漢方入門 薬学生用

 

以下は朋友である小松一学兄が、先日京都薬大にて漢方入門の講義をしたときの基本資料です。氏とは毎週勉強会で会っているのですが、よくまとめられているのでネット上で公開したいとお願いしたところ快く許しを得たのでここに「漢方入門 薬学生用」として掲載させていただきました。小松氏は日本医史学会に所属する薬学博士。

和田東郭の墓

写真は97年の4/27に京都の鳥辺山にある和田東郭先生の墓参にいったときのもの。顔が切れているのが私で後方にいるのが小松。まともな写真がないでご勘弁。

なお外字の問題上表示がおかしなところもありますがそのままにしてあります。また体裁上、表は私増田が作りました。ところどころにあった挿し絵は省いています。無断での複写転載等は堅くお断りします。

 

前のページへ戻る

<漢方入門>               1997.5.1   小松 一

漢方とは?

 漢方薬、及び漢方薬を用いた治療法。広くは、鍼灸、按摩、気功、薬膳など

も含む。

 日本の医学は、明治初期までは、いうまでもなく漢方医学であったので、「漢

方」とは言わなかった。

→ 明治になって西洋医学が本格的に日本に入ってくるようになり、それと区

別する意味で「漢方」と呼ばれるようになった。

 明治16年10月23日公布の内務省令(医術開業試験規則、医師免許規

則)によって、西洋医学を修めた者でなくては医師になれないことになった。

→ 正規の医育機関や研究機関において、東洋医学が無視されるようになった。

西洋医学との違い

 東洋 …「病名」にかかわらず、病人があらわしている全体的な「病症」(証)

による治療。生体の活力を益し、いかに健康体としての調和をとるかに力点が

置かれる。全体的。

 西洋 …「病名」による治療。病気の原因である細菌などに目標を絞って、

それを殺すことに主眼を置く。局所的。

中医学との違い

中医学 文化大革命以後確立された中国伝統医学。1956年、中央政府が共

通テキストの作成を指示。鍼灸と湯液を結ぶ統一理論の必要性。陰陽五行説を

中心とする。日本の漢方と区別して、中国のものを中医学ともいう。一般に、

処方量も日本よりかなり多い。

民間薬との違い

 漢方薬 一定の法則により生薬を組み合わせ (極く一部を除いて二種以

上)、厳密な運用法のもとで用いられる。診断と治療の学問的な体系が必要。

すなわち、薬を飲む人の体質や症状を十分に考えた上で証、分量、服用法など

が決められる。

 民間薬 概ね一種類の薬草を、ある種の病気にただ漫然と使用するもので、

病気とそれに対する治療薬との間に、しっかりとした学問的な連係がなく、経

験的に用いるもの。

漢方の治療法

1) 湯液 …… 煎じ薬を用いる治療法。最近では、エキス剤も含める。

 (a) 後世派 陰陽五行説などの内経理論を駆使して行う明医学、或いは金

元医学を中心とするグループ

 (b) 古方派 伝統医学理論を排し、『傷寒論』を重視して治療の法則を『傷

寒論』の中に求めようとするグループ

 (c) 折衷派 後世・古方両派のいいところをとって実地臨床に応用しよう

とするグループ

2) 鍼灸 …… 体表にある「ツボ(経穴)」を鍼又は灸で刺激し、その刺激に

よって気を動かし、経絡を伝播して、内蔵及びその他の器官を調和させる方法

3) 按摩 ……「ツボ」や「経絡」を手で揉んだり押したりして気を動かし、

身体を調える方法

4) 気功 …… 呼吸法を中心に、ゆったりとした運動法を加え、体内の気を行

らすことを目的とする。「気功」という言葉は、最近使われるようになった。

5) 薬膳 ……「医食同源」を精密な調理技術によって、治療・予防の料理に

具体化したもの。20年ほど前に中国の「同仁堂」が初めて呼称。

(a) 食養 食事療法によって病気を予防

(b) 食療 食物中の薬的な側面を生かし、食物で治療する。

(c) 薬膳 食療に更に漢方薬を加味したもの

漢方医学の三大古典

1)『黄帝内経』… 黄帝内経という名前は漢書芸文志に記載。成立年代は不明

であるが、素問は先秦時代から蓄積されてきた医学知識が前漢時代に、霊枢は

後漢時代にまとめられたものが原型と思われる。

いずれも黄帝とその臣下(岐伯ら)の問答形式をとる。

 (a)『素問』 生理・衛生・病理などの医学理論に重きが置かれ解説されて

いる。

 (b)『霊枢』 医学理論も説かれるが、診断・治療・鍼灸術などの臨床医学

に重点が置かれている。

2)『傷寒論』 後漢末に張仲景が著した『傷寒雑病論』のうち、「傷寒」に

関する部分を独立させたもの。「傷寒」という腸チフス様の急性熱性病の治療

を系統的に述べた書。病態の把握と治療の原則、基本処方とその使用法を論じ

る。

cf.『金匱要略』…『傷寒雑病論』のうち、「雑病」に関する部分。慢性病、婦

人病、食い合わせなどについて書かれている。

3)『神農本草経』… 中国最古の薬物書で、薬物学の基礎をなすもの。後漢時

代に成立したとされる。作者不明。365種の薬物(動物・植物・鉱物)を人体

に対する薬効により、「上品 (120)」「中品 (120)」「下品 (125)」の三種に分

類し、その味、性質、薬効、産地などについて述べる。


漢方の診察法(四診)

1) 望診(神)

病人を眼で診ること。

患者の栄養状態、骨格、皮膚の状態(顔色や皮膚の色、つや、枯燥など)、粘

膜の色(瞼、口中、口唇、歯齦)、浮腫、起居動作、大小便の色、形状、性質、

量などを観察、舌の状態(舌苔、色、亀裂、形、乾湿)など

2) 聞診(聖)

患者の音声、咳嗽、喘鳴、吃逆、噫気、胃内停水、腹中雷鳴などを聞知し、又

口臭、体臭、膿汁、帯下、大小便などの排泄物の臭気を嗅いで知る。

3) 問診(工)

患者の既往症、家族の病歴、現在悩んでいる病気の経過や今までの治療法、主

訴、日常の生活環境及び精神的誘因などを問う。

4) 切診(巧)

患者の身体に直接手を触れて診察する。

皮膚の熱感、乾潤、弛張、マヒ、強直の有無、内蔵器官の位置、形状、候背、

四肢の触診など。

最も重要視されているものは、腹診と脈診。

陰陽五行説

古代中国の哲学思想で、漢方の基礎理論としても応用され、『素問』『霊枢』

の中で展開されている理論。

→『易経』によって大成された「陰陽論」と、『書経』を淵源とする「五行説」

を総合した自然哲学。

↓↓

人々が経験してきた事実を、自然界の現象にてらして整理・分類し、理論化し

ようとしたもの。

陰陽説 森羅万象、世の中総ての物質及び現象を、陰(−)と陽(+)との

相対する二性質に分けて把握認識しようとするもの。

1) 内経系の陰陽

人は陰陽の二気の結合によって生まれ、陰陽の分離によって死に、不調和によ

って病気になるという思想が前提になっている。

<人体の陰陽>

下焦

慢性

機能低下

上焦

急性

機能亢進

2) 傷寒論系の陰陽

比較的狭義で、疾病の発病状態又は発病傾向(病気のおこり方)を見究める事

に重点を置く。これを陽証と陰証の二つに分け、さらに三陰三陽に分ける。

<三陰三陽>

陽病

陰病

太陽病

少陽病

陽明病

太陰病

少陰病

厥陰病

 陽病では、病気の深さによって三つに分ける。

 陰病は、病気の重さによる。

五行説 総ての事物・現象を、木・火・土・金・水の五大要素に分類して認

識しようとする考え方。

<五行の色体表>

五行

五臓

五腑

五色

五季

五味

五方

五悪

五竅

五主

五志

五神

五香

小腸

大腸

膀胱

土用

中央

西

湿

血脈

肌肉

皮膚

w

1) 五行相剋説 鄒衍(BC 320 〜 250)によって唱えられた王朝交代のた

めの革命理論を基とする。夫婦関係ともいい、互いに抑制しあう関係。木→土

(木は土の中に根を張り、養分を吸収する)、土→水(土は堤防を創ることに

よって水の流れを抑える)、水→火(水は火を消す)、火→金(火は火力によ

り金属を溶かす)、金→木(金属は刀や斧となり、木をきる)

2) 五行相生説 董仲舒(BC 179 〜 104)によって唱えられた。母子関係

ともいい、互いに生み生まれる仲のよい関係。木→火(木が燃えて火が生まれ

る)、火→土(火が燃え尽きると灰土となる)、土→金(金属は土中より産出

する)、金→水(水源は金鉱のあるような所にあたる)、水→木(木は土中の

水分を吸収して生長する)

3) 五行土王説 「土」が他の四行よりも一段と強い関係。土が中心にある。


方角と四神

東・青竜、南・朱雀、西・白虎、北・玄武


漢方治療の法則

1) 発表 病邪を体表から汗によって排除する方法。(葛根湯、麻黄湯など)

2) 催吐 食毒が閉塞する場合、吐出させる方法。(瓜蒂散など)

3) 攻下 裏熱、宿便などを下すことによって排出する。(大承気湯など)

4) 和解 汗・吐・下法が禁忌の場合、和解して解消する。(小柴胡湯など)

瞑眩

治療を行った際に、一時的な症状の増強や、予期しない経過をたどって治癒に

向かうこと、又はその反応。→「薬瞑眩せずんば厥の病えず」(尚書)

<中国・日本の名医>

【中国】

 扁鵲(B.C.5 〜 600)… 秦越人と呼ばれた伝説の名医。司馬遷『史記』、

扁鵲倉公列伝に登場する人物。診断並びに湯液、鍼灸などの方法を活用し、秀

でた才能を発揮した。長桑君より技をうけ、透視ができるようになった。

 華佗 世界初の全身麻酔法(麻沸散)を用い、外科手術を行う。魏の曹操

に仕えたが、逆鱗に触れ、獄死。

 張仲景 漢の長沙の大守。『傷寒雑病論』を著す。

 巣元方 中国に現存する最古の病因病理学に関する書『諸病源候論』を著

す。病気の症候・病因・病理・予後の養生法など1720項を列記。

 孫思諱i581 〜 682)… 『千金方』

 葛洪 『抱朴子』で知られる東晋の神仙家で、当時の科学者。多くの先人

の処方を病名別に分類・整理し、一般庶民用の救急簡便処方集『肘後救卒方(肘

後備急方)』を著す。

 李時珍 …『本草綱目』

金元時代の四大家

 劉河間(劉完素)… 寒涼派。火と熱が疾病の主因であるとみなし、瀉火に

よる治療を主とし、寒涼剤を好んで使用。(防風通聖散)

 張子和(張従正)… 攻下派。下剤によって病毒の排出をはかることに重点

をおいた。

 李東垣(李杲) … 補土派。脾胃を補い、元気をつけるのが治病の根本。

補中益気説。(補中益気湯)

 朱丹渓(朱震亨)… 養陰派。病気は常に「陽有余、陰不足」の状態にある

とし、陰を補うことに重点を置く。

【日本】

 丹波康頼 日本現存最古の医書『医心方』を編纂(984)。平安時代におけ

る隋唐医学の集大成。引用文献の大半は後世中国で亡び、かつ古い形式を保っ

ているため、中国中世の医学を研究するうえでの貴重な資料である。

 田代三喜 日本における李朱医学の開祖。曲直瀬道三の師。

 曲直瀬道三 当時の中国医学を日本に導入し、根付かせた功労者。日本医

学中興の祖と称される。時の権力者、足利義輝、織田信長、豊臣秀吉、毛利元

就の信任を次々と得、その医療を担当した(1566年、毛利元就が出雲の陣中

で病気になったのを診治する)。又、千利休などの文化人と親交を結んだ。『啓

廸集』『薬性能毒』

 後藤艮山 古方派の祖といわれ、「一気留滞説」を唱える。灸・熊胆・温

泉を賞用し、湯熊灸庵と呼ばれた。

 山脇東洋 1754年、京都六角獄舎において、刑死体の解剖に立ち会い、

日本初の「観臓」を行う。『蔵志』

 吉益東洞 …「万病一毒説」を唱える。体内の毒は、「腹診」によって確認

できるとした。『薬徴』『方極』『類聚方』

 華岡青洲 全身麻酔法(通仙散)を用い、外科手術を行う。

 尾台榕堂 幕末の名医。東洞流の医術を行い、『傷寒論』処方の使用方の

規矩を示した『類聚方広義』は当時の大ベストセラーになった。

 浅田宗伯 榕堂とならぶ幕末〜明治の名医。1861年、フランス公使レオ

ン・ロッシュの難症を治す。明治12年、生後間もない危篤状態の大正天皇を

治療する。

夏ばてに用いる処方

【白虎加人参湯】

《出典》 傷寒論・金匱要略

《原文》 渇して水を飲まんと欲し、口乾き舌燥する者は、白虎加人参湯之を

主る。

 傷寒若しくは吐し若しくは下して後、七八日解せず、熱結ぼれて裏に在り、

表裏倶に熱し、時々悪風し、大いに渇し、舌上乾燥して煩し、水数升を飲まん

と欲する者、白虎加人参湯之を主る。

 太陽の中熱なる者、 n是なり、汗出でて悪寒し、身熱して渇するは、白虎

加人参湯之を主る。

《処方》 石膏(15) 知母(5) 粳米(8) 甘草(2) 人参(3)

《目標》 口中乾いて頻繁に水を飲みたがる、小便利、煩燥、高熱、脈洪

大、手足のだるさ

《応用》 暑気あたり、日射病、風邪などの高熱、皮膚病、陽症の糖尿病、

腎炎、夜尿症(口渇の甚だしいもの)

【五苓散】

《出典》 傷寒論

《原文》 太陽病、発汗後、大いに汗出で、胃中乾き、煩燥して眠ることを得

ず。水を飲まんと欲する者、少々与え之を飲ましめ、胃気をして和せしむれば

則ち愈ゆ。若し脈浮、小便不利、微熱、消渇する者、五苓散之を主る。

 霍乱、頭痛、発熱、身疼痛し、熱多く水を飲まんと欲する者、五苓散之を主

る。寒多く水を用いざる者、理中丸之を主る。

《処方》 沢瀉(6) 茯苓(4.5) 猪苓(4.5) 朮(4.5) 桂枝(3)

《目標》 口乾、のどの乾き、小便不利、頭痛、むくみ、下痢、吐き下し

《応用》 日射病、水瀉性の下痢、糖尿病、浮腫、腎炎、膀胱炎、偏頭痛、

      二日酔い

【小建中湯】

《出典》 金匱要略・傷寒論

《原文》 虚労裏急、悸、衂、腹中痛み、夢に失精し、四肢酸疼、手足煩熱、

咽乾口燥するは、小建中湯之を主る。

傷寒二三日、心中悸して煩する者、小建中湯之を主る。

《処方》 桂枝(4) 芍薬(6) 大棗(4) 甘草(2) 生姜(1)

 膠飴(20)

《目標》 全身の疲労状態、精力の虚乏、腹痛、寝汗、手足のほてり、四肢倦

怠、夢精、口内乾燥、朝すっきり起きられずいつまでも寝ていたい、小児の便

秘、小児の虚弱体質

《応用》 夏まけ、脚気、脾胃が弱ったときの黄疸、過労、疲労、低血圧、

胃潰瘍、虚症の便秘、脱肛、夜尿症

【補中益気湯】

《出典》 脾胃論・内外傷弁惑論

《原文》 中気不足、四肢倦怠し、口乾発熱、飲食味なきを治す。或は飲食節

を失し、労倦身熱、脈大にして虚し、或は頭痛、悪寒、自汗、或は気高くして

喘し、身熱して煩し、或は脈微細軟弱、自汗怠倦し、或は中気虚弱にして、血

を摂すること能はず。或は飲食労倦して瘧痢を患ひ、或は元気虚弱にして風寒

に感冒し表を発するに勝えず、或は房に入りて後に感冒する等を治す。(古今

医鑑)

《処方》 柴胡(1) 升麻(0.5) 当帰(3) 黄耆(3) 人参(4) 

     甘草(1) 白朮(4) 陳皮(2) 大棗(2) 生姜(0.5)

《目標》 手足及び全身の倦怠感、言語が軽微、眼に勢いがない、口中・口角

に白沫が出る、食物の味がなくなる、熱いものを好む、臍部に動悸がする、脈

が散大で力がない

《応用》 脱肛、胃下垂、夏やせ、病後の強壮剤、肺結核、感冒、胸膜炎、半

身不随、房事過度、貧血、慢性の風邪、低血圧、術後の体力回復、食欲不振

 【六君子湯】

《出典》 万病回春

《原文》 脾胃虚弱、飲食少しく思ひ、或は久しく瘧痢を患ひ、若しくは内熱

を覚え、或は飲食化し難く酸を作し、虚火に属するを治す。須く炮姜を加へて

甚だ速やかなり。

《処方》 人参(4) 白朮(4) 甘草(1) 大棗(2) 陳皮(2) 

     半夏(4) 茯苓(4) 生姜(0.5)

《目標》 胃腸虚弱で食べるとすぐ下痢する、食欲不振、疲労し易い、貧血、

みぞおちの痞塞感、冷え症

《応用》 子供でよだれが多い、食欲不振、下痢、胃下垂、胃アトニー、嘔吐

花粉症、鼻炎に用いる処方

【十味敗毒散】

《本文》 癰疽及び諸般の瘡腫起こり、憎寒壮熱キン痛する者を治す。(瘍科

方筌・華岡青洲)

《処方》 防風 (3) 荊芥 (1) 独活 (3) 柴胡 (3) 生姜 (1) 茯苓 (4) 

     川エ (3) 桜皮 (3) 桔梗 (3) 甘草 (1)

《目標》 くしゃみ、鼻づまり、眼の充血、痒み、湿疹、蕁麻疹、アレルギー

体質

《応用》 花粉症、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、湿疹、蕁麻疹、

リンパ腺炎、乳腺炎、中耳炎、水虫、主婦湿疹、鼻血、面疔

【麻黄附子細辛湯】

《本文》 少陰病始め之れを得て、反って発熱し、脈沈の者、麻黄附子細辛湯

之れを主る。(傷寒論・少陰病篇)

《処方》 麻黄 (4) 附子 (3) 細辛 (1)

《目標》 くしゃみ、鼻水、アレルギー性鼻炎、手足の冷え、全身の倦怠感、

小便不利、悪寒、脈沈細

《応用》 花粉症、虚弱者や老人の感冒、喘息、慢性気管支炎

【真武湯】

《本文》 太陽病、発汗し、汗出でて解せず、其の人仍発熱し、心悸し、頭眩

し、身ジュン動し、振振として地にィれんと欲する者、真武湯之れを主る。(傷

寒論・太陽病中篇)

 少陰病、二三日已えず、四五日に至り、腹痛、小便不利、四肢沈重疼痛し、

自下利する者、此れ水気有りと為す。其の人或は驍オ、或は小便利し、或は下

利し、或は嘔する者、真武湯之れを主る。(傷寒論・少陰病篇)

《処方》 茯苓 (5) 芍薬 (5) 朮 (3) 生姜 (1) 附子 (1)

《目標》 めまい、小便不利、心悸亢進、倦怠感、浮腫、四肢の冷え、下痢、

腹部軟弱でガスによる膨満感あり、脈沈微

《応用》 花粉症、腎炎、ネフローゼ、腎性高血圧、心悸亢進、浮腫、めまい、

     メニエール症候群

【消風散】

《本文》 風湿血脈に浸淫し、瘡疥を生ずることを致し、掻痒絶えざるを治す、

及び大人小児の風熱P疹、遍身、雲片斑点、乍ち有り乍ち無きは、并に効あ

り。(外科正宗)

《処方》 当帰 (3) 地黄 (3) 石膏 (3) 防風 (2) 蒼朮 (2) 木通 (2) 牛蒡

(2) 知母 (1.5) 胡麻 (1.5) 蝉退 (1) 苦参 (1) 荊芥 (1) 甘草 (1)

《目標》 分泌物多い、地肌が赤みを帯びている、頑固な湿疹、かゆみ強い、

口渇

《応用》 花粉症、アレルギー性鼻炎、鼻づまり、湿疹、蕁麻疹、水虫、皮膚

掻痒症、アトピー性皮膚炎

【葛根湯】

《本文》 太陽病、項背強ばること几几にして、汗無く、悪風する者、葛根湯

之を主る。(傷寒論・太陽病中)

《処方》 葛根(8) 麻黄(4) 桂枝(3) 芍薬(3) 甘草(2) 

     生姜(4) 大棗(4)

《目標》 項背部の緊張、無汗、悪寒、下痢、くしゃみ、鼻水、頭痛

《応用》 感冒、鼻炎、蓄膿症、肩こり、五十肩、湿疹、下痢、膀胱炎

【葛根湯加川エ辛夷】

《処方》 葛根(8) 麻黄(4) 桂枝(3) 芍薬(3) 甘草(2) 

     生姜(4) 大棗(4) 川エ(3) 辛夷(3)

《目標》 膿をもちやすい、首や肩がこる、頭痛、くしゃみ、鼻水、鼻づまり

《応用》 蓄膿症、花粉症、鼻づまり

【小青竜湯】

《本文》 傷寒、表解せず、心下水気有り、乾嘔発熱して咳し、或いは渇し、

或いは利し、或いは小便不利、小腹満し、或いは喘する者、小青竜湯之れを主

る。

 傷寒、水気有り、咳して微喘し、発熱渇せず、湯を服し已って渇する者、此

れ寒去り、解せんと欲するなり、小青竜湯之れを主る。(傷寒論)

 咳逆倚息、臥することを得ざるは、小青竜湯之れを主る。(金匱要略)

《処方》 麻黄(3) 桂枝(3) 細辛(3) 乾姜(1.5) 半夏(6) 

     五味子(1.5) 甘草(3) 芍薬(3)

《目標》 うすい鼻水、くしゃみ、涙や唾液が多い、泡のような痰、喘鳴、

発疹

《応用》 花粉症、アレルギー性鼻炎、喘息、気管支炎、百日咳、感冒、肺炎、

胸膜炎、関節炎、蕁麻疹、円形脱毛症、涙目、白内障

婦人病に用いられる処方

【当帰芍薬散】

《出典》金匱要略(婦人妊娠病脈證并治、婦人雑病脈證并治)

《原文》婦人懐妊、腹中コウ痛するは、当帰芍薬散之を主る。

婦人腹中諸疾痛するは、当帰芍薬散之を主る。

《処方》 当帰(3) 芍薬(6) 川エ(3) 茯苓(4) 白朮(4) 

     沢瀉(4)

《目標》 腹部の痛み、冷え症、貧血症で筋肉の緊張弱く、色白の者、全身倦

怠、小便頻数、浮腫

《応用》 生理痛、生理不順、不妊症、貧血、低血圧、ダイエット後の生理な

し、冷え症、出血過多、脱肛、腎炎、慢性膀胱炎

【桂枝茯苓丸】

《出典》 金匱要略(婦人妊娠病脈證并治)

《原文》 婦人宿よりN病有り、経断えて未だ三月に及ばずして、漏下を得

て止まず、胎動臍上に在る者、N痼妊娠を害すと為す。妊娠六月にして動く

者、前の三月経水利する時、胎なり。下血する者、後断ちて三月のCなり。

血止まざる所以の者、其のN去らざるが故なり、当に其のNを下すべし、桂

枝茯苓丸之を主る。

《処方》 茯苓(4) 桂枝(4) 芍薬(4) 桃仁(4) 牡丹皮(4)

《目標》 生理不順、冷えのぼせ、頭痛、肩こり、めまい、下腹の張り、疼痛、

打ち身、あざ、吹出物

《応用》 生理不順、更年期障害、子宮筋腫、子宮内膜炎、打撲症、しみ、に

きび、眼底出血、自律神経失調症、生理時の風邪の予防

【桃核承気湯】

《出典》 傷寒論(弁太陽病脈證并治中)

《原文》 太陽病解せず、熱膀胱に結ぼれ、其の人狂の如く、血自ら下る、下

る者は愈ゆ。其の外解せざる者、尚未だ攻むべからず、当に先ず其の外を解す

べし。外解し已って、但だ少腹急結する者、乃ち之を攻むべし、桃核承気湯に

宜し。

《処方》 桃仁(5) 桂枝(4) 甘草(1.5) 大黄(3) 芒硝(2)

《目標》 便秘、のぼせ、少腹急結、実熱の瘡戟A月経障害、頭痛、めまい、

耳鳴り、不眠、動悸、腹痛、精神不安、小便頻数、吹出物

《応用》 便秘、月経不順、月経困難、無月経、生理痛、子宮内膜炎、更年期

障害、頭痛、めまい、肩こり、のぼせ、充血、衂血、ヒステリー、排尿困難、

血尿、歯痛、歯槽膿漏、皮膚疾患(吹出物、にきび)

【加味逍遙散】

《出典》 薛氏醫案(内科摘要・薛己)

《原文》 肝脾の血虚、発熱、或は潮熱、]熱、或は自汗、盗汗、或は頭痛、

目渋、或は"チ不寧、或は頬赤く、口乾し、或は月経不調、肚腹痛を作し、

或は小腹重墜、水道渋痛、或は腫痛膿を出し、内熱渇を作す等の証を治す。

《処方》 当帰(3) 芍薬(3) 牡丹皮(2) 柴胡(3) 薄荷(1) 

梔子(2) 茯苓(3) 白朮(3) 甘草(1.5) 生姜(1)

《目標》 不定愁訴、手足顔のほてり、動悸、のぼせ、興奮し易い、鬼交症

《応用》 更年期障害、生理不順、神経症、不安症、不眠、湿疹、癇癪持ち

【四物湯】

《出典》 和剤局方(治婦人諸疾)

《原文》 榮衛を調益し、気血を滋養す。衝任虚損、月水不調、臍腹コウ痛、

崩中の漏下、血・硬、発歇疼痛、妊娠宿冷、將理宜を失し、胎動して安から

ず、血下りて止まず、及び産後虚に乘じて、風寒内に搏ち、悪露下らず、結し

て・レを生じ、少腹堅痛、時に寒熱を作すを治す。

《処方》 当帰(4) 芍薬(4) 川エ(4) 地黄(4)

《目標》 貧血、皮膚枯燥、脈は沈弱、腹は軟弱で臍上動悸

《応用》 貧血、生理不順、自律神経失調、不妊、皮膚病

【キュウ帰膠艾湯】

《出典》 金匱要略(婦人妊娠病脈證并治)

《原文》 師曰く、婦人漏下の者有り。半産後因って続いて下血都て絶えざる

者有り。妊娠し下血する者有り。仮令妊娠し腹中痛むは、胞阻と為す、膠艾湯

之を主る。

《処方》 当帰(4.5) 芍薬(4.5) 川エ(3) 地黄(6) 甘草(3) 

艾葉(3) 阿膠(3)

《目標》 婦人で子宮出血する者、流産して後、下血がいつまでも絶えない、

妊娠中に血が下る者、妊娠して腹中痛む者、四肢煩熱、貧血で瘡撃フ者、不正

出血、生理で血が止まらない

《応用》 子宮出血、痔出血、吐血、胃潰瘍の出血、眼底出血、血尿、紫斑病、

貧血、血友病の出血が止まらないもの

【ヨク苡仁】

〔神農本草経〕

味甘微寒、筋急拘攣、屈伸するべからず、風湿痺、気を下すを主る。久しく服

すれば、身を軽くし気を益す。

〔本草綱目・李時珍〕

脾を健にし、胃を益し、肺を補し、熱を清し、風を去り、湿に勝つ。飯に炊い

て食へば冷気を治し、煎じて飲めば小便熱淋を治す。

〔薬徴・吉益東洞〕

  浮腫を主治する也。

〔重校薬徴・尾台榕堂〕

  癰膿を主治し、浮腫、身疼を兼治す。

〔古方薬品考・内藤尚賢〕

  味淡甘、滑降。故に能く脾胃を扶け、水気を瀉し、湿痺を除く。

〔薬性提要・多紀桂山〕

  味甘淡、微寒、湿を滲し、水を瀉し、脾を健にす。

〔古方薬議・浅田宗伯〕

  味甘寒。筋脈の拘攣、風湿痺を主り、気を下し、腸胃を利し、水腫を消し、

熱を清し、肺痿、肺気、膿血を吐するを主る。

〔新古方薬嚢・荒木性次〕

  味甘微寒、急を緩め熱を消し和を致すの効あり、故に胸痺、肺癰、風湿、

腸癰等に用ひらる。またイボ(疣)をとるの効ありと言はる。

〔中薬大辞典〕

  脾を健にし、肺を補し、熱を清し、湿を利す。泄瀉、湿痺、筋脈拘攣、屈

伸不利、水腫、脚気、肺痿、肺癰、腸癰、淋濁、白帯を治す。

《応用》 子宮筋腫、脳腫瘍、胆嚢ポリープ、むくみ、いぼ、にきび、水虫、

肺水腫、手掌角皮症、湿疹、肌あれ

<参考文献>

小松 一 (共著)、総合漢方研究会編:やさしい漢方入門、健友館

長浜善夫:東洋医学概論、創元社

富士川 游:日本医学史、形成社

小曽戸 洋:中国医学古典と日本、塙書房

京都府医史会編:京都の医学史、思文閣出版

藤立義一:京の医史跡探訪、思文閣出版

日本漢方協会学術部編:傷寒雑病論、東洋学術出版社

日本経絡学会編:素問・霊枢

神農本草経、山西科学技術出版社

滑 伯仁:十四経発揮、旋風出版社

安西安周:日本儒医研究、青史社

根本幸夫:陰陽五行説、薬業時報社

根本幸夫:家庭薬膳入門、緑書房

荒木正胤:日本漢方の特質と源流、お茶の水書房

荒木正胤:漢方養生談、大法輪閣

荒木正胤:漢方問答、柏樹社

吉田荘人:中国名医列伝、中公新書

矢数道明:漢方治療百話第七集、医道の日本社

矢数道明:重要漢方処方解説、創元社

呉 秀三:東洞全集、思文閣出版

総合漢方研究会編:百万人の家庭漢方、講談社

日本TCM研究所:医学生のための漢方医学

近世漢方医学書編集委員会編:日本の漢方を築いた人々

安岡正篤:易と人生哲学、致知出版社

創医会学術部編:漢方用語大辞典、燎原書店

諸橋轍次:大漢和辞典、大修館書店

大漢語林、大修館書店

ほか

 

前のページへ戻る