漢方基礎講座

 

このページは講座などと銘打ってますが、それほど専門的なことではなくて、イメージでとらえておられる漢方を少し具体的に理解していただく目的でまとめてみました。なるべく平易な言葉で書いたつもりですので興味のある方は是非お読みください。

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「漢方」とは

漢方の漢は、中国の歴史上の漢の時代を指します。方は医術を意味しています。つまり漢の時代に完成した医術という意味です。意外かも知れませんが、この漢方という言葉は中国では通じません。実は漢方という言葉は日本独特のものなのです。では中国ではどういうかというと、中医学といいます。韓国では韓医学といいます。目次へ戻る


漢方の基礎概念
                  

西洋医学が人体を細分化して発達したのとは全く逆に、人体を自然の一部として包括することから成り立っています。人間一個がひとつの小宇宙である。その中での調和が健康ということであり、そのバランスが崩れた状態が病気。この歪みを直すということが治療になるわけです。

その大宇宙の法則として陰陽五行説 いんようごぎょうせつ」があります。これは万物の生成、存在にかかわる原則であって、これをそのまま人体にも当てはめて考えます。バランスに優れた、漢方を学ぶ上では必要不可欠な大原則ですが、またこれにしばられてもいけないのです。宇宙そして人間は不可思議なもの、ひとつの理論で説明などできるはずがないからです。 目次へ戻る


漢方の生理学

体の中で大きな要素が3つあり、それが気・血・水です。これらの他に、具体的な臓器として五臓六腑が配置されます。それぞれの臓器は現代医学的な臓器とだいたい似ていますが、実際の機能的な働きだけでなく、精神、感情を含めた作用も臓器の働きとして認識しているのが特徴です。また、人体にある経穴(ツボ)を結ぶ、主な十二の経絡が存在し、エネルギー様の運搬路として働いています。これら、気・血・水、五臓六腑、経絡の乱れを調節して、万病に対処するのが漢方医学です。目次へ戻る


病気の原因

漢方的には病因は大きく3つに分かれます。内因外因不内外因です。内因とは、感情の乱れです。現代風にいうとストレス。しかしこれには、不快なものだけではなく、喜びなども含まれ、考え得るすべての感情が過度になったときに病気になります。外因とは、外邪ともいい、暑さ寒さなど取り巻く環境が体に不利に作用して病気になる場合です。現代ではエアコンの発達で快適になったと錯覚しがちですが、実は逆にそれが不調の原因になっていることの方が多いようです。不内外因とはその他の原因ということで、主に飲食の乱れ、過労などがあります。目次へ戻る

診察法

漢方の診察法は五感を使います。機械などは一切使いません。診察することがすなわち即、病因の解明、治療方針の決定につながりますから、漢方治療の醍醐味がすべてこの診察法にあるといってもいいでしょう。ですから、漢方家は、病気で苦しむ人の出来る限りの情報を五感で集めます。具体的には脈を診たり、お腹を触ったり、声を聞き、歩き方なども見たりします。上に書いた病の原因を探り、気血水、五臓六腑、経絡などの異常を細かなヒントから探り出す作業です。

自分の子供が泣いているのを見て、はたしてけがをしたのか、またはいじめられたのか、親ならその原因をとことん突き止めるでしょう。漢方の診察もこれくらいに食いついてやりたいものです。ただ手が荒れているだけなのに何でこんなことまで聞かれるのか、などと感じることもあるかも知れませんが、以上のような経過を知っていただければ納得してもらえることと思います。漢方の診察はいくらでも簡略化できるものでもあり、いくらやっても足りないものでもあるのです。治療家と一緒になって治していこうという患者さん側の姿勢があればありがたいですね。
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治療原則

漢方治療は身体の歪みを治すこと、というと簡単なようですが、実際にはそんな単純な理屈では病人を苦痛から救うことなど出来ません。臨床の場はいわば泥仕合で、こちらが効くと思って出した薬も全く効かないということもいくらでもあります。歪みを治すという理屈でいうならば、冷えているものは暖め、固まっているものはほぐしてやるというようなことになります。文献による 汗・吐・下・和 の4つはその基本法で、汗を出し、毒を吐かせ、または下剤で下し、不和を緩解するということです。

その他にも、症状の中の性急な部分を先に治して、その根本を後から治すというやり方、一方で暖める薬を出しながら、もう一方では攻撃する薬を出すなど臨機応変な治療が必要になってきます。あえていえば、その方のもつさまざまな要因に合わせた「個性」のようなものが治療にも求められます。漢方治療がオーダーメードといわれるのはこのためです。目次へ戻る


薬物について

漢方薬というとすべてが中国からの輸入のように思われがちですが、実際はそうではありません。量からいうと確かに中国のものは多いですが、なかには日本でとれたものの方が品質がよいものもあります。しかしながら薬物の良否を云々するのは、今や漢方家の中でもマニア的になってきました。漢方エキス製剤の登場以来、個々の薬物については知る機会がなくなってしまったからです。

安全性の高い生薬製剤ですが、なかには毒性(個性)の強いものもあり、使い方を誤るときつい作用を出すものもあります。一般にはそのような個性的な薬物ほど使いこなしで、よく働いてくれるものです。

甘草によるむくみ、大黄による過度の下痢、麻黄による不眠症など、患者の側でも知っておいたほうがいいとおもわれる作用もあります。薬をもらうときには考えられる副反応を前もって聞いておくのがいいでしょう。目次へ戻る


処方について

漢方の処方は古典に基づいて厳格に構成されたものです。決していい加減に混ぜ合わせたようなものではありません。実際の臨床の場では、この組み合わせを規則に則って模索、駆使しながら適切な処方を組み立てていくわけですが、その自由さ、創造性が漢方治療の最も優れた点です。ここがドクダミやヨモギなどの薬草を単味で用いる民間療法との大きな違いです。処方の使い方などは、漢方の流派によっても違いがあります。目次へ戻る


煎じ方

一般的には600CCの水を土瓶に入れ、文火(というより弱い中火)で半分に煮詰めます。夏と冬では10−15分の時間差が出るでしょうが、おおむね沸騰してから30分間火にかけると覚えておけばいいでしょう。吹きこぼれ防止のために土瓶のふたはしません。また出来上がったらすぐに漉して下さい。そのまま放置するとせっかく抽出された成分がカスの中に戻ってしまいます。専門的にはある成分だけを先に煎じたり、逆に出来上がる直前に入れたりすることもあります。

はじめは出来上がりが多くなったり少なくなったりしますが、じきに慣れるでしょう。最悪の場合火にかけているのを忘れて焦がしてしまうことがあるかも知れませんが、こういう場合でも土瓶なら割れないから安心です。

また最近はタイマーのついた電気式の煎じ器もあり、マイコン制御できるものまで出ています。これなら出来上がりのばらつきを無くすことが出来ますし、なにより火事の心配が全くない点で優れています。さらに最近では煎じた上で1回分ずつアルミパックに入れて出すことも出来るようになってきました。携帯性も備えた煎じ薬と言うことで今後需要が増えていくと思われます目次へ戻る


飲み方

煎じ薬の場合は空腹時に3回に分けて飲むのが基本です。空腹時とは食間ということで食前30分、もしくは食後2時間くらいが目安です。煎じ薬の他にも、漢方には散剤や丸剤などもあり、口の中でかみ砕いたり、あるいはお酒と一緒に飲むもの、重湯で飲むもの、飲んだあとにうどんをすすれというのまであります。ですからそのあたりはよく説明を聞いて下さい。これらの飲み方には古人がよく考えた理論があり、最大限に薬の効果を活かす知恵が詰まっています。目次へ戻る


どれくらいで効き目が

急性の病気ほど早く、慢性の病気ほど遅いという理屈になります。早いというのは15分、遅いというのは1ヶ月以上です。薬をもらうときには症状を把握した上ですから、だいたいの予想はつくかもしれません。遠慮せずに聞いてみるのが良いと思います。ただし漢方家もこれを正確に言い当てることはまず不可能で、それが外れて思ったよりも早く効いてくれるようにいつも祈っているのではないでしょうか。かたや全くのノーコメントというのも真実といえるかもしれません。目次へ戻る


副作用はあるのか

「副作用」は西洋医学で生まれた否定的で恐ろしい響きがある言葉です。一方漢方の古典で「副作用」というのを見たことがありませんから、副作用と漢方とは同じ範疇ではとらえられないものと思っています。あえていうなら「副反応」でしょう。病気を治す効果の他に付随して起こるその他の反応です。厳密な診察によって漢方薬を飲む場合にはこれはほとんどが良い反応で、喘息治療で便秘が治った、鼻炎の治療で生理が順調になったなどです。歓迎すべき反応が「副反応」です。

求められている問いは「副作用があるか」ではなくて、「安全であるか」ということでしょう。これは説明するまでもなく、どんな薬も使い方で毒になります。使い方によって絶妙のハーモニーで食卓を飾る道具にもなり、人の命を奪う道具にもなる包丁と同じことです。

マスコミを騒がせた死亡事件に関して・・・これについてはエキス剤であったことに注目しています。煎じ薬の場合、すでに煎じている間からそのニオイまた服用時の味などで明らかな拒否反応が出ることがあります。わがままを通り越して「どうしても飲めない」。病者と漢方薬との間に親和性とも言える要素が隠されていて、これがエキス剤の場合にはマスクされてしまうので副作用も出やすいのではないかというのが私の考えです。目次へ戻る


瞑眩とは

これも「副反応」のひとつです。特に漢方薬を飲み始めた直後から不快な症状が起こり、そのまま服用を続けるうちに自然と快方に向かいます。症状としての悪化の他に、吐き気や下痢などが起こることがあります。これは誰もがこうなるということではなく、瞑眩がない人の方がほとんどです。瞑眩の後は急速に快方に向かいます。いいかえれば瞑眩があるのはよくなる兆候といえます。一時的なものですので、心配はいりませんが、不安なら薬をもらった先に連絡して説明してもらえばいいでしょう。

しかしなぜこのようなことが起こるのでしょうか。私の考えでは、長年居心地の良かったすみか(病人の身体)に突然招かれざる客(漢方薬)が入ってきて居候(病毒)との間に摩擦が生じるということではないかと思います。お客の方を応援するのは当然ですね。目次へ戻る


平成10年9月9日改訂

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