漢方知識応用編

 

このページは少し踏み込んだ専門的な漢方的の知識について書いています。質疑録に書いていたものなどで、内容のやや難しいものをこちらに移動しました。

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薬酒の作り方

漢方薬を飲む場合に、代表的なのは煎じるということ。また、粉末にしたり、最近ではエキス化するという方法も主流になっています。そんな中でも、根強い人気があるのが薬酒です。生薬そのものの効果に、百薬の長<酒>がマッチングした薬酒は、長期において抽出するために、各成分が芳醇に解け合い、体にしみいるように効果を現します。病気の治療という面では、補助的なものととらえていますが、食生活の一部として取り入れやすい利点があります。うまく利用して、健康に役立てたいものです。症状に合わせて2種類以上を混ぜ合わせた混合酒も効果的です。

容器は蓋が密閉できるガラス瓶を使用します。材料(生薬)をそのままホワイトリカー(1.8g)に仕込みます。梅酒をつける時期にはデカンタとして容器付きで出ていますからそれを利用すれば便利です。材料は洗わずにそのまま用います。密栓して三ヶ月貯えますと、おいしい薬酒の出来上りで、一ヶ月目くらいから飲んでも効果はあります。また、六ヶ月以上貯えますと一層まろやかな味になります。果糖などの甘味料は種類によっては薬酒を腐らせたり、痛みやすくさせますのでおすすめできません。甘味が欲しいときは、ナツメの実を2−30個ほど入れれば自然な甘みでおいしくなります。ナツメ自体も生薬名を大棗といいまして滋養強壮に効果があります。また、飲む際に蜂蜜を入れて飲んでもおいしくいただけます。

薬酒の飲み方

  1. 一度にたくさん飲んではいけません。少量(小杯2杯程度)を毎日続けます。
  2. 好みに合わせてウーロン茶割、湯割り、水割りにしても結構です。
  3. 夜寝る前や食前に飲みますが、症状によっては1日2回飲みます。

 

薬酒アラカルト (生薬の量は一升あたりの目安)

クコ酒(枸杞250c)

昔から不老長寿の妙薬と言われています。肝臓、腎臓を守り、動脈硬化、ストレスなどにも効果があります。薬酒といえばクコ酒を思い出すほどに人気があります。

またたび酒(木天蓼 もくてんりょう100c)

神経痛、冷え性、強心の作用のほかに神経がピリピリして寝つかれない時の催眠効果があります。

ベニ花酒(紅花50c)

赤い色はカーサミン、黄色はサフロール・イエロー という色素のためで、昔から婦人の薬や化粧品原料として使われています。生理痛や生理不順、手足の冷えなどに優れた効果があります。

黄柏酒(キハダ100c)

独特の苦みはキハダに含まれるベルベリンのせいで健胃作用があります。食欲不振、下痢によく効きます。

五味子酒(五味子300c)

シザンドリンという成分を含有し中枢神経の興奮作用があり、疲労回復と咳止めに用います。

杜仲酒(トチュウ200c)

高血圧、強壮、鎮痛

地黄酒(ジオウ300c)

貧血、腎機能を高める

丁字酒(チョウジ60c)

血の道症、消化促進、健胃

何首烏酒(カシウ30c)

便秘、滋養強壮、整腸

五加皮酒(ゴカヒ200c)

リウマチ,神経痛、強壮

金銀花酒(キンギンカ100c)

膀胱炎,腎臓病、関節炎

イカリソウ酒(インヨウカク100c)

精力減退、陰萎、健忘症

黄精酒(ナルコユリ200c)

病後の疲労回復、糖尿病、強壮

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民間薬                  

民間薬とは、何でしょうか?これは一応漢方薬とは別の概念で捉えています。つまり、漢方薬が古典に則り一定の規則に従って処方を組み立てて行くのに対し民間薬は言い伝えに従ってひとつの薬草を、特定の疾患に用いるという特徴があります。たとえばおなかの痛みにセンブリを飲む、糖尿病にはタラの木を使う、胆石には裏白樫を飲むといった具合です。一般に「漢方のお茶」といわれることが多いようです。

人によってはある意味で漢方の亜流であって卑下される向きもありますが、これが非常に功を奏する場合があるのをみていますと、なかなか侮れないという感じを持っています。今後さらにその効き目を検証することが出来れば、漢方治療の中に取り入れられて行くように思います。

実際の現場では民間薬に対する質問は多いのでまとめて表にしてみました。数が多いので4つに分けてあります。適当な本を見れば出ていることですが、やや漢方的な立場にたって書いています。漢方生薬と民間薬の境目ははっきりしているわけではなく、この表の中にも調剤で用いられる漢方薬はたくさん含まれています。なお彩雲堂ではここに書いたものはすべて常備しています。 目次へ戻る

民間薬の効果1

 生 薬 名

 植物名及び薬用部位

 適用 、用い方等

・赤目柏            

・アカメガシワの樹皮

・胃酸過多、胃潰瘍

・あららぎ            

・イチイの葉及び枝

・糖尿病

・あまちゃずる          

・アマチャズルの全草

・朝鮮人参成分を含有。健康茶

・いかり草      

・イカリソウの茎葉

・強精、強壮、陰萎、健忘症

・いなご

・イナゴの全体

・気管支炎、喘息、百日咳

・うわうるし

・クマコケモモの葉

・腎盂炎 尿道炎 膀胱炎等尿路防腐

・裏白樫

・ウラジロガシの葉枝

・泌尿器結石、胆石

・延胡索

・エンゴサクの根茎

・鎮痛 通経剤で頭痛 腹痛 月経痛

・延命草    

・ヒキオコシの茎葉

・苦味健胃薬で胃腸炎に用いる

・黄精  (オウセイ)        

・ナルコユリの根茎

・強壮、陰萎、糖尿病 薬酒にする

・黄柏  (オウバク)         

・キハダの樹皮

・苦味健胃 下痢 食欲減退 打ち身

・黄連        

・オウレンの根茎

・充血 精神不安 整腸 苦味健胃

・甘草        

・カンゾウの根

・鎮痛、去痰、、緩和、下痢

・葛根 (カッコン)    

・クズの根

・感冒、熱性病、項背のこわばり

・夏枯草 (カゴソウ)   

・ウツボグサの花穂

・利尿薬、腫れ物、ルイレキ、眼病

・艾葉  (ガイヨウ)   

・ヨモギの葉

・止血、腹痛、吐瀉 浴場料として皮膚病に用いる

・何首烏  (カシュウ)     

・ツルドクダミの塊根

・補精 滋養強壮 緩下 整腸 薬酒

・柿の葉        

・カキの葉

・高血圧、ビタミンC お茶

・柿渋 (カキシブ)     

・渋柿の未成熟果実の渋

・高血圧予防、血圧降下

・桔梗  (キキョウ)    

・キキョウの根

・去痰、咽喉痛 排膿

・キササゲ       

・キササゲの果実

・腎炎、ネフローゼ、浮腫の利尿薬

・菊花  (キッカ)   

・キクの花

・頭痛、めまい、眼病

・キラン草

・キランソウの全草

・切傷、腫れ物、高血圧

・金銀花 (キンギンカ)

・スイカズラの花の蕾

・浄血 利尿鎮痛 化膿性疾患 腸炎,関節炎

・金銭草 (キンセンソウ)

・ミズヒキの全草

・胆嚢結石、黄疸性肝炎、尿道結石

・苦参   (クジン)

・クララの根

・苦味健胃、かゆみ、水虫(外用)

・枸杞子 (クコシ)

・クコの実

・強壮 強精 糖尿病 腎臓疾患 枸杞酒 にする

・枸杞葉 (クコヨウ)

・クコの葉

・健胃、強壮  お茶にして飲む

・熊笹  (クマザサ)

・クマザサの葉

・解熱、止渇、利尿、清涼

・桑の葉        

・クワの葉 

・駆風、整腸、補血強壮

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民間薬の効果 2

・決明子 (ケツメイシ)     

・エビスグサの種子

・緩下、強壮、健胃、高血圧 茶剤

・ゲンノショウコ

・ゲンノショウコの地上部

・止瀉、整腸、皮膚病(外用)健康茶

・紅花   (コウカ)

・ベニバナの花

・通経 月経痛 婦人病 冷え性 更年期障害

・五味子   

・チョウセンゴミシの実

・滋養 咳止め 気管支炎 喘息 頭痛 食用

・牛旁子 (ゴボウシ)

・ゴボウの種子

・利尿、浮腫、化膿症、解毒、咽喉痛、催乳

・五加皮  (ゴカヒ)      

・ウコギの根皮

・痛み止め、健胃、強壮 五加皮酒

・胡椒

・コショウの未成熟果実

・発汗、駆風、健胃

・虎杖根(コジョウコン)       

・イタドリの根

・便秘、通経、利尿、鎮咳

・サフラン    

・サフランの花の柱頭

・鎮静、通経、鎮痛、芳香料、着色料

・山帰来 (サンキライ)  

・サルトリイバラの塊茎 

・慢性皮膚疾患、消炎利尿

・山梔子  (サンシシ)

・クチナシの果実

・黄疸、諸出血、打撲、打ち身(外用)

・地黄   (ジオウ)

・アカヤジオウの根

・貧血、腎機能を高める 地黄酒

・紫根   (シコン)

・むらさきの根

・悪性腫瘍、潰瘍 、軟膏に

・車前草(シャゼンソウ)    

・オウバコの地上部 

・せき止め、利尿、胃腸病

・十薬  (ジュウヤク)

・ドクダミの地上部

・緩下、解毒、肌の荒れ、利尿

・柿蒂   (シテイ)        

・カキのへた

・しゃっくり止め 夜尿症

・地骨皮 (ジコッピ)

・クコの根皮

・清涼、解熱、強壮、鎮咳

・常山 (ジョウザン)

・ジョウザンアジサイの根

・抗マラリア、解熱、吐痰

・女貞子 (ジョテイシ)  

・トウネズミモチの果実

・解熱、強壮、強精、健胃整腸、肺結核

・地竜  (ジリュウ)

・ミミズ

・解熱 風邪薬と併用する

・沈香  (ジンコウ)

・ジンチョウゲの樹脂

・健胃、鎮痛、鎮静 嘔吐、腹痛

・水蛭   (スイシツ)

・ヒル

・駆お血、通経

・スギナ

・スギナの茎葉

・利尿、糖尿病

・石こく  (セッコク)

・セッコクランの茎

・神経強化、健胃、消炎、強壮 薬酒にする

・センナ

・センナの葉

・瀉下剤

・センブリ      

・センブリの全草

・苦味健胃、二日酔い、養毛剤

・石榴果皮(セキリュウ)

・ザクロの成熟果実の果皮

・収れん、止瀉

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民間薬の効果 3

・仙鶴草 (センカクソウ)

・キンミズヒキの全草

・止血、止瀉、消炎、強壮

・蝉退  (センタイ)

・クマゼミ,アブラゼミのぬけがら

・解熱薬、皮膚病

・桑白皮 (ソウハクヒ)

・クワの根皮

・消炎性利尿、緩下、気管支炎、咳

・大黄

・ダイオウの根茎

・瀉下、健胃薬、消炎、駆お血、胸腹膨満

・大茴香(ダイウイキョウ)

・八角茴香

・食欲増進、健胃、興奮薬 スターアニス酒

・代赭石 (タイシャセキ)

・天然の赤鉄鉱

・止血、補血薬

・タラ根皮

・タラの木の根皮

・糖尿病、腎臓病、胃腸病

・丁字   

・チョウジの蕾

・芳香性健胃 消化促進 血の道症 丁字酒

・竹葉 (チクヨウ)

・ササクサの葉

・解熱、止渇、清涼、利尿

・露草      

・ツユクサの全草

・利尿、咽喉痛、湿疹、かぶれ(浴場料)

・天南星(テンナンショウ)   

・マムシグサの塊根

・たん切り、吸い出し(粉末)、小児痙攣

・天麻 (テンマ)    

・オニノヤガラの根茎

・頭痛、めまい、強壮、小児ひきつけ

・灯心草(トウシンソウ)         

・イグサ

・腎炎、夜泣き、浮腫

・冬葵子 (トウキシ)

・イチビの種子

・利尿、緩下、母乳不足

・唐胡麻 ヒマシ 

・トウゴマの種子

・瀉下薬 利尿、すりおろし彼岸花足の裏に張る

・党参 (トウジン)

・ヒカゲノツルニンジンの根

・疲労回復、健胃整腸、咳止め

・土瓜実(ドカジツ)

・カラスウリの実

・凍傷,ひび,あかぎれ

・土骨皮(ドコッピ)

・クヌギの樹皮

・水痢,腫物

・杜仲 (トチュウ) 

・トチュウの樹皮

・強壮、血圧降下、鎮痛、鎮静 神経痛

・南天実

・ナンテンの果実

・咳どめ、解熱、眼病

・南蛮毛(ナンバンモウ)

・トウモロコシの果毛

・腎臓病 腎炎、ネフローゼ 利尿剤

・人参

・オタネニンジンの根

・虚弱体質 消化不良 下痢 疲労回復 人参酒

・忍冬 (ニンドウ)     

・スイカズラの茎葉

・消炎 利尿 毒消し 関節炎 梅毒

・乳香 (ニュウコウ)

・樹液 ゴム樹脂

・腫痛、腹痛、通経剤、薫香料

・ニワトコ(接骨木)     

・ニワトコの枝 

・捻挫、打ち身、湿疹(浴場料)

・敗醤根(ハイショウコン)  

・オミナエシの根

・消炎、排膿、利尿、駆お血剤

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民間薬の効果 4

・ハコベ      

・ハコベの地上部

・歯槽膿漏、浄血、催乳、利尿

・はとむぎ(ヨクイニン)

・ハトムギの果実 (外皮をのぞいたものがヨクイニン)

・いぼ、さめはだ、排膿、鎮痛

・はぶ草

・ハブソウの全草

・健胃、利尿、強壮、緩下

・はぶ茶

・炮じたエビスグサの種子

・お茶にして飲む

・浜千舎(ハマジシャ)   

・ツルナの地上部  

・胃炎、胃潰瘍、胃癌、食用

・蕃果 (バンカ)

・バンジロウの果実

・糖尿病

・菱の実         

・ヒシの実

・滋養強壮、消化促進、食用

・枇杷葉(ビワヨウ)        

・ビワの葉 

・浴場料、健胃、下痢止め、暑気当たり

・彼岸花根

・ヒガンバナの根茎

・利尿(外用)ひざの水とり唐胡麻と一緒に足の裏に張る

・一ツ葉

・ヒトツバの葉

・利尿、淋病

・百部根

・ビャクブの根

・殺虫剤 毛じらみ 蚊に外用 気管支カタル

・藤瘤 (フジコブ)

・フジの木の虫瘤

・子宮癌、胃癌

・亡虫 (ボウチュウ)

・ウシアブ

・駆お血、通経薬

・蒲公英根(ホコウエイコン 

・タンポポの根 

・乳汁分泌促進、苦味健胃、コーヒー代用 肝臓病

・マクリ

・マクリの全草

・回虫駆除

・木瓜  (モッカ) 

・ボケ・ボケの実 

・疲労回復、脚気、リウマチ 薬酒にする 咳止め

・マタタビ   

・木天蓼の虫こぶ

・冷え性、神経痛、リウマチ 薬酒、浴場料

・木賊 (モクゾク)    

・トクサの地上部 

・痔の出血、下痢、利尿、淋病

・桃の葉         

・モモの葉

・湿疹、あせも、かぶれ 浴場料にする

・ユズリ葉   

・ユズリハの葉

・寄生性皮膚病の洗浄剤(外用)

・ヨモギ(艾葉 ガイヨウ)   

・ヨモギの葉

・止血、腹痛、吐瀉 浴場料として皮膚病に用いる

・蘭草  (ランソウ)

・フジバカマの全草 

・黄疸、糖尿病、解熱、通経、浴場料、利尿

・竜眼肉     

・リュウガンの果肉

・滋養強壮、神経衰弱、不眠症

・連銭草 (レンセンソウ)

・カキドオシの全草

・小児の疳虫、咳、解熱

・蓮肉   (レンニク)

・ハスの種子

・強壮、強精剤 陰萎、胃腸炎、婦人病

・露蜂房 (ロホウボウ)

・スズメバチの巣

・小児ひきつけ、乳汁不足、消炎作用

 

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食養生

もう十年以上も前になりますが、食養生に関してまとめて小冊子を作りました。大師匠にあたる荒木正胤先生の文章を参考にしながら、まとめました。記述がやや堅苦しく、全体に荒削りですが、おおよそは的を得ていますのでそのまま掲載します。漢方でいうところの「正食」です。内容的にかなり手厳しい面もあります。一部割愛していますが長文ですので3つに分割しておきます。目次へ戻る

漢方の食養生法

食養生 1         

「命は食にあり」と古人は申しましたが、東洋には現代栄養学とは違った独自の食生活の考え方があります。どのような動物でも歯を見れば、何を食べているかは理論上に分かりますが、人間も同じように考えることができます。人の歯は成人では大臼歯(奥歯)が十二枚、小臼歯八枚であわせて二十枚です。その形は臼のようで穀類を食べるように出来ています。あとは犬歯(糸きり歯)が四枚、門歯(前歯)が八枚あります。 犬歯は肉類を食べるのに、また門歯は包丁のようで野菜を食べるのに適しています。つまりご飯が5、肉が1、野菜が2といった割合になります。これに年齢や体質、季節、性別、職業、生活環境、その他いろいろなことを考えにいれて正しい食生活が決まります。

 年齢的にいえば、二十才までは成長期で立派な体格を作る食物が必要です。穀類を主とすることには変わりませんが、おかずに動物性タンパクや、骨に必要なものを取り、量もお腹いっぱい食べても結構です。好き嫌いは離乳期の習慣が大きな影響を与えるので注意します。

 二十才ー五十才までは人生の活躍期、そしてその前半は子孫をつくる性生活の最盛期です。食生活は心身をつくる同化作用ですが、性生活はその反対の異化作用で個体を消費して次代の生命を生み出す働きです。この時代の食物も穀類を主としますが、おかずは植物性の脂肪に富んだものが必要です。食事の量は腹八分目をもって理想とし、食べすぎは絶対にいけません。ただし女性には出産があるので妊娠、授乳中のおかずは成長期と同じようにとります。`

 五十代は人生の整理期で、六十才以後は奉仕期です。多年の経験を生かし、これを次代の人々に伝え、社会の指導的な位置にあって奉仕の生活をすることがつとめです。この時期の食物は、脂肪や塩分を減じ、淡泊な食物をとり極端と思われるほど全体の食事量を減らすことが必要です。更年期以後の肥満や、見かけによらず疲れやすく精力の減退を訴える人は、そのほとんどが食生活に問題があります。

以上は年齢による原則ですが、季節による食物の変化を考えると秋に収穫する陽性の米を主食とする場合は、植物性のものを副食とする必要があります。 これに対して春に収穫する陰性の麦を主食とする欧米人が、陽性の肉類を副食とするのは自然の命運です。米を主とし、これに小麦等を混食する日本人はこれに魚介類、豆類、海草、野菜をとるのが最も理想的なのです。

 

食養生 2

注意しなければならないのは危険な薬物による人工着色や防腐剤として毒劇物が食品に使用されていることです。現在ではみそ、醤油のようなものさえ安心できないのが現状です。 日本古来の和食を考えてみて下さい。ご飯にワカメと豆腐のみそ汁、つけもの、青菜のおひたし、小魚の焼物、キンピラゴボウ、梅干し、季節の野菜、その他どれもこれも健康食です。子供には身体を丈夫にし、頭をよくします。成人には疲れ知らずの不老の身体にします。隠岐の人々が八〇、九〇才になっても元気に働けるのは、食事が本土ほど洋風化されていないせいもあるでしょう。

最後に、人間は料理をすることを覚えてから、とかく食べ過ぎの傾向があり、特に病気にでもなると栄養をとらなければ身体がもたないと考えて、むやみにカロリーの多いものを過食しがちです。これは大変な間違いです。東洋の養生書には食べ物を多くとれと書いたものは、一つもありません。

 食物を少なくすれば睡眠が少なくてすむ、身体も軽くてよいと書いてあります。貝原益軒の「養生訓」には、十二少ということが説いてあります。

 「かならず十二の少をまもるべし。食を少くし、飲物を少しくし、五味の偏りを少しくし、色欲を少しくし、事を少しくし、怒りを少しくし、憂いを少しくし、悲しみを少しくし、思いを少しくし、臥すことを少しくすべし。かように事ごとを少くすれば元気へらず、これ寿をたもつの道なり。」といい、育児法のところでも、「小児をそだつるには、三分の飢えと寒とを存すべしと古人いえり」と先哲の言葉を引用していましめています。

 ギリシャの賢人、ピタゴラスは九十九才の長生きをしたひとでしたが、その食べ物は玄麦パンと野菜と蜂蜜を少しとるだけで肉類も酒もとりませんでしたが、その養生訓のなかには 「飲食の適度とはヘトヘトになることだけを防ぐほど、ひかえめにとる事である」、「人の病気はみな飲食をつつしまないためにみずからがつくったものである」といっています。

 恩師の著作から毎日の食べ物について引用してみます。

1.穀物を主食とする。但し脱穀しただけで精白しない。主と して玄米、これに麦、

  小麦、粟、そば、ひえ、豆類などを まぜることもある。

2. 豆類。特に大豆とその製品は毎日食べる。大豆、小豆、 えんどう、そら豆、落

  花生、豆腐、もやし、納豆、おから、 みそ。

3,魚介類。まるごと調理のできる小魚類、近海でとれるもの。 例外として鰹節だけ

  は食べる。かれい、ひらめ、あじ、い わし、はぜ、淡水魚、蛤、あわび、牡蛎、

  あさり、しじみ、 うに、なまこ、えび、いか、くらげ、たこ、かに。

4.果物類。季節のものを少し食べる。柿、桃、梨、柑橘類、 いちじく、いちご等。

  瓜類、栗、かや、ぎんなん、はすの実などはよく食べる。

5.野菜、山菜、根菜、水菜。葉菜と根菜は土地でできる新鮮なものは何でも食べる。

  食用きのこ類も何でも食べる。

6.海藻類。のり、わかめ、ひじき、こんぶ、ところてん、寒 天等。のり、こんぶ、

  わかめの類は毎日食べる。

7.生で食べるものは、大根、にんじん、ねぎ、にんにく、らっ きょう、山の芋など

  で、他の野菜や葉菜はたいてい料理して食べる。ホウレン草は毒草ですですからゆ

  でて食べます。

8.乾物類。しいたけ、かんぴょう、ゆば、麩、ぜんまい、わ らび、魚の干物、貝類

  ほしえび。

9.つくだに類は自家製のものか、老舗のもので、砂糖を使っ たものや着色したもの

  防腐剤などを使用している市販品 は一切用いない。はんぺん、かまぼこ、豆腐の

  類もホウ酸 等の防腐剤の入っている恐れのあるものは一切用いない。

10.まれに食べるものは、鶏肉、鶏卵、塩辛、チーズ、レバー等。ほとんど食べない

  ものは、カン詰、牛肉、豚肉、バタ ー、さば、まぐろ、大鯛等。

11.漬物類。梅干しは毎日食べる。たくあん、らっきょう、しょうがの酢漬けなどは

  必ず自製するか信用のおけるものを用いる。。糠みそ漬け(なす、きゅうり、しょ

  うが、みょうが)もよくたべる。夏はきゅうり、きゃべつ、らっきょう、みょうが

  大根などを薄く切って塩を加え、十五分間くらい圧した、押し漬けをたべます。白

  菜漬、朝鮮漬、千枚漬、すぐき、たかな漬など随時たべます。奈良漬は市販のもの

  には着色剤を用いたものがありますから、市販のべにしょうがやらっきょうと同じ

  くたべないようにします。

12.蜂蜜、雑魚などよく食べる。白砂糖は一切用いま せん。黒砂糖、氷砂糖、果糖

  はまれに用います。

13.塩昆布、てっかみそ、ごま塩、つくだ煮(砂糖を用いない もの)はいつでも食

  膳に常備する。

14.緑茶、抹茶は毎日用いる。梅干し、大徳寺納豆、蜂蜜、和 三盆などを茶うけと

  しての味は格別です。紅茶はまれに、 コーヒーは用いない。 

 以上は健康なときに常時用いるよい食品ですが、病気になった時はその状態に応じて選んで用います。酒はいいものか悪いものかは、いろいろと議論されていますが、もっともいいのはやはり貝原益軒の「養生訓」だと思います。「酒は天の美録なり。少し飲めば陽気をたすけ、陽気をやわらげ、食気をめぐらし愁いをさり興を発して、甚だ人に益あり。多くのめばまた、人を害すること酒に過ぎたるものなし。水火の人をたすけてまた、よくひとにわざわいあるがごとし」「少し飲み少し酔えるは酒の禍なく、酒中の趣をえて楽しみ多し。人の病、酒によりて得るもの多し。酒を多く飲んで、飯を少し食らう人は命短し。」「酒を飲むには、おのおの人によりてよきほどの節あり。少し飲めば益多く、多く飲めば損多し。」「およそ酒はただ朝夕の飯後に飲むべし。 昼と夜と、空腹に飲むべからず。みな害あり。」「およそ酒は夏冬ともに冷飲、熱飲によろしからず、温酒を飲むべし。」「客に美膳を饗しても、みだりに酒をしいて苦しましむるは情なし。大いに酔わしむべからず。客は主人しいずとも、つねよりは少し多く飲みて酔うべし。主人は酒を妄りにしいず、客は酒を辞せず、よきほどにのみ酔いて、よろこびをあわせて楽しむこそ、これよろしかるべけれ。」

要するに、酒は一方では害があるといわれ、他方では益があるといわれるけれども、つまり量と質と飲み方の問題であるというのが益軒先生の意見です。

 

食養生 3

食医 石塚左玄     

一八五一年に福井に生まれた天才的な食養家・石塚左玄翁は、当時の栄養学がタンパク・デンプン・脂肪のカロリーによって説明されていることに反対し、日本人は次の五つの原理に基づいた食べ方をしなければならないことを明らかにしました。 その五つの原理とは、一、食物至上論 二、陰陽調和論 三、穀物動物論 四、一物全体食論 五、身土不二論 がそれです。各々の原理について説明していきます。

 

一、食物至上論

 一口にいいますと、 「命は食にあり」 「病は口にあり」 ということです。「養生訓」では「食事も修養」という言い方をしています。現代では食事がレジャー化されて、グルメなどという言葉が流行るほどですが、単に欲望を満たす行為と考えてはいけないのです。一般に栄養価値が高く、消化の良いものは、食べるのが楽ですからおいしいと感じます。不消化物は無用と考えて取り除き、白砂糖で甘味をつけ、化学調味料をたっぷり使った方がおいしく感じるのです。消化の必要もないので胃腸は楽になりますが、その反面、内臓は退化が進みます。歯は抜け、胃腸はその機能を失って、切断除去しなければならないということになります。

 「食事は楽しく食べなければならない」とよくいわれますが、ここにも落し穴があります。汗を流して働けば、うまいものもまずいものもありません。空腹でもないのに食べるのでは楽しいはずの食事も楽しくありません。 それを無理してたのしもうとすれば、味付けをうまくし、消化吸収のよいものにするしかないわけです。こうしたことが健康によいわけはありません。 すべての病気の元凶はこんなところにあるのです。また、『よく噛む』というあたりまえのことすら軽視されるのは大変な問題です。

 石塚左玄翁は「粉砕し、唾液と混じえて飲み砕かせる穀物が最良である」といっています。消化のことを「こなす」と言いますが、これは、よく噛んで「粉なす」ことからきている言葉です。左玄翁の提唱する玄米食では、先ず、よく噛むことが要求されますし、食べ過ぎることはありません。おかずもわずかの野菜や海草、豆類、油、味噌、醤油で足りるし、小魚などで現在の栄養学者がいうところの標準栄養構成は十分に可能です。「食は生命なり」とはまさにこのことを言っているのです。

 

二、陰陽調和論

 これは自分の身体の類型によって陰陽の食物を選んで食べると言うこと。漢方でいう正食には、食物にも陰性(身体をひやす)食物と陽性(身体を温める)食物というように区別があります。これは経験から得られた分類で、なぜ冷やすはたらきがあるのか、なぜ温めるはたらきがあるのかと問われても完全には答えることができません。この中で玄米は、陰陽のバランスが最もよい食べ物になっているのです。大きく分けていえば、動物性食品は一般的に陽性です。植物性では地下に延びていくものは陽性で、地上を延びていくものは陰性です。また、調理法によっても陰陽が変わります。煮炊きをして熱を加えると陽性になります。太陽光線に当てて乾燥させると、やはり陽性になります。この際太陽エネルギーをよく吸収したものほど強い陽性になります。たとえば、シイタケは生の時は陰性ですが、干しシイタケになりますと、陽性に変わって身体を温めます。逆に陽性のものでも塩漬けにすると陰性に変わります。しかしこれは長い間漬けた場合で、浅漬だと陰性のままです。

 野菜や果物を生で食べると、身体を冷やすのをご存じですか。 こういう話があります。ビタミンCを取れと言われて、ミカンをたくさん食べている人が、さらに身体が疲れてしかたないと訴える。これは明らかにそのミカンによって身体を冷やしてしまった結果です。また、酢を飲むと疲れが取れるといいますが、酢は陰性ですから陰証(冷える体質)のひとは飲み過ぎに注意しなくてはなりません。 「青汁療法」も同様で、飲み過ぎると身体が冷えてしまい腎臓病になったり、湿疹がでたという例もあります。

 陰性食品で気を付けたいものに、白砂糖があります。最近の食物をみると、砂糖を多く使ったものが目立ちます。 折角温めた食事をとっても砂糖をたくさん入れたものでは、その効果は半減してしまいます。お年寄りにとって甘いジュースやアイスクリームがよくないと言われるわけはここにあります。

 一般に取りたての穀物や野菜は、身体を冷やす傾向にあります。 新米もその一つです。江戸時代の名医、和田東郭は 「導水瑣言」という本の中で、腎臓病で長く寝ている人は陰性で陰証になっているから、新米を食べてはいけないと言っています。古米をつかっておかゆをつくり、その中に一寸四方ぐらいのコンブをいれて食べよと言っています。古米なら温める作用があるからです。新米の精白米は、陰性食であると同時に一物全体食(後ほど説明します)のすすめからもはずれるので、欠陥の多い食物だと言わざるをえません。

 

三、穀物動物論

 人間は本来、肉食動物でも草食動物でもないということ。大自然の中にあって人間はもともと何を食べるべきなのかということについて、左玄翁は次の点に着目しました。すなわち、 歯の形と数、歯とあごの形、 噛む時の動き、腸の長さなどです。これらによって、明かに人間は穀物つまりでんぷんを主食とする動物である確信をを得ました。穀物といっても精製されたものではありません。米でいうなら玄米です。自然に調和すべく人間の《規格》がここにあります。

 

四、一物全体食論

 食物は、なるべく全体を丸ごと食べよということ。皮をむいたり、骨やはらわたを除いたりしないで、生きているもの全部を食べる。食品には陰陽の別はあっても、生きているものはすべてそれなりに陰陽の調和が保たれているものだから、全体を食べるのが理想なのである。あらゆる生物がすこやかに成長発育するためには、生体内における酸性とアルカリ性のバランスが保たれていなければならない。小魚は小魚でこのバランスを保って生きているのであるから、丸ごと食べれば、それを食べた人体もバランスを崩されることはない。野菜や果物、その他のあらゆる食物についても同じことが言える。牛でも豚でも全体を食べれば何の害もないのだが、このような大動物になるとそうもいかず、骨も内臓も捨ててしまうのでその害もたちどころに出ることになる。

 もっとも全体食と言っても中には毒の部分があって、それを取り除かなければならないものもあります。しかし、日本では私達の祖先が、長い間主食にしまた好んで食べてきた穀物、野菜、海草、魚、貝は全体食としてなんら支障がありません。それどころか、祖先が選び残してくれたこれらの食物は、全体食によってより効果的で合理的なものとなるのです。

 

五、身土不二論

 その土地、その季節のものを食べよということ。身体とそのおかれている風土とが、一体となること。不二は一つであるという意味です。風土つまりその土地の環境によって食物もことなり、生活の様式もことなるのであるから、みだりに他国の食習慣をまねたり、舶来の珍味を食べてはいけない。その土地、その地方に先祖代々伝わってきた伝

統的食生活には、それぞれ意味があるのだからその土地にいったらその土地の食生活を学ぶべきである。「郷にいっては郷にしたがえ」です。今や食料品の売り場には、ありとあらゆるものが四季を通じて豊富に並んでいます。季節感というものは昔に比べるとほとんどありません。自然のリズムを無視した姿がそこにあります。人類は高度な文明を築く程に進歩しましたが、自然との調和に関しては後退の一途をたどっているのです。

 以上が石塚左玄翁の食養生に関する五大原則です。目次へ戻る

風邪の漢方治療

漢方の勉強を始めた頃、よく言われた言葉の中に、「風邪を治せるようになったら漢方家も一人前だ」というのがあります。なんだ風邪くらい簡単じゃないかと思ったのですが、勉強が進んでいくとその言葉の意味が分かりましたが、風邪の治療は実は難しい。ここに書いた漢方治療も意を尽くせるものではないのですが、おおまかにまとめてみました。

基本は風邪といっても一つにとらえるのではなくて、ひき初めから治るまでの経過の中で処方を考えていくことです。自分にあったいくつかのパターンの漢方薬を手に入れておくといざというときに随分役に立ちます。とくに小さなお子さんをお持ちのお母さんに知っていただくと、解熱剤や抗生剤の使用を減らすことが出来、より短期間軽く終わらせることも可能かと思います。目次へ戻る

葛根湯も使い分け

一般的なカゼの初期の症状は、寒気がして熱が出る、頭痛、咳、鼻づまりなどですが、人によっては、目がショボショボしたり、肩こりがひどくなる、歯がういてくる、耳が何かおかしい等の症状が出ることもあります。葛根湯(カッコントウ)ですぐ治ります。俗に「カゼに葛根湯」と言いますがカゼの初期には非常によく使う薬です。ただし、こじれたカゼには逆効果になることがありますから注意。こどものカゼも大抵、葛根湯で治ります。胃腸の弱い人は、もたれたり吐き気がする場合もありますので半夏(ハンゲ)を加えた葛根加半夏湯(カッコンカハンゲトウ)にすると安心です。のどの痛みや黄色い痰がきついときは、桔梗(キキョウ)3.0gを加え、のどが渇いてしかたがなかったり、唇がカサカサする時には石膏15.0gを加えます。

体力のある人のカゼ

体力のある人のカゼは症状も強くでます。寒気、熱も激しく、腰も痛 み、体を動かすごとに手足の筋肉や関節が痛んだりします。鼻づまり、咳もひどく、 汗がなかなかでないので苦しみます。これには麻黄湯(マオウトウ)がよく効きます。 さらに病毒が重く、症状が激しくて身体の置き所ないように煩悶するものには大青竜湯(ダイセイリュウトウ)も使います。

鼻水のカゼ

鼻水がひどくティッシュを山ほど使い、頭がボーッとして熱があり、白い泡のような痰を出して咳こむカゼには、小青竜湯(ショウセイリュウトウ)がよく効きます。咳が喘息のように激しい時には杏仁(キョウニン)4.5g石膏15.0gを加えます。

声がかれるカゼ

カゼをひくとのどが乾燥して声がかれたりひどいときには声が出なくなってしまうことがあります。滋潤作用のある麦門冬湯(バクモンドウトウ)を飲みます。またのどに何かつまっているようで不快感があるときには半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)です。またカゼではなく、声を出しすぎたり、カラオケでがんばりすぎて声が出なくなったときには響声破笛丸(キョウセイハテキガン)という便利な漢方薬があります。

妊娠中のカゼ

妊娠中のカゼでは、胎児への影響を恐れて服薬を控えがちですが、漢方薬なら安心です。カゼをひいたと思ったらすぐに桂枝湯(ケイシトウ)を飲みます。しばらくたったカゼで、胃腸にきたり熱が下がらないものは香蘇散(コウソサン)にします。特に咳がひどいときには麦門冬湯(バクモンドウトウ)がよく効きます。

老人や虚弱な人のカゼ

一般に体力のない人のカゼでは熱は出なくて寒気ばかりして鼻水が出たり、体や関節がだる痛くなります。麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)を使います。やや長引いて、咳をすると背中や脇腹に響いて苦しいものには、桂枝去芍薬加麻黄附子細辛湯(ケイ シキョシャクヤクカマオウブシサイシントウ)がよく効きます。この薬は老人で秋冬になると、咳こんで、 泡のような白い痰を出したり、夜になると咳こんで、背中や脇腹に響いて苦しいものにもよく効きます。

カゼは治ったけれども、歩くとつまずいて倒れそうになったり、フラフラして困る、 足が地につかない感じがする人がいます。ふだんから寒がりの人に多く、真武湯(シンブ トウ)を服用して下さい。

長引いてしまったカゼ

いつもはすぐに治るカゼでもうっかり長引いしまうと、こじれてしまって食欲がなくなり、口の中が粘ついて苦くなったり、微熱が続く等の症状が起こってきます。小柴胡湯(ショウサイコトウ)を使います。特に咳だけがダラダラと残ってしまったときには柴朴湯(サイボクトウ)です。カゼのあとに残った咳に用いる特効薬で、喘息の人の体質改善には長期間服用します。

咳が思った以上にやっかいで、柴朴湯でもうまくいかないときは、麻黄(マオウ)という生薬のはいった麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)や越婢加半夏湯(エッピカハンゲトウ)他には神秘湯(シンピトウ)などを選用します。発作を止める漢方薬と、体質的に改善していく漢方薬とを、使い分けることもよくあります。

さらに長引いていかにも疲れ果ててしまったというような状態では、柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)や味麦益気湯(ミバクエッキトウ)などを飲んで体力の回復をはかります。

漢方薬の飲みかた

カゼの時の漢方薬の飲みかたは、1日量の3分の1量を必ず温服して下さい。汗や尿が適当に出て症状が軽くなったら、しばらく様子をみます。変化なく症状が変わらない時は、また3分の1量を温服して下さい。以下、同じように汗、尿、症状に変化があるまで、3−4時間おきに3分の1量を温服して下さい。続けて飲むと、1日の服薬量はかなり多くなりますが、病毒が強ければたくさん飲まないと効きません。カゼの初期の薬の飲みかたはこのようにして下さい。

慢性化したものや初期の症状がおさまってきたときには1日3回の服用に切り替えます。ほとんど治りかけたときにも仕上げに柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)などをしばらく飲んでおくと、順調に食欲も回復し再発の予防にもなります。目次へ戻る

 

漢方の流派

漢方イコール中国・・・一般的にはそう考えることが多いようです。しかし漢方は今日までいろいろな要素を含んで伝わってきました。時代と土地そして人の軸があります。それらが多次元で融合してきました。それぞれの土地には伝承的な医学・医術が発達しており、その時代に伝わった最新の医学がそれと結びついたり、また新たな工夫がなされてきました。ここではそれを詳述しきれませんので、日本に伝わってからの流れを簡単に説明したいと思います。

後世方と古方

はじめて中国から日本に学問として入ってきた医学、漢方の源流ですがこれを仮に名付けて李朱(りしゅ)医学と呼んでいます。金や、元の時代以降(漢の後の世)に中国に繁栄していた医学です。室町時代の田代三喜という人がこれを行いました。 この医学は以後の日本の医学の中心となり、曲直瀬道三などの中興の祖をへて大いに興隆しました。これが後世(ごせい)(漢の後の世)方です。特徴として複雑な学問体系 をもっています。

一方その流れが江戸時代まで続きましたが、今度は伊藤仁斎らの儒学を時代背景に、ルネッサンス(復古)思想が起こり、原典ともいえる漢の「傷寒論」(しょうかんろん)の時代(古い時代)に帰ろうと叫ぶものが出てきました。名古屋玄医などです。その思想を引き継いだ吉益東洞(よしますとうどう)という人が出て世の中の医学を革命し、それまでの後世方をバッサリ切り捨てて、よりシンプルで、空論を亡くした漢方を唱えました。これが古方(こほう)です。 この怪物の登場で、古方が今度は一世を風靡しました。この医学を完成させたのが幕末の名医尾台榕堂(おだいようどう)です。特徴として、強い下剤などを用いて時に激しい治療をします。このような時代背景で、漢方界には古方と、後世方という二つの流派が出来ました。

自然の成り行きとして今度は、攻撃的な古方と守りに過ぎる後世方の両方の欠点を去り、長所を活かすという穏健派が現れました。第三の流派とも言うべきこれを 折衷派(せっちゅうは)といいます。

現在の漢方界

現在の日本の漢方界はすでに、純粋な古方家、後世方家という治療家は ほとんど存在せず、明治以後の漢方の大家の影響を受けたいわば「日本漢方」といったようなものが主流になっています。また最近では「中医学」 という流派も別の大きな流れで、現代の中国の医学を重視ししています。より有効な処方、より有効な手段を探るために現代医学の知識も取り入れていますし、医療としての漢方には流派の垣根は取り除かれてきました。いまや流派というのは漢方家個人の師弟関係や経歴に由来するものといっていいようです。目次へ戻る

保険生薬

保険で扱える漢方生薬

以下の生薬は保険適用の生薬です。つまり処方箋で扱う場合薬局製剤で用いるのがこれらの生薬です。現在使用されているほとんどの漢方薬がそれに当たりますが、中医学等で用いられる処方などには例外もあります。上の民間薬と重なるものもあります。これらを処方できるのは薬剤師が常駐して管理し、法に定められた調剤室を備えた薬局のみです。彩雲堂は保険薬局及び保険薬剤師の認定がありますので、これらの生薬で書かれた煎じ薬の処方箋を医療保険で調剤することが出来ます。

漢字の生薬名は一般的でないものや外字でないと表現できないものは省いてあり、6つの表に分けてあります。 なお彩雲堂で常時備蓄のある生薬のチェックを入れてみました。

* これから漢方の勉強をなさる方は、このページをWORDなどで読めば、カットアンドペーストで楽に辞書登録が出来ると思いますから、是非ご利用下さい。 目次へ戻る

 

 

保険生薬 1

 

 生薬名

生薬名

彩雲堂の在庫

アキョウ

阿膠

アセンヤク末

阿仙薬

アマチャ

甘茶

アンソッコウ

安息香

イレイセン

威霊仙

インチンコウ

 

ウイキョウ

茴香

ウコン

宇金

ウズ

烏頭

ウバイ

烏梅

ウヤク

烏薬

ウワウルシ

 

エイジツ

営実

エンゴサク

延胡索

エンメイソウ

延命草

オウギ

黄蓍

オウゴン

黄ゴン

オウバク

黄柏

オウバク末

 

オウヒ

桜皮

オウレン

黄連

オンジ

遠志

 

保険生薬 2

カイカ

槐花

カゴソウ

夏枯草

カシ

柯子

カシュウ

何首烏

カッコウ

霍香

カッコン

葛根

カッセキ

滑石

カノコソウ

吉草根

カマラ

 

 

カロコン

 

カロニン

 

カンキョウ

乾姜

カンゾウ

甘草

カンゾウ末

 

カンタリス

 

 

カンテン末

 

 

ガイヨウ

艾葉

ガジュツ

莪述

キキョウ

桔梗

キキョウ末

 

キクカ

菊花

キササゲ

 

キジツ

枳実

キッピ

橘皮

キナ

 

 

キョウカツ

羌活

キョウニン

杏仁

キンギンカ

金銀花

クコシ

枸杞子

クコヨウ

枸杞葉

クジン

苦参

グアヤク脂

 

 

ケイガイ

荊芥

ケイヒ

桂皮

ケツメイシ

決明子

ケンゴシ

牽牛子

ゲンジン

玄参

ゲンチアナ

 

 

ゲンノショウコ

玄草

コウカ

紅花

コウジン

紅参

コウブシ

香附子

コウベイ

粳米

コウホン

藁本

 

コウボク

厚朴

コロンボ

 

 

コンズランゴ

 

 

ゴシツ

牛膝

ゴシュユ

呉茱萸

ゴボウシ

牛旁子

ゴミシ

五味子

 

保険生薬 3

サイコ

柴胡

サイシン

細辛

サフラン

番紅花

サンキライ

山帰来

サンザシ

山査子

サンシシ

山梔子

サンシュユ

山茱萸

サンショウ

山椒

サンズコン

山豆根

サンソウニン

酸棗仁

サンヤク

山薬

ザクロヒ

石榴皮

 

シオン

紫苑

シコン

紫根

シソシ

紫蘇子

シツリシ

 

シテイ

柿蔕

シャクヤク

芍薬

シャクヤク末

 

シャジン

沙参

 

シャゼンシ

車前子

シャゼンソウ

車前草

修治ブシ

 

シュクシャ

縮砂

ショウキョウ

生姜

ショウズク

 

ショウバク

小麦

ショウマ

升麻

シンイ

辛夷

ジオウ

地黄

ジコッピ

地骨皮

ジャショウシ

蛇床子

ジュウヤク

十薬

セキショウシ

石菖子

セッコウ

石膏

セネガ

 

 

セネガ末

 

 

センキュウ

 

センコツ

川骨

 

センタイ

蝉退

センナ

 

センナ末

 

センブリ

当薬

センブリ末

 

ゼラチン

阿膠

ゼンコ

前胡

ソウジュツ

蒼朮

ソウハクヒ

桑白皮

ソボク

蘇木

 

ソヨウ

蘇葉

 

保険生薬 4 

タイソウ

大棗

タクシャ

沢瀉

ダイオウ

大黄

ダイオウ末

 

ダイフクヒ

大腹皮

チクジョ

竹茹

チクセツニンジン

竹節人参

チモ

知母

チョウジ

丁字

チョウトウコウ

釣籐鈎

チョレイ

猪苓

チンピ

陳皮

テンナンショウ

天南星

テンマ

天麻

テンモンドウ

天門冬

トウガシ

冬瓜子

トウガラシ

唐辛子

トウキ

当帰

トウドクカツ

 

 

トウニン

桃仁

トウヒ

橙皮

 

トコン

吐根

 

トラガント

 

 

ドクカツ

独活

ドベッコウ

土鼈甲

 

保険生薬 5 

ナンテンジツ

南天実

ニガキ

苦木

ニクヅク

 

ニンジン

人参

ニンドウ

忍冬

ハチミツ

蜂蜜

ハッカ

薄荷

ハマボウフウ

浜防風

ハンゲ

半夏

バイモ

貝母

バクモンドウ

麦門冬

ヒシノミ

菱の実

ビャクゴウ

百合

ビャクシ

 

ビャクジュツ

白朮

ビワヨウ

枇杷葉

ビンロウジ

梹榔子

ブクリョウ

茯苓

ブシ

附子

ホウブシ

炮附子

ボウイ

防己

ボウコン

茅根

ボウフウ

防風

ボクソク

 

 

ボタンピ

牡丹皮

ボレイ

牡蛎

 

保険生薬 6

マオウ

 麻黄

マシニン

 麻子仁

マンケイシ

 蔓荊子

モクツウ

 木通

モッカ

 木瓜

モッコウ

 木香

ヤクチ

 益知

ヤクモソウ

 益母草

ヨウバイヒ

 楊梅皮

 

ヨクイニン

 

ヨクイニン末

 

リュウガンニク

 竜眼肉

リュウコツ

 竜骨

硫酸マグネシウム

 芒硝

リュウタン

 竜胆

リョウキョウ

 良薑

レンギョウ

 連翹

レンニク

 蓮肉

-トコン

 

 

ワキョウカツ

 和羌活

ワコウホン

 

 

平成10年9月9日 改訂

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