚に異常のある人は三里に灸するに限ります。胃経はハリ・

  灸の学問では鼻をめぐっているのです。

7.中風、半身不随、高血圧、低血圧、みなよくききます。脚気、足関節の痛みリウマ

  チなどみなこのツボを応用します。

8.昔の人は旅に出るときは必ず三里に灸をしました。松尾芭蕉の「奥の細道」の冒頭

  の文章でこのツボのことを知った人も多いことでしょう。

9.現代医学でも、ヘッド氏帯で子宮口、腎、輸尿管の反応が三里のツボのところに

  あらわれることがわかっていますので、ここへ灸することはこれらの病気を治した

  り、予防することができます。江戸時代の淫書に遊里にいくには必ず一週間このツ

  ボへ灸をせよと書いたものがあります。その方の元気がでるというのです。

10.手の肘の関節あたりに手の三里があって、大腸経に属しています。足の三里と手

  の三里は互いに連絡がとれていますので、足の三里に灸をすると大腸が調って便

  通がよくなります。

11.このツボに灸しますと、視力が増大します。老眼や近視の方はぜひお試し下さ

  い。

12.疲労の回復になります。元気が旺盛になって、老化を予防します。古来、長生き

  の名穴として、三河村の百姓の万平が三里に灸して、194才まで生きた話は有

  名で、翁草には源義経の騎手が三里の灸をすえて数百才まで長生きした話がで

  ています。そこまではいかないまでも、長寿に有効であるのは間違いがないよう

  です。

13.九大の原博士の著書には、三里に灸すると万病が治るとでています。近代医学を

  身につけた博士ですが、その三里治療で、「三里博士」と呼ばれています。

14.幼少時に三里に灸をすえますと、発育を増進します。ただし、小児に行なうばあ

  いは、糸状の灸で一壮か、せいぜい二壮で十分です。このほかに「ちりげ」とよ

  ばれる肩胛骨の間の地点のツボも子供専用ともいえる場所でよく用います。

15.妊婦が常用しますと、胎児の発育を促します。妊娠時に灸をしてはいけないとい

  う人がありますが、それは迷信です。ほかのツボと併用してつわりがよくなりま

  す。また三陰交のツボは逆子の特効穴として有名です。

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冷え性について

女性にとって冷え性は天敵のようなものです。最近は冬よりも夏の方が冷え性の害が多いようです。それはエアコンのせいです。薄着をしているところへ冷風が直撃!しますから、冬の寒さよりも実害が出やすくなります。しかも外へ出ると今度は熱帯並みの暑さで身体はどうしていいかわからなくなってしまう。冬ならそれなりに気構えが出来てますので、ある程度の対処は可能です。でもカッコを気にしすぎて、はた目にも気の毒なほど寒々しい姿のお嬢さんなども街で見かけます。これはよくないです。将来にわたって悪影響を残します。女性にとって腰から下、下腹部は非常に大切な臓器がありますから要注意です。お腹を冷やすことで、それはお腹だけではなくて、全身のホルモンの分泌を狂わせてしまいます。

一般に、自分の力、自分自身の熱では身体が暖まらないような方が冷え性です。ごく単純に考えれば血行が良くないでしょう。暖かい血がそこにふんだんに流れていれば冷えることはないですから。血が行き渡らないから冷気にあたりやすくなります。ですからその分を他から補ってやらなくてはなりません。外から補うのと、中から補うのと方法があります。

まず、外からですが、ひとつはお灸です。現在では カイロ という便利なものもあります。お灸は一度専門家に診てもらって、灸点(ツボを教えてもらうこと)してもらい、あとはボチボチ自分で家でやればいいでしょう。カタの残らないお灸が出てますのでそれを利用すればOK。お腹は勿論、下肢にも重要なツボがありまして、やってる最中からぽかぽかとからだが暖まってくるのがわかって、エライ気持ちいいもんです。外からの対処法でおさまれば、とりあえずはしのげます。

今度は内服です。西洋医学では「冷え」は検査に出ないので重要視しませんが、漢方では「冷え」は非常に重要なファクターで、これがあるかないかでは治療が根本から違ってきます。その方の身体に合わせて、いろんな処方を使います。最後に具体的な漢方薬をあげておきます。

貧血があったり、めまい、肩こり、小便の出が悪かったり、むくみがあり、痔などあれば、当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)。手足が冷えて、顔や頭にのぼせがあり、腹痛、しもやけなどがあるものは当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)。胃腸が弱く、手足が冷え、下痢などしやすいと人参湯(ニンジントウ)。比較的体力があって、生理不順、のぼせ、肩こり、便秘、足腰が冷えるなどがあれば桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)。他にも苓姜朮甘湯(リョウキョウジュツカントウ)、真武湯(シンブトウ)、当帰建中湯(トウキケンチュウトウ)、茯苓四逆湯(ブクリョウシギャクトウ)など

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屠蘇散は漢方

ウチでも毎年12月の中頃から、屠蘇散を来ていただいたお客さんに配ってます。同じものばかりでは飽きてくるので、毎年違うメーカーから入れてます。中には熱心な方もおられまして、わざわざ下さいといってこれだけをお求めになる場合もあります。確かに元旦にお猪口に入れた、ちょっと冷えたお屠蘇を家族で頂くと何か新年だなあなどと、心がフレッシュになります。お雑煮を食べ、お屠蘇を飲み、届いた年賀状をみているという風習は、すべて中国から来たものです。これらはすでに奈良時代には伝わっていたようです。

屠蘇散は別名「延寿屠蘇散」といい、名医で知られた漢の華陀(カダ)の創作というがあります。これを実用にしたのは、さらに時代を経た唐の孫子バクといわれています。当時最も恐れられていた疫病の予防、加えて邪気を払って(屠絶し)、仁魂を蘇らすという意味になります。わが国では、江戸時代からこれが大いに流行ったようですが、使い方を誤って多数の中毒患者を出し、片倉鶴陵(かたくらかくりょう)が、別説では曲直瀬玄朔(まなせげんさく)、これを憂えて処方を変更し、現在の内容になっています。ですから、今の屠蘇には毒性はありません。ご安心を。厳密にいうと薬効もなくなってしまった。

さて成分ですが、中身は蒼朮(ソウジュツ)桂皮(シナモン)、防風(ボウフウ)、山椒、桔梗、大黄(ダイオウ)、烏頭(ウズ)、赤小豆の8味です。お正月にお飲みになりましたか?シナモンの香りがしたでしょう。原方を眺めてみると、なるほどと思える内容で感心しています。疫病の予防薬として考えられたというだけの内容で、その治療に用いても効果があると思える解毒剤になっています。毒を動かしてそれを大便と、小便、汗に押し出します。その際消化器を傷つけないように胃腸薬を配合してあります。毒は体表のものでも、深奥のものでも対応してます。かくの如くの妙薬ですが、しかしながら何もない健康体では量を誤ると・・・息災どころか即災! お正月からこれはいただけないです。

最近のものではこの中から劇薬の烏頭と下剤の大黄を抜いています。クスリとしては翼の折れたエンジェル?ですが、まあお屠蘇は縁起物です。家族の一年の健康と幸せを願って楽しく飲んで下さい。もしこの屠蘇散を用いるとしたら、どんな病気でしょうか。余りめでたくない病気だと思います。例えば流行性のインフルエンザとかでしょうか。でも屠蘇散を処方することはまずないでしょう。クスリを出す側からみれば、こんなに使いにくいクスリはないです。歴史上の名医だけに許された名処方なのかも知れません。

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「後世方」と「古方派」 浅田宗伯という方は

では、順番としまして 後世方と古方から説明いたしましょうか。

はじめて中国から日本に学問として入ってきた医学、漢方の源流なんですけどこれを仮に名付けて李朱(りしゅ)医学と呼んでいます。金や、元の時代以降(漢の後の世)に中国に繁栄していた医学です。室町時代の田代三喜という人がこれを行いました。この医学は日本の医学の中心となり、曲直瀬道三などの中興の祖をへて大いに興隆しました。これが後世(ごせい)(漢の後の世)方です。特徴として複雑な学問体系をもっています。

一方その流れが江戸時代まで続きましたが、今度は伊藤仁斎らの儒学を時代背景に、ルネッサンス(復古)思想が起こり、原典ともいえる「傷寒論」(しょうかんろん)の時代(古い時代)に帰ろうと叫ぶものが出てきました。名古屋玄医などです。その思想を引き継いだ吉益東洞(よしますとうどう)という医傑が出て世の中の医学を大革命し、それまでの後世方をバッサリ切り捨てて、よりシンプルで、空論を亡くした漢方を唱えました。これが古方(こほう)です。この怪物の登場で、古方が今度は一世を風靡しました。この医学を完成させたのが幕末の尾台榕堂(おだいようどう)という名医です。特徴として、強い下剤などを用いて時に激しい治療をします。このような時代背景で、漢方界には古方と、後世方という二つの流派が出来ました。

自然の成り行きとして今度は、攻撃的な古方と守りに過ぎる後世方の両方の欠点を去り、長所を活かすという穏健派が現れました。第三の流派とも言うべきこれを折衷派(せっちゅうは)といいます。これに属するものは数多くいましたが、その中での明治漢方最後の巨頭が浅田宗伯です。

浅田宗伯ははじめ古方を学び、のちに広く方を求め、史学を頼山陽に学ぶなどその学殖の広大さは、例を見ないほどの膨大な著書からもうかがえます。その傍ら明治政府によって非科学的であるとの理由から葬られようとした漢方の救済運動の先陣となって活躍しました。結局は議会での採決に敗れはしましたが、その功績は非常に大きいものです。臨床家としても一流であり、フランス大使の難病を治したことから、宗伯の名は日本のみならず、世界にまでとどろきました。「栗園(宗伯)の前に栗園なく、栗園の後に栗園なし」と当時はこれ以上ないほどの絶賛を博した名医、国医、思想家、史学家、文人でした。特に「浅田流」ともいいます。

最後に今現在の日本の漢方界はすでに、純粋な古方家、後世方家という治療家はほとんど存在せず、浅田宗伯以後の漢方の大家の影響を受けたいわば「日本漢方」といったようなものが主流になっています。他に現代の中国の医学を重視した「中医学」というものも別の大きな流れです。

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益母草 ってなんて読むの?

店に来られる方の中にはその薬草の読み方もわからず、一枚の紙切れに書いたメモで、人に勧められたとかいってその効能もよくわからないで、お求めになる方があります。こちらは一瞬戸惑ってしまうのですが、それがとんでもないものでない限り、十分に説明した上で、素直にそれをお渡ししておくことが多いです。得てしてこういう場合、我々が、あーだ、こーだいうよりよく効く場合があったりするからです。 一方、自分でかなり詳しく調べて来る方がありますが、その場合の方がこちらが別のものを勧める可能性は高いようです。

益母草は やくもそう と読みます。あまりたくさんでるものではないです。ただし、中国では数千年来婦人病の妙薬として大量に用いられています。こういうことはわりとよくあることで、中国と日本でかなり消費量の違う薬草です。

紫蘇科のメハジキという植物で、全草を益母草、種子をジュウイシといいます。効能としては、生理不順を整える、利尿として、めまい、腹痛に、また解熱の効果もあります。主成分レオヌリンには降圧、利尿作用、強心、中枢神経の興奮作用などが認められています。飲み方は従来通りで、5−10グラムを600CCの水で、半量に煮詰め食間に三回に分けて飲みます。特に指示しない限り、葉っぱ類はたいていはこの飲み方でOKです。益母・・・母に益があるなんて、いかにも効きそうな名前です。

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漢方の効果の判断について

一ヶ月分の薬を飲んだけれども効果がなかったという場合、それが果たして薬が合っていなかったのかどうかという判断は難しい。実際その続きを聞くと、錠剤を4つずつ分包してもらって、それを一日三回飲むように指示されたが、なかなか飲めずに一日二回平均、一回しか飲めない日もあった。飲み終えれば効くと思っていたということもあります。一般論としてこれではまず効く薬でも効かないでしょう。漢方薬は新薬と違って少なく飲んで、少し効かすということが苦手です。ある程度の量を下回ると全く無効に終わるという感じがします。ですから飲むならきっちり指示されたとおりに飲むことが大事です。

また、出す漢方薬の性質によってもその判断は違ってきます。穂先の鋭い薬の場合は一ヶ月で効果がなければ迷わず薬を変えますし、じわじわ効く薬方の場合、三ヶ月も効果が現れなくてもまだ続けることもあります。

ですから、私は薬を出すときには、その薬の性質を合わせて説明するようにしています。なかなかそのことを理解して頂くのは困難なようですが・・・お金を払うんだから早くなおしてくれ!という気持ちは分かりますが、さてどうでしょう、一週間の病には、一週間の治療、三年の病には三年の治療をかけるというのは無理でしょうか?薬害が叫ばれて久しい割には目先の効き目にこだわる方が多いようにも思います。急場をしのぐのは病院で、じっくり治すのは漢方で、っと使い分けるのがいいのではないかと思っています。

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体質改善の漢方

「体質」という言葉自体が、だいたい西洋医学のものですので、私はあまり使わないのですが、不快な症状が取れることを目的とすれば、結果として体質は改善されたということになります。体質」は一生変わらないもの、変わらないから「体質」なんだ!というような禅問答のようなことを声を大にして言うひともおります一般には身体が楽になればよいのですから、そのことを体質改善と仮に呼ぶのは一向に差し支えないと思っています。

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痩せる漢方薬

まず漢方で痩せた例を。60歳の肥満した男性、膝が悪く、水がたまりよく抜いている、最近では痛みがひどくなって歩くのも不自由になってきた。そこで越婢加朮湯エッピカジュツトウを一ヶ月分与えた。すると飲み始めるやいなや7キロほども劇的に痩せて、身体が軽くなり、正座も出来るようになった。膝の痛みも無くなってしまった。

58歳の女性、いわゆる更年期の不快症状で漢方薬を所望、証により柴胡桂枝湯サイコケイシトウと当帰芍薬散トウキシャクヤクサンを併せて投与。徐々に諸症状は改善した。が、最も本人が喜んだのは、体重の減少。すこしづつ減って、一年間で6キロの減量になった。おまけに色が白くなって、周りからもキレイになったといわれて、すこぶる感謝された。

さて、これらの例は特に痩せるための薬を出したわけではなく、その人の症状に合わせて薬を出した結果そうなっただけ。出した薬のなかに痩せるような成分は入っていないのです。生体を最もバランスのいいところへ持っていくというと抽象的ですが、痩せている人は肉を付け、肥えている人からは肉を取ります。ですから、健康体で理想的な身体の人が痩せたいと言って漢方薬を飲んでも痩せる道理はありません。

肥えたいけど、肥えられない。という悩みをお持ちの方も相談に来られます。痩せたい方よりもずっと深刻ですね。実際治療もかなり複雑で、難しいものです。こういう方から見ると、健康であって「痩せたい」というのはやや「贅沢」ともいえます。ちょっとこじつけになりましたか?

昭和の漢方の大家、大塚敬節先生は今も語り継がれる名言を残しました。これには功罪もあると思いますが、その金言は、筋肉質の肥満には「防風通聖散ボウフウツウショウサン」、水膨れには「防己黄蓍湯ボウイオウギトウ」というものです。肥満を単に筋肉質と、水質に分けてどちらかを使え!というマジックです。大塚先生の言葉にはその治療法としての大局のヒントがあり、その言葉をストレートに受け取ってはいけないのです。

長くなりました。もう少し。肥えるには何か原因があったかも知れません。それが分析できるかどうかが、ひとつの分岐点。西洋医学で言うところの体質。親がともに肥満であると、やはり肥えます。身長と同じことです。便秘もよくないです。早食いも肥満の元。歯の悪いのもダメ。太陽の運行に逆らっていないか。その点もチェックです。間食を辞める決意は最低持っていますか。

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不眠症と漢方

一口に不眠症といっても、千差万別で、一般論でお答えするにはかなり広範な回答になってしまい、結局実益のないものになってしまいます。別の観点からお話したいと思います。

うちに来られる不眠症の方は大概が、病院で睡眠薬を処方してもらっている人です。このような薬をずっと飲んでいていいんだろうか?という不安、次の日にまで意識混濁などの形で残ってしまう薬の強さに驚いたり・・・おでこに絆創膏を貼って、出来れば新薬から離れたいということになります。一応、主に使用される薬方名だけをあげておきましょう。

黄連解毒湯オウレンゲドクトウ  イライラして眠れない、高血圧、のぼせ

温胆湯ウンタントウ       大病後の神経過敏状態、疲労感、鬱状態

帰脾湯キヒトウ       動悸、貧血傾向、不安感

酸棗仁湯サンソウニントウ  心身ともに疲れ果てている状態 逆に嗜眠症

               にも使う

柴胡加竜骨牡蛎湯サイコカリュウコツボレイトウ  肥満体質のもので、臍の上で動悸のある

                        もの

抑肝散ヨクカンサン         俗に言う疳が高ぶっているようなもの

甘草瀉心湯カンゾウシャシントウ     胃腸障害があり、下痢、お腹がごろごろ鳴る

まだまだありますが、要はその人に合わせて出すということです。それがいつの場合で漢方の基本です。

処方ではないですが、薬酒もいいです。枸杞(くこ)などがいいでしょう。寝る前にナイトキャップとして飲めば、ほかほかと温もり、その安堵感が眠りへと誘います。冷え性があって眠れない人では、特に効果が期待できます。ただ注意することは飲み過ぎないこと。また、不眠に苦しむ方はたいていが肩こり症です。

肩背部に軽い針をして、その緊張感をとってやればリラックスできてよく眠れます。背中の肩の線を結んだ中心に大椎というツボがありますが、このあたりにほのかなお灸をすると、気持ちいいです。針がいいかお灸がいいかは人によって選びます。身体全体をリラックスさせるには、真向法まっこうほうがお勧めです。これは、呼吸法と柔軟体操を組み合わせた四つの簡単な動作からなる体操です。最近では健康教室やテレビでもよくやっています。大事なポイントは曲げることではなくて呼吸法。身体を曲げる際に意識して息を吐きます。

不眠症は端から見ると、「どうせ昼間に寝てるんだろう」という感じで軽くとらえる向きがありますが、当人にとっては非常な苦痛を伴います。眠りというものは自然のリズムでうまくいってるときはわかりませんが、一度調子が狂ってその異常を意識し出すと自分ではコントロール不能に陥ってしまいます。自分でどうにも出来ないということ、人にわかってもらえないということが最も苦痛です。

 

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夜間尿の漢方治療

夜尿症は命にかかわるようなものではないとはいえ、非常に親の苦痛を伴う病気です。この子にはなぜ出来ないのか、下の妹はちゃんと人並みなのに・・・とか、どうしても人との比較、兄弟との比較をするようになり、本人も萎縮してきます。この意味のない比較だけはやめなくてはなりません。幼稚園児にもなると、人格もあり、自尊心もあります。それでなくても本人は気負っているのですから、家族はそれを黙って包み込んでやることが大事だと思います。

症状としては一晩でも数回も漏らすものや、週に一回程度のものまであり、その量も少量のもの、大量のものさまざまです。漢方でよく使われる処方というと

小建中湯・・・これは身体が虚弱で昼間でも漏らすことがあるものに使います

八味丸・・・運動が鈍かったり、のどの渇き、ぶよぶよと肥えているようなもの

葛根湯・・・昼間は正常で、夜になると寝ぼけてしまって漏らすようなもの

白虎湯・・・体格がよく、たくさん水をほしがり大量に漏らすもの。

柴胡桂枝湯・・・主にストレスによるもの。お腹の緊張しているような子供。

性質の全く異なったこれらの処方を使って治療しますが、即効性はあまり期待できないでしょう。焦らずに根気よく治すことが必要です。漢方薬が効いてくると、一晩の尿の量が減ってくる、漏らさない日が増えてくるなど反応が出て、本人に自信がついてくれば、薬の効き方もさらによくなってきます。


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